−甘嘘別館−  
♪ハッピーエンドのBL小説を連載します♪

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Author:りょう
BL小説を書いてます。
よろしくお願いします☆
別館では18禁小説は連載しません。
本館へ行かれたい方は、コメント等でお問い合わせ下さい。
(メールアドレスをお忘れなく…)

☆おことわり☆ 
「出会わなければ」には、実在のバンド、メンバーと似た人物が出てきますが、実在の人物とは一切関係ありません。

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姉貴の彼氏…22
「あの、僕、男だよ? って言うか、もしかして、山崎って男が好きなの?」
 誰かに好意を持たれるのは、正直嬉しい。でも、その「好き」がどの程度のものなのか・・・聞くのが怖いような、聞きたいような・・・って相手は同性の山崎なのに――。

「男なのは知ってるさ。別に俺はホモとかそんなんじゃない。だから、男のカズミには声かけられなかったんだ」
 山崎が僕の顔を見ながらちょっぴり苦しそうな顔をした。あぁ・・・これは本当の気持ちなんだな・・・って感じ、胸が熱くなるような思いがした。

「そっか・・・」
 何て言ったら良いんだろうなぁ・・・僕の頭の中は山崎を傷つけたくないって思いでいっぱいだった。

「単純に『可愛いな』って思っていた気持ちが、『好きだ』って気持ちになっていって、俺、自分でも困ってたんだ。今まで同性を好きになった事なんてないし・・・」
「僕も・・・男に告られたこと・・・ないなぁ」
 僕がそう言ったら、山崎が苦しそうな笑顔を向けた。
こんなに女の子にモテそうな山崎が、僕のことを思って苦しんでいたなんて・・・僕は申し訳ないような気分になってしまった。

「でさ、3年になってしばらく経った頃、学校帰りの電車で、カズミによく似た女子大生に時々会うようになって・・・」
「・・・」
 それが姉貴だったんだな――って僕は複雑な気持ちで山崎の話を聞いていた。
「女子大生なら、年上だけど、女の人だろ? だから、この人になら声かけてみても良いんじゃないかって思って・・・」
「へぇ」
「で、何度目かに会えたとき、声をかけたんだ。そしたら、話しやすくて良い感じで」
 カッコいい奴に対しては、良い女ぶるんだよな・・・最初は――僕は心の中で思わず姉貴の悪口を言ってしまった。

「それで?」
「それで・・・彼氏が居ないなら、俺と付き合って欲しいって言ったんだ」
 山崎君の行動力に僕は驚いていた。さすが陸上部・・・って言うのか? ちょっと違うような気もするけど・・・。
「付き合ってくれって言ったのって、声かけたその日?」
「うん・・・まぁ、そう」
「山崎って結構軽いんだね」
 初めて声をかけた人に付き合って欲しいって言っちゃうなんて・・・という思いと、僕には声もかけなかったくせに・・・なんて姉貴に対する競争意識みたいなものを感じた。何だかすごく変な気持ちだ――。

「イヤ軽いわけじゃ・・・でも、そうなのかな。正直わかんね。今まで知らない人に声かけたことなんて無いし・・・。でも、この人を逃したら、朝電車で会うカズミの事、襲うかもしれない・・・なんて思ってたから」
「え?!」
 真剣な顔のまま言った山崎の気持ちを量りかねて、僕は慌ててベッドから立ち上がろうとした。襲うとかって何だよ?!

「冗談・・・。その位、カズミの事が好きになっててさ。でも、男のカズミに付き合ってくれなんて言えないし・・・だから、その人と付き合えたらなって・・・」
 山崎の大きな手が、僕の腕を優しく掴み、僕がベッドから立ち上がるのを止めた。
「う〜ん・・・」
 話を聞けば聞くほど、僕は答えに困ってしまって、大人しく山崎の横に座っているしかなかった。
「でも・・・良美さんの家に呼ばれてビックリだよ。朝会う大好きな奴が、良美さんの弟だったなんて」
 
 困りきった僕は、両手をひざの上に握り締め、俯くしか術が無かった。
胸の中では相変わらず心臓が煩いし、顔はポッポと火照っているし・・・。

「俺、やっぱりカズミが好きだ、良美さんじゃなくて・・・。カズミじゃないとイヤだ」
 僕が黙って固まっていると、山崎の声がすぐ耳の横で聞こえた。
「あ・・・ダメだって。こんなのマズイよ」
 山崎の顔が、僕の顔のすぐ横にあった。

