−甘嘘別館−  
♪ハッピーエンドのBL小説を連載します♪

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Author:りょう
BL小説を書いてます。
よろしくお願いします☆
別館では18禁小説は連載しません。
本館へ行かれたい方は、コメント等でお問い合わせ下さい。
(メールアドレスをお忘れなく…)

☆おことわり☆ 
「出会わなければ」には、実在のバンド、メンバーと似た人物が出てきますが、実在の人物とは一切関係ありません。

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あふれる想いを唄にして・・・101
「え……っと」
 神楽が、一瞬眉間にシワを寄せ、フッと視線を泳がせた。
「恥ずかしがるなよ。夕実ちゃんってんだろ? 島崎の名前」
 俺がそう言うと、神楽が困ったような顔をして「あぁ」と返事をした。

「じゃあ、夕実さんが、車に乗りまーす♪」
 梨子が結婚行進曲を口ずさみながら、ピンク色のピンを水色のピンの横にさした。俺はそれを見ただけで、かなりヘコンデしまった。神楽の将来を見せ付けられているような気がしてならない。車の助手席に乗るのは、俺であるわけはないんだから――。
 その後、神楽のコマが、『家を買った』とか『赤ちゃんが生まれた』とかいう所に止まるたびに、俺1人、密かに傷ついていた。

「ねぇ、夕実さんって、どんな人なの?」
 俺がルーレットで出た数字の数だけコマを動かしていると、梨子が急に言い出した。その時、俺は、梨子を部屋に入れてやった事を後悔した。
「え……内緒」
 神楽がそう答えて、苦笑いした。そんな様子を見ているうちに、俺は梨子に対しても、神楽に対しても苛立ちを覚えてしまった。
「島崎ってさ、優しくて、さっぱりしてて、付き合いやすいよな」
 変に秘密主義の神楽の代わって、俺がが答えてやった。隠さなくたって良いだろ? それとも照れてるのかよ――
「まぁ――」
 神楽が曖昧に言葉を濁しながら頷いた。こういう話の時って、いっつもそういう顔をするんだよな――俺は、ますますイライラしてしまった。

「一緒にいて、疲れない感じだし、良いよな島崎みたいな奴って」
 恥ずかしそうに視線を逸らしている神楽を、睨むようにしてそう言った。
「なんだ……そっか」
 梨子が急に呟いた。梨子の顔に視線を移すと、俺を見つめてニヤッと笑った。
「お兄ちゃん、もしかして、夕実さんを好きだったとか?」
 その視線は、何か違う事を言っているような気がして、内心ヒヤっとしてしまった。
「違うっての! アホなこと言うな」
 俺は、梨子の頭をポカリと叩いた。
「何よ! 叩くこと無いでしょ。余計あやしいじゃない?」
 梨子の声が大きくなった。
「煩いな! ……あ、イテ」
 負けず嫌いな梨子が俺の腕をつねってきた。

「やっぱ、そうだったんだ……」
 しばらく黙っていた神楽が呟いた。
「いや、マジで違うから。気にするなよ、神楽」
 何だか墓穴を掘ってしまったような気がする。神楽は、梨子の言う通り、俺が島崎を好きなんだと思ったに違いない。
「俺は、友達として、いい奴だって事を言いたいだけで・・・」
 何て言ったら分かってもらえるだろう? そう思うと気持ちばかり焦る。
「わかってるよ」
 小さい声で答えた神楽が、困ったような笑顔を向けた。

 誤解を解きたいけれど、言い訳すればするほど、その通りだって言ってるようになってしまいそうで、先の言葉が見付けられなかった。


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あふれる想いを唄にして・・・100
「別に……良いけど」
 俺は深呼吸をしてから、そう言った。
 本当は中学の頃の俺って、丸坊主だったりするから、あんまり見られたくないんだけど――。でも、かといって他にどんな会話をして良いのか思い浮かばず、渋々本棚からアルバムを取り出した。

「これ立木?」
 アルバムを捲っていくうちに、神楽が坊主頭の俺を見つけてクスクス笑い出した。
「ったく……笑うなよ」
 メチャクチャ恥ずかしい……その頃の俺。
「立木、小さくて、かわいかったんだな」
 笑いながら神楽がそう言った。――カワイカッタ?――
 
