−甘嘘別館−  
♪ハッピーエンドのBL小説を連載します♪

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Author:りょう
BL小説を書いてます。
よろしくお願いします☆
別館では18禁小説は連載しません。
本館へ行かれたい方は、コメント等でお問い合わせ下さい。
(メールアドレスをお忘れなく…)

☆おことわり☆ 
「出会わなければ」には、実在のバンド、メンバーと似た人物が出てきますが、実在の人物とは一切関係ありません。

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あふれる想いを唄にして…117
「そんなことないって」
 神楽ばかりに言わせていてはいけない。さあ、言わなくちゃ。俺だって――。
「そっか。それなら、いいや。ありがとな……」
 神楽がホッと溜息をついてから「良かった」って呟いた。

「あのな、神楽……」
「待った。先に言わせて」
 自分の気持ちを言おうとすると、神楽が俺の言葉を止めた。
「え……あぁ」
「俺が島崎と付き合った理由って、多分、ただの横恋慕。島崎にお前を取られたくなかったから」
「そんなの……あいつはホントに友達としか思えないよ」
「だって、お前と島崎ってすごい仲が良いんだもん。一緒に居る雰囲気も凄く良かったし」
「……イヤ、別に」
 俺は何て答えて良いか困ってしまった。神楽が俺を島崎に取られたくないって思っていたなんて――マジ? これって夢? 

「島崎って付き合っててすごく楽しかった。他の女の子達みたいに俺の事束縛しようとしないし。だから、このままでも良いのかな?って思ってた。だけど……あの日、お前が村上に迫られてるの見た後、俺、すごく落ち込んじゃって……そしたら、島崎にバレちゃった。俺の本当の気持ち」
「島崎に?」
「そう。彼女はすごい大人だよ。『友達に戻ろう』って言ってくれて。相談にも乗ってくれた。『いつまでも嘘ついていたら、自分が辛くなるよ』って。だから……立木にちゃんと告白して、自分の気持ちに踏ん切りをつけようと思っていたんだ――昨日は失敗したけど。だけど、今日はもう大丈夫」
 神楽がもう一度深呼吸をした。
「立木、友達でも良いんだ……だけど、俺の気持ちは、それ以上だって、伝えたかった。例え、立木が島崎を――」
「ちょ、ちょっと待ってよ、神楽。あのな、俺、ちゃんと言わなきゃいけない事があるんだ」
 恥ずかしくなるような、くすぐったいような、神楽の熱い告白を途中で止めた。もう、充分過ぎる――早く俺も言わなくちゃ。
「やっぱり、ダメだ……立木。俺、決定的な言葉は、聞きたくないや。聞いてくれてありがとう。明日からもよろしくな」
 神楽が立ち上がって、鞄を持った。
「待てよ!」
 俺は神楽の手をグッと掴んだ。
「……」
「ちゃんと聞いてよ、神楽。俺もお前のことが好きなんだよ」
「……友達として……?」
「違う。それ以上……えっと、すっげー好き」
「マジ?」
「うん。マジ」
 そう答えて笑いかけると、神楽の色白の頬が、真っ赤に染まっていった。


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あふれる想いを唄にして…116
 鞄を肩にかけると、神楽の待っている河原に向かって歩き始めた。

 横断歩道を渡れば、すぐに神楽の居る場所に着いてしまう――俺は、急に緊張して、手が震えそうだ。

 河原に着くと、昨日と同じ場所に座っている神楽の後姿が見えた。
「お待たせ――」
 俺は大きく深呼吸をしてから、神楽の隣に座った。
「来てくれて、ありがとな」
 神楽の済まなそうな声が小さく聞こえて来た。
「来るに決まってるだろ?」
 約束していたんだから、来ないわけ無いじゃないか――俺は思わずムキになって言い返しそうになってしまう・・・。

「あのな、話す前に、ひとつ頼みがあるんだ」
 そう言いながら、神楽が落ち着きなく石段の横にある枯草を指で弄った。
「何?」
「今から俺が話すことを聞いても、友達やめないで欲しいんだけど……」
 神楽の方に視線を向けると、神楽が困ったような顔をしながら顔を下げた。
「やめるわけないだろ?」
 そうだよ! 俺は、神楽がどんな事実を教えてくれたとしても、友達として力になってやろうって、昨日決心したんだ――ただ、どうやら、俺の考えいてた内容とは、かなり違う展開になっているみたいだけど……。

「そっか。良かった」
 神楽が顔を上げ、安心したように微笑んだ。
「それで? 話は何?」
 その時、散歩中の犬が、急に俺達の方に近寄って来た。神楽が背中を撫ぜると、犬は嬉しそうに尻尾を振ってから、飼い主の方に戻っていった。
「カワイイな……」
 神楽がそう呟いたけれど、俺的には、犬より神楽の方が数倍カワイイって思った。

「もう1つ、聞いておきたいんだ。立木は、島崎のこと好きなの? 本当の事言ってくれよ」
 犬の姿を目で追いながら、神楽が言った。
「あのな、正月の時にも言ったけど、本当に、島崎の事は、クラスメイトとしか思ってないって」
 俺がそう答えたら、神楽が小さく溜息をついた。
「そっか……わかった」
 しばらく黙っていた神楽が、俺の方に体を向けた。目と目が合って、俺は急に、居た堪れないような気持ちになっていた。
「あのな、立木」
 俺の目を見つめたまま、神楽が決心したように言った。
「うん……何だよ?」
「……俺が好きな人って、佐藤先生じゃないよ。立木、お前だよ」
「……」
 暫く時間がとまった――。

 授業中に一生懸命考えて、もしかしたら……って淡い期待をしていたけど、真実を告げられた途端、俺は恥ずかしくなって、視線を下げた。
「ごめんな、立木……気持ち悪いだろ?」
 自嘲気味の声が聞こえて、苦しくなる。 


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あふれる想いを唄にして…115
 部活が終わったら、河原に行くことを約束すると、2人で教室に戻った。

 教室のドアを開けた途端、クラスの皆に注目されたように感じた。だけど俺は、神楽の事が気になっていて、皆の視線なんてどうでも良いって思っていた。

「俺の好きな相手って、誰だと思ってる?」
 神楽は確かにそう聞いた。それで俺は、「佐藤先生だろ」って答えて……そうしたら、あいつが急に笑い出した――それって、どういう事だ? 苦しいほどに想っている相手の名前を聞いて笑い出すか?

