だけど、契約したっていうのに、進藤は俺の契約期間が終わる前に、その事務所を辞めてしまったのだ。
俺をアメリカから引き戻しておいて・・・俺たちの友情ってそんなものだったのか?・・・
こんな事なら、ジョアンの傍に居れば良かったと思い、アメリカに戻ろうと考えていた。
ちょうど同じ時期に、今の事務所から契約更新の申し入れがあった。
進藤の居ない今、この事務所で続けていく意味はあるのだろうか? と考え、契約更新をやめようと決めた頃、しばらく音信不通だった進藤から連絡があった。
「俺が居る事務所に来い」――って。
「誘っておいて、また、途中で辞めてしまうんだろう?」 と責めると、今度は、自分の父親のデザイン事務所だから、辞める事は無いと言われた。
ずっと前からあいつは、いつか親父さんの事務所に俺誘うつもりだったらしい。
どちらかというと、肉体労働が似合うような感じの進藤が、デザイン事務所に勤め始めた時も驚いたのだが、あいつの父親がデザイン関係の仕事をしていたという事にも驚いた。
学生の頃から、やけに親切に俺の絵に助言をしてくれていたし、相談にものってくれた。
そして今から考えると、日本に帰って来いと熱心に誘ってくれたのも、そういうわけだったのだ。
最初から言っておいてくれたら良かったのに・・・と文句を言うと、親父さんの事務所に入る前で修行中の身だったし、父親の許しが出るか分からないのに、前もって言っておけるわけないだろう・・・と言っていた。
でも、あの時期に俺を誘わなかったら、俺があのまま向こうに住み着いてしまうだろうと考え、強硬手段に出たらしい。
進藤の父親の事務所に移ってから数ヵ月後、進藤から個展を開くことになった・・・と教えられた。
「俺はお前の絵を初めて見たときから、この日を楽しみにしていたんだよ」
そんな言葉をサラッと言ってくれた進藤に、本当に感謝した。進藤には一生頭が上がらないかもしれない。
個展に出した絵は、ニューヨークにいた頃描いたものが殆どだった。
あの頃の絵は、全体的にはっきりした色彩で描いた、輪郭が強調された作品が殆どなのだけど、その中に1つだけ作風の違うものがあった。
暖かい春の風景の中に、柔らかな微笑みをたたえた天使が、赤ん坊を愛しそうに抱きしめている。そんな感じの絵だった。
初め、あまりにも他のモノと違いすぎるので、個展に出すかどうか迷ったのだけど、進藤に「本当のお前らしくて良いと思う」と言われ、結局、一番目立つ所に展示した。
赤ん坊を抱いている天使はシュンをイメージして描いたものだった。
赤ちゃんが無事に生まれたというニュースを聞いて、渡すことは出来ないけれど、シュンへのお祝いのつもりで描いた。
この絵が描きあがった時、俺とシュンの繋がりが本当に切れたように思えて、切なくなったものだ・・・もう5年近く前の事になるのか・・・。
続きが気になる方は、ポチッとお願いします⇒FC2 Blog Ranking


