駅から走ってくれば、校門から下駄箱までは少しゆっくり歩いても間に合う。
あいつに会うために遅い時間の電車に変えた俺だったけど、今ではすっかりリズムが決まり、遅刻する事が無くなっていた。
それは、3学期も残すところ後1ヶ月となったある日の事だった。
「髪型変えたんだなぁ」って、電車の中で見たあいつの事を考えていると、後から誰かが走ってくる足音が聞こえてきた。
「よー、おはよ! 山崎」
「おう。何だ、田部かよ。遅いじゃん」
田部は、いつもはもっと早く来ているはず。珍しいこともあるものだ。
「あー、単純に寝坊。美加ちゃんの夢を見てたらさ、起きた時に大変な事になっちゃってて」
嬉しそうな声で田部が話し始めた。
「はいはい。わかりましたよ」
田部は美加ちゃんの話をし始めると長いので、俺はさっさと聞き流すことにした。
「んだよ、反応薄いなぁ。お前だって大変になる事あんだろ?」
ムッとしたような声で田部が言った。
「んー? 別に」
本当はある。さすがにマズイとは思うんだけど・・・あいつの夢見て・・・って事がここ最近、何度もあった。
「なんか、お前、余裕じゃん? 変だなぁ・・・。お? 山崎ぃ、こんなキャラに合わねーの、誰にもらったんだよー」
俺のカバンを引っ張りながら田部が大きな声で言った。朝から一気に疲れた気分になるぜ。
「お・・・あれ?」
田部が引っ張っているカバンを引き戻すと、電車を降りる時にはカバンの中に隠しておいたはずの俺の大切なヒヨコちゃんが、カバンの外に出てしまっている事に気づいた。
「何、誤魔化そうとしてるわけ?」
イヤらしい笑顔を浮かべながら、田部が言った。
「別に誤魔化してないし」
俺はカバンのチャックを開け、ヒヨコちゃんを田部の目から守るためにカバンの中にしまい込んだ。
「なぁなぁ、冬休み中に告白でもしたとか?」
校庭を歩きながら、田部がハイテンションのまま言った。そばを居た奴らがチラチラ見ながら、ゆっくり歩いている俺達を追い越して行った。
「テメー声でかすぎだよ」
俺は恥ずかしくて、田部の頭をバシッと叩いた。
「なぁ、前に言ってた人だろ?」
田部は俺の意思をまるっきり無視して、話を続けた。
仕方なく、俺は煩い田部の視線を避けるように横を向こうとした。すると運悪い事に、冬休み前に俺に告白してきた隣のクラスの村山が俺達のすぐ側を歩いていることに気づいてしまった。
「わ・・・」
小さい声で呟いて、慌てて村山から目を逸らすと、俺の変な行動に気づいた田部が、そばを歩いていた村山を見つけてしまった。
村山は俺が「付き合えない」って言ってからも、何度か手紙をくれたり、一緒に帰ろうと誘ってきたりしていたのだ。
「そっか、彼女が出来たんだ?」
田部が村山をチラッと見ながら、わざとらしく大きな声で言った。
「ちが・・・」
「そりゃ良かった。もうやっちゃったんだな。だから余裕なわけか」
ガハハと笑いながら、田部が俺の背中をバンバン叩いた。
田部の声を聞いた村山は、「何よ!」と言い捨てると、パッと走り出してしまった。
「イヤ、そんなんじゃなくて」
俺は焦って田部に言い返した。
村山には俺に彼女が出来たと思われても構わないけれど、事実じゃない話を田部に広められたらやっぱり困る。
「何々? そうじゃなくて、告白されちゃったの? ヒヨコちゃんに」
田部に、ヒヨコちゃんと言われた途端、あいつの顔を思い出し、俺は頬が熱くなる思いがした。
「だから、そうじゃなくて・・・」
俺は必死に言い返そうとしたのだけど、田部が話をするすきを作ってくれなかった。
「わーぁ! 山崎くんたら、ホッペが真っ赤になっちゃって・・・図星か?」
「全然違うって。告白なんてしてないし、されてない。自分で買ったんだよ、ヒヨコちゃん」
この事実を言うのは、もっと恥ずかしかったのに――俺はブツブツ文句を言いながら下駄箱に向かった。
「なぁ、どうしてまた、ヒヨコなわけ?」
教室に入って、席にカバンを置くと、田部がまた煩く付きまとってきた。
「え? ・・・店で一目ぼれ」
俺は説明が面倒なので、そう答えて話を終わらせようとした。だけど――
「ふーん。可愛い? お前の好きな人って」
田部が簡単に諦めるわけも無かった。
「可愛い方かな・・・」
「どんな奴なんだよー気になるよなぁ」
「まぁ、そのうち・・・な」
そのうちも何も、田部には言わないさ――
続きが気になる方は⇒⇒FC2 Blog Ranking
こちらもポチッと⇒