 俺は、5時間目の英語の授業中、英文の意味を考えるかわりに、神楽が言っていた事の意味を考えるのに必死になっていた。
 ライブハウスで聴いた、苦しくなるような神楽の胸のうち、相手が、佐藤先生じゃなかったら、一体誰?
 授業の内容も聞こえないほど真剣に考えていると、急に隣りの奴が席を立った。そろそろ順番が回って来るかもしれない――俺は、先生が後ろを向いている間に、隣の奴にどこをやっているのかを確認しておいた。


「お前が俺を振ったって話したんだろ?」
  あれ? 待てよ……神楽は、確かにそう言っていたはず――結局、授業の間、和訳の順番は回って来なくて、ホッとした瞬間、俺は、神楽の言っていた大事な言葉を思い出した。
ちょっと……それって? 俺は、だんだん頬が熱くなるのを感じた。


 そして、放課後。部活は、ミーティングだけだったので、1時間もしないで終わりになってしまった。

「なぁ、何か食ってこうぜ?」
 部活の後、神楽にメールしようとしていると、智也がそう声を掛けてきた。
「あー、悪いけど、ちょっと用事あるから」
 俺は、メールを打ちながら答えた。
「ふーん。なぁ、お前、島崎と付き合うの?」
 そう言いながら、智也が後から俺の携帯を覗き込もうとした。
「え?」
 俺は、慌てて携帯を智也の視界から隠した。

「今日、お前と神楽、何か変だったし、それに、昼に村上に連れてかれてたじゃん。皆に聞かれるとマズイ話しでもしたのかな――ってさ」
 俺と神楽の微妙な雰囲気に気が付いたのって村上だけじゃなかったんだ?
「……違う。島崎の事は、別に好きじゃない」
 俺の言葉を聞いて、智也が驚いたような顔をした。
「何だ。じゃあ、村上の言ってた事が、本当だったのか……」
 そう呟くと、智也が俺の背中をポンポンと叩いた。
「何の事だよ?」
「まぁ、俺は何があっても、お前らの友達でいるからな」
 そう言い残すと、智也は、妙なを歌いながら帰っていった。

 智也の言葉に、すっかり脱力してしまった俺は、メールを打つのをやめ、電話をかけた。
「今から行く」  


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あふれる想いを唄にして…114
 村上に連れてこられたのは、人が滅多に来ない、屋上に通じる階段の踊り場だった。

「神楽、立木とちゃんと話し合え。こいつ、相当鈍いから、わかるように話をしないとダメだぞ」
 村上は俺と神楽に向かってそう言い残すと、サッサと階段を下りて行ってしまった。
「何だよ――村上の奴」
 俺と神楽が、殆ど同時に呟いた。

「何か……ごめんな。あいつと話してたら、急に立ち上がって神楽を連れに行ってさ――」
 俺が謝るのも変な感じがしたんだけど――。
「何の話をしていたんだよ?」
 神楽が俺を見て、不機嫌そうな顔をした。
「……村上に、俺とお前がケンカしてるんじゃないか? って聞かれたから、ケンカじゃないって言った。そしたら、理由は何だよ? って言われて――」
 ますます表情を硬くしていく神楽を見ているうちに、すっごく焦ってしまい、俺は上手く言葉が続けられなかった。

「お前が俺を振ったって話したんだろ?」
 舌打ちの後、神楽がそう呟いた。
「はぁ?」
 神楽の言葉を聞いて、俺は、間抜けな声を出してしまった。
――オマエガオレヲフッタ――? 俺が神楽をフル?

「……もしかして、わかってなかったのか……」
 神楽がそう言ってから、小さく溜息をついた。
「だから、何が? って言うか、俺、お前の話をもう一度ちゃんと聞かないといけないって思っていたんだ。友達として、お前を応援するって言わないといけないって――」
 俺は、やっと昨日の話の続きが出来ると思い、勢い良くそう言った。
「ちょっと、待って、立木」
 神楽の硬かった表情が、ホンノ少し柔らかくなった。
「何?」
「1つ聞きたいんだけど、俺の好きな相手って、誰だと思ってる?」
 そんなこと聞くのか?
「佐藤先生……なんだろ?」
 神楽の表情を伺いながらそう言うと、神楽は俺を見て、固かった表情を緩め笑い出した。
「何だ……そうだったのか。やっぱり立木だよね……」

「ちょっと、それ何だよ? 俺はお前の友達で居たいって思ったから、必死に色々考えて――」
 俺は、笑ってる神楽に向かって口を尖らせながら抗議をした。
「友達……か」
 笑っていた神楽の顔が、再び微妙に変化した。

 神楽は急に立ち上がり、屋上へ抜けるドアのガラス窓から外を眺めた。階段の下のほうからは、昼休みの喧騒が聞こえていた。
 俺は、どうしていいのか分からず、しばらく階段に座ったまま、神楽の後姿を見つめていた。

「なぁ、立木、今日の放課後、もう一度話をしよう。ここじゃ、落ち着いて話せないから。いいだろ?」
 窓の外を見つめたまま、神楽が言った。
「……いいけど」

 神楽が何を考えているのか、わからなかった。だけど、とにかく、もう一度最初から話をした方が良さそうだ。だって、俺の頭は、今の状況をちっとも把握することが出来ていないようだ――。


