二人で笑っていると、ドアの外から母さんの声が聞こえて来た。
「いいよ」
って…僕が返事をする前に、ドアは既に開けられていて、母さんの顔が見えていたんだけど――。
「ゴメンなさいね山崎君。良美ったらまだ帰ってこないのよ」
母さんがお盆にケーキと紅茶を乗せて部屋に入ってきた。
「いえ…大丈夫ですから」
山崎が母さんの方を見て恐縮したような顔をすると、ペコリと頭を下げた。
「山崎君がケーキ好きかどうかわからなかったんだけど…ちょうど近所の方に頂いたのがあったから。良かったら食べてちょうだいね」
お盆の上には、カラフルなフルーツが飾られているタルトと、金箔がちょこんと飾ってある、チョコレートケーキが乗っていた。
「あ、スミマセン…ありがとうございます。俺、ケーキ大好きなんです」
両手を腿の上で突っ張らせ、背筋をピンと伸ばした山崎が、母さんの持ってきたケーキを見て目を輝かせていた。
「へ〜。山崎ってケーキ好きなんだ?」
ケーキを食べている山崎なんて想像出来なくて、僕は必要以上に驚いたような声を出してしまった。
「ん? 何その言い方?」
山崎が僕をチラッと見て、片眉を上げた。
「イヤ、別に、何でもないけどさぁ」
「俺とケーキなんて合わないって思っているんだろう?」
少し拗ねたような言い方をした山崎を見て、僕はまた可笑しくて笑いそうになった。
「…まぁ、そんな感じ?」
「何だよ、そんな感じってさぁ」
急にリラックスしたように背中を丸めた山崎が、僕の額を指でグイと押した。
「だって、山崎がケーキ食べている姿、想像できないよ」
「カズミ〜、そういうの偏見って言うんじゃね?」
「あらあら。…あなた達、いつの間にそんなに仲良くなっての?」
母さんがテーブルの上にケーキと紅茶を置きながら、不思議そうに僕たちの顔を見ていた。
「え…っと、山崎とは朝の電車でたまに会うんだよ。で、話するようになってさ」
僕がそう答えると、母さんが安心したような顔をして、僕の頭をグリグリと撫でた。
「そうなの? それなら良かったわ。 じゃあ、良美が少し遅くても大丈夫よね」
「はい、大丈夫です。カズミ君と話してると楽しいですから」
山崎がやけに元気良く答えた。
「あら、良かった。山崎君、カズヨシと友達になってくれたのね。本当にカズヨシは友達が少ないから心配なのよね……」
母さんがまた、思い込みで発言し始めた。本当に…何、勝手に思い込んでいるんだよ――。
「母さん、僕にだって普通に友達ぐらいいるって」
僕がそう言うと、母さんがまた心配そうな顔をした。
「でも、カズヨシは家に友達を連れてきた事が無いじゃないの…」
イヤ、だから、姉貴と母さんに会わせたくないから、連れてこないだけなんだってば。
「あのねぇ、友達とは外で遊んできているんだから、大丈夫だって」
「本当に?」
「ホントだってば!」
僕は立ち上がってドアを開けると、まだ居座りそうになっている母さんを部屋から追い出した。
僕がテーブルに戻ると、山崎は2種類のケーキをジーッと眺めて嬉しそうな顔をしていた。
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