その時、部屋のドアが開いて良美さんによく似たお母さんが顔を覗かせた。
「ゴメンなさいね山崎君。良美ったらまだ帰ってこないのよ」
カズミのお母さんがお盆を手に部屋の中に入ってきた。
「いえ・・・大丈夫ですから」
おかげでカズミと話が出来たので、有難いくらいです――なんて心の中で呟きながら頭を下げた。
カズミのお母さんが「良美ったらホントに困った子なのよね」と言いながらテーブルのそばに座り、お盆をテーブルに乗せた。
「山崎君がケーキ好きかどうかわからなかったんだけど・・・ちょうど近所の方に頂いたのがあったから。良かったら食べてちょうだいね」
二種類のケーキと紅茶をテーブルに並べながらカズミのお母さんがそう言ってニッコリと笑顔を向けた。
「あ、スミマセン・・・ありがとうございます。俺、ケーキ大好きなんです」
目の前に並んだのは表面がつやつやのチョコレートでコーティングされたザッハトルテと、イチゴ・キウイ・オレンジマスカットなどがのっているフルーツタルト・・・どちらもメチャメチャ美味そうだ。
カズミはどっちが好きなんだろう? なんて考えながらケーキを見つめていると、カズミが驚いたような声を出した。
「へ〜。山崎ってケーキ好きなんだ?」
いかにも意外・・・って声で言われて、俺は密かに焦りだしていた。
「ん? 何その言い方?」
ケーキが好きな俺は、単純に喜びすぎてしまった――。「ケーキが大好き」なんて、男が言う言葉じゃなかったよな・・・。
「イヤ、別に、何でもないけどさぁ」
カズミがニヤニヤしながら顔の前で手をブンブンと振った。
「俺とケーキなんて合わないって思っているんだろう?」
「…まぁ、そんな感じ?」
あーやっぱり? あまりにも無防備すぎたか・・・。
でもまぁ、カズミになら本当の自分を見せても良いや。学校のダチ・・・特に田部とか、クラスの女子には絶対聞かれたくない内容だけど。
「何だよ、そんな感じってさぁ」
照れくさくて不貞腐れたようにそう言いながら、カズミの額を指でグイッと押すと、
「だって、山崎がケーキ食べている姿、想像できないよ」
って、カズミがふき出しそうになりながら答えた。
想像したら笑っちゃう感じってこと?
「カズミ〜、そういうの偏見って言うんじゃね?」
「あらあら。…あなた達、いつの間にそんなに仲良くなってたの?」
俺達の様子を見て、カズミのお母さんが不思議そうな顔をしながらそう言った。
時々通学電車の中で会うって事、カズミは話して居ないんだろう――。まぁ、わざわざ親に話すようなことでもないけど。
「え…っと、山崎とは朝の電車でたまに会うんだよ。で、話するようになってさ」
カズミがそう答えると、カズミのお母さんがニコニコしながら、カズミの頭をヨシヨシと撫で回した。
「そうなの? それなら良かったわ。 じゃあ、良美が少し遅くても大丈夫よね」
安心したようにカズミのお母さんがそう言った。ただの待ち惚けだったら、確実に不機嫌になるような状況なんだけど、待っている間にカズミと話が出来るんだと思うと、良美さんが帰ってくるのがもっと遅くてもいいように思えてきた。 美味そうなケーキもあることだし・・・。
「はい、大丈夫です。カズミ君と話してると楽しいですから」
「あら、良かった。山崎君、カズヨシと友達になってくれたのね。本当にカズヨシは友達が少ないから心配なのよね……」
カズミのお母さんがそう言うと、カズミは迷惑そうな顔をして小さくため息を付いた。
「母さん、僕にだって普通に友達ぐらいいるって」
カズミがそう言っても、お母さんは不安そうな顔をしたままだった。
「でも、カズヨシは家に友達を連れてきた事が無いじゃないの…」
「あのねぇ、友達とは外で遊んできているんだから、大丈夫だって」
俺も中学の頃から、あまり友人を家に呼ぶことはなかったと思うので、心配することないと思うのに・・・。
放任主義のように見えて、意外と過保護な母親なのかも――そう思いながらカズミとお母さんの様子を眺めていた。
「本当に?」
「ホントだってば!」
しつこく心配する母親に、カズミがとうとうイライラしたように立ち上がり、ドアの所までつかつかと歩いていくと「はい、もう良いから」と言って部屋のドアを開け、母親を部屋から追い出してしまった。
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