−甘嘘別館−  
♪ハッピーエンドのBL小説を連載します♪

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Author:りょう
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☆おことわり☆ 
「出会わなければ」には、実在のバンド、メンバーと似た人物が出てきますが、実在の人物とは一切関係ありません。

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恋の行方…5
 電車を降りると、いつものように駅から学校までダッシュする。これも朝練のうちだ――そう考えながら、俺は5分間のランニングをすませ、校門をくぐった。
 駅から走ってくれば、校門から下駄箱までは少しゆっくり歩いても間に合う。
 あいつに会うために遅い時間の電車に変えた俺だったけど、今ではすっかりリズムが決まり、遅刻する事が無くなっていた。

 それは、3学期も残すところ後1ヶ月となったある日の事だった。
「髪型変えたんだなぁ」って、電車の中で見たあいつの事を考えていると、後から誰かが走ってくる足音が聞こえてきた。

「よー、おはよ! 山崎」
「おう。何だ、田部かよ。遅いじゃん」
 田部は、いつもはもっと早く来ているはず。珍しいこともあるものだ。
「あー、単純に寝坊。美加ちゃんの夢を見てたらさ、起きた時に大変な事になっちゃってて」
 嬉しそうな声で田部が話し始めた。

「はいはい。わかりましたよ」
 田部は美加ちゃんの話をし始めると長いので、俺はさっさと聞き流すことにした。
「んだよ、反応薄いなぁ。お前だって大変になる事あんだろ?」
 ムッとしたような声で田部が言った。
「んー? 別に」
 本当はある。さすがにマズイとは思うんだけど・・・あいつの夢見て・・・って事がここ最近、何度もあった。
「なんか、お前、余裕じゃん? 変だなぁ・・・。お? 山崎ぃ、こんなキャラに合わねーの、誰にもらったんだよー」
 俺のカバンを引っ張りながら田部が大きな声で言った。朝から一気に疲れた気分になるぜ。

「お・・・あれ?」
 田部が引っ張っているカバンを引き戻すと、電車を降りる時にはカバンの中に隠しておいたはずの俺の大切なヒヨコちゃんが、カバンの外に出てしまっている事に気づいた。
「何、誤魔化そうとしてるわけ?」
 イヤらしい笑顔を浮かべながら、田部が言った。
「別に誤魔化してないし」
 俺はカバンのチャックを開け、ヒヨコちゃんを田部の目から守るためにカバンの中にしまい込んだ。

「なぁなぁ、冬休み中に告白でもしたとか?」
 校庭を歩きながら、田部がハイテンションのまま言った。そばを居た奴らがチラチラ見ながら、ゆっくり歩いている俺達を追い越して行った。
「テメー声でかすぎだよ」
 俺は恥ずかしくて、田部の頭をバシッと叩いた。
「なぁ、前に言ってた人だろ?」
 田部は俺の意思をまるっきり無視して、話を続けた。
仕方なく、俺は煩い田部の視線を避けるように横を向こうとした。すると運悪い事に、冬休み前に俺に告白してきた隣のクラスの村山が俺達のすぐ側を歩いていることに気づいてしまった。
「わ・・・」
 小さい声で呟いて、慌てて村山から目を逸らすと、俺の変な行動に気づいた田部が、そばを歩いていた村山を見つけてしまった。

 村山は俺が「付き合えない」って言ってからも、何度か手紙をくれたり、一緒に帰ろうと誘ってきたりしていたのだ。

「そっか、彼女が出来たんだ?」
 田部が村山をチラッと見ながら、わざとらしく大きな声で言った。
「ちが・・・」
「そりゃ良かった。もうやっちゃったんだな。だから余裕なわけか」
 ガハハと笑いながら、田部が俺の背中をバンバン叩いた。
 田部の声を聞いた村山は、「何よ!」と言い捨てると、パッと走り出してしまった。

