カズミが俺の気持ちを試そうとしているわけじゃないってことは、十分承知している。・・・だって俺が本当はカズミのことを好きだなんて、そんな不自然なこと、普通は考えもしないだろうから・・・。
だけど、カズミが陸上部に入っている俺のこと、「カッコ良い」なんて言葉をサラッと使って褒めてくれたり、俺みたいに男っぽく生まれたかったとか言ってくれると、俺は何と答えて良いのかわからないくらいドキドキしてしまうのだ。
カズミは、俺のことを友達としか見ていない――いや、悪くすると、「姉貴の彼氏」としか見られていないかもしれない。
だけど・・・それでも俺は、カズミと友達以上の関係になれたら・・・なんて夢みたいな事思っていたんだ――。
そして、カズミと話が出来るようになってから一ヶ月と少し経ったある日のことだった。
テレビの話題もつきた頃、俺は再び部活の話を振ってみることにした。すると会話の途中で急に、カズミが俺に部活の朝練のことを聞いてきた。
朝練の話を聞くってことは、もしかしたら、俺と会わない日があることを気にしてくれているのかもしれない――そう思ったら俺は、メチャメチャ幸せな気持ちになった。
「あれ? もしかして、昨日はサボったって事?」
自分でもテンション高めだったかな・・・って思いながら、朝練の話をし終えると、カズミが一瞬考えるような顔をした後そう言った。
「あー・・・まぁね。俺、カズミと朝会うの楽しみなんだよね。朝練出るとあえないじゃん。・・・だもんで、たまにはサボっちゃおうかな〜とかさ」
俺がそう言うとカズミの表情が微妙に曇ってきた。
「僕も山崎と話すの楽しいけどさ、部活はちゃんとやんなよ。走るの好きなんだろ?」
今の俺は、走ることよりもカズミのほうが好きなんだ!――俺は心の中で叫んでいた。
カズミも俺との会話を楽しいと思ってくれていた・・・そのことを思うと嬉しくて、思わず顔がニヤケてしまいそうで、俺は表情を崩さないように眉間に力を入れながら視線を窓の外に移た。
「えっと・・・あぁ、所でさ、姉貴とはデートしてる?」
ニヤケ顔にならないように堪えている俺に、カズミが困ったような顔を向けながら聞いてきた。
良美さんの話は、カズミの口からは聞きたくない話題だ――俺は暗い気持ちでカズミを見た。
何だか、カズミがやけに心配そうな顔をして俺を見ている。
胸がドキドキして、顔が熱くなってきた。ダメだ・・・カズミに見つめられると弱いんだよな――。
「・・・まぁ、ボチボチかな。良美さんは色々と付き合いが忙しいみたいだし、俺も部活があるし・・・」
カズミに心配かけたらいけないかもしれない・・・瞬間的にそう思った俺は無難な答えを返した。
本当はここ数週間、良美さんとはずっと会っていなかった。メールも週に一回位やり取りしている程度だし・・・。
そのメールの内容だって、お互いに学校であったことを報告しあうくらいで、どちらからも会おうと話題を出す事は無かった――と言うのかな・・・? 俺自身が意識してそういう話を出そうとしていないのも事実だった。だって、もともと良美さんから誘ってくる機会が少なかったから、俺から誘わなければ、このままきっと自然に離れていって・・・って。
「ねぇ、所でさ、どうして姉貴と付き合うことにしたのさ?」
カズミの横顔を見つめながら、ボンヤリと良美さんの事を考えていると、直球な質問が聞こえてきた。
俺は変に動揺してしまったのだけど、カズミにしたら、話題のつなぎ程度に聞いたことなんだろう・・・。
だって俺はカズミにとって、ただの「姉貴の彼氏」でしかないんだから――。
「えっと・・・そうだなぁ・・・」
ただの「姉貴の彼氏」から卒業したくて、俺の頭の中には「このさいハッキリ言ってしまおうか?」という考えが浮かんできた。でも、その瞬間、俺は手にジットリ汗をかきだした。
俺は慌てて手すりから手を離すと、鞄の中に手をつっこみ、部活で使っているスポーツタオルで手の汗を拭った。
どう考えたって、本当のことなんて言えるわけが無い――そう思いながら顔をあげると、カズミが柔らかい笑顔を浮かべて、俺の手元を見つめていた。
一体何だろう? と思い、パッと自分の手元に視線を向けると、俺は無意識のうちに鞄の中に隠してあったはずの「ひよこちゃん」を右手に握りしめていた。
メチャメチャ恥ずかしい・・・。
「山崎ったら照れない、照れない・・・」
カズミが楽しそうに笑いながらそう言った。
「別に、照れてるわけじゃないけどさ」
良美さんのことを話すのは気が進まないだけなんだよ。(ひよこちゃんのこともだけど・・・)
だって・・・俺が好きだったのは、良美さんじゃなくて、お前なんだよ・・・
なんて、やっぱり無理だろ? 俺は心の中で大きくため息をついた。
「じゃあ教えてくれたって良いじゃない」
いつもの穏やかな雰囲気ではない、悪戯っ子のようなカズミが、耳元に手をあてながら俺の話を聞こうと待ち構えていた。
「まぁ・・・・・・好みのタイプだったから・・・て感じ?」
こんな理由なら問題ないだろ? 自分にそう言い聞かせながら俺は答えた。
「ねぇねぇ、好みのタイプなんだ? 姉貴って」
もうこれ以上聞かないでくれ・・・と思っている俺の願い虚しく、カズミが俺の腕を引っ張りながら、なおも嬉しそうな声で聞いてきた。
「う〜ん・・・それがさ」
そこまで言うと、ちょうど車内アナウンスが聞こえてきたので、俺は助かったと思い言葉を止めた。
もうこれ以上答えると墓穴を掘るだけだと思い、俺がそのまま黙り込んでいると、カズミが、俺を見上げながらワクワクしたような笑顔を向けていた――。
「それが・・・何?」
「まぁ。。。詳しくは秘密」
カズミの笑顔を見ていると、カズミが俺の告白を待っているような錯覚に陥ってしまいそうで、俺は慌てて視線をそらした。
「ふーん、そっか」
俺が黙ってしまうと、カズミが残念そうに呟いた。
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