「風邪ひいたかと思ってさ」
「全然大丈夫。昨日の夜、ちょっと用事があって、寝るの遅くなってさ。朝起きられなかったから、サボった」 俺の問いに神楽が、淡々と答える。
「なんだ。心配して損したぜ」 サボリか…神楽でもサボるんだ…。
「……ごめんな。心配掛けて」
「いや、良いよ。じゃ……特に用じゃなかったんだ。ちょっと気になったから」
本当は、ちょっとじゃない。すごく気になったんだ……。
「ありがとう」 神楽が照れたような声を出した。
「いや別に……」
「な、立木……」神楽の言葉が止まる。
「な、何だよ?」俺が聞き返すと、
「……おやすみ」神楽の語りかけるような声が聞こえた。
「おやすみ……」
何だよ、具合が悪いわけじゃなかったんだ。だけど……あいつが言ってた、夜遅くなるような用事って何だったんだろう――気になったけど、聞くのも恐いような気がしてしまう。
それから、あっという間に、期末テストの時期が過ぎ、冬休みまで残すところ数日という頃になっていた。
冬休みも、コーチの趣味で正月以外はバスケの練習になりそうな嫌な予感がする今日この頃だった。
でも、その短い休みの間に、俺は神楽を初詣に誘おうと、密かに考えていた。遊園地以来、一緒に帰れる時もなく、休みに遊びに行くことも無かったから、どうにか2人で出かけられたら……なんて考えていたのだ。
「なぁ、正月の初詣さ、皆で行かねーか?」
ある日の昼休み、今日こそは、神楽を誘ってみようって思ってタイミングをはかっていたのに、俺が神楽に声をかける前に、智也が皆を誘い始めてしまった。
「立木も神楽も暇だよな。他にもいねーか?」
智也の奴は、その辺に居た皆に声かけまくって、結局、男ばかりの集団で初詣に行く事が決まっていた。
「詳しくは休み中にメール送るから」そう言って、智也は、一仕事終えたかのようにすっきりした顔をして、校庭にサッカーをしに行ってしまった。
ホントは神楽とゆっくり初詣をしたかったけれど……まぁ、いいか……。
その日の放課後、部活が終わった俺は、コーチから頼まれた用事を済ませてから教室に一度戻ろうと思い、いつもは通らない音楽室の前を通った。
誰も居ないと思っていた音楽室からは、ピアノの音が聞こえていた。
耳を澄まして聴いているとピアノの音色にのって、誰かの歌声が微かに聞こえてきた。
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