「イヤ、そんなんじゃなくて」
 俺は焦って田部に言い返した。
村山には俺に彼女が出来たと思われても構わないけれど、事実じゃない話を田部に広められたらやっぱり困る。
「何々? そうじゃなくて、告白されちゃったの? ヒヨコちゃんに」
 田部に、ヒヨコちゃんと言われた途端、あいつの顔を思い出し、俺は頬が熱くなる思いがした。
「だから、そうじゃなくて・・・」
 俺は必死に言い返そうとしたのだけど、田部が話をするすきを作ってくれなかった。
「わーぁ! 山崎くんたら、ホッペが真っ赤になっちゃって・・・図星か?」
「全然違うって。告白なんてしてないし、されてない。自分で買ったんだよ、ヒヨコちゃん」
 この事実を言うのは、もっと恥ずかしかったのに――俺はブツブツ文句を言いながら下駄箱に向かった。

「なぁ、どうしてまた、ヒヨコなわけ?」
 教室に入って、席にカバンを置くと、田部がまた煩く付きまとってきた。
「え? ・・・店で一目ぼれ」
 俺は説明が面倒なので、そう答えて話を終わらせようとした。だけど――
「ふーん。可愛い? お前の好きな人って」
 田部が簡単に諦めるわけも無かった。
「可愛い方かな・・・」
「どんな奴なんだよー気になるよなぁ」
「まぁ、そのうち・・・な」

 そのうちも何も、田部には言わないさ――



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恋の行方…4
 冬休みが始まる前、俺は田部から、彼女の話ばかりを聞かされていた。
「クリスマスには美加ちゃんと大人の階段を上る」とか、「新年の最初に美加ちゃんに会いたい」とか「初詣には美加ちゃんに着物を着せてみたい」とか・・・そんな話を何度も聞かされていた俺は、とってもブルーな気持ちで冬休みを迎る事になってしまった。
 こんなに惨めな気分になるのなら、村山に告白された時に、断わらずに付き合ってみれば良かったのかも・・・などと思い始めてしまった俺は、即効でバイトを決め、冬休みを忙しく過ごす事にした。

 バイト場所は、夏休みの間もバイトしていたコンビニなので、新しく覚えることはそれ程無く、すんなり俺のバイト生活を始める事が出来た。
この時期は普段のバイトやパートのおばちゃん達が休みたがる時期だし、時給もアップするので、出来る限りシフトに入れてもらう事にした。

「山崎君、昨日これ預かったんだけど・・・」
 バイトを始めて3日目、ロッカーの前で制服に着替え終わった頃、この時間で帰るパートの岡田さんが、可愛い絵のついた小さな紙袋を俺に向かって差し出した。
「え? 誰からですか?」
「西林さんからよ。西林さんったら、『私、これからずっとお休みだし、私が戻って来る頃、山崎君は学校始まって来れないだろうし・・・』なんて、グズグズ言ってたわよー。あんたもすみに置けないわねぇ」
 西林さんはコンビニでバイトをしながら絵の勉強を続けている人だ。昨日も入れ替わりだったから、あんまり接点が無いんだけど――。
「イヤ、別に・・・何もないですよ・・・」
 わけがわからず、俺がそう言ったら、岡田さんがガハハと豪快に笑いながら、俺の背中をパンと叩いた。岡田さん、良い人なんだけど、いかにも近所のおばちゃんって言うか何て言うか・・・。

「あの子、いい子だから・・・って言っても、山崎君より8つ位年上だけどねぇ。うーん、ちょっと惜しいわねぇ」
 岡田さんが何を言いたいのかも良くわからないまま、俺は岡田さんが差し出している紙袋を受け取った。
「それじゃ、私はちゃんと渡したからね。今度、西林さんにお礼を言いなさいよ」
 岡田さんはそう言うと、タイムカードを押してから嬉しそうに帰っていった。
「何だろう?」
 気になって袋を開けてみると、そこには手紙とペンとガムが入っていた。
そのペンは、昨日俺が帰るときに西林さんに貸してあげたものだった。

