−甘嘘別館−  
♪ハッピーエンドのBL小説を連載します♪

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Author:りょう
BL小説を書いてます。
よろしくお願いします☆
別館では18禁小説は連載しません。
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☆おことわり☆ 
「出会わなければ」には、実在のバンド、メンバーと似た人物が出てきますが、実在の人物とは一切関係ありません。

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あふれる想いを唄にして…125(最終回)
「俺の方がビックリしたよ。お前、パソコンの前に座ったまま、また動かなくなってたし……」
 パジャマ姿の秀利が、ブツブツ呟くように言った。
「悪い――。なんかさ今日は俺、お前と出会った頃から今までの事が、映画みたいにずっと頭の中に流れてる感じなんだよ」
 秀利の方に身体を向けて、許しを請うように、その目を見つめた。
学生の頃と変わらない、澄んだ瞳が俺を見つめ返した。

「だから、さっき泣いてたんだ? 離れてた頃の事でも、思い出してたの?」
 秀利が照れたように笑った後、急に悪戯っ子のような顔をし、涙を拭うかのように指を俺の頬に当てた。
「え? 俺、泣いてた?」
 夢見て、泣いてた?――俺は恥ずかしくなって、頭をポリポリとかいた。

「な〜んてね、うそ」
 秀利がニッコリ微笑みながら、俺の鼻をキュッと摘んだ。
「ったく…何だよそれ……」
 俺は秀利のオデコを人差し指でツンと押した。
 秀利が幸せそうな顔をして、俺にギュッと抱きつき、耳元に唇を寄せた。
「愛してるよ、悟」
 俺は秀利の頬を両手で包み込み、目を見つめながらゆっくり唇を重ねた。
――俺も愛してるよ――


「なあ、悟ったら、そんな過去の事を考えるより、俺達の未来の事を考えようよ」
 唇を離した後、秀利が俺の両肩に手を置き、俺の目を覗き込みながら言った。
「え? あぁ。そうだよな」
 秀利の微かに濡れた瞳を見て、俺は照れてしまい、頬が熱くなるのを感じた。

「じゃ、近い未来の計画なんだけど……」
「何?」
「この後、昼飯食べたら、映画見て、買い物に行って、夕食は、この間お前が教えてくれた、会社の近くの居酒屋で……なんてのは、どう?」
「はぁ? 未来には違いないけど、近すぎない?」
「良いじゃん。わかりやすい未来で。だって俺、久しぶりに、おばちゃんの肉じゃがとひじきが食べたくなったんだよねー」
 秀利が、昔と変わらない、俺の大好きな笑顔を向けてくれた。
「わかったよ。じゃ、このメールに急いで返信するから、秀利は出掛ける用意をしてて――」
「了解。早く終わらせてよ」
「オッケー。お前の為に、すぐに終わらせるから」
 軽くキスすると、お互いの作業に取り掛かった。

 俺は、愛する人の側に居られる幸せをかみしめながら、ノートパソコンのキーを打ち始めた。



―― おわり ――
あふれる想いを唄にして…124
「なんだ。やっぱり神楽さんだ! ねぇ、神楽さんの恋人って、兄貴の事だよね? すごいじゃない、2度目の愛の告白だよ〜。どうするの兄貴ぃ?」
 梨子がニヤニヤ笑いながらそう言った。
俺は何年か振りに、梨子にからかわれたような気がして、懐かしいような腹立たしいような奇妙な気持ちでいた。

 ――早く秀利に連絡したい――俺はそう思って密かに焦っていたので、それから先の梨子の話が、全然耳に入ってこなかった。
 その後、秀利のバンドの演奏が始まった。テレビの中では、大人になった秀利が、高校の頃ライブハウスで歌ってくれたあの曲を歌っている――。    
 秀利の歌からあふれ出してくるあいつの熱い想いが、俺の心の中に沁み込んで来る――。