 中学1年の頃の俺は、平均身長よりも低かった。だから、バスケ部の仲間と撮った写真では、いっつも俺が皆に囲まれて、頭を撫でられてるって感じなのだ……。
だから、神楽の言った「カワイイ」は、そう言うペット的な意味での「カワイイ」って事なんだ――ってのはわかってる。だけど、神楽のその一言で、俺1人、ヤバイぐらい動揺していた。
 俺、本当にアホだ……神楽と居ると、どうしようも無いや……。

「お兄ちゃん? 入っていい?」
 その時、ドアの外で妹の梨子がした。
「……良いけど――」
 神楽と2人で居る所に梨子を入れると、何を言われるか分からないから、あまり気乗りはしなかった。だけど、神楽と部屋に2人っきりっていう状況も、俺にとっては辛いものになりつつあったので、心の中で、究極の選択をして、梨子を部屋に入れてやることにした。

「あー、神楽さん! いらっしゃい」
「お邪魔してます。えっと……梨子ちゃんだよね」
 神楽の笑顔を見て、梨子が一瞬頬をポッと赤くした。
「はい。いつもバカな兄がお世話になってます」
 次の瞬間、梨子の目が俺をとらえてキラリと輝いた。何を言われのかと思い、一瞬身構えたけど、今日の利子は、特に変な事を言い出すこともなかく、俺はそっと胸を撫で下ろした。


 しばらく梨子のデートの話を聞かされ、その後、梨子の提案で、人生ゲームをやる事にした。すっかり場を梨子に仕切られ、俺は微妙な気分だったけれど、神楽と2人きりの時の気まずさから開放されたって所だけは、梨子に感謝しないと――と思った。

 それにしても、人生ゲームなんて、もう何年も部屋の片隅に置いたままだったような気がする――。
あまりにも久しぶりだったから、ゲームのルールを殆ど覚えてなくて、皆で説明書を読みながらゲームを進めていった。

 何度めかの順番が回ってきた時、一番先に進んでいた神楽のコマが、『結婚』というマスに止まった。
「では、神楽さんのお嫁さんでーす。ねぇ、神楽さん、彼女の名前は何ていうの?」
 梨子がピンクのピンを手に持って、無邪気に言った。


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あふれる想いを唄にして・・・99
 そんな俺達の様子を見ていた神楽が、「大丈夫?」って言ってから、可笑しそうに笑い出した。
「お前達、神楽君の前で恥ずかしいだろ?」
 オヤジが呆れたような声を出した。

「だって、おフクロが」
 俺がムキになって言うのと同時におフクロが言い返した。
「だって、悟が」
「……」

「まったく、子供ばっかりで、俺は大変なんだよ」
 一瞬の沈黙があってから、オヤジがそう言った。すると、直ぐにおフクロが、「貴方が一番大きな子供でしょ?!」ってムキになって抗議していた。
 どっちもどっちだよなぁ……と、俺は思わず笑い出してしまった。俺の横では、神楽も楽しそうな笑顔を浮かべていた。
 ――神楽が笑っていると、幸せだ――俺は心の中で思った。

「こんな奴だけど、悟と仲良くしてやってくれよ、神楽君。親が言うのも変だけどな、こいつは性格だけは良いと思うから――頭はよくないけどな……」
「ちょっと、なんだよ、オヤジ!」
 微妙に誉められてないような気がするんだけど――でも、神楽が楽しそうに笑いながら、「まかせて下さい」なんて応えてたので、俺はそれだけ満足してしまった。

 その後、神楽が俺の部屋が見たいと言い出してくれて、俺はやっとオヤジとおフクロから開放された。

「結構キレイにしてるんだな?」
 部屋の中を見回してから神楽が言った。
「まぁね。年末に、おフクロが大掃除しろって煩かったから」
オヤジとおフクロが邪魔だと思ったから、自分の部屋に来たかったはずなのに、いざ神楽と2人きりになったら、異常に緊張している自分に気がついた。
 我ながら、自分のアホさ加減に呆れてしまう。そうなんだよ……。俺は、神楽のことを友達以上に思っているっていうのに――。
「なぁ、立木って、音楽とか聴かないの?」
 1人でドキドキしていたら、神楽が、普通に話し掛けてきた。いや、普通に話し掛けるのが当たり前のことだ。俺の気持ちだけが、『普通じゃない』んだから――。

「うーん、あんまり聞かないかな。流行ってるのくらいは知ってるけど、特に良く聴くとかいうの無いよ」
 俺は努めて普通に答えようとした。この気持ちは、神楽に知られるわけにはいかないんだ。
「ふーん、そっか。あ、そうだ、立木の昔の写真とか見てみたいよなー」
 急にそう言いだした神楽が、勝手に俺の本棚を物色し始めた。
「ちょっと、待った!」
 俺は焦って、神楽の手を押さえた。
「ダメなの?」
 俺の顔を覗き込むように、神楽が言った。ヤバイ……すっごい、ドキドキしてる。

 なぁ、神楽……そんなに近くで、俺の事を見つめないでくれ!   