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あふれる想いを唄にして…113
「何だよ、お前らってどうしてそうなんだろうなぁ」
「なにがだよ?」
 村上の言い方が気に食わなくて、ムッとしながら言った。
「女の子達の噂だと、『立木が、島崎のこと好きなんだ、って話を聞いた神楽が、お前のために身を引いた』みたいな話になってるらしいけど……」
 村上の言葉に微妙に動揺してしまう……正月の事を考えると、そうかもしれないとは思ったよ―――でも違うんだ。
「……俺、島崎のことなんて――」
 神楽は、佐藤先生の事が諦めきれなくて、島崎と別れたんじゃないかと思う。それで、あらためて、先生に告白することにしたんだろうって――だけど、そんな事、俺の口から言えるわけないじゃないか。

「わかってるよ。お前が島崎のこと別に好きじゃないって事。それから――」
「それから?」
 俺は村上が、何を知っているのか聞くのが不安だった。
「あいつ、ホントは好きな奴が他にいるからなんだろうな。島崎と別れたの」
 その言驚いて、俺は村上の顔を凝視した。
「ちょっと待てよ。村上、お前も知ってるのか?」
 俺がそう言うと、村上が驚いたような顔をした。
「何だ……立木もわかってたんだ? じゃあ、なんで神楽が落ち込んでんだよ? ってもしかして、お前のせいなのかな」
「イテ!」

 村上がニヤッと笑って、俺の額に思いっきりデコピンをした。
「なぁ、お前、神楽の好きな奴って誰だと思ってるんだよ?」
 呆れたような顔をした村上が、俺を見てそう言った。
「え? それは、ちょっと言えない」
 言えるわけ無いじゃないか――佐藤先生だなんて……。
「どうして?」
 なぜか村上がイライラしたように言い捨てた。
「イヤ、だって、相手の立場もある事だし……」
「……相手って、お前じゃないのかヨ……」
 眉間にシワを寄せた後、脱力したように、村上が小さな声で呟いた。
「え? 何だよ?」
 村上が何の事を言っているのかわからず、俺は聞き返した。
「まぁ、良いや。立木、その好きな相手の事って、ちゃんと神楽から聞いた話なのか?」
「ちゃんとって言うか、見ててそう思ったって言うか」
 俺がそう言うと、村上がガックリと項垂れた。
「まだ、昼休みたっぷり残ってるよな」
 そう言った途端、村上が急に立ち上がって、神楽の方に歩いていった。
そして、そのまま嫌がっている神楽を引っ張って、俺の所に戻って来ると、俺の腕を掴んで顔をクイッと動かし、俺に立つように促した。
「……何だよ?」
「良いから、付いて来いよ」
 右手に神楽の腕、左手に俺の腕をつかんで、村上は、どんどん歩いていった。 113


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あふれる想いを唄にして・・・112
 夜ベッドに入って、今日の事を考えていた。
『明日になったら、普通に出来ると思うから――』
 神楽はそう言ったけど、俺は、明日から、普通に友達やっていられるのだろうか? 
 考えてみたら、せっかく神楽が俺に、バンドの事を教えてくれたり、恋愛相談をしようとしたり――今まで以上に友達として歩み寄ってくれたっていうのに……俺ったら、いきなり、あいつの事、拒絶するような事を言ってしまって――。これでは、友達でいる事まで難しくなってしまいそうじゃないか?
 明日、もう一度、神楽と話を聞いてみようか? そうだよ……うやむやのままでは、いけないんだ。神楽はきっと、俺に聞いて欲しくて、そして、認めて欲しいって思って、話してくれたんだろうから。

 その後俺は、神楽がどんな話をしてくるかを想像し、それに対して、どう答えるか作戦を考えた。今日のような事にならないように――。
 でも、どうやったら、今日の話の続きをする事が出来るのだろう? ベッドに戻って考えてみた。俺から今日の話を振ったら、嫌な顔されるような気がする……どうやって話をしよう? どうやって――考えているうちに、疲れた脳みそが俺を眠りに引き込んでいった。



 翌日、自分としては、普通にしていたつもりなのだけど、教室で皆と居ても、神楽とはイマイチ上手く会話出来ないでいた。
――やっぱり昨日、引き止めてでも、ちゃんと話をすれば良かった……。
だけど、あの時の俺が神楽の話を聞いたとしても、上手く言葉を返せなかっただろう――。

 そして、その日の昼休み。皆と一緒に居ても息苦しくてしょうがなかった俺は、昼飯の後、「昼寝する」と言って、自分の席に突っ伏して寝た振りをしていた。
「腹でも痛いのかよ?」 急に頭の上から声がした。
 誰だよ――って思い顔を上げると、俺の席の前には村上が座って、こちらを向いていた。
「いや、別に。眠いだけだし」
 俺は何食わぬ顔をしてそう言ったんだけど、村上は納得していないようだった。
「なぁ、ケンカでもしたのか? 神楽と……」
 村上が顔を近づけ、声を潜めて言った。
「え、いや、別に――」
 村上の問いに、俺は妙に動揺してしまった。動揺している俺を見て、村上の頬が微かに緩んだ。
「でも、何か変だぜ? お前と神楽」
「いや、違うんだけど――」
 俺は村上の視線を避けながら、そう言った。

 ケンカの方が、まだ良いのかもしれない。「ごめん」って言えば、とりあえず仲直りが出来るだろうから。

「ふーん……。なぁ、聞きたいことあんだけど」
「ん? 何だよ」
「お前って、神楽が島崎と別れた理由知ってんの?」
「……うーん? 良くわからない」
 やっぱり「立木のせいなんだぜ」って言われるんだろうか――。