 秀利がテレビで「忘れられない恋人」と発表してしまった後日、その「恋人」が彼女ではなく、彼氏だったという事実が雑誌の記事に出てしまった。
多分、高校時代俺達のことを良く思っていなかった誰かが、雑誌社にネタを売ったのだろう。
しばらくは大変だった――とはいえ、俺は昔の先輩から、悪戯電話をかけられたり、全然知らない相手から、秀利の悪口を聞かされたりした程度だったから、それ程のダメージは無かった。
だけど、芸能人である秀利は辛かったと思う。話題づくりの茶番だと言われたり、ホモだと騒がれたり――仕事でのバッシングも色々とあったようだ。

 そんな中、あいつの誠実な性格を知っている事務所の人達やファンに守られ、後押しされ、俺とあいつの交際が始まった。
そして徐々に、俺達の事を中傷する人達は居なくなっていた――。

 俺の両親は、俺が秀利と恋人として付き合いたいと話をしたとき、俺が面食らう位、あっさりと交際を認めてくれた。
だけど、秀利の父親に認めてもらうまで、3年かかった。3年は長いような気もしたけれど、許してもらえた事はとて幸運だと思っている。今の世の中、同性同士の恋愛についてはまだまだ偏見が強く、自分達の事を回りに打ち明けられない人達も沢山いるはずだから――。

 そして数年後、俺達は秀利のバンドのライブ会場で指輪交換をし、その後、秀利のマンションで一緒に生活するようになった。
 一緒に住んでいるけれど、籍は入れていない。どちらかが養子になれば、同じ姓を名乗ることも出来るけれど――それについては、今後考えるとして……



「悟? どこか行ってるー? 帰って来いよ〜!」
 秀利が、頬をペチペチ叩きながら俺の顔を覗き込んだ。
「うわ! ビックリさせるなよ?!」
 目の前の秀利に気づき驚いた俺は、焦ってひっくり返りそうになってしまった。  


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あふれる想いを唄にして…123
 大学を卒業するまでの間に、3人の子と付き合った。
だけど、心の中で、いつも、秀利と比べてしまった。あいつと居る時のようなドキドキする気持ちや、幸せだと思える気持ちが、彼女達と一緒に居る時には全く無かった。
 女の子の甘えてくる態度や、束縛感が苦痛な時もあった。だからと言って、秀利以外の男と付き合うなんて事、とてもじゃないけれど考えられなかった。  


 大学を卒業する頃付き合っていたゼミの後輩とは、就職してからも付き合いが続いていた。普通に可愛い女の子。性格も程々に優しくて、前に付き合っていた人達とは違い、一緒にいて疲れない子だった。
 だから、その頃俺は――結婚するなら、彼女とだろう――と思うようにまでなっていた。
 それなのに、学生と社会人の生活リズムのすれ違いなどから、就職して半年経った頃、彼女に別れを切り出された。

 ――悟はいつも誰か他の人の事考えてる――

 彼女に別れ際にそう言われた。吹っ切れていたと思っていたのに、俺はその頃もまだ、秀利の事が忘れられないでいたみたいだ――。


 そして、就職して一年が経とうとしていたある日の事だった。妹の梨子が見ていた音楽番組を眺めながら、俺は少し遅い夕食をとっていた。
 テレビの中では、あるバンドのボーカリストが、司会者と何やら会話をしている――俺は箸を口に運びながら、その様子を何気なく見つめていた。

「ねぇ、兄貴、この人、見たこと無い?」
 妹の梨子が急にそう言って俺を見た。
「さぁ?」
 俺はそう答えながら、改めてテレビの人物をジィッと観察した。
確かに……その人物の口元には、見覚えがあるような――目はサングラスで隠れてしまっているけど…。

