連絡が来なかったら、良美さんとの関係はこのまま自然消滅でもいいや――なんて考えていたけれど、やっぱりキチンと会って、話をした方が良いのかも知れない。だから近いうちに良美さんに連絡して・・・そう考えていた時だった。勉強机の上に置きっ放しにしてあった携帯から、最近流行りの曲が軽快に流れ始めた。
誰だろうと思い、携帯を手に持ってみると、見慣れない番号が表示されていた。
「久しぶり、卓志。元気だった?」
携帯を通してして聞こえてきたのは、舌足らずな良美さんの声だった。どうやら酔っ払っているような感じだ。誰かの携帯を借りて電話しているのだろうか?
「あ・・・うん。元気だよ。良美さんは?」
俺は当たり障りのない返事をした。
「うん。まぁまぁ元気。所で、明日の夕方って暇? 会おうよ」
「え・・・あぁ」
良美さんからの積極的な誘いって、数えるほどだったかな? それも突然で強引なんだよな。
既に良美さんから気持ちが離れてしまった俺は、心の中で覚めたようにそう呟いた。
良美さんからの誘いは、少し憂鬱つに思えたけれど、会って話をしてしておかなければ――と思っていた所だから、そのことを考えると調度良い機会なのかもしれない。
「夕方、うちに来てくれない? 最近会ってないしさ。卓志は会いたいって思わないのかなーって思って」
そんな言い方をする良美さんは、俺に会いたいって思ってくれたことが、あったんだろうか・・・? 俺は良美さんの誘いを聞きながらそう思っていた。
「うん・・・わかった。授業終わったら行くから」
良美さんの予定を聞いてから、良美さんの家に行く約束をした。
明日は本当は部活があるけれど、この機会を逃すと、うやむやになってしまうような気がする。サボるのも気が引けるけど、明日は部活を休んで、良美さんと話しをしよう。
「了解。うちの場所、覚えているよね?」
「覚えてる。大丈夫だよ」
俺がそう言った時、携帯の向こうから、「良美、早く来いよ」という男の声が聞こえてきた。すると、ガサガサと携帯を押さえるような音が聞こえた後、「ちょっと待ってよ。ユキヤ」と良美さんが焦ったように言った。
『ユキヤ』って誰だろう? 少し気になったけど、明日には別れ話をすることだし・・・そう思うと、どうでも良いように思えてきた。良美さんにそういう相手がいるなら、別れ話をしても大丈夫かも――。
「じゃあ、待ってるから。明日ね」
相変わらず良美さんからの電話は一方的な感じで終わってしまった。
翌日は朝から妙に緊張していた。
夕方には良美さんの家にいかなくてはならない・・・ちゃんと話できるだろうか? 密かに不安に思いながら朝練に行くために、家を早めに出かけた。
今朝はカズミに会えない・・・でも、もしかしたら、良美さんの家に行った時に、会えるかも――。
カズミの部活が無かったら、カズミが友達と出かけたりしていなかったら・・・
その日は授業そっちのけで、カズミに会えるかもしれない、って事を考え続けた。ドキドキするような、ウキウキするような妙な気持ち。
俺は、良美さんに会いに行く事をすっかり頭の隅に追いやっていた。
「なぁ、山崎、今日って部活だったよな?」
放課後、帰る仕度をしていると、田部が声をかけてきた。
「あー、今日は部活出ないんだ・・・」
俺がそこまでいうと、田部が嬉しそうな顔をした。
「じゃあ、一緒に遊びにいかね?」
田部が俺の机に上にドンと座り込んだ。
「悪い。ちょっと用事あるから、帰るわ」
「なぁなぁ、デートだろ?」
鞄を肩にかけて教室を出ようとしていると、田部がノコノコと付いてきた。
「デートじゃないけどね・・・」
職員室の前を通って下駄箱に向かって歩きながら、俺は呟くようにそう言った。
「ふーん。デートじゃないなら良いじゃん。ちょっとくらい付き合えよ」
「・・・」
「な、面白い店見つけたんだよ、一緒に行ってみようぜ」
俺が答えないで居たら、田部がしつこく誘ってきた。肩を組んできて、俺を連れて行く気満々なようだ。
良美さんと会うよりは田部と居た方が気が楽かもしれない。でも、今日はそうはいかないんだ――。
「やっぱ、デートだから行けない」
デートとは微妙に違うけど、彼女に会うんだよ。
「何だよ、最初から素直に言えば良いだろ」
家の用事・・・とか言えばよかったかと思いつつ、俺は田部の言葉に、人差し指を口に当てながら首を横に振って答えた。
「あのなぁ、部活休む理由が、デートだなんてヤバイだろ」
「あー」
田部がそう答えた後、「デートの内容を今度教えろよ」と言ってから、もう一度教室に戻っていった。多分、他の奴を誘ってでも遊びに行きたいんだろう。彼女にドタキャンでもされたに違いない・・・。
その後、一人で駅までむかい、電車に乗り込んでから、良美さんにどうやって話を切り出すかについて考えていた。良美さんに会うというのに、今日の俺は、ずっとカズミの事を考えて、現実逃避していたような感じだったから。
だけど、どう考えても、良美さんと別れたって、俺とカズミが付き合うことは無理そうで――いや、俺はカズミが好きなのに、良美さんと付き合っていることに違和感を感じ始めただけであって、カズミと付き合あいたいというわけじゃないんだ。 そう自分に言い聞かせてはいるものの、1%の可能性でも無いものか・・・と思っている自分もいるのも事実であった。
それにしても、カズミは俺が良美さんと別れる話を聞いたら、どう思うだろう?
あんまり姉弟の仲は良くないみたいだけど――。俺が良美さんを振ったと知ったら、あまり良い気持ちはしないんじゃないだろうか?
それに・・・良美さんはどんな反応を示すのだろう?
部屋に入った途端、平謝りするか、しばらく話をしてからにするか・・・それとも・・・
果たして俺に出来るんだろうか?
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