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あふれる想いを唄にして…111
「――所で、話って?」
 これ以上嫌な気持ちが長引かないように、早めに話を済ませようと思った。
「あのさ、昨日、俺の唄聴いてくれただろ?」
 聴いたよ……朝、ちゃんと感想を言ったじゃないか――そう思ったのだけれど、「すごく良かったよ」 って朝と同じように答えた。すると、神楽は俺を見て、恥ずかしそうに微笑んだ――。

「有り難う。あのさ、それで……最後の曲はどうだった?」
 その瞬間、佐藤先生の顔が浮かんで、俺は自分でも表情が固くなったのがわかった。
「いい曲だったよ。すごいよ神楽。お前が作ったんだって?」
「うん、そうなんだ」 神楽が小さな声で答えた。
「あれって、もしかして、自分の気持ちだったりする?」
 俺がそう聞くと、神楽が急に俯き、フウっと小さく溜息をついた。
「……実はそう」
 神楽が俯いたままボソッと答えた。俺は、しばらく、何も言え無かった。

「立木はどう思う? 俺が、ああいう気持ちでいるっていうの……」
 神楽が探るように聞いてきた。神楽が俺の言葉を待っている。俺を信用してくれているから、話してくれているんだ。
――俺は「友達として、協力するよ」って言葉を言おうと思った。だけど、口をついて出てきたのは、思っていたのと全然違う言葉だった。

「……ごめん俺さ、そういうの、何て言ったら良いのかな? いくらお前が――その……」

 自分でも焦ってしまった。本心を全部言ってしまいそうだった――いくらお前が先生を好きだって言っても、やっぱそう言うの、どう考えて良いのかよく分からないよ。俺に聞かないでくれ――って。
 でも、俺が一瞬言葉を濁した瞬間、神楽が呟くように言った。
「そっか。……良いんだ。覚悟していたから……」寂しそうな声だった。

 神楽の悲しそうな声を聞いた瞬間、俺は後悔した。あんなに心の中で練習していたのに、全然言えてないじゃないか!

 深呼吸をして気を取り直し、「応援するから」って言葉を言おうと思った時、神楽が急に立ち上り、俺の正面に立ち頭を下げた。
「やっぱ……そうだよな。ごめん、忘れてくれる? 俺、明日になったら、普通に出来ると思うから。ごめん……今日は、ダメだ……今にも泣き出しそうな顔だった。
 神楽はパッと身体の向きを変えると、俺を残して走り去ってしまった。俺は引き止める事も、追いかけることも出来なかった。
 あいつの笑顔が好きなのに……あいつを悲しませてしまった……。だけど、俺は、自分の気持ちを誤魔化す事が出来なかったんだ。

 俺はその場に座ったまま、暗くなっていく空を見上げていた。去り際のあいつの悲しそうな顔を思い出し、とても後悔した。

 ――ごめん……友達らしい言葉も言えなくて――


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あふれる想いを唄にして・・・110
 昨日の化粧をした神楽も綺麗だったけど、素顔の方が俺は好きだ――そんな風に考えていると、神楽が俺の熱い視線に気づいて首を傾げた。
「や、別に……」
 俺は、慌てて視線をそらした。

 それから、神楽が昨日のライブの話を少し興奮気味に話していた。俺は、珍しく熱くなっている神楽を見て、少し不思議な気分になっていた――別世界に居る神楽……そんな感じがしてならない。

「あのさ、立木、今日の帰りにでも、ちょっと話がしたいんだけど……」
 昨日のライブの話が終わった後、神楽が急に表情を硬くして、俺を見た。
「え? あぁ。えっと、バスケ終わってからになるけど、いい?」
 ヤバイ、胸がドキドキする。もしかしたら、俺の聞きたくない話を聞かされるんじゃないだろうか――出来る事なら、俺には相談したり、話したりしないでくれると良いんだけど……今までの彼女達の話と同じように――。
「良いよ。じゃあバスケ終わったらケータイして。どっかで時間つぶしてるから」
 神楽が緊張したような表情を、俺の大好きな笑顔に変えた。
「わかった」

 その日、俺は神楽の「話」が気になってしまい、勉強の内容も、智也達との会話の内容も、殆ど頭に入らないでいた。
 そんな複雑な思いでいる俺とは対照的に、今日の神楽は、いつもよりも楽しそうに智也達と話をしていた。きっと、良い事があったんだ――。
 昨日、神楽は佐藤先生に気持ちを伝えたのかもしれない。それで2人は晴れて恋人同士になれたとか――? 
 もし、今日の神楽の話が、佐藤先生の事だとしたら、俺は、言えるだろうか?「友達として、何でも協力するよ」というセリフを……。
 心の中で何度も練習してみる。「友達として……友達として……」


 俺は授業の後、いつものように部活に出た。だけど、この後神楽と会う事が気になってしまい、ミスばかり繰り返してしまった。昨日あれだけ決心したのに、やっぱり気持ちが揺れてしまう。

 部活が終わってから、俺はドンヨリした気持ちのまま神楽に携帯を掛けた。
神楽が、やけに緊張したような声で「学校近くの河原の土手で待ってる」と言った。その声を聞いたら、俺の緊張感もますます高まってしまった――。
 寒い中、これ以上待たせたら悪いと思い、走って待ち合わせ場所に行くと、薄暗い土手の階段に、神楽がポツンと1人で座っていた。
 俺は1度立ち止まり、深呼吸してから神楽の側に行った。

「遅くなってごめん。寒かったろ?」 俺は神楽の横に座った。
「大丈夫だよ。ずっと居たわけじゃないから」 神楽が笑顔を向けた。
「そっか。どこか行ってた?」
「ん? ちょっと……ピアノの練習してた」