「初恋の話が聞いてみたいってメールが来ているんですけど、そういう話聞いてもOKなんですか?」
 歌番組の司会者の言葉に、その人物がコクリと頷いてから、ポツリポツリと話を始めた。 
「そうだなぁ、初恋は、いつだか忘れてしまったなぁ。俺あんまり記憶力良くないかも」
「……それじゃあ、忘れられないような恋とかはあります?」
 少し甘えたような司会者の口調に、その人物が一瞬、眉間にシワを寄せた。
――あれ?――

「……うん。高校の頃の恋人の事が、今でも忘れられない」
「そうなんですか?」
 司会者が面白い話を聞けると思ったのか、嬉しそうな声でそう言って目を輝かせた。

「うん。俺の家庭の事情で全然連絡出来なくなって……でも、俺、ずっと連絡したかった――だけどさ、相手が自分の事を忘れているんじゃないかと思うと、それも出来なくて」
 俺は彼の顔から目が離せなかった。
「へぇ。でも、相手の方も待っていたと思いますけどね……」
「そうかな……」
 彼が照れたように頭をかいた。
「そうですよ〜」
 司会の女性はますます嬉しそうな顔をした。

「そっか……あの、公共の電波を使っちゃって申し訳ないんだけど、言っちゃおうかな……」
「言っちゃってくださいよ。ね?」
「じゃあ……えっと、俺の事、忘れていなかったら、連絡して。携帯とアドレスは、昔のままだから。今でもお前が好きなんだ……」
 サングラスを取った彼を見て、俺は、箸を持ったまま動けなかった。

 テレビのスピーカーからは、共演者達のひやかすような口笛が聞こえてきた。


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あふれる想いを唄にして…122
 両想いになった後にも、色々あった――。

 お互いに好きだという事がわかり、幸せな日々が始まって、何も恐くないような気になっていたけれど、俺達の関係を知った先輩達に、なじられたり、からかわれたりして、別の意味で辛い時期があった。

「神楽が女役だよね」
 すれ違いざまに、嫌味っぽく言ってくる先輩も居た。
「男が好きだったんだ?」
 神楽と付き合え無かった、隣のクラスの女子が笑いながら話していた――。

 俺は、自分が何を言われても平気だった。秀利が侮辱されるのが一番辛かった。
 でも、どんな時でも、智也を始めとする、クラスの仲間は俺達の味方をしてくれた。

 秀利は俺に――
「何を言われても平気。俺は立木から離れないから」
 そう言ってくれた。俺はその時、秀利が居れば何でも乗り切れると思った。

 その頃は、さすがに親には言うことが出来なかったけれど、大人になったら、時間を掛けてお互いの両親を説得していこう……そう2人の中で決めていた。それくらい俺達は真剣だった。
 そして、高校3年の半ば頃、幸せの絶頂期だった俺達は、同じ大学に進学して、一緒に下宿するという夢の計画を立てていた。
だけど――そんな時、秀利の父親が急に転勤する事が決まり、俺達は離れ離れになる事になってしまった。
 多くの恋人達に訪れる別れの危機は、俺達の間にも例外なくやって来た。

 離れてから、最初の2ヶ月位の間は、メールのやり取りや電話での会話が続いた。秀利が会いに来てくれたこともあった。
だけどその後、秀利の母親が体調を崩してからは、次第に連絡が取れなくなり、世間で言う『自然消滅』の状態になった。
 メールを送っても返事が来ない、電話をかけても繋がらない……最後のメールにはいつものように「愛してる」って言葉があったのに――そう思って悩み続けた俺は、女々しいようだけど……精神的に落ち込んでしまい、大学入試に失敗してしまった。


 ボンヤリと予備校に通っていたある日、智也にバッタリ出くわし、智也が小学校の先生になるために頑張っている話を聞いた。その時俺は、何をそんなにクヨクヨと考え込んでいたんだ?――と考えさせられた。
このままではいけないと思った俺は、勉強する事で、秀利の事を忘れようとした――そして俺は、翌年、2ランク上の大学に合格した。

