−甘嘘別館−  
♪ハッピーエンドのBL小説を連載します♪

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Author:りょう
BL小説を書いてます。
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☆おことわり☆ 
「出会わなければ」には、実在のバンド、メンバーと似た人物が出てきますが、実在の人物とは一切関係ありません。

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姉貴の彼氏…8
 今日は、いつもの電車の定位置に乗れたぞ!って思って、僕はホッとしながら窓の外の景色を眺めていた。昨日は何であんなに混んでいたんだろうなぁ――なんて思いながら。

「おはよう。カズミくん」
 自分の世界に入りかけた時、やけに爽やかな声が聞こえて来た。

 ――もう会わないだろう――なんて考えっていた僕は、ちょっと抜けているかもしれない。
だって、通学時間に同じ電車に乗っていたんだから、「また会うかもしれない」と思うほうが自然だったんだろう。

 恐る恐る振り返ると、姉貴の彼氏が「やぁ」って言いながら、僕に笑顔を向けていた。

「僕はカズミじゃ無いんだけど?」
 昨日に引き続いて、朝の憩いの時間を邪魔された僕は、不機嫌にそう言い返した。
姉貴の彼氏は僕と目が合うと、照れくさそうに頭をかきながら、「ゴメンゴメン」と言った。
 ――何だか拍子抜けするよな――そう思いながら僕は、もう一度、窓の外に視線を向けた。

「カズヨシ君だったっけ?」
 今日はもう、話すネタも無いし…って思いながらボンヤリ窓の外を眺めていると、姉貴の彼氏が嬉しそうな声で話かけて来た。
「そうだよ、カズヨシだよ! …まぁ、もうどっちでも良いけどさ」
 いちいち言い返すのが面倒になってしまった僕は、投げやりそうに言った。
「ゴメンな……カズミの方が、君の雰囲気にあってるよな…なんて思っていたから――」
 姉貴の彼氏が悪びれる様子も無くそんな事を言った。
どっちでも良いとは言ったけど…そんな失礼な言い方をするのか? 「あってる」って何だよ? 俺ってそんなに女みたいな雰囲気だって言いたいのか!

「あんた、僕がこんな顔しているからってバカにしてるわけ? 僕はこの女顔、すっごく嫌いなんだから!」
 僕は腹が立ってしまい、思わず言い返していた。
「え? ・・・バカになんてしてないって。するわけない…」
 睨んでいる僕を見て、姉貴の彼氏は困ったような顔をした。
そんな…捨てられた子犬のような悲しい顔されたら、僕の方が悪いみたいな気になってしまうじゃないか。

――それに、まぁ……バカにしていないなら良いんだけどさ――。
「あのさ、所で…」
 僕が話し始めると、元気なく垂れていた姉貴の彼氏が、パッと顔を上げ真っ直ぐ僕を見つめた。
「何?」
 今度は目をキラキラさせているよ――どうなっているんだか、この人ったら――。
「名前、何だっけ…君の…」
 僕の言葉を聞いた姉貴の彼氏は、あからさまに落胆したような表情をした。

 まぁ、姉貴にとっては彼氏だけど、僕には殆ど関係ない相手だから、本当は名前なんてどうでも良かったんだけどさ…でも、話する時に、不便じゃない――。

 「え。。。あぁ、覚えてくれてないのか…そっか。そうだよな」
 どうしてこの人は感情をすぐ表すんだろう? 嬉しい顔なら良いけれど、その顔はやめて欲しいんだけど
なぁ――何だか申し訳ない気持ちが倍増してまいそうだよ……。 

「あぁ、えっと、ゴメン」
「うん、まぁ…別に良いんだけどな。俺、山崎卓志(やまざきたくし)って言うんだ」
 そうそう、タクシだなんて、ちょっと珍しい名前だなって思っていたんだ。
「ゴメン。姉貴ったらしょっちゅう男が変わるから、僕、覚えられなくて……ぁ…」
 僕の言葉に、山崎君の表情がますます曇ってしまい、僕は非常に焦った。
彼氏にしてみたら、絶対面白くない話だったに違いない。僕は軽率だった……。

「やっぱそうだよな…良美さん可愛いから、言い寄ってくる男が多いだろうな――」
「えっと、その、だからって、山崎君と姉貴がすぐ別れるとか、そういう事じゃないよ。山崎君は…今までの彼氏の中で、一番いい奴だと思うし背も高いし、カッコいいし、話しやすいし…」
 これでフォローになっているんだろうか? って疑問に思いながら僕は苦し紛れに色々と褒め言葉を連ねてみた。
「いいよ。カズミくんが気にしなくても。俺、平気だから――」
 山崎君が、そう言って 力なく笑った。
「うん…ゴメン」