――昨日はありがとう。マネージャーはケチだから、ペンを忘れたら、また嫌味を言われる所だったわ。助かりました♪ 西林――

「何勘違いしてんだよ・・・岡田さん・・・」
 俺は苦笑いしながら、ペンをポケットに入れて、マネージャーの待っているレジへと向かった。



 バイトをしていたら、可愛い女の子や綺麗なお姉さんもお客で来るから、少しは気が紛れるんじゃないだろうか・・・というか、もしかしたら、あいつよりもいいと思う相手が現れるんじゃないか? なんて、淡い期待を胸に頑張っていたのだけれど、俺ときたら、全然目移りする事も無く、今時の派手な女性を見るたびにあいつの事を思い出すばかりだった。

 バイト以外の予定が無かった俺は、クリスマスも新年も、家族と一緒に、まぁ、それなりに平和に過ごした。でも、健全な高校生としては、少し虚しいって気持ちも残ってしまったけれど――。


 そして、学校が始まる前日、俺は部活用の新しいシューズを買おうと思い、バイトで稼いだ金を持って街へ出かけた。
 まずはスポーツ洋品店で、シューズや靴下などを買い、その後、何か面白物でも無いかと、ハンズの中を見てまわる事にした。

 上の階からジックリ見て来たのだけれど、欲しいものは値段が高くて手が出せなかった・・・と言うか、バイト代をはたいてまで必要なものだろうか? って考え、結局諦める事にした。
 
 それから――エスカレーターで2階に下りて来た俺は、ストラップやキーホルダーが沢山並んでいる一角に、小さなマスコットのコーナーがあるのを見つけ、何の気なしにそこに近づいて行った。

 ――わ、何かこれ、あいつみたいなんだけど――

 猫やブタのマスコットの中に埋もれていた、黄色くてフワフワした可愛いヒヨコが、俺には眩しく輝いて見えた。
そのヒヨコは、まわりのマスコットに押されながら、売り場の透明の棚に顔をくっつけるようにしてぶら下がっていた。その姿が、電車の窓からジッと外を見つめている、あいつと重なった。

 マジ可愛い、超癒し系だよ・・・。

 俺は、ブタに取り囲まれていた、そのヒヨコをそこから救い出すと、少しドキドキしながらレジに向かった。
「プレゼントですか?」
 ヒヨコをレジの台に置くと、店員がニッコリ笑って聞いてきた。
まさか自分の為に買うんじゃないよね? って言っているように聞こえてしまった俺は、思わず「はい」と答えていた。
 これって、やっぱり俺には似合わないのかな――でも、ま、良いか? 部活の先輩も、顔に似合わないキティを鞄に付けてたし……。


 家に帰ると早速、学校に持って行っているかばんにヒヨコを付けた。
俺らしくない・・・って、自分でもわかっているんだけど、この可愛らしいヒヨコが、あいつのかわりに俺のそばにいてくれる、そんな風に思うと、少しは自分の暴走しそうな気持ちも落ち着くような気がした。
 それにしても、こんなに乙女チックな事をするようになるなんて、昔の俺は考えもしなかっただろうなぁ――。


 そして、翌日。
 3学期が始まった。
 久しぶりにあいつに会う事が出来た。その日は一日は、何をやっても楽しく思えていた。

 それにしても――あいつの事で左右されてしまう俺って、ホントにどうなんだろうなぁ・・・。
 俺、このままで良いのかな? 男に惚れて、そいつに似てるってヒヨコのマスコットなんか買ってしまって――。

 俺、何か間違えてないか・・・?


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りょう
恋の行方…3
「よっ、山崎」
 今朝はあいつに会えなかったな――そう思いながらボンヤリとしていると、急に田部のだみ声が聞こえて来た。
「ん・・・何?」
 いつもの時間の電車に乗ったのに、何で居なかったんだろう? 風邪でもひいたのだろうか――朝練以外の日に会えないと、妙にへこむんだよな……。