――ピアノの練習……――
 聞かなければ良かった。きっと、また、音楽室に行っていたんだ。
……佐藤先生に会いに……


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あふれる想いを唄にして・・・109
 トンカツにラップを掛け直し、再び冷蔵庫に戻すと、風呂場に向かった。

 バカだよな俺。また、失恋気分で食欲無くなったなんて、ホント情けない……。どんなにあいつの事を思っていても、結局、俺は友達以上になれないんだから、誰があいつの彼女になっても同じ事なのに――。何度考えても、堂々巡りを繰り返すだけだった。
そして、結局、出てくる答えは同じ。俺は友達として神楽の側にいる――それしかないじゃないか。
もし、恋人同士になったとしても、俺らの年齢ではそんなに長く付き合いが続くとは思えない。恋人として付き合ったとしたら――別れてしまった後には、友達にも戻れない可能性がある。そんな、先の長くない『恋人』という位置に憧れるなんて、バカな事なのかもしれない。ずっと、あいつの側に居るには、『友達』でいるのが一番確実なんだ。
 こんなモヤモヤした気持ち、早く振り払ってしまおう。俺も早く将来の夢を見つけなくては――。



 翌日、まだ完全には、落ち込みから回復していなかったけれど、自分のあるべき位置を再確信して、少しは気持ちが落ち着いたような感じだった。
 あぁ、そういえば今日、神楽に会ったら何て言おう――まずは、バンドの事を誉めるべきだろう。でも、出来れば会いたくないかも……。なんて、同じクラスなんだから、そんなの無理な話なんだけど……。

 ウダウダ考えながら教室に入り、自分の席の方を見ると、そこには、何と……神楽が座っていた。
「おはよ、立木」
 いつも始業のチャイムが鳴る頃に来るのに、今日に限ってやけに早いじゃないか? それも俺の席にいるなんて――。
「よ、神楽。早いじゃん?」動揺を悟られませんように……。
 神楽の視線を避け、教室の後ろの方に目をやると、智也と陽子が楽しそうに話している姿が視界に入った。……ったく、良いよなぁ。悩みの無い奴は――俺は心の中で智也に悪態を吐いた。

「早く話がしたくてさ」
 智也の方をボンヤリ見ていると、神楽の声が耳に入って来た。
「え……」
 多分昨日の話だとは思うのに――妙にドキドキして仕方が無かった。
「なぁ、立木、昨日のどうだった?」 
 神楽が俺を見つめ、微かに頬を赤くしながら聞いた。
 ――あぁ、ダメだ。やっぱり好きだ……ちくしょー。

「すっげーかっこ良かった。歌もメチャメチャ上手いし。びっくりしたよ」
 前の席の椅子を引っ張り出し、座りながら答えた――。
「ホントに? 立木にそう言ってもらえると、すっげー嬉しい」
 神楽が俺を見つめたままニコニコ笑っている。俺は思わずその笑顔をジーッと見つめてしまった。


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あふれる想いを唄にして・・・108
 学校の音楽室……佐藤先生に向けた、恥ずかしそうな笑顔、先生の神楽を見る優しい視線……思い出したら、急に胸が苦しくなった。

 歌が終わると、神楽が俺に視線を送り、ニッコリと微笑んだ。その微笑は、何を伝えてるんだろう? 

 神楽のバンドの演奏が終わると、メンバー全員が中央に集まり、会場に向かってお辞儀をした。女の子達の声援が一層激しくなった。そして、メンバーが客席に向かって手を振りながらステージの袖に戻っていった。
 神楽を追って視線を、ステージの袖に移すと、そこには、どこかで見たことのある女性が立っていた。優しそうな笑顔が華のように鮮やかだ……。
 その女性が、ステージから戻っていったサファイアのメンバー1人1人に、声を掛けていた。みんな、その女性に、零れるような笑顔を向けていた。
それから、最後に神楽が微笑み掛けると、彼女は神楽の肩を軽く抱きしめながら、優しく頭を撫ぜていた。
「佐藤先生……」俺は呟いた。
 いつもの清楚な感じとは少し違っていたけれど、あの女性は音楽の佐藤先生だ――。


 神楽のバンドの後、しばらくして、他のバンドが演奏を始めた。
 でも、俺の頭の中は、佐藤先生に肩を抱かれながら、嬉しそうな笑顔を向けていた神楽の事で一杯だった。
 2つ目のバンドの演奏が、いつ終わったのかもよく分からない。
急に音楽が聞こえなくなり、客席が明るくなった。席を立って会場を出て行く人も居たので、俺はその人たちについて、店を出る事にした。


 そして、放心状態のまま1人で電車に乗り家に帰える――。
 あの曲は、佐藤先生の事を思って作った曲なのかもしれない。佐藤先生の神楽を見つめる優しい微笑みを思い出し、悲しくなった。先生も、神楽の気持ちに気がついている……。神楽の気持ちを受け入れているんだ。後は、あいつがちゃんと先生に気持ちを伝えれば、2人はきっと上手く行く――。
 前に俺は、あいつに「力になってやる」と言った事があった。でも今は、そんな事、嘘でも言いたくない気分だった。俺って、そんなにバカみたいにあいつに惚れてたんだ。そう思ったら、ますます虚しくなった。
将来の夢も何も無い自分が、惨めに思えてしまった。

 家に帰ると、急に腹が減った気がした。昼飯を食べてから、ずっと何も口に入れていなかったのだ。冷蔵庫を開け、食べ物の物色を始めた。
 食事をしてくるつもりだって言っておいたのに、ちゃんと俺の分のおかずがラップして入れてあった。
多分、明日の朝、俺に食べさせるつもりなんだろうけど、朝から、こんなの食べたくないよな――そんな事を考えながら、冷たくなったトンカツと付け合せのキャベツにソースをかけ、箸でトンカツを一切れつまみ、口に運んだ。
 空腹なはずなのに、美味しいとも何とも感じない。腹が減ったと思ったけど、身体が食べる事を拒絶した。――まただ――。   