 カズミじゃないんだけど…って、今回は言えなかった。



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姉貴の彼氏…7
「そうそう。僕、あの映画すっごく見たかったんだよ。あ、でもさ、姉貴は怖い系の話は好きじゃないと思うよ。あれで結構ロマンチストだから。恋愛映画のが好きなんじゃない」
 悲恋ものの海外ドラマとかを見て、母さんと一緒に泣いているような人だからなぁ、姉貴は――。
「そっか…でも俺、ダメなんだよね。恋愛物って」
 男でラブロマンスが好きだ…なんて人は、僕的にはお友達になりたくないと思うから、まぁ、
そういう意味では、苦手なタイプじゃないかもな――。

「僕もダメ。ああいうのって、眠くなっちゃうよね」
 僕がそう言ったら、姉貴の彼氏が嬉しそうな顔をした。
「同じ同じ。いくら彼女が見たいって言っても、退屈だし、お金の無駄だから行きたくないよな〜とか思うかも」
「でも姉貴は大好きだからさ…見たくなかったら、ちゃんと断わらないとダメかもよ」
「うん…そうだよな」
 姉貴の彼氏が少し困ったような顔をした――あの姉貴の誘いを断わるのは、大変かもなぁ――と彼氏の表情を観察しながら、心の中で同情してしまった。

「良美さん、そんなに恋愛ドラマとか好きなのかな?」
 しばらく沈黙していた彼氏が、顔を上げてそう言った。
「すっごい好きみたい。ドラマとかよく見てるよ。僕なんて食事中に恋愛ドラマ付き合わされたりするんだけどさ、『好きだけど伝えられない…』みたいな内容の話見てると、すごくイライラするんだよね。姉貴が毎週見てるんだけどさぁ、見るたびに、さっさと告白して、玉砕しちゃえ! って思っちゃうよ」
 この人も恋愛ドラマ嫌いみたいだから平気だろう…って思い、つい安心して、いつも姉貴たちの見ている人気ドラマに対する不満を言ってしまった。

 すると……何故か、姉貴の彼氏の顔がピクピクッと引きつったような――もしかして、実は恋愛物好きだったりして? いや、もしかしたら、あのドラマを好きだとか?――僕は思わずひいてしまった。
 まぁ、別にどっちでも良いんだけど――どうせ、姉貴の彼氏なんだから。

「あ、あのさ、そう言えばカズミ君もW大受ける予定なんだってな」
 その後、姉貴の彼氏が急に話を変えてきた。
マズカッタかな? と思いつつ……でも、気にしていないふりをしよう。

「え…まあね。予定だけど、わからないや。一応第一志望はそこだけどさ…あ、同じ所受けるんだっけ? 母さんがそう言ってたよ」
「あぁ、そのつもりだよ」
 姉貴の彼氏の顔が、今度は笑顔になった。最初の印象が無愛想だったから、今日みたいに表情がクルクル変わると、調子が狂う感じ。
「そっか。お互い頑張ろうね」
 降りる駅までまだ3駅。彼氏が怖い顔しないような内容の話を続けなくちゃなぁ――。なんて、小心者の僕は思っていた。

「あ…あのさ」
「え?」
「あの…」
 姉貴の彼氏が緊張したような感じで僕を見ている。
「何?」
「いや、さぁ、同じ大学だったら良いな…とかな」
 姉貴の彼氏が今度はフニャっとした笑顔を向けて、僕にそう言った。
「え? 何で?」
 彼女の弟と同じ大学に行くって事に、何か意味があるのかな?
「え、あ、別にさぁ、知っている奴が居た方が、安心じゃん?」
 姉貴の彼氏がそう言って、ハハハっと笑った。知ってる奴…って言ったって…なぁ。
昨日知り合ったばかりで、ちゃんと話したのは今日が初めてなのに――僕はそう思いながらも「そうだね、安心するかもね」なんて話をあわせていた。
 その時の彼氏の顔…何だかすごく嬉しそうで、思わず僕も笑顔を向けてしまった。