 返事をしたものの、あいつの事を考えていた俺は、目の前で俺に話しかけている田部の声ががちっとも耳に入ってこなかった。

「おい、山崎!」
 反応の無い俺に腹を立てた田部が俺の頭をパコンと叩いてきた。
「いてーなぁ」
 俺が顔を上げて田部を睨むと、田部は呆れたように溜め息をついた。

「なぁ、お前、最近、妙にボケーっとしてる事多いよな? 大丈夫かよ」
 田部がそう言いながら俺の隣の席に座ると、心配そうに俺の額に手をあて、自分の額の温度と比べた。
「わっ、大丈夫だって! 何か、そういうことする田部ってキモイ」
 俺は慌てて田部の手を払い除け、ガタガタと椅子ごと逃げ出した。
「何言ってんだよ、アホ。人が心配してやってるのに!」
 田部がムッとした顔をして、俺の机の上にあった教科書とノートを俺めがけて投げつけてきた。
「人の物投げるなよ! ったく」
 俺は、ブツブツと文句を言いながら、足元に落ちている教科書を拾おうと体を屈めた。

「恋でもしちゃっているとか?」
 顔を上げた途端、田部にそう言われ、俺は焦って手に持った教科書を落としてしまった。
「そんなんじゃないって。別に何でもない」
 俺は体を屈めたまま、ぶっきらぼうに答えた。
 
 あいつの事を考えると、妙に元気になったり気持ちが沈んだり――そんな感じなんだよ…。
ってこれはやっぱり「恋」なのか?
 ヤバイよなぁ。一番仲がいいとは言え、田部にだって相談出来ないってば……。

 教科書とノートを拾うと、俺は何も無かったかのように、椅子を引きずりながら田部の隣に戻った。

「ま、何でもないなら良いけどさ」
 田部は、微妙に疑いの眼差しを向けたまま、机に肘をついて鼻で笑った。
「あぁ、平気平気」
 本当はかなりヤバイかも知れないんだけど――俺は思わず心の中で苦笑した。

「さっきの話の続きだけど」
 机の中に教科書を押し込んでいると、田部が急に声を潜めながら言った。
「さっきって…何? 悪いけど聞いてなかった」
 俺がそう言うと田部が文句を言ってから、もう一度話始めた――。

「西高に行った吉井って覚えてるだろ?」
「あぁ、中3の時、一緒だった奴だろ」
 吉井と言えば、頭は良いしスポーツは出来るし、優しいし、おまけに男前。女にモテル奴だったよな。
「そうそう。その天才吉井君がさ、1組の秋山に告白したらしいぞ」
「え? 秋山って…誰? 俺、1組の女子の名前あんまり知らないんだよね」
 吉井ってかなりメンクイだったよな…? 俺の知っている限りでは吉井のメガネに敵う女子なんて居ないような気がするけど――。
「女じゃねーよ。秋山保。中3で同じクラスだったじゃん」
 俺は田部の言葉の意味を理解するまで、しばらく時間がかかってしまった。

 吉井は優等生のモテ男。秋山は男のくせに可愛らしくて、ちょっと頼りなくて、お世話したいタイプの女子から絶大な支持があったっけ――。あの2人、結構仲が良かったよな……。
考えてみると、雰囲気的にも似合っているような気がする――。
 
「吉井が秋山に…ってマジで?」
 そういう世界もありで良いのか? なんて、俺は、ほのかな期待を胸に、田部に聞き返した。
「そ、ありえねーだろ?」
 田部の嫌そうな顔を見て、期待するだけバカだったって事が改めてわかった。
 俺の気持ちは、やっぱり田部にも話出来ないよなぁ――。

「だって、吉井って彼女居ただろ? 毎年違ってたけど」
 考えてみたら、噂話なんて、どこかで間違って伝えられているのかもしれない。吉井にはいつだって、頭が良くて綺麗な彼女がいたはずだ。秋山に告白した…なんて、誰かが話を捻じ曲げて伝えているのかもしれない。
「そうなんだよなー。女に飽きたのかねぇ? なんて言ってたぜ」
 田部がニヤケ顔を向けてそう言った。
「誰が?」
「秋山が」