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あふれる想いを唄にして・・・107
「それじゃ、準備があるから…」
「あぁ」
「それから……一緒に帰れないと思うんだ。ゴメンな」
「……わかったよ」
 放心状態で答えている俺に、神楽が柔らかく微笑んだ。俺はその綺麗な笑顔にしばらく見とれていた。

 神楽がステージの袖に戻って行くと、さっきの女の子達が、神楽の背中を目で追いながら、興奮したように騒いでいた。
 俺は自分の席に座ったまま、今、目の前に起きた事が、夢だったんじゃないか? って思っていた。あれが神楽だったなんて――。


 やがて会場が暗くなり、ステージを照らすライトが一気に明るくなった。そして、神楽達のバンドのメンバーがステージに入って来る――。
 ステージ中央に立った神楽がマイクスタンドに手を掛けると、会場のあちこちから声援が聞こえて来た。
「こんばんは、サファイアです。今日はみんな、来てくれてどうもありがとう。これから4つのバンドが次々に出てくるけど、最後まで聴いて行ってくれると、とっても嬉しいです」甘くて優しい口調の神楽の言葉に、会場の女の子達が「ハーイ」って返事をした。俺は彼女達にちょっぴり嫉妬してしまった。

 そして、ドラム、ベース、ギターの順に演奏が始まり、最後に神楽の歌声が加わって1つの音楽になった。すごい、神楽の声じゃないみたいだ――。
 曲調によって変わる神楽の歌声を聴いているうちに、まったくの素人で、音楽にも詳しくない俺が言うのも変だけど……きっといつかは……いや、今だって充分プロとして通用するんじゃないだろうか?って思っていた。
 プロになって、女の子のファンがいっぱいふえたら、ますます遠い人になってしまいそうだけど――。

 4曲くらい終わっただろうか。次に始まったアップテンポな曲で、神楽が歌いながらステージの上を走り回りだした。
 学校では見ることの出来ないような、ハジケタ感じの神楽を目の当たりにして、メチャメチャ眩しいって思った。


「どうもありがとう。すっごく気持ちよく歌えました。で、次が最後の曲です。これは、俺が初めて作った曲……。聴いてください――Realize――」
 アコースティックギターの優しい音色に乗って、神楽の甘い歌声が聞こえてきた。胸に秘めた想いを歌い上げる神楽を見て、胸がドキドキした。

 『心に隠してある あなたへの想い
   あふれそうな時は ピアノに寄り添い
   そっと口に出してみる 誰よりも側にいて』

 その唄を聞いているうちに、神楽が前に言っていた、気持ちを伝えられない相手っていうのを思い出した。
 俺と同じなんだ……。
神楽の好きな相手も、気持ちを伝える事によって、その関係が保てなくなるような、そんな相手。
でも、歌詞が神楽自身の気持ちなのか、ただ歌う為にだけ作ったものなのか、俺には分からない。だけど、唄の内容を噛み締めているうちに、放課後、ピアノの前に座って、悲しげな顔で歌っていた神楽の姿を思い出してしまった。  


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あふれる想いを唄にして・・・106
 そうだよ……だから、あいつ、あんな髪の色にしてたんだ? ロックバンドに憧れているのかもしれない。
あいつが初めて、自分の事を教えてくれたような気がして、俺は嬉しかった。
やっと少し、あいつの世界が見えてきたような気がする……。

 視線を前に戻すと、さっきまで色々な人がウロウロしていたステージから人影が消えていた。無人になったステージをボンヤリ眺めていると、端の方から誰かがステージの上にあがってきた。多分、このステージで演奏する奴だろう。キレイに化粧をしていて、金色の髪をツンツンと立ち上がらせ、いかにも……って格好をしていた。

「シュウ! こっちに来て!」
 突然、会場にいた女の子が、そいつに向かって声をかけた。
シュウと呼ばれた奴は、女の子の方を見て、ニッコリと微笑みかけ、手を振った。
まだ、人も疎らな会場内から女の子達の、キャーキャー騒ぐ声が聞こえてきた。
――俺の知らない世界だよな――って思いながら、シュウを見ていたら、シュウは、段々と俺の近くに寄って来て、何故か俺の前まで来て立ち止まってしまった。

「来てくれてありがとう」
 シュウが俺を見つめていた。
「え?」
 シュウを見つめ返した。
 キレイな目をしている。俺の知っているあいつも、澄んだ目をしてるんだ…。
「お、おまえ……まさか、神楽?」
 あまりにも驚いて、ちょっとひっくり返った声を出してしまった。
「そう、俺神楽。実は俺、今日ここで歌うんだ。一番初めのバンド」
「そ、そうなんだ」

 目の前に居る神楽が、まるで夢の中の映像のように思えてしまった。
 そう言えばずっと前、将来アーチストになりたいとか言ってた事があったような気がする。それって、こういう事だったんだ。

「すげーびっくりした」
 ホント、それしか言うこと無いって感じだ。
「ビックリさせてごめん。やっと立木に見せられる位になったから」
 もしかしてそれって、俺の事を一番の友達だって思ってくれているって感じ? 何だか、やっぱ嬉しいかも……。
「そっか……」
「ごめんな、ちゃんと言わないで。ちょっと恥ずかしくてさ……。でも、お前には知っておいてもらいたかったから」
 そう言って微笑んだ神楽が、眩しくて、俺は思わず目を細めた。
「……」

 秘密にしていことを、教えてくれた事については、すごく嬉しかった。だけど、神楽との間に見えない距離を感じて、今までとは違う寂しさを覚えてしまう。
俺なんて、まだ、将来何になるか考えてもいないのに、神楽は、夢に向かって走り始めている。ホント、俺は一体何をやってるんだろう?