 僕は姉貴の鬼のように怒った顔を想像しながら後ずさりを始めた。

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テーマ:自作BL連載小説 - ジャンル:小説・文学

姉貴の彼氏…21
 女の子とだって、ほんの軽いキスをした程度の経験しかない僕が、まさかベッドの上に押し倒される事になるなんて――それも、相手は男だよ?
ベッドの上で山崎に両腕を押さえられ、顔を覗き込まれているような状況で、僕は非情に焦っていた。

「あのさ、山崎。落ち着いてよ」
 これから姉貴だって帰ってくるし、ここは僕の家で、母さんだって居るんだから…なんて考えたら、変な汗が出て来てしまった。
 一体、山崎は僕に何をしようとしているんだろう――

「大丈夫。落ち着いてるから」
 いつもは表情がクルクル変わる山崎なのに、今の山崎は別人のように大人びた顔をして、真剣に俺の事を見つめている。
 変に抵抗するのもマズイような気がして、僕は山崎に押し倒されたまま、一生懸命冷静になろうと自分に言い聞かせていた。

「あ、えっと…なぁ、山崎? あの、『最初から』ってどういう事?」
 僕は深呼吸を一つしてから、山崎に問いかけた。
「気づいてなかったよな、カズミ」
 山崎がクスッと笑ってからそう言った。その笑顔がカッコいいって言うか、余裕ありで悔しいっていうか――
僕は山崎の笑顔をを見ながら、変な汗をかき続けていた。
「な、何がさ…」
 何で笑うんだよ! って文句を言いたいところだったのに、余裕の無い僕は、呟くように言い返していた。

「なぁ、カズミ、朝、電車で会うようになったの、いつかだか知ってる?」
 山崎が僕の目をジッと見つめていた。優しくて穏やかな瞳だけど、何かを訴えかけるような、熱を帯びた視線だった。
「え…姉さんが最初に家に連れてきた次の日…だろ?」
 山崎の視線が熱すぎて、僕は思わず目をウロウロと泳がせてしまった。

 そんな熱い目で僕を見るなんて――山崎は本当に僕の事が好きって事なのか……え? やっぱ、そういう意味の「好き」なわけ? イヤ、だってキスなんてする位だから…そんな意味の「好き」なんだろ? もし、嫌がらせとかじゃなかったら……。
 姉貴がこの事を知ったらどうなるんだろう? そう考えたら、背筋がゾーッと寒くなり、変な汗が一気に引いていくようだった。

「違うよ。俺らが1年の頃から」
 山崎、がゆっくり首を横に振りながらそう言った。
「えっ! マジ?」
 僕が驚いたようにそう言うと、山崎が急に笑い出し、僕の両手をグイッと引いて、僕をベッドの上に起こしてくれた。
起こされた瞬間、僕の体は山崎の腕の中にすっぽり入ってしまい、焦った僕は、慌てて山崎から体を離した。

「マジ。正確に言うと、1年の夏休み明け頃からかな」
 って事は、一年くらいは同じ電車で学校に通っていたんだ? 
「カズミはいっつも窓の外眺めていたから…周りに誰がいるかなんて覚えてないよね」
 山崎が軽く頷きながら苦笑した。
「まぁ…そうだね」
 僕は首をすくめた。
「俺、ずっと…カズミのこと可愛いなって思ってたんだ」
 優しい顔で僕を見つめながら山崎が言った。ドキドキして仕方がない――。

 あ、そうか。ドキドキの原因が今わかったぞ。きっと、姉貴に何を言われるかわからないって恐怖心からくるに違いない。そうだよ……。そうじゃなきゃ、何なんだよ!?


