昨日の化粧をした神楽も綺麗だったけど、素顔の方が俺は好きだ――そんな風に考えていると、神楽が俺の熱い視線に気づいて首を傾げた。
「や、別に……」
俺は、慌てて視線をそらした。
それから、神楽が昨日のライブの話を少し興奮気味に話していた。俺は、珍しく熱くなっている神楽を見て、少し不思議な気分になっていた――別世界に居る神楽……そんな感じがしてならない。
「あのさ、立木、今日の帰りにでも、ちょっと話がしたいんだけど……」
昨日のライブの話が終わった後、神楽が急に表情を硬くして、俺を見た。
「え? あぁ。えっと、バスケ終わってからになるけど、いい?」
ヤバイ、胸がドキドキする。もしかしたら、俺の聞きたくない話を聞かされるんじゃないだろうか――出来る事なら、俺には相談したり、話したりしないでくれると良いんだけど……今までの彼女達の話と同じように――。
「良いよ。じゃあバスケ終わったらケータイして。どっかで時間つぶしてるから」
神楽が緊張したような表情を、俺の大好きな笑顔に変えた。
「わかった」
その日、俺は神楽の「話」が気になってしまい、勉強の内容も、智也達との会話の内容も、殆ど頭に入らないでいた。
そんな複雑な思いでいる俺とは対照的に、今日の神楽は、いつもよりも楽しそうに智也達と話をしていた。きっと、良い事があったんだ――。
昨日、神楽は佐藤先生に気持ちを伝えたのかもしれない。それで2人は晴れて恋人同士になれたとか――?
もし、今日の神楽の話が、佐藤先生の事だとしたら、俺は、言えるだろうか?「友達として、何でも協力するよ」というセリフを……。
心の中で何度も練習してみる。「友達として……友達として……」
俺は授業の後、いつものように部活に出た。だけど、この後神楽と会う事が気になってしまい、ミスばかり繰り返してしまった。昨日あれだけ決心したのに、やっぱり気持ちが揺れてしまう。
部活が終わってから、俺はドンヨリした気持ちのまま神楽に携帯を掛けた。
神楽が、やけに緊張したような声で「学校近くの河原の土手で待ってる」と言った。その声を聞いたら、俺の緊張感もますます高まってしまった――。
寒い中、これ以上待たせたら悪いと思い、走って待ち合わせ場所に行くと、薄暗い土手の階段に、神楽がポツンと1人で座っていた。
俺は1度立ち止まり、深呼吸してから神楽の側に行った。
「遅くなってごめん。寒かったろ?」 俺は神楽の横に座った。
「大丈夫だよ。ずっと居たわけじゃないから」 神楽が笑顔を向けた。
「そっか。どこか行ってた?」
「ん? ちょっと……ピアノの練習してた」
――ピアノの練習……――
聞かなければ良かった。きっと、また、音楽室に行っていたんだ。
……佐藤先生に会いに……
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