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あふれる想いを唄にして・・・105
 俺が神楽からチケットを受け取っていると、ちょうど教室から出てきた数人の女子が俺を見て何か言っているような気がした。
今年に入ってから、女子の視線が気になってしまうのは、冬休み中に村上から、俺が女にモテてる――なんて話を聞いたせいかもしれない。


 翌日の夜、少し緊張しながら待っていると、10時過ぎくらいに神楽から電話が来た。
「あのさ、俺、ライブの前に、ちょっと用事すませたいから、店で待ち合わせで良い?」
 神楽が遠慮がちに聞いてきた。
「え……良いけど」
「サンキュ。それでさ、もしかしたら少し遅れるかも知れないから、店の中に入って待っててくれる? 昨日渡したチケット見せれば、並ばないで先に入れるようになってるから」
「え? 俺1人で入るの?」
 てっきり店の前で待ち合わせだと思って、軽くOKしてしまった事を少し後悔した。
「大丈夫だよ。立木、大人っぽいから」
 神楽が柔らかい声でそう言った。
 いや、そう言うことじゃなくて――って言いたかったのだが、今さら、不安だから神楽が来るまで待っているなんて言えなくなってしまった。

「わかったよ」
「じゃあ、明日」
 神楽の声が、少し緊張しているような感じがした。
「じゃ……」


 日曜日の夕方、目的の駅で電車を降り、駅から出ると、地図を見てからライブハウスへ向かった。
 迷うかもしれないと思い、早めに出たのだが、比較的分かりやすい所だったので、迷わずに目的の場所に着いてしまった。

 地下にある店に向かう階段には、派手な格好をした人達が既に列を作っていた。俺はちょっと気後れしてしまったのだけど、その時ちょうど、人を整列させている係員が来たので、チケットを見せて入れるのかどうか聞いてみた。神楽は先に入れると言ってたけど……。係員の格好にも圧倒されていると、その人は、見た目とは違う丁寧な態度で、席まで案内してくれた。
 
 席に着くと、初めて入った「ライブハウス」の雰囲気にドキドキし始めた。
目の前のステージには、色々な楽器やスピーカーが並んでいて、そのステージのすぐ前から、椅子がたくさん並べられていた……。
 最初、俺の周りには誰も人が居なくて、1人で居た堪れないような気分だったけれど、しばらくすると疎らに人が入り始めたので、やっと気分的に落ち着いてきた。
 もしかしたら、先に入って来ている人達って、今日出演する誰かの知り合いなんじゃないだろうか? だとすると今日、神楽の友達がココに出演するのかもしれない――。
俺は、入り口の方を見つめながら、そんな風に考えていた。    


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あふれる想いを唄にして・・・104
 知らない方がいいってどういう事だ――2人の別れた原因が、俺がらみだからか? 神楽が、俺の好きな相手が島崎だって思っているからか?

 智也達の様子が変だったから、理由がとても気になったけれど、自分から「俺がらみだから?」なんて聞くわけにも行かなかった。まさか、何も言おうとしない神楽に聞くわけにも行かず……。
それに――もし、俺が思った通りの理由だとすると、あえて知ろうとしない方が良いような気がした。皆に余計な突込みを入れられるに決まっている。

 それから数日経ったけれど、神楽はやはり、その話題には触れようとしなかった。別れたハズの島崎も、別れる前と同じように神楽に接していて、傍から見ると2人の間には、何の変化も無かったような感じさえした。
ただ、神楽がいつも島崎と一緒に過ごしていた昼休みを、再び俺達と過ごすようになった――って事が、唯一の変化のように思えた。


 それから2週間程過ぎた金曜日の放課後、俺が部活に行こうとしていると、とっくに帰ってしまったと思っていた神楽が、廊下で俺を呼び止めた。

「なぁ立木、日曜の夕方って空いてる?」
 突然声をかけられて、俺はメチャメチャ驚いた。
神楽が休みの日の予定を聞いてくるなんて事、殆ど無かったから――。
「え? 何もないけど」
 俺はどうにか平静を装っていたけれど、緊張したような顔をして俺を見ている神楽に気付き、胸が苦しいくらいドキドキしていた。
「そっか。じゃあ、あさっての夕方からなんだけど、ライブ見に行かない?」

 ライブ――そんなの行ったこと無いぞ……。ライブって、やっぱり音楽のあれだよな。
「ライブ? いいけど、何の?」
 とは聞いたものの、俺は音楽には、ものすごく疎いから、歌手の名前を言われても、全然わからないかも知れない。
「サファイアって言う、アマチュアのロックバンドなんだけど……」
「ごめん。俺、全然わかんないなぁ……」
 俺の言葉に、神楽が一瞬泣きそうな顔をした。
「そっか…じゃあ…」
 じゃあ、いいや……なんて言わせない。一緒に行くんだ――神楽と……。

「知らないけど、いいよ。一緒に行く。俺、ライブなんて見たこと無くて……行ってみたい」
 側に居ると辛くなる時もあるのだけれど、やっぱり、俺はこいつと同じ時間を過ごしたい。神楽の誘いを断る事なんて出来ない――。
「良かった……。詳しくは明日電話するから」
 神楽にホッとしたような笑顔を向けられ、俺の胸の鼓動はますます早まっていく――。
「り、了解」
 その後、神楽からライブのチケットと、ライブハウスの場所の載っているチラシを渡された。幾つかのバンドの名前が書いてあったけれど、どれも聞いたことの無いバンドの名前だった。もともと、有名なバンドでさえあまり知らないのだから、アマチュアバンドなんて知っているはずも無い。