 大学に入学した年の秋頃、初めて俺にも彼女が出来た。
同じクラスの子から告白されて、こういうのも大学生らしくて、良いんじゃないか? って思った俺は、その子と付き合いだした。だけど、いつまで経っても秀利を忘れられなかった俺は、結局、半年で彼女と別れる事になってしまった。


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あふれる想いを唄にして…121
「秀利が休みだって言うから、俺も……ってね」
「だけどさぁ……」
 秀利がちょっぴり困ったような顔をした。
「今、それ程忙しくないから休みをもらったんだよ。だから秀利は心配しなくても良いよ。それに……こうやってあわせて休みを取らないと、なかなか一緒に居る時間が持てないじゃないか。せっかく一緒になれたのに……」
 俺がそう言うと、秀利が嬉しそうな顔をしながら「それなら、いいけど――」って呟いた。

「だけど俺、まだ眠いから……」
 秀利がニッコリ笑って俺の頬にキスをした。
「良いよ。俺もこのメール読んでしまわないと――」
 秀利の唇に軽くキスを返してから、俺は再びノートパソコンの画面に視線を向けた。


 そう言えば俺は、後輩からの資料を読んでいる途中だったっけ――。

 朝食の後、「眠いから……」って言ってベッドに向かった秀利を見送り、俺は、食卓の上を片付けながら、急ぎの仕事があったかどうか考えてみた。
 今日中にやらないと困るものは無かったはずだと思い出し、急いでパソコンに向い、仕事の上司の一条さんに、休暇届をメールで送った。
すぐに返信された、一条さんからのメールには、休暇を許可してくれるという内容と「たまには、秀利君を連れて、遊びに来なさい」なんて追伸がついていた。一条さんは、40代半ばの仕事熱心な女性で、俺達の良い理解者でもあり、秀利の熱狂的なファンでもあるのだ。

 一条さんの許可も出た事だし――そのあと俺は、台所に戻って、のんびりと食事の後片付けをした。
 洗濯や掃除などの家事を終わらせてから、俺は寝室に行って秀利の寝顔を暫く眺めていた。長い睫毛が時々微かに揺れている。秀利は一体どんな夢を見ているんだろう――。 
秀利の寝顔を堪能した後、俺は部屋からノートパソコン持って来て、ベッド脇のサイドテーブルに置いた。
そして早速、職場の同僚から仕事関係のメールが来ていないかチェックする――数件のメールを流し読みし、その後、職場の後輩から来ていた、仕事についての質問のメールに目を通し、添付してあった資料を開いた。

 俺は、後輩の作った長くて要領を得ない資料を読んでいるうちに、段々意識が遠くなり、いつの間にかウトウトとして――。


 
 秀利と出会った日のこと、いつの間にか俺の神楽に対する気持ちが友情から恋に変わってしまっていたこと、神楽に対する想いを心に秘めたまま送った、仲間との楽しかった日々、そして、その秘めた想いが、ついに報われた日のこと……。

 色々な場面が目の前に浮かんでは消えて行った――。



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あふれる想いを唄にして…120
 頬に温かくて、柔らかい何かが触れた。も、もしかして、キス? 神楽が? 
 ――繋いだ手から、汗が一気に吹き出てくるようだった。

 俺が固まったまま動かないで居ると、その後、柔らかい感触が額や目の上に何度も触れてきた。
 マ、マジですか? 神楽ったら、凄く積極的なんだ? え〜、こういう場合、俺もキスしかえした方が良いんだろうなぁ――でも、俺、キスしたことなんて、あの、村上に強引にされた事しかないし、さり気なくチュッとかするキスなんて、欧米人じゃないから恥ずかしくて出来ないよ……って、さり気なく無いキスなんて、余計無理だけど……あ、それに、ココは外だし――