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姉貴の彼氏…20
 僕の頭の中はパニック状態になっていた。

 この状況は一体何だ? 山崎は僕の事「可愛い」って言ってキスしてきた…いや、有り得ないだろ?
可愛いのかもしれないけど僕は男だし、山崎も男だし…って事は、これはどういうことなのさ――

 山崎の体を突き飛ばせば良いのに、突然の出来事に驚いて力が抜けてしまった僕は、目を見開いたまま山崎の腕の中にしっかりと抱き込まれていた。
微かに揺れている山崎の長い睫毛をボンヤリ眺めながら、姉貴もこんな風に山崎とキスしてるのかな…なんて急に思ってしまい、ものすごく奇妙な気持ちになった。 

 そのうち、息苦しくなってしまった僕は、山崎の腕を叩きながら、足をバタバタさせ、やっと抵抗し始めた。
キスは…初めてじゃない。だけど、こんなに長いキスなんてしたことが無い。顔は熱いし、頭に酸素が行ってない感じだよ――

「っぷは〜〜!」
 僕の抵抗で、唇は開放された。だけど、相変わらず僕は山崎の腕の中から抜け出せずに居た。
「…な、何すんだよ!」
 僕は恥ずかしくて、目の前にある山崎の顔が見れなかった。
「キス…だよ」
 静かな声で山崎が言った。妙に落ち着いているように感じて、それがメチャクチャ悔しかった。
これってもしかして、嫌がらせか何かなのか?

「わ…わかってるよ! あのさ山崎、姉貴が居ないからって、代わりに僕にするなよ! あ、姉貴が帰ってから好きなだけやればいいだろが」
 もう、自分でもどんな顔をしているかわからない。
一人で興奮したように山崎に文句を言っている自分が、ちょっぴり惨めに思えてしまった。

 僕は、怒ってるような恥ずかしいような裏切られたような…モヤモヤした気持ちのまま、山崎を睨んでいた。すると山崎は僕を見て、フッと溜め息をつくと、苦しそうに眉間にシワを寄せた。

「…良美さんにキスしたかったわけじゃないんだ…」
「はぁ?」
 ちょっと待てよ、それどういう意味なんだ? 
「カズミにキスしたかったんだ…」
 僕を抱きしめていた山崎の腕の力が、いつの間にか緩んでいた。それなのに、僕は山崎の腕から逃げ出す事も出来ずに山崎を睨み続けていた。
何だか、すごく変な事を言われてるような気がする――。

「…何なんだよ…それって?」
 何だよ……って聞いたものの、山崎が何を言うのかと思うと、胸がドキドキしてきた。
って、このドキドキはどういう意味なんだよ?!

「俺…」
 僕を抱きしめている山崎の腕に、もう一度ギュッと力が入った。
 いや、これって…まさか…まさかだよね――
「俺、カズミが好きだったんだ」
「な、何バカな事言ってるのさ。山崎の好きなのは、姉貴だろ? って言うか、彼女の弟になんて告るなよ!」
 僕は慌てて山崎の腕の中から逃げ出そうとした。
「違うんだよ。最初から…カズミが好きだったんだ」
 逃げ出そうとした僕をつかまえた山崎が、僕をベッドの上に押し倒した。

マズイよ――こんなの有り得ないだろ?


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姉貴の彼氏…19
「山崎ったら〜、姉貴の事が大好きなんだねぇ」
なんて、ちょっとカラカウような言い方をしながら、僕は山崎の隣に座り込み、山崎が見ているアルバムを覗き込んだ。

 山崎の見ていたのは、姉さんの七五三の時の写真だった…。
「なぁ、これカズミだろ?」
 山崎が指差した写真を見ると、確かに、僕が写っていた。写っているんだけど…。
「…うん…まぁね」

 姉貴の7才のお祝いの時に、親戚からドレスを借りたんだけど、姉貴がそれを着たくないって言って。
親戚の人に申し訳ないからって、何故か無理やり僕が着せられたんだ。
それで、姉貴は着物、僕はドレスなんて変な写真が残ってしまったのだ。
 まぁ…家の庭で撮っただけだから、まだ良かったんだけど、実は姉貴と一緒に写真館までドレス姿で連れて行かれる所だったんだ。
それにしても…僕もよくこの写真を捨てずに取って置いたなぁ…。

「親の陰謀だよな…酷いと思わない?」
「…まぁ…」
「こんな写真があるなんて、すっかり忘れてたよ。捨てちゃわないとなぁ…僕の人生の汚点だよ」
 ブツブツ文句を言いながら、僕は山崎の持っているアルバムからその写真を抜き取ろうとした。
「…捨てなくて良くない?」
 山崎が写真を取ろうとしている僕の手をバッと押さえた。
「え? でもさぁ…」
「だって…すごく可愛いよ」
 山崎が、僕の手を押さえている手に微かに力を入れた。