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あふれる想いを唄にして・・・98
 家に着いて、玄関のベルを鳴らした途端、おフクロが玄関にすっ飛んできた。
「いらっしゃい! 神楽君」
 家から出ない日は、手抜きの化粧しかしていないおフクロが、いつもよりも数段キレイに化粧をしていた。
「明けましておめでとうございます。お正月からお邪魔しちゃってすみません」
 神楽が丁寧に挨拶をしてから、ペコリと頭を下げた
「あら、いいのよー。去年のお正月から、悟が、今度のお正月には神楽君を呼ぶから――って言っていたのよ。それなのに、今朝聞いたら、誘い忘れたとか言ってて、実はガッカリしてたところだったのよ〜来てくれて、嬉しいわ」
 おフクロが、家では見た事もないような笑顔を、神楽に向けていた。
「ありがとうございます。俺も、嬉しいです」
 神楽の横顔をチラッと見てみたら、さっきまでとは打って変わって、明るい表情をしていた。神楽が元気になってくれて、俺は単純に嬉しかった。


 神楽を家の中に招き入れると、居間にいたオヤジが一瞬驚いたような顔をした。
服装こそ、派手では無いけれど、金髪頭の友人を連れて来たわけだから、その反応は仕方無い事なのかもしれない。考えてみたら、おフクロがその点について無反応だった事の方が、不自然だったように思えた。
 まぁ、あの人は、神楽に会うことが楽しみだったから、どんなカッコをしてようが、全然気にならないのだろうけど。

 それからしばらくの間、オヤジと一緒にコタツに入り、正月のテレビを見ながら、話をしていた。
 酔ったオヤジが「神楽君は悟と違って礼儀正しくて良い奴だ」と何度も言っていた。「どんな格好をしていても、目上の人間にキチンと話が出来る奴が生き残っていく世の中なんだよ……」とか言って1人で納得したりしていた。
 俺としては、オヤジの話は全然面白くないので、いつ部屋に行こうかとタイミングを見計らっていたのだけど――。

「それじゃ……」
 話が途切れた時、部屋に行こうと思い立ち上がろうとした。
「お茶にしましょ。さっき隣の方からお菓子頂いたのよ〜」
 台所からお盆にお茶とお菓子を乗せたおフクロが来てしまい、また、席を立つタイミングを逃してしまった。
「え……あぁ」
 ここで部屋に行くと言ったら、絶対後で文句言われるだろう――。

「そういえば、神楽君、彼女が出来たって聞いたんだけど……どんな子なのかしら。おばさん、ちょっとショックだったわ」
 テーブルに、饅頭の入った器を置きながら、おフクロが言った。
「あのなぁ、おフクロ、そういうのやめとけっての」
 いい年したおばはんが、恥ずかしいって思わないのかよ……。
「あら、いいじゃないの。あんただって、あんなに落ち込んでた――」
 そう言いかけたおフクロの口に饅頭を押し込んだ。何言おうとしてんだよ?!
「アホか」
 ムッとしながら、俺も饅頭を手に持って、自分の口に放り込んだ。
「ちょっと、何するのよ。酷いわねぇ」
 お茶を飲みながら、おフクロが俺の背中をバシンと叩いた。
「グッ」
 俺は、危うく饅頭を拭き出すところだった。


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あふれる想いを唄にして・・・97
「ま、俺達の事は良いからさ、せいぜい楽しんでくれよ」
 俺は、半分嫌味のつもりでそう言ったんだけど、智也の奴は「もちろん、楽しんでくるぜ」なんて満面の笑みで言われてしまって、俺は返す言葉も無かった。こいつも竹田と一緒で、幸せボケしているよな……。
今の智也になら、『一発殴らせろ』って言っても平気なような気がする。