 妙な雰囲気があるけど、悪い人じゃ無いみたいだな。でも…あの人、何て名前だったかな――駅の改札を出た後、ふとそう思った。
まぁ、良いか。多分、もう会わないだろうし――。


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姉貴の彼氏…6
 月曜日になり、いつものように、いつもの時間の電車に乗って学校に向う。
 同じ車両の同じドア、そして僕の定位置――ドア横の手すりの所――に立つ……つもりだった。
だけど、今日は何だか人が多くて、僕は後ろから乗ってきたサラリーマンに押され、いつのまにか座席の前に押し出されていた。
 不安定だからあまり好きじゃないんだけど、仕方がないから吊革につかまって、これ以上押されないようにと足を踏ん張った。

 反対側の窓から見える、いつもとは違う景色を眺めながら――今日の一時間目の授業は何だったっけ――とボンヤリ考えていた。

「おはよう、カズミくん。鞄持ってやるよ」
 電車が次の駅に着く頃、前に座っていた人が突然そう言って、僕の鞄に手をかけた。
「え、別に良いって」
 急に鞄を掴まれ焦った僕は、グッと手に力を入れ、鞄を取られないように身構えた。
 一体誰なんだよ――そう思いながら、鞄をつかんだ奴の顔をマジマジと見てみる。
 何だか見た事があるぞ――。
「…」
 僕が見ていたら、そいつが一瞬眉間にシワを寄せた。
「あ、あのね、僕はカズヨシだってば! それよか、あんた誰?」
 僕を見て嫌な顔をする奴、そして『カズミ』なんて呼ぶ奴――何となく嫌な予感。
わかるような気もするけど、わかりたくない。


「ゴメンゴメン。良美さんがずっと君の事『カズミ』って言ってたから」
 あぁ、やっぱり。…姉貴の彼氏だ…。
ゴメンって言ったって、何だかちっとも、謝ってないように聞こえるんだけど――僕は思わずムッとした。

 それにしても――昨日とはかなり雰囲気が違うみたいだなぁ。こいつ、私服を着ている時は、大人っぽく見えるんだ?
制服姿の姉貴の彼氏をジロジロと観察していたら、またまた彼氏が眉を潜めて、視線を逸らしてしまった。
 やっぱり…感じ悪い――そうは思ったものの、ココから逃げ出すわけにも行かず、僕はどうして良いのか困ってしまった。
 特別話が上手い方でもないし、共通の話題なんて…姉貴の事だけど、僕は姉貴の話なんてしたくないし…。

 しばらく沈黙が続いてしまい、僕は段々と焦りだす。
 考えてみたら、無理やり話をしなくても良かったのだけど――。


「「あの」」
 沈黙の後、二人同時に声を発してしまって、思わずお互いに苦笑した。
「あ、先に良いよ」
 姉貴の彼氏が、整った顔を微かに緊張させながら言った。
「うん、あぁ。あのさ、昨日、姉貴と映画に行ったんだって? 母さんが言ってたんだけど……面白かった?」
 姉貴達は、僕が見たかった映画を見に行ったはずだ。だから、とりあえず感想でも聞いておいたら良いかも――と思いついたので、やっとの事で話を振ったのに……。
 姉貴の彼氏は困ったような顔をしてポリポリと頭をかいた。
「うん…まぁ…俺はすごい見たかったんだけど、良美さんはあんまり好きじゃなかったみたいで…」
 最後の方は元気の無い声になっていた。姉さんの事だから、また何か勝手な事をしたんじゃないかな…。
「あ、あの映画、僕も見てみたかったんだよね。でも、友達が皆嫌がっててさ。だけど一人で行くのもなぁって思ってたんだ。早くDVDにならないかな…」
 落ち込んでいく彼氏を見ていたら、話の間があいたらいけないような気がしてきて、僕は一生懸命話を続けようとした。
「え? カズミくんはああいうの好きなんだ?」
 姉貴の彼氏が顔を上げて、嬉しそうに僕の事を見た。

――この人の笑顔、始めて見た感じ。きつそうな奴かと思っていたけど、意外と優しい顔で笑うんだ?―― 

 姉貴の連れて来る彼氏ときたら、大抵は僕の事を馬鹿にしたような顔で見ていたっけ……。
……もしかしたら、今回の彼氏は今までの奴とは違うのかもしれないなぁ――
 照れたような笑顔を向けている姉貴の彼氏を見ながら、僕はそう思った。