「そっか。姉貴が可愛く写ってるからって、捨てるな――ってか。なら僕の部分だけ切り取って、姉貴の写真をあげるよ」
 僕はハサミを取りに行こうと思い、ベッドの上から下りようとした。すると、山崎は僕の腕を掴み首を振った。
「いや、別に…要らないよ」
「そうか。子供の頃の写真なんてもらってもしょうがないか」僕は山崎の隣に座りなおした。

「あのな…」
 山崎が写真を見つめたまま呟いた。
「何?」
「可愛いって思ったのは、カズミのほうだよ。良美さんよりも可愛いなって」
「はぁ?」
 僕は山崎の言葉に照れると言うか…何と言うか……ホントに微妙な気持ちだった。僕が女の子だったら、喜んでいい所かも知れないけど…。
「あのさ…それって、あんま、ホメ言葉でもないよね。男なのに『可愛い』なんてさぁ。僕はもっと男っ
ぽく生まれたかったんだ。山崎みたいに背が高くて、骨太な感じ? ホント羨ましいよなぁ…それにさぁ……」

 僕が『可愛い』と言われるのがイヤだって話を長々している横で、山崎が僕の事をジッと見つめている事に気が付いた。
「…何? やまざ…」
 言いかけた僕の言葉は、突然襲ってきた山崎の唇に飲み込まれてしまった。

 ――え? どうなってんの? これは何? どうして山崎が僕に…?――

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姉貴の彼氏…18
 しばらく、僕達はそのバンドのライブの話で盛り上がっていた。
同じ趣味の人と話すのって本当に楽しいよな…って思っていた。相手が知っているかどうか気にしながらじゃなく、共通の話題を思い切り話せる。小学校以来かな? そんな友達って。
 学校の友達もそれなりに面白い奴がいるけど、今は山崎と話している時が一番楽しいかもしれない。
まぁ、新しい友人だから、余計そう思うのかもしれないけど――。

「そう言えばさ、カズミ。あの映画一緒に行ってくれない?」
 山崎が急に思い出したように言った。
「あの映画って…もしかして、姉さんと行ったやつ?」
「そうそう」
「僕も見たかったけど…でも、山崎はこの間、見たんじゃない」
 僕がそう言うと、山崎が頭をポリポリかきながらバツの悪そうな顔をした。
「そうなんだけどさ…」

「もう一度見たいぐらい面白かった?」
 話題にはなったけど、そこまで面白かったって話は聞いてないような…。
「実はさ、途中までは見たんだけど…」
 何だか悪い予感がする…姉貴はホラー映画は嫌いだもんなぁ。そう言えば、前に映画の話をしていた時山崎のやつ、落ち込んでいたような気がするぞ――。
「途中まで見て…?」
「良美さんがさ、『つまんない!』って言って、出て行っちゃって…」
 あらら…
「姉貴のやつ…ひでーなぁ」
 姉貴の身勝手な態度に、またまた腹が立ってしまい、僕は両手を握り締め、テーブルをドンと叩いていた。

「いや、良美さんの好みを聞かないで、あんな映画に誘ったのがいけなかったかも知れない」
 何でそんなに姉貴を庇ったような言い方するんだ! 僕は奇妙なイライラ感を覚えた。
「そんな事無いよ、姉貴は勝手すぎるんだよ!」
 思わず意気込んでそう言ったら、山崎が僕を見て苦笑した。
「まぁ…良いんだ。ありがとな、カズミ」

 僕だったら、姉貴みたいな勝手な態度ばかりとる女の子なんて、いくら可愛くても絶対付き合わないのに。
今日もそうだけどさ、一度、ビシッとケジメをつけてやらないとダメだよ……そう思ってから、考えた。
そんな扱い受けても、きっと、山崎は姉貴が好きなんだな…。ここは、僕が口を出しちゃいけないんだろうなって。

「あ…えっと、映画、一緒に見に行こうよ。僕も行きたかったから」
「マジ? 良かった〜。映画の後半部分が気になっていたんだよ。じゃあ、今度の土曜日なんてどう?」
「良いよ、土曜日ね……あ、でも、姉貴とデートするんじゃないの?」
「え…デート…? 多分、しないよ…」
 山崎の煮え切らない答え方に、ホントに姉貴と上手く行ってないのかな? って心配になってきた。
一度、姉貴に文句でも言ってやろうかな――だけど、僕が何か言っても、嫌味を言い返されるだけのような気もするし――。

