ケーキを二種類食べ終わった俺は、ほんのりイチゴの香りのする紅茶を飲んで喉を潤した。
久しぶりに本当に美味いケーキを食べたような気がする。
「良かったよ、僕、ケーキは一口ぐらいでいいかなって程度だから。僕はどちらかと言うとケーキよりもお団子とかの方が好きかな〜。餡子モノも好きだしね」
カズミが俺の姿を見てニコニコ笑いながらそう言った。
印象としては、カズミはお団子や餡子ってよりもフワフワで柔らかなケーキって感じなんだけどね・・・。
「そうなんだ? 俺は甘いものなら何でも好きだぜ」
紅茶をもう一口飲んでからそう答えると、カズミがくすっと笑った。
「へぇ…ホント、最初の印象と全然違うよね」
「何だよ、それ? 俺ってどんな感じだったんだよ?」
自分がまたキャラクターに無いような事を言ってしまったことが恥ずかしくて、それを誤魔化すように微妙に凄んでしまった。
「いや、別に。どんな感じって…」
カズミが笑顔を曇らせ、困ったように視線を泳がせた。
「カズミ〜、正直聞いてみたい。俺ってどんな奴に見えた?」
俺が身を乗り出しながら聞くと、カズミの表情がますます曇ってしまった。あんまり印象が良くなかったって所だろうか――。
「う〜ん・・・」
「ちゃんと言えよ!」
俺がそう言ったら、カズミが苦笑いしながら後ずさりをし始めた。
「ちょ、ちょっと山崎〜」
カズミが両手で俺の肩を押し戻すような仕草をした。俺はハッとしてテーブルに乗り出している身体を元に戻し、座りなおした。
俺ったら・・・カズミを怖がらせてどうするんだよ――。
「ゴメン。えっと、第一印象が聞いてみたいな」
頭をペコリと下げて、もう一度聞いてみた。
「え、えっと・・・最初は爽やかなスポーツマン。でも・・・目つきがあんまり良くなかったから、嫌味な奴なのかな・・・とかね」
ただでさえ、良美さんの母親に会うって事で緊張していたのに、電車の中で片想いしていた相手が良美さんの弟だったんだ――ってことがわかって、相当混乱していた時だ。
あの時の俺は、笑顔を見せる余裕もなかったんだよ――。
「マジ? そんな風に見えたのか・・・いや・・・まぁ、あれだ・・・」
ただ緊張していたから、と言おうと思うんだけど、それ自体恥ずかしいような気がしてしまい、妙な間があいてしまった。
するとカズミが眉をひそめ「僕のこと、男のくせに女みたいな奴・・・とか思ってた観察してたとか?」と
呟いた。
――そうじゃないって! 俺は良美さんじゃなくて、カズミが好きだったから・・・――
「別にそんな風には思ってないって。ただ…良美さんに似ているんだなって思ってさ…」
頭をかきながらそう言うと、不機嫌そうだったカズミの表情が柔らかな笑顔に変わっていた。
良美さんに似ていること、カズミにとってあまり嬉しいことじゃないってわかっているんだけど、それでもカズミが笑顔を見せてくれたって事は怒っているわけじゃないんだよな?
「ま、いいよ。姉貴と似ているのは姉弟だから仕方ないし。とにかく、今は、いい奴と知り合えて良かったって思ってるんだ」
カズミが紅茶をグッと飲んでからそう言った。
「俺も…カズミと知り合えて良かったよ」
・・・嬉しすぎてヤバイかも。ドキドキが尋常でないのは俺の気持ちが「知り合えて良かった」程度の軽いものじゃないからなんだけど――。
「そ、そうだ。なぁ、山崎はこのCD持ってる?」
カズミと二人で居られる幸せを噛みしめていると、急にカズミが席を立ち、ラックからCDを取り出して、CDプレイヤーに入れた。
これは、カズミと俺の好きなバンドの新しいアルバムだ。
「まだ買ってないんだよ、これ」
カズミが見せてくれた歌詞カードを見ながら、俺は曲にあわせて指でリズムをとっていた。
「良かったら貸してあげようか?」
カズミの声が聞こえてきたので、俺はパッと顔を上げた。
「え、マジ? 借りる借りる。俺さ、いつか、このバンドのライブに行ってみたくてさ…」
「僕もだよ。今度一緒に行こうぜ」
何だか二人のテンションが微妙に上がった感じ。
「そうだな。俺、調べておくよ。だから…絶対行こうな」
良美さんが付き合ってくれると言ってくれた時よりも数倍嬉しい。やっぱり俺の好きなのはカズミだ!