「なぁ、悟?」
 ちょっとちょっと、急に「悟」なんて、名前で呼んだりして……嬉しいけど、待ってくれよ、展開が早すぎるぞ――俺は、霞のかかった頭で色々なことを考えていた。

「さ・と・る?」
 神楽の声が耳元で聞こえた。耳に息がかかって、思わず声が出そうだった。――何だよ……ビビッてるのは俺だけか?……まぁ、神楽は色んな女と付き合ってたから、こういうシチュエーションには慣れてるのかもしれないけど……

「何だよ? 神楽……」 
 俺は動揺を隠しつつ、隣りに並んでいるはずの神楽を見た。
「何って……」
 神楽の呆れたような声が聞こえて来た。
「わ?! お前それ、どうしたんだよ……?」
 金色で長かった筈の神楽の髪は、両サイドが短く刈られた、茶髪になっていた。おまけに、ここは外なのに、神楽の奴、パジャマなんか着ている……さっきまでは学生服にジャケットをはおっていたよな――。

「何言ってんのさ?」 神楽が俺の頭をパコンと叩いた。
 俺は、寝ぼけた頭を振り、目を擦って、まわりをよく見回してみた。
……そうだ、ここは、俺達のうちだ。俺と神楽、2人の……

 目の前に開きっぱなしだったノートパソコンには、三毛猫が空を見上げている姿が映し出されていた。

「あ、いやさぁ、昔の事考えているうちに眠っちゃって……夢見てたみたいだな、俺」
 俺はポリポリと頭をかいた。
「ふーん。所で、お前は何で会社行ってないの?今日は休みじゃないだろ」
 神楽が……じゃない、秀利がちょっと責めるような視線を向けていた。
 『仕事はキチンとやろうな』っていうのが、一緒になった時の、俺達の約束だったから――。

 だけど俺、たまには、ゆっくり2人で過ごしたかったんだよ。


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あふれる想いを唄にして…119
 神楽に聞いたところによると、佐藤先生は神楽が小さい頃から習っていた、ピアノの先生の娘さんなのだそうだ。
おまけに、先生は神楽がボーカルをしているバンドのリーダーの従姉弟なんだって――。
 そのリーダーが先生の家に遊びに来ていた時、ちょうど、ピアノを習いに行っていた神楽にバッタリ出くわしたそうで……。辞めてしまったボーカリストの代わりを探していたリーダーは、一目で神楽に惚れ込み、それ以来、バンドのメンバーにならないか?って何度も声を掛けて来たのだそうだ。
 中学時代、女っぽいとからかわれたせいで、どちらかと言うと引っ込み思案になってしまった神楽は、自分を変えたいと思って、バンドに入ったんだそうだ。

 バンドの皆が実力のある人達だから、途中から入った神楽をどんどん引っ張っていってくれて、今ではチケットが売り切れる時あるくらい人気があるらしい。
神楽は謙遜していたけれど、俺はバンドの実力に加え、神楽のルックスの良さが、人気のポイントなんじゃないかと思う……。でも、その人気って……俺としては、かなり複雑なんだけど――。
 
 それから……俺が心配していた、神楽の憧れの人が佐藤先生じゃないかって事だけど―― 神楽が言うには、『佐藤先生は、本当はすっごい恐い人だから、惚れるなんて事、絶対にありえない』のだそうだ。
それを聞いて、すごくホッとしたんだけど――聞かないほうが良かった事実まで知ってしまってたような気がして、ちょっと複雑な気分だった。

「どんな風に恐いんだよ? 佐藤先生……」
「ん? それがさぁ、かなりのオカルト好きで――」
 今後の音楽の授業時間に気をつけようと思い、先生の怒るポイントとかを聞こうと思ったのに――神楽の答えにちょっと拍子抜けしてしまった。
「何だよ、そう言う意味の恐いなのか?」
 俺が不貞腐れたようにそう言ったら、
「まぁ、それだけじゃ無いんだけど……」
 と言って、神楽がクスッと笑った。
「教えろよ〜なぁ」
 もったいぶった様な言い方をされると、ますます気になるじゃないか――俺は神楽の腕を肘でグイグイと押した。