 僕が一人でグルグル考え事をしていると、山崎がテーブルの上に両手を置いて、ギュッと握り拳を作った。
何かと思って僕が顔を上げると、山崎は僕のことをジッと見つめていた。
「俺さぁ…」
「何? 山崎」
 どうにか励まそうと思って明るい声で返事をしたら、山崎が俯いて首を横に振った。
「…何でもない…」

 その後、2人の間に沈黙が流れてしまい、僕は気まずい気分だった。

「なぁ、カズミ、アルバムでも見せてよ」
「え? うん。良いけど」 
 今度こそ、暗い雰囲気にならないようにしないと――僕はそう思いながらアルバムを一冊取ってテーブルに置いた。
多分、こっちは小さいころの写真だったかな。
「他にもあったはずなんだ」

 あまり整理していない本棚をガサガサ探して、赤ちゃんの頃のアルバムを取り出し戻ると、
山崎は、いつの間にか僕のベッドの上に座り込み、アルバムを捲っていた。
「可愛いなぁ…」
 山崎が写真を見つめながら、ポツリと呟いた。

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姉貴の彼氏…17
「あ〜美味かった」
 チョコレートケーキとタルトを食べ終わった山崎は、マグカップに入っている紅茶を一口ゴクリと飲んでから、満足したように両手でお腹をさすった。
その姿は、ケーキを食べた後って感じがあんまりしないんだけどね。
「良かったよ、僕、ケーキは一口ぐらいでいいかなって程度だから。僕はどちらかと言うとケーキよりもお団子とかの方が好きかな〜。餡子モノも好きだしね」
「そうなんだ? 俺は甘いものなら何でも好きだぜ」
 紅茶のカップを両手で包み込みながら山崎が言った。

「へぇ…ホント、最初の印象と全然違うよね」
 カップを持って、やけに可愛らしく笑っている山崎に向かって、僕は思わずそう言っていた。
「何だよ、それ? 俺ってどんな感じだったんだよ?」
 山崎がテーブルに両手をドンと置き、身を乗り出しながら聞いてきた。
「いや、別に。どんな感じって…」
「カズミ〜、正直聞いてみたい。俺ってどんな奴に見えた?」
「う〜ん…」
「ちゃんと言えよ!」

 ますます近くなる山崎の真剣な顔を見て、僕は思わず笑いながら後ずさりした。
「ちょ、ちょっと山崎〜」
 すると、山崎がハッとしたように、テーブルに乗り出していた体をモゾモゾと元の場所に戻し苦笑した。
「ゴメン。えっと、第一印象が聞いてみたいな」
 山崎がキチンと正座をしながら僕を見た。何だか調子が狂いっぱなしだなぁ。

「え…えっと…最初は爽やかなスポーツマン。でも……目つきがあんまり良くなかったから、嫌味な奴なのかな…とかね」
 正直に…って山崎も言っているし、今は全然違うから言っても良いだろうと思い、僕は素直に話した。
「マジ? そんな風に見えたのか…いや…まぁ、あれだ…」
 僕の答えを聞いて、山崎が急に焦りだした。
「男のくせに女みたいな奴…とか思ってたとか?」
 ちょっと睨むように僕がそう言うと、山崎が視線を彷徨わせながら一生懸命否定し始めた。
「別にそんな風には思ってないって。ただ…良美さんに似ているんだなって思ってさ…」
「ま、いいよ。姉貴と似ているのは姉弟だから仕方ないし。とにかく、今は、いい奴と知り合えて良かったって思ってるんだ」
 僕がそう言うと、山崎がすっごく嬉しそうな顔をした。
「俺も…カズミと知り合えて良かったよ」
 急に大人びた表情をした山崎が僕をジッと見つめながらそう言った。その真剣な目を見ているうちに何だか不思議な気持ちになってしまい、しばらくの間、僕は口を開く事が出来なかった。 

「そ、そうだ。なぁ、山崎はこのCD持ってる?」
 見詰め合ったまま妙な空白の時間が流れてしまい、居た堪れなくなった僕はCDラックから、山崎も好きだと言っていたバンドの新譜を取り出し、プレイヤーに入れた。
「あ、まだ買ってないんだよ、これ」
 山崎がテーブルに置いた歌詞カードを眺めながら、スピーカーから流れてくる曲にあわせてリズムをとっていた。