 初詣を済ませ昼飯を食い終わると、智也は予告通り、1人でさっさと帰っていった。こうやってみんな友達よりも、恋人を取るようになって行くのだろうか? ちょっと寂しい気がする――それは、俺に『恋人』が居ないからなのだろうけど……。

「じゃ、俺と竹田はスノボの板見に行くからさ。また学校でな」
 智也の後ろ姿をボーッと見つめていると、急に村上の声がした。
「え? 俺もなの? でも――」
 そう言って戸惑った顔をしている竹田を、村上は引きずるように連れて行ってしまった。

 俺は神楽と2人で残されてしまった。何だか気まずいような雰囲気だ――。
昼飯の間もそうだったけど、今日の神楽は、いつに無く大人しい。
「あ、神楽は? これからどうする?」
 沈黙が続きそうで落ち着かず、俺から声をかけた。
「え? 帰る」
 神楽が小さな声で答えた。
「じゃ、俺も帰る」

 初詣に行く人達の流れに逆らいながら、2人で特に会話も無く、駅に向かった。
「なぁ、立木、去年の事、覚えてる?」
 もうすぐ駅に着くという頃になって、やっと神楽が口を開いた。
「え? 去年の事って……」
「正月に、家に呼んでくれるって言ってたじゃない……」
 まさか、その話を神楽が覚えているとは思わなかったので、密かに焦ってしまった。
「覚えてるけど……誘いそびれたよ」
 『島崎と会うと思っていたから……』とか、色々言いたことがあったけれど、自分に彼女が居ない事に対する、ヒガミのような気がして、それ以上言うのをやめてしまった。
「なぁ、行っても良い?」
 遠慮がちに聞いてくる神楽に、ドキドキしていた。来て欲しい――だけど……どうしても素直に喜べない自分がいた。
「でも……神楽の両親、家で待ってんじゃないの?」
「だって、去年約束したじゃん……」
 神楽がちょっと強い口調で言い返してきて、俺の返事をジッと待っていた。
「そうだったよな……ごめん。ちょっと待って。今おフクロに電話してみるから」

 俺は、慌てて携帯を取り出すと、家に電話した。
おフクロに神楽の話をしたら「もっと早く電話しなさいよ!」と文句を言われた。だけど、その声は、ものすごく嬉しそうな弾んだ声だった。
 俺は、脳天気に浮かれているおフクロが、羨ましかった。


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あふれる想いを唄にして・・・96
 あの日、キスしてきたのが、村上じゃなくて、神楽だったらどんなに良かっただろう――そう思っていた俺は、やっぱり『普通』では無いのだろうか?
 気付いたら好きになっていた。自分でも、どうして良いのか分からない。好きになったあいつが、たまたま同性だったってだけなんだ……。

 頭の中で、悶々と悩みながら、智也と村上の言い合いを聞いていた。
その時、黙り込んでいた神楽が、小さな声で呟いた。
「なんだ……そうだったんだ」
 さっきの投げ遣りな態度が、なりを潜めていた。
「なんだよ神楽、テンション低すぎ。お前も話しちゃいなよ〜島崎とはどこまでいったんだよ?俺、参考にしたいから、教えて欲しいんだけど?」
 智也が興味津々の顔で聞いた。
「……別にどこまで行ったもなにも――」
 神楽の奴、また、そんな事言って隠そうとしている――聞きたくはない話だけど、煮え切らない態度の神楽に、イライラしてしまった。
「ホント秘密主義だよな。神楽って」 
智也がそう言うと、「村上も少しは秘密にしたら?」と竹田が笑った。

「あーぁ。それにしても、俺も、村上なんかとキスしてる場合じゃないよな。そろそろ真剣に彼女探すかな〜」
 俺も、いい加減、実らない恋なんて、さっぱり忘れてしまわないと――。
「そうだぜー。お前ってほんと女っ気なさすぎ。浮いた話がないのって、立木だけじゃね?」
 智也の言葉に胸が痛くなる……。
「巨乳で美人、って決めつけないほうがいいぜ。そんなの見つからねぇっての」
 わかってるさ……巨乳じゃなくても、美人じゃなくてもいいんだ、ホントは。