「俺はね、先生の話をしたいわけじゃないんだってば。俺達の話をしたいんだよ」
 神楽がそう言って、俺の肘をポンと叩いた。
そうだった……俺達にはまだ、話しをしないといけない事が沢山あるんだ――。


 出会った頃の話や正月の時の話などをしているうちに、ついさっきまで、明るかった空が、すっかり薄暗くなっていた。

「そろそろ帰ろうか」
 急に寒さを感じた俺は、横にいた神楽の手をそっと握ってそう言った。
「そうだな」
 神楽が俺の手をギュッと握り返し、俺の大好きな笑顔を見せてくれた。

 繋いだ手から熱が伝わり、ドキドキして、幸せで……寒さなんて、すぐに感じなくなった。


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あふれる想いを唄にして…118
それから、俺たちは色々な事を話した。お互いの気持ちをしっかり伝えられるように……そして……今までの、誤解を解く為に。

 1年の頃、神楽が次々と女の子と付き合っていたのは、自分の本当の気持ちを認めたくないという思いがあったからなんだそうだ――。
 神楽は中学時代、女の子のような顔のことを、クラスメイトにからかわれたり、男の先輩からしつこく迫られたりしていたそうで、そんな、男に迫られるような自分が許せなかったはずなのに、その自分が男の俺に惹かれているなんて事実、認めるのがイヤだったんだって。
「でも、誰と一緒に居ても、立木のことを考えてしまうんだ……」
 そんな、とても赤面せずには聞けないような神楽の告白が続いた。

「立木、確認しても良い?」
  『恋人として付き合おう』って言葉の後、神楽がそう言って真剣な表情を向けた。
「何だよ?」 そんなに色々言われたら、緊張が増すじゃないか……。
「立木は俺のどこが……その……好きなの?」
 神楽がまた恥ずかしそうな顔をした。
男らしく告白したり、可愛らしく照れたり……もう、俺はメロメロだよ――。

「どこって……一緒にいられると、気が楽だし、凄く幸せだな……って思えるんだよ。それでも妙にドキドキしたりとかするんだけど、あ、それが好きだって事なんだと思うんだ……それに……」
「それに?」
「初めて見たときに……すっごい好みのタイプだなって」
「……やっぱり……顔が好きとかいうやつ?」
 ちょっとガッカリしたような声を聞いて、俺は焦ってしまった。
「……確かにさ、顔もそうなんだけど、俺はとにかく神楽が好きなんだよ!」
 俺は恥ずかしさもあって、少しぶっきら棒な言い方をしてしまった。
「そっか……理由なんて、何でも良いや。立木が俺の事好きでいてくれて良かった。凄く嬉しいよ……。好きになってくれて、ありがとう」
 神楽が嬉しそうな声でそう言って、1人でクスクス笑い始めた。

「何だよ……笑ったりして」 
「はは。だってさ、嬉しいじゃん。初めての両想いだよ」
「え? ホントに?」
 島崎に告白してOKもらったじゃないか。あれも両想いって言うんだろ?――って思わず言いそうになったけど、そのことだって、俺が原因なんだもんな……何か、ホントに夢みたいだ。
「うん、ホント。すっごく回り道しちゃったな」
 そう言ってから神楽が、隣に座っている俺の体にソッと寄りかかってきた。その瞬間、俺の心臓がドクンと跳ねた。

「あ、そ、そうだ。あのさ……気になっていた事があるんだけど」
 俺はドキドキを隠すためと、それから、モヤモヤする最後の問題を解決するために、神楽に聞いてみようと思った。
「何? 気になってるって」
「あのさ……ライブの日に、佐藤先生が居たよね?」
 俺が1番気になっていたこと。神楽と佐藤先生の関係――。 


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