「良かったら貸してあげようか?」
 僕がそう言うと、山崎が顔を上げ僕の方に視線をうつした。
「え、マジ? 借りる借りる。俺さ、いつか、このバンドのライブに行ってみたくてさ…」
「僕もだよ。今度一緒に行こうぜ」
「そうだな。俺、調べておくよ。だから…絶対行こうな」
 山崎が力を込めてそう言った。
「あぁ、楽しみだな」


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姉貴の彼氏…16
「美味そうだな」
 山崎がフルーツタルトとチョコレートケーキを交互に見ながらそう言った。本当にケーキ好きなんだなぁ――。
「好きなほう食べて良いよ」
 僕の言葉に、山崎がメチャメチャ嬉しそうな顔をした。
「マジ? どうしようかな……このフルーツ美味そうなんだよな〜。でも、チョコレートのビターな感じも良いんだよな。洋酒がきいてて絶対美味いよな」
 ケーキの解説をしながら山崎が迷っていた。ただのケーキ好きってだけじゃなくて、かなり色んなケーキを食べている感じだよな。

「じゃあ、こっちのもらうな。チョコレートのやつ」
 迷った末に山崎が言った。ケーキを選ぶのに真剣になっている姿が、また、妙に愛くるしい感じだ。
「良いよ。僕はどっちでもいいから」
「おう。それじゃ、遠慮なく頂きます!」
 山崎はフォークを持つと、最初はチョコの部分、次はスポンジの部分…と少しずつ味を確かめるように食べ、それから満足そうに頷くと、ケーキを一口サイズに切りパクパクと食べ始めた。

「マジ、うめーよ。これってもしかして、隣駅に出来た新しい店のケーキじゃないかな? この間、朝の
ニュースの時にやってたよ」
 ケーキが乗っていたナフキンに書いてある名前を見て、山崎が言った。
「へぇ。そうなんだ? 良く知ってるね」
 僕はケーキ屋の事になんて詳しくないから、はっきりわからないんだけど……それにしても、美味そうに食べるよな――。
「あぁ、俺のおフクロもケーキが好きでさ、この間おフクロと『あの店のケーキ食べたいよな』って話していたんだ」
 山崎がそう言った後、僕の前に置いたままになっているフルーツタルトをチラリと見た。

「山崎、良かったら、僕のタルトも食べる?」
「いらないの?」
 嬉しそうな、困ったような顔をしながら山崎が答えた。
「うん。僕はそんなにケーキ好きじゃ無いんだよね」
「えぇ? ホントにイイの?」
 僕は無理に遠慮しているって感じの山崎の前に、フルーツタルトの乗ったお皿をコトンと置いた。
「良いって。気にすんなよ」
「サンキュ」

 山崎が僕の差し出したタルトのお皿を自分の方に引き寄せると、フルーツの近くに顔を寄せた。
「甘酸っぱくて、良い香りだなぁ」
 山崎がフォークでフルーツの乗ったタルトをサクッと切った。
「あ、まった!」
「何だよ〜カズミ。今さら『やっぱり返せ』とかは無しだよ」
 フォークを口元に持っていこうとしている手を止めながら、山崎が言った。
「違うけどさ…。一口だけ味見しておきたいな〜と思ってさ」
 あまりにも美味しそうに食べてた山崎の姿を思い出したら、全然食べないのはもったいない様な気がしてしまった。

「良いよ。んじゃあ、ハイ。あーんして」
 山崎がそう言いながら、フォークを僕の前に差し出した。
「え?あ、……フォークかしてよ」
 食べさせてもらうなんて、恥ずかしくて出来るかよ〜
「良いじゃん別に。俺とカズミしかいないんだし」
「…まぁ、そうだけど…」
 誰かがいるから恥ずかしい…とかじゃなくて、食べさせてもらうって事が恥ずかしいだろ?
「はい、あーん」
 僕の気持ちをわかってくれてない山崎は、もう一度そう言って、フォークを僕の口に近づけた。
フォークからタルトがはずれてしまいそうになっているのを見て、僕は慌てて口をあけた。
その瞬間、山崎がフォークを僕の口の中にスッと押し込んだ。

 タルトとフルーツとカスタードクリームが口の中で溶け合って絶妙のバランスだ。フルーツを噛むと甘酸っぱい香りが口の中に広がった。
「すっごいおいしい!」
 あまりの美味しさに満面の笑みを向けて僕がそう言うと、山崎がポッと頬を赤くしながら嬉しそうに微笑み返した。
「カズミ、もう一口食べる?」
 山崎がタルトにフォークをさしながら言った。
「もう良いよ。山崎、食べなよ」
 僕がそう言うと、山崎がほんの少し残念そうな顔をしながらタルトを食べ始めた。