「そうだよな。じゃあ、今日は彼女が出来るように願掛けしてみよっかな。賽銭、奮発しなきゃなー」
 俺はそう言って、とりあえず笑った。
「彼女出来なかったら、俺が立候補してやろうか?」
 へこみ気味の俺に、村上が笑いながら迫って来た。
「勘弁してくれ。いくら巨乳を探すのをやめるからって、まったく無いってのも、なんだよな」
 あぁ、そうだ……俺もずっと嘘をついてるじゃないか。神楽のこと、責められないかもしれない。でも、この想いは伝えられないよ……。

「ちぇ。俺、結構いい奴だと思うのに」
 村上がプイッと横を向いた。
「いい奴だと思うけど、それとこれとは違うっての」
 竹田も智也も呆れ果てて、俺たちより先を歩いていた。神楽は、押し黙ったまま、村上と俺の横を歩いていた。


「あ、そうだ。俺さ、後で陽子と約束してっから、昼飯食ったら解散ね」
 参拝者の長い行列の1番後ろに到着した時、智也が急に言い出した。
「はいはい、正月からオアツイことで」
 村上がパタパタと手で、顔の辺りを扇ぎながら言った。
「そう。もうアツアツでさ、ヤケドしそうな感じ?」 
 調子に乗ってる智也がメチャクチャ羨ましかった――。 

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あふれる想いを唄にして・・・95
「ま、そういう事。村上もさぁ、色々迷ってないで、本命決めろよ」
 智也が村上に向かって、サラリと言い返した。
「え? うーん……やっぱ、まだいい。もっと気楽に遊びたいから、彼女はいらないかな」
 村上が余裕な感じでそう言うと、黙り込んでいた神楽が口を開いた。

「本命って、立木なんだろ? 彼女じゃなくて、彼氏――」
 珍しく神楽らしくない、投げやりな言い方だった。
「何言ってんの神楽?」
 智也が神楽の方を見て呆れたような顔をした。
「だってさ、イブの日、村上の奴、立木にキスしてたんだぜ」
「「なんだって?!!」」 
 智也と竹田が同時に叫んだ。

 そりゃ驚くでしょう……俺だって、ビックリだったんだから。
「お、お前ら、いつの間にそんな関係になってたんだよ?」
 智也が真剣に驚いたような顔をして聞いてきた。その横では村上が、爆笑していた。
「アホか、んなわけねぇだろ」
 笑って話が出来ない状態の村上に代わり、俺がそう呟くと、村上が必死に笑いを堪えながら言った。
「いやー、俺さ、酔っ払ってて、立木がすんげぇかっこ良く見えたんだよ。で、酔った勢いで思わずキスしたってわけ」
 言い終わった後、村上がまた笑い出した。
「いくらカッコ良く見えたからって、しないよなぁ」
 智也がそう言って、村上を見て苦笑いした。
「こいつは酔うとキス魔になるんじゃないかと思うぜ」
 村上に任せておくと、どんな話になってしまうかわからないので、さっさと話を切り上げようと思った。
「ま、そういう事。女の子の友達とは、ケジメとして、キスしないようにしてたから、急にしたくなっちゃったんだろうなぁ。自分でも良く分からないよ」
「何だかなぁ……」
 智也が信じられないと言うような顔をして呟いた。

「あーあ、俺のファーストキスだったのにな」村上が悲しそうにそうに呟いた。
「俺だってそうだよ。なんで村上となんか……」
 何が嬉しくて、好きでも何でもない村上に、ファーストキス奪われなきゃならないんだ。
「立木は初めてだと思うけどさ、村上もファーストキスだったのかよ?なんかすっごい意外だよな」
「あははは……実はうそ。うーん立木で何人目になるかな? 中学の時は今よりかなり不真面目だったからなぁ。でも、男同士では初めてだよ」
 村上が俺の手を握ってそう言った。
「嬉しくないっつーの」
 俺は、ギュッと握られた手を振り解いて、村上を睨みつけた。
「村上らしいような気もするけど、俺にはわかんねーなぁ」
 竹田が楽しそうに笑っていた。
「普通するか? そんな事……大体、男の立木相手にさぁ。なぁ?」
 智也がそう呟いて、俺に肩を組んできた。

 まぁ……普通はしないだろう。


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あふれる想いを唄にして・・・93
 時計を見ると、待ち合わせの時間を5分過ぎていた。
だけど、最初に待ち合わせ場所についたのは、やっぱり俺で、その後、すぐに村上と竹田が来て、それから次に、神楽が眠そうにアクビをしながらやって来た。
 神楽の顔を見た途端、2人で年越しをした時の事を思い出し、切なくなった。あの時の事も、きっと学生時代の思い出の1つになるんだろう……。