「で、秋山はどうしたんだよ?」
 多分、前の俺だったら、「気持ち悪い奴」って吉井の事を笑っていたんじゃないかと思う。だけど、今の俺は、秋山が吉井の気持ちを受け入れてやってると良いんだけど――って思っていた。
「何て答えたか言ってなかったけどさ、もう友達ではいられねーかな、とか言ってたぜ」
「それって、どういう意味さ?」
「…どう…ってさ、そりゃ、もちろん男には興味ないから無理って事だろ?」
 俺の頭の中では、吉井が嬉しそうに秋山の方を抱いている姿が浮かんでいた。だけど、現実はやっぱり厳しいようだ。
「やっぱ、そうだよな」
 ……何だか胸が痛いんですけど? 俺がもし万が一告白したとしても、吉井と同じような運命を辿るんだろうな。
でも、待てよ? もともと友達じゃ無いわけだし――って、ダメだ。卒業する頃ならまだしも、今、会えなくなるような事をしちゃマズイ。

「同じ学校じゃなくて良かった…とも言ってたなぁ、秋山」
「そっか。」
 俺は吉井に同情していた。
多分、吉井は一大決心をして秋山に告白したんだろう…。友達で居られなくなるかもしれないのに……
それでも、気持を伝えたかったんだ――。

「なぁ、田部はさ、もし男に告られたらどうする?」
「え? 俺かぁ……メチャメチャ可愛い奴だったら、ちょっとは考えるかな――って、やっぱ無理。俺には美加ちゃんが居るし。男同士なんてあり得ないっしょ? 胸は無いし、ヒゲは生えるし、アレだって付いているんだぜ?」
 田部の一言一言が心臓に突き刺さる感じ。。
「そーだよなー」
 あいつも、俺と同じ、男の体なんだもんな――元気なく答えた俺に、田部が訝しげな顔を向けた。
「何だよ? 山崎ぃ。もしかして、お前俺のこと好きだとか? わかった。だからそれで悩んでたのか?」
「はー? 何でそうなるんだよ。ありえねー」

 そうだよ。男同士とか関係なくて、俺はあいつが好きなんだよな――そう思うと、胸はドキドキするし、顔まで熱くなってきた。

「冗談だったんだけど……何その顔。なぁ、お前、その誘うような目、止めろって」
 秋山が冗談とも本気ともつかないようんないような事を言って俺をからかった。

「アホか!」
 俺は座ったまま田部に蹴りを入れた。

 やっぱ、ありえない。男のあいつに惚れてしまったなんて――でも……。


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恋の行方…2
 あれは高1の夏が過ぎた頃だった・・・。

 ある日の朝、俺はいつもの電車に乗り遅れ、次の電車を待っていた。
 ホームで電車を待ちながら、俺は頭の中で「今度の電車だと、駅から走らないと間に合わねーんだよ!」って、ぶつけようの無いイライラと戦っていた。

 ほんの数分前、俺はいつもの電車に乗ろうと思い、急いで階段を上っていた。その時、後から階段をかけ上がって来た人が急にぶつかってきて、俺は肩にかけていた鞄を落としてしまった。
ぶつかったサラリーマンは何も言わずに、そのまま階段をかけ上がって行き、人ごみに紛れて見えなくなった。
そして俺はムッとしながらそいつの背中を見ているうちに、電車に間に合わなくなってしまったのだ。
 混んでいる中、相手も急いでいたんだろうから仕方無いのはわかる、だけど、「すみません」の一言も無いなんて、今の大人はどうなってるんだよ・・・そう思いながら、俺は腕時計を見つめ溜め息をついた。


 だけど、その後俺は、「いつもの電車に乗らなくて良かった」って思えるような運命の出会い(?)をしてしまうのであった――


 次に来た電車は、いつも乗っている電車よりも空いていたので、俺は苦労しないで車内に乗り込むことが出来た。
 俺はドアのすぐ横の座席前にある吊革に掴まると、顔を上げて窓の外を眺めた。
晴れ渡った、清々しい空が広がっていたが、それを眺めていても、俺のイライラはおさまらなかった。