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姉貴の彼氏…15
「カズヨシ入るわよ」
 二人で笑っていると、ドアの外から母さんの声が聞こえて来た。
「いいよ」
 って…僕が返事をする前に、ドアは既に開けられていて、母さんの顔が見えていたんだけど――。

「ゴメンなさいね山崎君。良美ったらまだ帰ってこないのよ」
 母さんがお盆にケーキと紅茶を乗せて部屋に入ってきた。
「いえ…大丈夫ですから」
 山崎が母さんの方を見て恐縮したような顔をすると、ペコリと頭を下げた。

「山崎君がケーキ好きかどうかわからなかったんだけど…ちょうど近所の方に頂いたのがあったから。良かったら食べてちょうだいね」
 お盆の上には、カラフルなフルーツが飾られているタルトと、金箔がちょこんと飾ってある、チョコレートケーキが乗っていた。
「あ、スミマセン…ありがとうございます。俺、ケーキ大好きなんです」
 両手を腿の上で突っ張らせ、背筋をピンと伸ばした山崎が、母さんの持ってきたケーキを見て目を輝かせていた。

「へ〜。山崎ってケーキ好きなんだ?」
 ケーキを食べている山崎なんて想像出来なくて、僕は必要以上に驚いたような声を出してしまった。 
「ん? 何その言い方?」
 山崎が僕をチラッと見て、片眉を上げた。
「イヤ、別に、何でもないけどさぁ」
「俺とケーキなんて合わないって思っているんだろう?」 
 少し拗ねたような言い方をした山崎を見て、僕はまた可笑しくて笑いそうになった。
「…まぁ、そんな感じ?」
「何だよ、そんな感じってさぁ」
 急にリラックスしたように背中を丸めた山崎が、僕の額を指でグイと押した。
「だって、山崎がケーキ食べている姿、想像できないよ」
「カズミ〜、そういうの偏見って言うんじゃね?」

「あらあら。…あなた達、いつの間にそんなに仲良くなっての?」
 母さんがテーブルの上にケーキと紅茶を置きながら、不思議そうに僕たちの顔を見ていた。
「え…っと、山崎とは朝の電車でたまに会うんだよ。で、話するようになってさ」
 僕がそう答えると、母さんが安心したような顔をして、僕の頭をグリグリと撫でた。
「そうなの? それなら良かったわ。 じゃあ、良美が少し遅くても大丈夫よね」

「はい、大丈夫です。カズミ君と話してると楽しいですから」
 山崎がやけに元気良く答えた。
「あら、良かった。山崎君、カズヨシと友達になってくれたのね。本当にカズヨシは友達が少ないから心配なのよね……」
 母さんがまた、思い込みで発言し始めた。本当に…何、勝手に思い込んでいるんだよ――。
「母さん、僕にだって普通に友達ぐらいいるって」
 僕がそう言うと、母さんがまた心配そうな顔をした。
「でも、カズヨシは家に友達を連れてきた事が無いじゃないの…」
 イヤ、だから、姉貴と母さんに会わせたくないから、連れてこないだけなんだってば。
「あのねぇ、友達とは外で遊んできているんだから、大丈夫だって」
「本当に?」
「ホントだってば!」
 僕は立ち上がってドアを開けると、まだ居座りそうになっている母さんを部屋から追い出した。

 僕がテーブルに戻ると、山崎は2種類のケーキをジーッと眺めて嬉しそうな顔をしていた。


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姉貴の彼氏…14
 少し間があいてしまい、次はどんな話をしようと迷っていた。
山崎と話すのは好きだけど、時々何を話していいかわからない時があるんだ――。友達になったとは言え、クラスメイトとは違って話す時間が短いから、まだ、どんな反応が返ってくるか手探り状態の時があるから…
 
「・・・所でカズミって塾とか行ってるの?」
 僕が迷っていると、山崎が先に話しかけてくれた。だけど、急に何の話かと思ったら・・・。
「え、塾?」
「うん、そう」
「中3の頃は行ってたけど、今は行ってないよ・・・」
 塾に行ったのは、中3の頃だけだったな。
勉強はもともと嫌いじゃないから、塾が辛いって事は無かったけれど、授業の後や、休みの日に通うのが面倒だったっけ。

