自然に会話をしなくちゃ、そう思い、心を落ち着けながら俺は話し始めた。
「あぁ、大丈夫だよ。別に何も予定は無かったし」
カズミはテーブルの上に置いてあったペンを手に持ち、指でクルクルと回しながら答えた。
「そっか、良かった。それにしても・・・良美さん、都合が悪いなら俺に連絡してくれれば良かったのに・・・」
本当はカズミと話すきっかけが出来てよかったと思っていたのだけど、でも、やっぱりカズミに迷惑をかけているような気がしてしまいそう言った。するとその時、カズミが指先で回していたペンがカタリといってテーブルの上に落ちた。
「・・・あ・・・えっと、多分、姉貴は携帯に登録してる数が多くて、わからなくなってんじゃ無いかな? 色んな名前で登録してたりするみたいだし・・・」
良美さんにはたくさんの男友達が居る――そんなこと、気が付いていたさ。心の中で苦笑いしていると、カズミが慌てたような顔をして、再び忙しなくペンをいじり始めた。
「え・・・っと、あぁ、なんか僕はすぐ変な言い方しちゃうみたいで・・・ゴメン。ホントはさ、姉貴のフォローしないといけないと思うんだけど・・・あの・・・山崎には悪いんだけど、僕は姉貴とは性格があわなくて・・・」
カズミが考え考えそう言ってからペンをテーブルに置き、俺に向かって頭を下げた。
「良いんだよ。何となくわかるよ、カズミと良美さんがあわなそうって。カズミは真面目だもんな」
俺も良美さんとは性格があわないんだよ、そう言ってしまおうかと思ったけど、さすがにそれは言うべきじゃ無いだろうと思い、心の中にと留めておくことにした。
「う〜ん・・・真面目って程でもないけどさ。ただ僕は、姉貴みたいになるのは嫌なだけ」
カズミが俯いたまま小さな声で呟いた。
「・・・え・・・?」
「あ・・・ゴメン。また失言」
そう言ってからしばらくすると、カズミがやっと顔を上げた。カズミは申し訳なさそうな顔をしながら上目遣いで俺のことを見ている。その可愛らしい仕草を見ているうちに、俺は思わず顔がほころんでしまったし。
「うん・・・まぁ、良いよ。姉弟だと言いたい事も色々あるだろうし」
俺がそう言いながら頭をポンと叩くと、カズミが照れくさそうに肩をすくめた。
カズミの奴・・・どうしてそんなに俺のツボを刺激するような仕草ばかりするんだろう・・・良美さんよりも何倍も愛しく思えてしまう。もう末期症状かな・・・俺。
「ねぇ、山崎って兄弟いるの?」
俺がカズミのカワイさにくらくらしていると、カズミがバツが悪そうに聞いてきた。
いけない、思わずカズミに見とれてしまった――。
「妹がいるよ。生意気でさ、よく喧嘩してる」
色々と煩く詮索してくる妹・・・女ってどうしてああなんだろう?
「そっか。やっぱり兄弟って、そんなもんだよね」
カズミが安心したように大きなため息を付いてから、うんと頷いた。
「そうそう」
その後、俺は何を話して良いのか頭の中で迷っていた。
部活の話でもしようかと思ったが、確か前に受験する大学が同じだとか言っていたはずだということを思い出し、勉強のことを聞いてみることにした。
話を聞いているうちに、カズミの学力と俺の学力ではかなり差があるようだということがわかってきた。
同じ大学に受かる為には、かなり真面目に勉強しないといけないかもしれない――そう思った俺は、勉強の遅れを取り戻そうと夏休みの集中講座に行くことを心に決めた。
カズミと同じ大学に行く、目標を失いかけていた俺の新たな目標が今決まった。
「僕も行こうかな? 夏休みぐらい」
俺が夏休みの集中講座に行く話をすると、カズミがそう答えた。
もしかしてこれはチャンス? 誘ってみたらどうだろう――。
「なぁ、良かったら一緒の所いかね?」
「え、一緒の?」
「あ、いや、だって・・・一緒の大学受ける予定だし――」
俺が苦し紛れの理由を言うと、カズミが訝しげな顔をして俺を見た。
「夏休みは学校行かないから会えないじゃん・・・だから一緒に行けたら楽しいかな――とか思ってさ」
ますます妖しい理由を言ってると自分でもわかってはいるのだけど、本当に、単純にカズミに会いたいと思う気持ちが言葉に表れてしまった。俺の邪な思いが伝わってしまっただろうか? 少し不安に思いながらカズミを見ていると、カズミは考えるような顔をして「そっか。夏休みは会えないんだ」と呟いた。
「そうそう。カズミも一緒に行こうぜ、集中講座」
声のトーンから、カズミも俺に会いないことが寂しいんじゃないだろうか? なんて勝手に思ってしまった俺は、思わず身を乗り出してカズミを誘っていた。
そんな俺の姿を見て、カズミがクスッと笑った。
「なんだよ? カズミ・・・急に何笑ってんだよ?」
「え・・・なんかさ、可愛いなーって思って。山崎」
か・・・カワイイ? なに、その言葉?・・・俺に対してカワイイなんて言うのはカズミぐらいだ・・・いや、でもなんだか凄く嬉しいぞ――
「なにが? 俺のどこがカワイイって?」
「ん? 『一緒に、一緒に・・・』って言うところがね・・・カワイイ」
カズミにもう一度「カワイイ」と言われ、俺は段々と照れくさくなってきてしまった。しかもカズミは俺の目の前でクスクス笑い続けているじゃないか。
「なんだよ〜失礼だなぁ、カズミ〜」
本当にカワイイのはカズミだよ・・そう思いながら、俺はここぞとばかりカズミの頭に手をかけると、クシャクシャと撫でまわした。
「あははは・・・。本当にそう思ったんだもん・・・」
カズミがお腹を抱えて笑っている。
カズミにからかわれても全然悪い気がしない・・・ますます仲良くなれたような気がして、かえって気分がいい――なんて思って、調子に乗ってきてしまった俺は、拳をカズミの両頬にあて、グリグリと動かし始めた。
「イタイよ〜。ゴメンってば。でも、バカにしたわけじゃないから〜」
カズミがそう言いながら俺の腕を掴んで、頬から俺の拳をはずそうとした。カズミに腕を握られた途端胸がドキドキし始め、心臓の鼓動を聞かれそうな気がしてしまった俺は、慌ててカズミから手を離した。
「・・・それなら、まぁ、許してやるけどさぁ」
俺は照れ隠しのためそう言った後、カズミと一緒に笑った。
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