危うく告白してしまいそうになっていた俺は、気持ちを誤魔化すようにそう言った。
「え? うん。良いけど」
カズミが困ったような顔をしながら立ち上がり、本棚から小さなアルバムを出してきて俺に手渡してくれた。
「他にもあったはずなんだけど・・・」
カズミがそう言って机の所に行っている間に、俺はアルバムを持ってカズミのベッドの上に座り込んだ。
小さい頃のカズミは、本当に女の子みたいに可愛い。今のカズミは、この写真よりは男っぽくなったと思う。
でも、それでもやっぱり可愛いよな――。
ページをめくっていくうち、笑顔が多いカズミの写真の中に数枚、笑顔の無い写真があることに気がついた。
着物を着た良美さんの隣に、ドレスを着たカズミが頬を膨らませて横を向いていたり、俯いたり・・・。それでもカズミって・・・
「ホント可愛いなぁ・・・」俺は小さな声で呟いた。
無理やりドレスを着せられたから不機嫌な顔をしているのかもしれない。こういうことがあったから、余計に女の子みたいだと言われるのが嫌なのかもしれない――そう思いながら俺は小さなカズミの姿を眺めていた。
「山崎ったら〜、姉貴にべた惚れなんだねぇ」
俺の言っているのが良美さんのことだと思ったカズミが、そう言いながら俺の隣に座り込んだ。
違うんだよカズミ。可愛いって言ったのは、良美さんのことじゃなくて、カズミのことなんだって――。
「なぁ、これカズミだろ?」
俺はドレスを着た小さな小さなカズミを指差した。
「・・・うん・・・まぁね」
カズミが俺の指差す先を見ながら、眉間にシワを寄せ、歯切れ悪く答えた。カズミにとっては嫌な思い出なのかも知れないな――。
「親の陰謀だよな・・・酷いと思わない?」
カズミが不満そうにそう言ってアルバムの写真を指でパンと弾いた。
「・・・まぁ・・・」
ゴメンなカズミ。俺にとってはすごく嬉しい写真だんだよね――。
「こんな写真があるなんて、すっかり忘れてたよ。捨てちゃわないとなぁ・・・僕の人生の汚点だよ」
カズミがアルバムからドレスを着ている写真を抜き取ろうとした。
捨てると言われて俺は焦ってしまった。捨てるなら俺が欲しい!・・・でも言えないよなぁ――。
「・・・捨てなくて良くない?」 俺は遠慮気味にそう言った。
「え、でもさぁ・・・」
「だけど・・・すごく可愛いよ」
俺は写真を抜き取ろうとしているカズミの手を押さえてそう言った。カズミは俺の行動に驚いたように目を見張った。
「そっか。姉貴が可愛く写ってるからって、捨てるな――ってか。なら僕の部分だけ切り取って、姉貴の写真をあげるよ」
カズミがうんと頷いてから、納得したようにそう言ってベッドから立ち上がろうとした。
「いや、別に・・・いらないよ」
俺は立ち上がろうとしているカズミの腕をパッと掴んでそう言った。
「そうか。子供の頃の写真なんてもらってもしょうがないか」
カズミが戸惑ったような顔をしながら俺の隣に座りなおした。
「あのな・・・」
俺は触れてしまったカズミを離すことが出来なかった。 もうダメだ――。
写真のカズミでも、カズミに似た良美さんでも無い、俺はカズミが欲しいんだ!
「何?」
「可愛いって思ったのは、カズミのほうだよ。良美さんよりも可愛いなって」
「はぁ?」
飽きれたような声が聞こえて、俺は一瞬落ち込みそうになった。バカなことをしているのはわかる。でも、もうここまで来てしまったら、自分の気持ちに押さえがききそうもない。
「あのさ・・・それって、あんま、ホメ言葉でもないよね。男なのに『可愛い』なんてさぁ。僕はもっと男っぽく生まれたかったんだ。山崎みたいに背が高くて、骨太な感じ? ホント羨ましいよなぁ・・・それにさぁ・・・」
違う。俺にとっては褒め言葉なんだよ。カワイイのが嫌だって言うことも知ってる。女の子みたいに思われるのもイヤだって知っているんだ。だけど、それでも俺はそんなカズミの全部が好きなんだ――
「・・・何? やまざ・・・」
俺はついに自分の本能に負けてしまった。隣から香ってくる良美の髪の香り、細い肩、可愛い横顔。
俺が欲しかった人が、すぐ隣に居るじゃないか――。
気がつくと俺はカズミの半開きの唇にキスをしていた。
嫌われるかもしれないという思いも、もう会えなくなるかもしれないという思いも、何処かに消えてしまい、ただカズミの唇に触れたかった。
拒絶されるはずのキスが許されてしまうと、俺はいつの間にかカズミの体に腕を回し、カズミを抱きしめていた。
どのくらい時間が経っただろう? 急にカズミが手足をバタバタさせて抵抗し始めた。
「っぷは〜〜!」
俺が唇を離すと、カズミが頭をプルプル振ってから「何すんだよ!」と怒ったように呟いた。
「キスだよ」
俺は言い訳することも出来ず正直に答えた。
「わ、わかってるよ! あのさ山崎、姉貴が居ないからって、代わりに僕にするなよ! あ、姉貴が帰ってから好きなだけやればいいだろが」
腕の中で小さくなりながら、カズミが俺を睨みつけた。
「・・・良美さんにキスしたかったわけじゃないんだ・・・」
俺は深呼吸をしてからそう言った。俺はお前が好きなんだ!
「はぁ?」カズミが戸惑ったように答えた。
「カズミにキスしたかったんだ・・・」
俺はカズミがいつでも逃げ出せるように、抱きしめている腕を緩めた。それなのに、カズミは俺をジッと見たまま逃げ出そうともしなかった。何を言われたのかわかってないって感じだろうか。
「・・・何なんだよ・・・それ?」
「俺…」
苦しくてしょうがなかった恋心をついに伝える時が来た。俺はカズミを抱きしめながら次の言葉を続けた。
「俺、カズミが好きだったんだ」
「な、何バカな事言ってるのさ。山崎の好きなのは、姉貴だろ? って言うか、彼女の弟になんて告るなよ!」
カズミが俺の腕の中から逃げ出そうとした瞬間、俺は緩めていたはずの腕にキュッと力を入れ、カズミを抱きしめていた。
「違うんだよ。最初から・・・カズミが好きだったんだ」
俺はカズミをベッドに押し倒していた。
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