……あ、でも、何度も言うようだけど、僕はカズミじゃないんだけどね……。


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姉貴の彼氏…5
――姉貴の奴、彼氏を家の中にまで連れて入るなんて、迷惑なんだよ…。出掛けるか、そうじゃなきゃ自分の部屋に行って欲しいんだけど…――
 飲み物を取りに行きたいけど、下の部屋に行ってあいつに会ったら嫌だし…そう思いながら僕は、心の中で姉貴に毒づいた。
 それにしても、何なんだよ、あいつ…不機嫌そうに僕のこと見て。あぁ、イヤだ。僕が何したんだよ?
まぁ、長続きしない姉貴の性格から行くと、あいつとも、もう会う機会は無いはずだから別に良いんだけど。

 僕は、姉貴たちが早く出て行かないかと、階段の途中から下の様子をうかがっていた。
自分の家なのに、何でコソコソしなきゃならないんだろうなぁ? と自分でも呆れるのだけど――。


「それじゃ、これから出かけるから…」
 姉貴がそう言いながら居間から出てくるのがわかり、僕はホッとした。
「もう少しゆっくりしていっても良いのに」
 母さんが引き止めている。――イヤ、引き止めなくて良いんだよ、母さん…。
「母さんと話していると長くなるんだもの」
 姉貴の声が少し不機嫌そうだった。母さんはまた、余計な事を言ったんだろうなぁ…と僕は思わずニヤリとしてしまった。一言も二言も多い人だからなぁ。

 しばらくすると、姉貴たちが玄関の方に歩いてくる音が聞こえたので、僕は慌てて、下から見えない位置に移動した。
「あ、どうも、お邪魔しました」
 玄関から彼氏の恐縮した声が聞こえた。やがてドアがバタンと閉まる音が聞こえ、姉貴たちが出かけた事がわかった。


「やっと居なくなったか」
 僕は独り言を言いながら、急いで階段を下りて、台所に向った。

 冷蔵庫を開け、パックのオレンジジュースを取り出し、一気に飲み始める…
「あら、和美ったら、そこに居たんなら、挨拶に出て来なさいよ」
 僕は突然聞こえて来た母さんの声に、思わずジュースを吹き出しそうになった。
「だって、面倒くさいじゃない」手の甲で口を拭いながらそう言った。 
「あんたって子は、どうして…」
 僕はどうせ愛想なしですよ…。
「良いじゃない。どうせ姉さんの事だから、またすぐに別れちゃうだろうし」
「まぁ…そうかも知れないけど…。あ、それより和美、あの彼、あんたと同じ大学受けるみたいよ」
 母さんが嬉しそうに話し始めた。そんな話聞いても、僕は全然嬉しくないんだけど。
「あいつが同じ大学受けるとしたって、僕には関係ないよ。別にあいつと友達になろうとも思わないし」
 僕がそう言ったら、予想通り母さんは不満そうな顔をした。
「あんた、そんな事ばっかり言ってたら友達出来ないわよ?」
 はいはい…そればっかり。
「あのねぇ、母さんが思っているほど友達少なくないから、心配しないで良いよ」
 僕が姉貴みたいに友達を連れてこないのは、母さんや姉貴に合わせたくないからなんだよ…。
「ホントにそうなの?」
「変な心配しないでよ、全然平気だから。それより姉さんは何処に行ったの?」
 しつこく心配する母さんが鬱陶しくて、僕は話を変えようとした。
「あ、何かね、映画観に行くらしいわよ。前に海賊の役やってた俳優が出てる新しい映画だったかしら。母さんあの人好きなんだけど、今度の映画はちょっと怖いみたいよね。私は昔やってた…」

――何だよ、姉貴、ああいう映画嫌いなはずなのに――そう思いながら、母さんの終わらない話をボンヤリ聞いていた。

 あーぁ。あの映画、僕も見たいな。友達は皆行きたくないって言ってたし…かと言って、1人で見に行く勇気は無いしなぁ。DVDになるのを待つしかないかな――。
 母さんの話は、いつの間にか昔々映画を一緒に見に行った優しくない彼氏の話に変わっていた。


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姉貴の彼氏…4
「あらまぁ、そうなの? 山崎君って年上好みだったの」
 良美の母親が、驚いたような顔をした。
「え、いや、そういう訳じゃなかったんですけど……」
 答えに困って、卓志は頭をポリポリとかいた。
さっきから、変な汗をかきっぱなしで、卓志は落ち着かなくてしょうがなかった。

