俺は眉間に微かなシワを寄せて困ったような顔をしているカズミの目を、そっと覗き込んだ。
「そ、そりゃそうだよ。せっかく趣味があって、一緒に居ると楽しいって思える友達ができたのに・・・」
カズミがボソボソと呟くように言った。俺はホッとしてカズミの髪をスッと撫ぜた。
「だったら、そんなに悩まないでよ」
俺の言葉を聞くと、カズミの表情がパッと明るくなったように思えた。
「・・・あ・・・うん。そうだな」
「じゃあ、付き合ってくれるってことで良いよね」
「え? あぁ、まぁ・・・」
照れくさそうにカズミがそう言った。多分、俺の言ってる「付き合う」って意味とは違う気持ちでカズミは答えたんだと思う。それでも俺は嬉しかった――。
「大好きだよ・・・」
たまらず俺は、カズミをギュッと抱きしめて耳元で囁いた。それから俺は答えを求めるように「カズミは?」と呟いた。
「うん・・・まぁ・・・あのさ、好きか嫌いかって聞かれたら、好きなんだけど・・・」
カズミが俺の視線を避け俯きながら答えた。
「それでも良いよ。俺の『好き』とは違うのはわかってる。でも、嬉しい」
俺はカズミを抱きしめている腕にキュッと力を入れた。カズミは頭を小さく振りながら、俺の胸に顔を押し付けた。
あぁ、ホント・・・ドキドキして仕方が無い――。
「あ、あのさ、受験勉強頑張ろうな」
しばらくの間俺の腕の中で小さくなっていたカズミが、モゾモゾと腕の中から抜け出しベッドに腰掛けた。
「何だよ〜そんな事、思い出させるなよ・・・」
幸せ気分に浸っていた俺は、急に現実に戻されたような気分になり、シュンとうな垂れながらカズミの隣に座り込んだ。カズミと触れ合っている腕や脚が熱を持っているような感じだった。
「だ、だって、一緒の大学に行くんだろ?」
カズミが焦ったようにそう言った。
「そーだったな。なぁ、講習会、一緒に行こうな」
俺はカズミにを近くに感じたくて、髪を撫でたり頬にそっと触れたりしていた。俺が触れるたびにカズミの頬がますます赤くなっていく――。
「う・・・うん。あ、映画にも行くんだよね?」
「そうそう。週末に行こうぜ。やった、デートだ」
「いや、そのデートって言うほどのものじゃ・・・」
カズミが可愛くて、俺はカズミの手の甲に唇を押し当てた。するとカズミは驚いたように俺の手を振り払った。
「夏休みになったら、海にも行こうな」
めげずに俺はそう言った。だって、カズミはちっとも俺のそばを離れようとしないんだ。俺のこと、嫌いなってはいないはず。映画だって一緒に行こうって思っているんだから――。
「え、まぁ・・・受験生だけど・・・一回くらいなら良いかな」
カズミが小さく頷きながらそう言った。
「部活引退したら、毎日一緒に学校行こう」
「・・・そ、そうだね」
「学校帰りに一緒に勉強しようぜ」
「あ、うん・・・」
「大学に行ったら、一緒に住もうか?」
俺はカズミの肩に手を回した。
「え? イヤ、まだそんな」
「カズミ・・・大好きだよ」
俺は次々と言葉を投げかけた。そのうち、かカズミは俺の肩にチョコンと頭をもたれかけて来た・・・。信じられないような状況だ――。
「何か・・・僕も・・・みたい」
小さな声が聞こえてきた。俺の「大好き」への答えなのか? カズミも俺のこと好きだと思ってくれたのか?!
「みたい・・・って何だよ」
俺は照れくささのあまり、カズミの頭にコツンと額をぶつけると、ぶっきら棒にそう呟いた。
本当は「僕も何?」って突っ込みたい所だったけれど、そこまで言ったら、きっとカズミは答えてくれないだろう。きっと、俺の良いように考えてもいいってことだよな・・・?
「だって・・・まだ、何となく・・・」
迷ったようにカズミが答えた。
「ま・・・良いや。すっげー嬉しい」
俺はそれ以上聞かずにいることにした。とにかく、カズミも俺のことが好きみたい・・・って言ってるんだ。あっと言う間に両想いになったじゃないか!
それから俺達は身体を寄せ合ったまま色々な話をした。だけど、緊張のあまり、俺は自分でも何を話していたのかよくわからなかった――。でも、とにかく、メチャメチャ幸せなひとときだったってことは確かだった。
「そろそろ帰らないと・・・」
窓の外を見ると、すっかり外は暗くなっていた。本当はいつまでもカズミと一緒にいたい気分だったけれど、俺はカズミの右手を握りながらそう呟いた――。
「・・・あぁ、そうだよね」
俺の言葉を聞いてカズミが慌てたように顔を上げた。
「明日、朝練サボっちゃおうかな」
カバンを背負って帰る用意をしてから、俺はカズミの座っている前に戻り、ポツリと呟いた。
明日もカズミに会いたい・・・そう思った俺の口からは、自然にそんな言葉が出ていたのだ。
だけど――
「ダメだよ。山崎は走るの好きなんだろ?」
当たり前のようにカズミにそう言われ、俺は無性に寂しくなった。今の今までいい雰囲気だったのに――。
でもまぁ、まだまだ俺の気持ちの方が強いんだから仕方ないか――。
「だって、今は走ることよりもカズミと居る方が好きなんだもん」
俺はカズミの肩に手を置いて身体を屈め、カズミの額に唇を寄せた。俺の顔が近づくと、カズミがスッと目を閉じた。唇にキスしちゃいたいよな・・・だけど今は我慢だ・・・。
俺が唇を離すと、カズミが俺を見上げて寂しそうな顔をした後、一生懸命笑顔を作った。
「あさって、会えるじゃない。映画観てからどっかに遊びに行こうよ」
俺はそう言って目を瞬かせているカズミの頭に腕を回し、ギュッと抱きしめた。
「どっか・・・・・・ねぇ」
今の俺は、二人っきりでベタベタ出来る所に行きたいんだけど――
「あ、えっと、CD見に行くとかさ」
俺の心の声が届いてしまったのか、カズミが慌てたようにそう言った。
「うーん。そうだな。どこが良いか、お互いに考えておこう」
公園とか行ってのんびりするのも良いかな・・・そう思ってカズミを見ていると、パチッと視線が合った瞬間、カズミは俺の身体に顔を押し付け、両腕を俺の腰に巻きつけた。
「う・・・うん。了解」
しばらくそのまま抱き合っていたけれど、さすがにもう帰らないといけないと思った俺は、カズミと携帯のアドレス交換をして、その後二人でカズミの部屋を出た。
先に階段を降り始めたカズミの隣に並び、俺はカズミの手をサッと握った。カズミが驚いたように俺の横顔を見つめていた。
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