 隣駅に着くと、俺の前に座っていたOLが立ち上がり電車を降りて行った。
ラッキーな事に俺は朝から座ることが出来るのだ――朝からついてない・・・と思っていたけど、そうでもないか。駅から学校まで走らないといけないわけだし、今のうちに少しゆっくりしていこうじゃないか――そう思いながら、俺は座席に座って、反対側のドアに目を向け、駅から乗り込んでくる乗客をボンヤリ眺めていた。

 ここの駅は、この時間帯に乗ってくる人が多いんだ?――そう思いながら人の流れを見ていた俺は、次の瞬間、メチャメチャ俺好みの子を見つけてしまった。その時の俺には、その子だけが輝いて見えた。
 これが一目惚れってやつなのか・・・俺はドキドキしながら、その子を目で追った。でも、残念な事に、その子は電車に乗り込むとすぐにドアの所に立ち、窓の方を向いてしまったのだ。俺の席からは顔が全然見えない――。
 だけど・・・柔らかそうな髪、色白の肌、キリッとした眉、ほんの少し垂れた目――その人の可愛らしい顔が、さっきの一瞬で、俺の記憶の中にシッカリ留まってしまった。

 俺はその時、いつもの電車に乗り遅れて、イライラしていた事もすっかり忘れ、電車を降りる頃には、明日も頑張ってこの時間の電車に乗るぞ――なんて思っていたのだった。


 そして・・・
 それから数日が過ぎたある日、俺は新たな事実を知り、浮かれきっていた恋心の持って行き場に困ってしまうのである――。


 一目惚れしたあの日以来、俺はいざとなったら遅刻覚悟で、彼女に会える電車に乗るようになった。


 その日は彼女の乗る駅からの乗客が意外と少なかった。いつも彼女の周りを囲むように立っている女子高生やサラリーマン等の邪魔者が居なさそうで、「今日はジックリと見られるぞ」なんて、ウキウキした気分で、電車に乗り込んで来た彼女を眺めた。
 いつもは、人の隙間から、顔が覗いている程度だったのだけれど、その日は彼女の頭の先からつま先までがシッカリ見えるじゃないか。
 胸は大きいのかな? とか、足は細いかな? とか、そんな事をモヤモヤと考えながら、彼女のことを見ていると・・・

「あいつ、男じゃねーか・・・」思わず言葉にしてしまいそうだった。

 俺、この数日間、こいつを見つめてたのか――
 自分が男に恋心を抱いていたんだ――という事実は、俺にかなりの打撃を与えた。
顔以外はあまり見えなかった(見ていなかったとも言える――)から仕方ないけど、もっと早く気づけよ、と自分に思わず突っ込みを入れてしまう。
よく見れば、男ってわかっただろうに・・・落ち込みとも、後悔ともつかないような妙な気持ちと共に、俺はそいつから視線をそらした。

 相手が男だとわかると、これ以上そいつを見ている理由は無くなってしまい、翌日から俺は、以前乗っていた電車に乗るようになった。

 だけど、その後の俺は、毎朝何か物足りないような気がしてしまい・・・自分でもバカな行動だと思ったのだけど、また、そいつに会うために、一本遅い電車に乗るようになった。
 俺はそいつの放つ、癒し系の雰囲気に、すっかりはまってしまっていたのだ。会話をしたわけでも、そいつが俺に何かをしてくれたわけでも無いのに、そいつの事が頭から離れなくなっていた。

 自分でも戸惑いは隠せなかった・・・だけど、付き合いたいとか、どうにかなりたいとか思っているわけでもないし、見ているだけなら、それも良いんじゃないか? そう思って、自分を騙し続けた俺だった。

 そして、結局、1年以上経っても、俺のほのかな恋心は消えないままだった。

 そいつはいつもドアのところで外を眺め、俺はそいつの横顔をチラチラと見つめる、そんな不毛な日々が続いた――。

 部活の朝練で会えない日や、そいつが同じ電車に乗ってこなかった日が、やけに辛いって思うようになっていた俺は、既に道を踏み外してしまっていたのだろうか・・・


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