飲み物を取りに行きたいけど、下の部屋に行ってあいつに会ったら嫌だし…そう思いながら僕は、心の中で姉貴に毒づいた。
それにしても、何なんだよ、あいつ…不機嫌そうに僕のこと見て。あぁ、イヤだ。僕が何したんだよ?
まぁ、長続きしない姉貴の性格から行くと、あいつとも、もう会う機会は無いはずだから別に良いんだけど。
僕は、姉貴たちが早く出て行かないかと、階段の途中から下の様子をうかがっていた。
自分の家なのに、何でコソコソしなきゃならないんだろうなぁ? と自分でも呆れるのだけど――。
「それじゃ、これから出かけるから…」
姉貴がそう言いながら居間から出てくるのがわかり、僕はホッとした。
「もう少しゆっくりしていっても良いのに」
母さんが引き止めている。――イヤ、引き止めなくて良いんだよ、母さん…。
「母さんと話していると長くなるんだもの」
姉貴の声が少し不機嫌そうだった。母さんはまた、余計な事を言ったんだろうなぁ…と僕は思わずニヤリとしてしまった。一言も二言も多い人だからなぁ。
しばらくすると、姉貴たちが玄関の方に歩いてくる音が聞こえたので、僕は慌てて、下から見えない位置に移動した。
「あ、どうも、お邪魔しました」
玄関から彼氏の恐縮した声が聞こえた。やがてドアがバタンと閉まる音が聞こえ、姉貴たちが出かけた事がわかった。
「やっと居なくなったか」
僕は独り言を言いながら、急いで階段を下りて、台所に向った。
冷蔵庫を開け、パックのオレンジジュースを取り出し、一気に飲み始める…
「あら、和美ったら、そこに居たんなら、挨拶に出て来なさいよ」
僕は突然聞こえて来た母さんの声に、思わずジュースを吹き出しそうになった。
「だって、面倒くさいじゃない」手の甲で口を拭いながらそう言った。
「あんたって子は、どうして…」
僕はどうせ愛想なしですよ…。
「良いじゃない。どうせ姉さんの事だから、またすぐに別れちゃうだろうし」
「まぁ…そうかも知れないけど…。あ、それより和美、あの彼、あんたと同じ大学受けるみたいよ」
母さんが嬉しそうに話し始めた。そんな話聞いても、僕は全然嬉しくないんだけど。
「あいつが同じ大学受けるとしたって、僕には関係ないよ。別にあいつと友達になろうとも思わないし」
僕がそう言ったら、予想通り母さんは不満そうな顔をした。
「あんた、そんな事ばっかり言ってたら友達出来ないわよ?」
はいはい…そればっかり。
「あのねぇ、母さんが思っているほど友達少なくないから、心配しないで良いよ」
僕が姉貴みたいに友達を連れてこないのは、母さんや姉貴に合わせたくないからなんだよ…。
「ホントにそうなの?」
「変な心配しないでよ、全然平気だから。それより姉さんは何処に行ったの?」
しつこく心配する母さんが鬱陶しくて、僕は話を変えようとした。
「あ、何かね、映画観に行くらしいわよ。前に海賊の役やってた俳優が出てる新しい映画だったかしら。母さんあの人好きなんだけど、今度の映画はちょっと怖いみたいよね。私は昔やってた…」
――何だよ、姉貴、ああいう映画嫌いなはずなのに――そう思いながら、母さんの終わらない話をボンヤリ聞いていた。
あーぁ。あの映画、僕も見たいな。友達は皆行きたくないって言ってたし…かと言って、1人で見に行く勇気は無いしなぁ。DVDになるのを待つしかないかな――。
母さんの話は、いつの間にか昔々映画を一緒に見に行った優しくない彼氏の話に変わっていた。
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