「よ! みんな、おめっとさん!」
 他の3人が話をしているのを、ボンヤリ眺めていると、智也の脳天気な声が聞こえてきた。――正月早々、元気な奴だ。
「あー、おめでとー」
「おめでとさん」
「じゃ、そろそろ、行くか」
 みんなでダレた正月の挨拶を交わしながら、のろのろと歩き始めた。

「休みはどうしてた? 立木?」
 歩き始めた途端、智也がサッと俺の隣りに寄って来た。
「バスケと家の手伝いくらいしかしてねぇな」
 俺は不貞腐れたようにそう答えた。
去年の冬休みは、神楽に会える楽しみがあったから、どんなにおフクロにこき使われようとも、何とか頑張れた。でも、今年は楽しみも無くて……おフクロに言われるまま働いていた感じだ。
「で、智也は?」
 お前だって同じようなもんだよな――心の中で呟きながら、智也の顔を見た。
だけど、智也の奴は、俺のその言葉を待っていたかのように、満面の笑みを浮かべた。
「それがさ、俺ってば、楽しい、楽しいクリスマスを過ごしたんだなー」
 首を傾げ、頭をかきながら、智也が嬉しそうに言った。
「マジ? 陽子?」
 智也の顔を覗き込むと、ニヤケたまま「そーそー」と頷いた。
 ちょっと、なんだよ……『友達でいいかな』とか言っておきながら――

「いやさ、すんげー迷ってたんだけど、告ったんだよ、終業式の日に。したら、あいつもずっと俺の事好きだったんだって。もう、やったねって感じ?」
 終業式の日、智也の妙なテンションと、ソワソワした雰囲気、陽子に告白するつもりでいたからだったのか……。
「良かったじゃん。やったね」
 村上が智也の肩をバンバン叩いた。智也は村上の手を払いのけると、ニヤケタ顔のまま鼻歌を歌いだした。

「お前はどうしてたのさ、村上?」
 肩を擦りながらニヤニヤしている、裏切り者の智也を放って置き、俺は村上に聞いた。
「スノボやってきたよ。楽しいぜあれ。来年はみんなで行きたいよなぁ」
「行けたら楽しいだろうけどさぁ……」
 竹田が呆れ顔で村上を見た。 


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あふれる想いを唄にして・・・92
「神楽君、彼女がいるの? 母さん凄いショックだわ……。でも、あの子だったら、女の子が放って置かないわよね……」
 靴を履いていると、おフクロの、ブツブツ言う声が聞こえた。
「あ、そうだ」
 不貞腐れていたおフクロが、急に顔をほころばせた。
「なんだよ?」 俺は早く出かけたいんだけど――
「そう言えば、あんた、お正月に神楽くんを家に呼ぶって言ってなかった?」
 おフクロの嬉しそうな視線が痛かった。
「……なんか、誘いそびれた」
 本命の彼女が出来てしまった神楽を誘う気にはなれなかったんだ……なんて、おフクロに言えるかよ――俺は心の中で悪態をついた。
「なんだ……そうなの」
 俺を見ていたおフクロの顔が、再びガッカリした表情に変わった。

「ねー、お兄ちゃん」
 その時、居間から、梨子の声が聞こえて来た。神楽の話をしてると、必ず嗅ぎつけるんだから――。
「もしかして、秋ぐらいに失恋した相手ってさ、神楽さんでしょ?」
 パタパタと足音を立てて近寄って来た梨子が、俺にグッと顔を近づけてから言った。

「はぁ?」
 俺は、間抜けな声を出してしまった。
「ズボシなんだ?」
 梨子が目を見開きながらそう言った。
「なんでそうなるんだよ?!」
 久しぶりの梨子の突っ込みに動揺した俺は、必要以上に大きな声を出してしまった。
「素直じゃないね。お兄ちゃん」
 梨子がニヤケタ顔で俺を見ながら、そう言った。素直に言えるかよ……そんなこと!
「んだよ。わけわかんね」
「ふーん? 自分の事なのに、わかんないんだ?」
 なぁ、梨子、仮に俺が、「その通りなんだ――」って言ったら、お前は何て言ってくれるんだよ? 無責任なこと言うなよ……
「ほっといてくれよ」
 玄関のドアノブに手をかけながら、俺はそう呟いた。
「せっかく心配してやってんのに!」
 梨子の声を背中に受けながら、ドアを開けた。――心配なんかじゃないだろ? からかうネタにしたいだなんだろ――
「余計なお世話だっての!」
 やめてくれよ、もうウンザリだ。
「お兄ちゃんはすぐに逃げんだから」
 梨子の言葉を無視して俺は外に出た。