「あぁ、楽しみだな」
そう言ったカズミの顔がメチャメチャ嬉しそうで、俺はまた一人で勘違いの世界に入ってしまいそうだった。
しばらく、俺達はライブに行く話で盛り上がっていた。
嬉しそうなのは俺だけじゃない、そう感じた俺は、いついけるかわからないライブよりも、確実にカズミに会える口実はないかと考えていた。そして俺は、良いことを思いついた。
「そう言えばさ、カズミ。あの映画一緒に行ってくれない?」
カズミも見たいと言っていたあの映画に誘ってみることにした。一人で行くのは・・・って言っていたような気がする。
「あの映画って…もしかして、姉さんと行ったやつ?」
「そうそう」
「僕も見たかったけど…でも、山崎はこの間、見たんじゃない」
見たにはみたんだけどなぁ。
「そうなんだけどさ…」
「もう一度見たいぐらい面白かった?」
カズミが不思議そうに聞いてきた。そう言えば、映画に行った話はしたけれど、詳しいことは話さなかったんだっけ――。
「実はさ、途中までは見たんだけど…」
「途中まで見て…?」
「良美さんがさ、『つまんない!』って言って、出て行っちゃって…」
思い出すのも恥ずかしいというか、女の子って面倒だなって言うか――。
「姉貴のやつ…ひでーなぁ」
カズミが怒ったような顔をしたと思うと、両手を握り締めテーブルをドンと叩いた。俺はカズミのそんな様子に少し驚いてしまった。
「いや、良美さんの好みを聞かないで、あんな映画に誘ったのがいけなかったかも知れない」
カズミの怒る姿を見るのが嫌で、俺は慌ててそう言って話を終わらせようとした。
「そんな事無いよ、姉貴は勝手すぎるんだよ!」
でも、カズミの怒りはおさまらないようだった。握りしめていた手が微かに震えているのを見て、やっぱり良美さんの話をしてはいけなかったと反省していた。さっきはきっと我慢していたに違いない。
「まぁ…良いんだ。ありがとな、カズミ」
残念だけど、映画の話を続けてはいけないかもしれない。そう思った俺は、他の話題を考え始めていた。
「あ…えっと、映画、一緒に見に行こうよ。僕も行きたかったから」
しばらく黙っていたカズミが、そう言って俺の頭をポンと叩いた。
「マジ? 良かった〜」
カズミがいつものカズミに戻っていたのが嬉しくて、俺はホッと胸をなでおろした。
「映画の後半部分が気になっていたんだよ。じゃあ、今度の土曜日なんてどう?」
「良いよ、土曜日ね……あ、でも、姉貴とデートするんじゃないの?」
「え…デート…? 多分、しないよ…」
あぁ、そうだ。俺、良美さんと別れ話をしなきゃいけなかったんだ。カズミとの事を考えて浮かれている場合じゃないよな。
俺ってもしかしたら酷いやつなのかな? でも、もう自分の気持ちに嘘をついたままではいられないんだよ。
俺はカズミを見つめ、両手をギュッと握り締めた。
「俺さぁ…」
良美さんと別れるんだ。本当は良美さんじゃなくて、カズミのことがすきだったから・・・。
「何? 山崎」
カズミが心配そうな顔をして俺を見た。
「…何でもない…」
ダメだよ。言ってしまったら映画どころか、朝会うことも出来なくなるかもしれない――。
長らくお待たせしました。また続きが遅いかもしれませんが、完結出来るように頑張ります…。
それから・・・ tさん拍手&優しいコメントありがとうございます
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