「そうなんだ? ちゃんと授業についていけてるんだ?」
「うん。特に困ってる教科は無いよ」
 僕がそう答えると、山崎が羨望の眼差しを向けた。

 自分で言うのもなんだけど、僕ってわりと計画性があって、小学生の頃から勉強する習慣がついていたから、学校の勉強で苦労した事って・・・あまり無いかもしれない。
 中学時代は、友達も通っていたし、一度くらい行ってみたいように思って、3年の頃に1年間だけ通っていたけれど・・・。
 母さんも、塾にお金をかけるよりは自分の趣味にお金をかけたい人だし、まわりには流されない人なので、「塾に行け」とか口煩く言う事は無いんだ。母さんのそうい所は良いと思うんだけどね・・・。


「へぇ、すごいな・・・カズミ」
「えへへ。そんなにスゴイわけでもないんだけどさ」
 頭をポリポリかきながらそう言ったら、山崎が感心したような顔をして僕を見た。

「で、山崎は?」
 山崎は自分の事を話したくて聞いてきたんじゃないかと思ったので、僕は山崎にも聞き返してみた。
「うん、今は行ってないけど、夏休みに集中講座に出ようかと思っているんだ。部活ばかりであんまり
勉強してなかったから・・・」
 山崎が少し困ったような顔をしていた。
運動部に入ってる学校の友人も、学校から帰ると疲れててなかなか勉強する気にならないような話をしていたっけ――山崎も苦労しているのかもなぁ。陸上に燃えているみたいだから・・・。
 
「へー、そうなんだ・・・。僕も行こうかな? 夏休みぐらい」
 塾も集中講座も、全然行くつもりじゃ無かったんだけど、僕は話の流れで何となくそう言っていた。
すると、山崎は一瞬驚いたような顔をしてから、嬉しそうな笑顔を向けた。
「なぁ、良かったら一緒の所いかね?」
 言った途端、今度は照れくさそうな顔をした。くるくる変わる山崎の表情、僕は結構好きなんだよね・・・。
「え、一緒の?」
 一緒に行く意味あるのかな…って、そう言えば大学の話をした時にも同じような事を思ったっけ。

「あ、いや、だって・・・一緒の大学受ける予定だし――」
 一緒の大学受けるからって、一緒に勉強する必要もないと思うんだけどねぇと思いながら、山崎の顔を見ていると、山崎が僕の視線に気づいて焦ったような顔をした。

「いやさぁ、夏休みは学校行かないから会えないじゃん・・・だから一緒に行けたら楽しいかな――とか思ってさ」
「そっか。夏休みは会えないんだ」
 休みになったら会えないのは学校の友達も同じだけど・・・一緒に居ると楽しいって言ってくれているんだなぁと思うと、照れくさいような嬉しいような・・・くすぐったいような感じだよね。
「そうそう。カズミも一緒に行こうぜ、集中講座」
 山崎が身を乗り出してそう言った。僕は「一緒一緒」って言う山崎が可愛く思えて、思わずクスッと笑ってしまった。

「何だよ? カズミ・・・急に何笑ってんだよ?」
「え・・・なんかさ、可愛いなーって思って。山崎」
 僕がそう言ったら、山崎の顔が見る見るうちに赤くなっていった。
「何が? 俺のどこがカワイイって?」
「ん? 『一緒に、一緒に・・・』って言うところがね・・・何か、カワイイ」
 山崎が僕を見て、ますます顔を赤くした。爽やかでスポーツマンの山崎・・・最初は無愛想な嫌な奴って思ったけど、かわいらしい所が色々あるよなぁ。しばらく僕の笑いは止まらなかった。
「何だよ〜失礼だなぁ、カズミ〜」
 笑っている僕の頭を、山崎が両手でつかみ、グシャグシャと髪を撫で回した。 
「あははは・・・。本当にそう思ったんだもん・・・」
 山崎が今度は僕の両頬に拳骨をギュッと押し付けてきた。
「イタイよ〜。ゴメンってば。でも、バカにしたわけじゃないから〜」
 山崎の両手を頬から離そうと山崎の腕を掴んで僕は抵抗した。
「・・・それなら、まぁ、許してやるけどさぁ」

 何だか可笑しくて、二人でしばらく笑い続けた。


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