 チラシに羅列してあるバンド名の中で、一番始めに書いてあるものに星印が付けてあった。
 −Sapphire−
 これが神楽の好きなバンドなんだ……   


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あふれる想いを唄にして・・・103
下の部屋に行くと、おフクロが紙袋2つ分のお土産を用意していた。
かなりの重さだったので、俺は自転車に荷物を積んで、神楽を家まで送って行く事にした。

 神楽の家までは、歩くと30分くらい掛かった。もっと早く歩けば、それ程時間が掛からないのだけど、神楽の側に居たいと言う思いが、俺の歩調を遅くしていたのだ。

「今日はありがとうな。楽しかったよ」
 神楽が笑顔でそう言った。
「いや、どういたしまして。来てくれてありがとな。おフクロも喜んでたし」
 自分は……どうだったんだろう? 側に居られるのは、ホントに嬉しい。でも、どうしても、あいつの彼女が島崎だと言うことが頭から離れなかった。

「あのさ、立木」
 カゴから荷物をとり出していると、神楽が呟いた。
「ん?何」
 顔を上げると、神楽の戸惑ったような表情が視界に飛び込み、胸がキュンとなった。
「ごめんな――」
 神楽が戸惑った顔を、辛そうに歪ませた。
「何が?」
 ――神楽、お前は何で、そんな辛そう顔するんだ――。
「島崎のこと」
 ――だから、それは違うんだ。俺は島崎を好きなわけじゃない――
「謝るなよ……違うんだから」
 俺は一生懸命、笑顔を作ってそう答えた。
 ――俺はお前が好きなんだから――言える訳の無い言葉を、心の中で呟いた。
「でも……ごめん」
 ――止めてくれ!――俺、すごく惨めな気分になるじゃないか。



 冬休みも終わり、3学期の初日、学校に行くと、何だか教室の中の雰囲気がいつもと違うような気がした。
まぁ、休み明けっていうのは、大体そんなものなのだろうけど――。

「よ、立木。おはよ」
「おう、村上」
 いつもと変わりなくやって来た村上に手を上げて挨拶していると、陽子と楽しそうに話していたはずの智也が、いつの間にか村上の横に立っていた。
「なぁ、聞いたか?」
 智也が俺のことをチラッと見てから、村上に話し掛けた。
「なんだよ、智也?」
 俺を見た視線が気になって、智也の方を向いた。
「あん? 立木か…あのさ――」
 智也がちょっとバツが悪そうな顔をしてから、もう一度、村上に視線を送った。
「神楽、島崎と別れたんだってな」
 視線を俺に戻し、苦笑いしながら智也が言った。
「マジ?」
 
「立木、知らなかったんだ?」
 智也は、神楽と島崎が別れた話を、俺が知らなかった事に驚いたようだった。
「知らねーよ……でも何で?」
「それがさぁ……」
 村上が何かを言おうとしたけれど「立木は知らない方がいいかもよ」と言って、智也が村上の言葉をさえぎってしまった。


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あふれる想いを唄にして・・・102
 その後、俺達を微妙な雰囲気に陥れた張本人の梨子が、あいつにしては珍しく気を使っていた。笑えるようなネタを、一生懸命提供して、一瞬悪くなりかけた場の雰囲気を何とか取り繕ってくれた。
 だけど、元はと言えば梨子のせいなんだから、礼なんか言わなかったけど――。

「ねぇ、神楽君、夜ご飯食べていかない?」
 ゲームが終わりに近づいた頃、おフクロがそう言って部屋に入ってきた。
「えっと――」
神楽が拳を口元に当てながら、考えるような表情をした。
「そうしなよ? 神楽さん」
梨子が嬉しそうにそう言って、神楽の肩をポンポンと叩いた。
「でも、両親が待ってるから――」
 神楽が申し訳無さそうに言ったら、おフクロの奴は、あからさまに残念そうな顔をした。

「そうよねー。そうだとは、思ったんだけど、もし良かったら……って思ったのよ」
 おフクロのテンションが一気に下がったのがわかり、俺は心の中で呆れかえってしまった。――まったく……あんた、大人なんだから、相手が気を使ってしまうような顔すんなよ……。
「すみません……」
 恐縮している神楽を見て、おフクロが「気にしないでね」って言った。
それから、おフクロは、「また、神楽君を誘いなさいよ」って言って、俺にキツイ視線を向けた。もしかしたら、神楽を連れて部屋に篭りっきりだったのが気に入らなかったのかもしれない。
 厄介な母親だ――だけど……ちょっと羨ましいかもしれない。結婚しているけど、すっごいオバハンだけど、これでもおフクロは、一応、『女』だもんな。
「持っていってもらいたい物があるから、後で顔だしてね」
 おフクロが諦めたように部屋から出て行った。


 神楽のコマがゴールした後、俺と梨子が競り合って、結局、俺の方が先にゴールすることが出来た。だけど、持ち金の計算をすると、2着でゴールした俺が一番金を多く持っていて、次が神楽、それから、ビリでゴールして借金だらけだった梨子が最下位だった。
 勝った俺が、気分良くゲームを片付けようとしていると、梨子が「お兄ちゃんに負けたのが悔しい」とか言ってゴネ始めた。
 神楽がもう一度やろうって言ってくれたから、何とか機嫌を直してくれたけど、あんなガキのような梨子を見たのは、久しぶりのような気がする。
いつも憎まれ口を叩いて、変に大人のよう振舞っていた梨子も、まだまだ、子供なんだな――って思い、妙に安心したような気分だった。

 2回目は、神楽が一番で梨子が2番になった。俺に勝てれば満足だって言い残して、梨子はさっさと部屋から出て行ってしまった。

「俺、そろそろ帰るよ」
 時計を見ながら、神楽が言った。
「そっか、わかった。じゃ、下に行こうか。おフクロが待ってると思うから…」
 もう少しだけ一緒にいたい……心の奥に湧き上がる本当の気持ちを抑えながら俺はそう答えた。


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