「電車で何度か会っていたみたいなの。卓志ったら、私に一目惚れしちゃったらしいのよね〜」
 ケラケラと笑い出す良美を見て、卓志は恥ずかしそうに俯いた。
――そんな事まで母親に言うのか――卓志は手の甲で、額の汗を拭った。

「良美、くれぐれも受験勉強の邪魔をしないようにね」
 母親はちょっと呆れたような顔をしながら、良美の顔を見た。
「わかってるわよ」
 良美が口を尖らせながら答えた。
「あら、山崎君、暑いのね。冷たいジュースでも飲む? 今持ってくるから待ってて」
 さかんに汗を拭いている卓志を見て、良美の母親が急に思い出したように言った。
「いえ、大丈夫ですから――」
 卓志の言葉には何も答えず、母親はさっさと台所に行ってしまった。


「うちの母さん、色々うるさいこと言うかもしれないけど、気にしないでね。いつもあんな感じなのよ」
 母親が台所に行くと、良美がコソコソと卓志に耳打ちした。
――気にしないでって言われても――卓志は一刻も早くココから帰りたいと思っていた。


「はいどうぞ。ゴメンなさいね、気が付かなくて」
 ジュースの入ったコップを卓志の前に置きながら、良美の母親はニッコリと微笑んだ。
 その微笑を見て、卓志はますます汗をかいてしまう。
「あ、ありがとうございます」
 自分の母親もそうだけど、この年代の女性の笑顔は、どうも苦手だよな――と卓志は心の中で苦笑いした。

「そうそう、所で山崎君は受験する大学はもう決めているの?」
 良美の母の遠慮ない質問が再開された。
「え…あの」
 卓志が言い出そうか迷っていると、すかさず良美が隣から口を挟んだ。
「W大を受けるのよね。私の大学にも近いし」
 良美の言葉に、卓志は「まぁ、今のところは…」と歯切れ悪い言葉を返すだけだった。
 実の所、卓志はどの大学を受けるのかなんて、まだ考えてはいなかった。良美の言ったW大は、卓志の母親が卓志に受けるように進めているだけなのだ。

「あら、そうなの? 和美もそうだったわよね。あら、良かったわぁ。もし和美とクラスメイトになったら、仲良くしてやってね。あの子、良美とちがって友達少ないみたいで、心配なのよ」
「何に言ってるのよ、母さん。同じ大学に入れるかもわからないし、高校みたいに人数が少なく無いのよ? 第一、大学受験なんて、まだまだ先じゃないのよ…」
 良美が目の前に置いてあるコップにささっているストローで、イライラしたように氷をつついていた。

「あらやだわ。短大生はのん気で良いわよねぇ」
 母親がそう言うと、良美は肩眉を上げながら、不満そうな顔をした。
「のん気で悪かったわね! 能天気なのは母さん譲りだと思うけど」
 良美のコップの中の氷がカラカラ音をたてている。
「あんたはホント、口が減らないわよね」
 母親は涼しい顔をして良美に言い返した。
「どうせ私は頭も口も悪いですよ」

 そばで聞いていた卓志は、二人の間に流れる微妙な空気に、ただ苦笑するだけだった。



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姉貴の彼氏…3
「まったく。カズミは愛想なさ過ぎなのよね」
 和美の姉、良美が不機嫌な顔をしながら母親に文句を言った。
「まぁねぇ。性格は父さんに似たんじゃない? 人前に出るのが嫌いな所なんて特に」
 和美が2階の部屋に戻って行った姿を見てから、良美と母親が「仕方ないわよ」と相槌を打ちあった。
 2人の会話を聞きながら、山崎卓志は小さく溜息をついた。

「卓志、上がってよ。時間あるでしょ?」
 卓志は和美が居なくなるとすぐにリビングに通され、息苦しいような空間で話をする事になってしまった。
良美に、「母さんに顔を見せるだけで良い」と言われてついて来ただけだったのだけれど・・・。

「良美さんと和美君って、よく似ているけど、雰囲気が違いますね」
 卓志は、言葉を選びながらそう言って、良美の母親の方に視線を向けた。
 良美の母親も、良美に似てハッキリした性格の女性だろうな――そのキリッとした意思の強そうな目を見て卓志は思った。
 弟の和美は……2人と似てはいるけれど、どちらかと言うと癒し系の顔だったよな――卓志は和美の事を思い出しながら、良美の母親の言葉を待った。

「そうなのよ。内向的って言うのかしら、良美に比べると友達も少ないみたいだし、今まで彼女の1人も連れて来た事が無いのよ」
「はぁ、そうなんですか・・・」
 高校生が彼女を家に連れて行く・・・そっちの方が少ないような気がするけど――卓志は自分の回りのことを考え、思わず和美の肩を持ちたくなってしまった。
 卓志だって、彼女は出来たものの、付き合い始めたばかりなのに、彼女の母親に会うことになるなんて思っても居なかったのだ。

「ねぇ、所で良美、山崎君とはどうやって知り合ったのよ? 高校3年生なんてもうすぐ受験で忙しくなるのに、あんたに振り回されたら可哀想じゃないの」
 母親の言葉に、良美は不機嫌そうな顔をした。
「何よ、その『振り回す』って。人聞きが悪いわねぇ。だって、告白されたんだもん、私が。ね、卓志」
 良美が卓志の方を向いて、ニッコリ笑った。

 ――笑顔はカワイイよな――卓志は良美を見てボンヤリそう思っていた。



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姉貴の彼氏…2
「あ、これ弟の和美(かずよし)。女の子みたいでしょ? だからカズミって呼んでるんの。ね、カズミ」
 姉貴が彼氏に向かって僕を紹介した。名前と学年だけ言えば充分だと思うのに・・・。まったく、このクソ姉貴! 僕はこの女顔が嫌なんだよ。姉貴に似ているって言う所にも腹が立つ。
 僕も、姉貴みたいに身勝手な性格だったら、もっと楽しく青春出来たのかも知れないよ、でも、自分でも嫌になるんだけど人見知りは激しいし、どっちかと言うと内向的な性格だからさ・・・。

 あぁ、もう! さっさと頭だけ下げて、台所に行ってしまえば良かった。そうすれば母さんだって、文句までは言わなかっただろうし――。

「どうも。弟の『カズヨシ』です」
 心の中でブツブツと文句をつけながら、僕は自分の名前を力強く言った。カズミじゃ無いんだよ! 僕はムッとしながら姉貴をチラリと見て、その後、隣に居る彼氏に向かってペコリと頭を下てげやった。

「マジ?」
 顔を上げた瞬間、姉貴の彼氏がそう呟いた。
 歴代の彼氏達も失礼な奴が多かったけど・・・人の顔見ていきなり「マジ?」ってのは無いだろ?

「何が『マジ?』なの? 卓志」
 姉貴が彼氏に向かって不満そうに聞いた。
「あ、別に、何でもない」
 慌てたように彼氏が答えて、僕から目をパッと逸らした。

 今回の彼氏、見た感じは今までの奴らと違って、とても普通っぽい奴だったけど、やっぱり姉貴につかまるような男なんて、大した奴じゃないや・・・。

「山崎君は、どこの学校に行ってるの?」
 母さんが我慢しきれなかったかのように彼氏に質問を始めた。いきなりそれを聞くのかよ・・・。
「あ、俺…」
「卓志はね、東校の3年生なの」
 彼氏が答える前に、姉貴がサッサと答えた。どうやらこの人も姉貴の尻に敷かれているようだ。大体、姉貴は自分の言うことを聞かないような男とは付き合わない…どうやら、姉貴が彼氏にする最低基準は、そこにあるみたいだから…。

「東校って・・・あら? もしかして高校生?」
「はい」
 その「山崎卓志」が、返事をしてから照れくさそうに頭をポリポリかいた。
「なんだ。和美と同じ年なのね」
 母さんがそう言うと、彼氏が僕を見て眉を潜めた。何だか本当に気分悪い奴――。今度の彼氏の第一印象もそんな感じだった。

 それにしても、姉貴の奴、受験生をたぶらかすなんて、イイ度胸してるよ。さすがだね・・・としか言いようが無い。年下男には姉貴のような女、荷が重過ぎるだろう? お金だってあんまり持ってないだろうし・・・。
 まぁ、どうでもいいや。姉貴の彼氏が困ったとしても、僕には関係ない事。姉貴には関わらないほうが無難だ――そう思いながら僕は、姉貴の彼氏をマジマジと眺めていた。
 俺がジロジロ見ていたからだろう、彼氏は不機嫌そうな顔をして僕を見返した。

「じゃ、どうも……」
 これ以上僕が居ても、会話が弾むわけでもないし――僕は台所に行って食べ物を物色してから、自分の部屋に戻った。



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