 玄関を出ると、あまりの寒さに、俺は思わずブルッと身震いした。
『失恋した相手って――』歩き出した瞬間、梨子が言った言葉を思い出し、溜息をついた。白い息が、ふわっと広がって一瞬で消えた。

 なんだよ! 急がないと予定の電車に乗れないじゃないか! 俺は駅に向かって走り出した。   


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あふれる想いを唄にして・・・91
 その後、俺は、村上の買い物に付き合った。なんだかんだ言いながら、村上は、
3人分のクリスマスプレゼントを買っていた。

「今日は、ありがとな」
 村上がそう言って頭をかいた。
「いや、結構楽しかったよ」
 公園での事が無ければね……俺は心の中で呟いた。
「あ、あのさ、あのキスには深い意味ないからさ。悪かったよ」
 村上がすまなそうな顔をしてそう言った。深い意味があったら、困るって――。
「あぁ、気にしてないよ。お前が、酒乱でキス魔だってことが分かった」
 いや本当は俺、凄く気にしているかもしれない。だって、よりによって神楽に見られてしまったんだから――。

「女の子にはしないようにしてたんだけどなぁ、自分でもマジびっくり。お前にキスしちゃうなんてさ」
 村上が、照れたように顔を逸らした。
「あのな……」
 照れた顔されるとちょっとイタイんだけど――。
「まあ、あの時、酔ってたし、それに、神楽が来たからなのかな」
 村上の妙に嬉しそうな声が聞こえてきた。
「何でだよ?」
 神楽と俺にキスするのと、どういう関係があるってんだよ。
「気にすんな、立木。じゃ、今度は正月だよな」
 村上が俺の肩をポンポンと叩くと、さっさと帰っていってしまった。
「……」



 村上と過ごした奇妙なクリスマスも過ぎ、気が付けば今年が終わっていた――。
 大晦日の昨日は、夜中までテレビを見続けたので、ベッドに入ったのは朝方だ。
正月の朝、ボンヤリとした意識の中で、目覚ましの音が聞こえる……。
俺は「はぁ」と一つ大きな溜息をつき起き上がった。

 着替え終わると居間に行き、半分寝惚けたまま、お節が並ぶテーブルの前に座る。
「おめでとう」
 寝惚けた頭に言葉が刺さる。『何がめでたいんだよ!』と心で呟きながら、「おめでとう……」とぶっきらぼうに答えた。

つまらない正月番組を見ながら、家族と一緒に、お節料理を食べ、終わるとすぐに、「じゃ、行って来る」と居間を出て、玄関に向かう。
「また、原田君たちと初詣?」
 おフクロがエプロンで手を拭きながら、顔を覗かせた。
「そーだけど」
「あんた達、何かって言うと一緒なのねぇ。いまだに彼女いる人とかっていないの?」
 おフクロが少し呆れたような顔をしながら、玄関までついてきた。母親って、息子に彼女が出来るのが嬉しいものなのだろうか?
「んー。神楽は、いるけどさ、後は知らない」
 自分で言った言葉なのに、ちょっと胸が痛かった。


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あふれる想いを唄にして・・・90
「ねぇ、俺にもクリスマスプレゼントくれよ。な? 立木」
 すっかり脱力していた俺は、村上にもう一度キスされてしまった。しかも唇に。こんなの、ありえねーだろ?

「ね……行こうよ。神楽君」
 島崎の声が聞こえた。
 脱力していた俺も、さすがにこの状態には絶えられなくて、村上の体を、どうにか引き剥がそうとした。だけど、村上は全然力を緩めようとしなかった。
 しばらく、必死にもがいていると、急に村上の体がグッと後ろに引っ張られ、やっと、あいつの唇が俺から離れて行ってくれた。
「村上……そんな事、冗談ですんなよ。立木、困ってるだろ?」
 静かな声で神楽が言った。でも、その言葉を聞くと、村上が俺から身体を離し、神楽の方に振り向いた。

「冗談じゃない――って言ったらどうする?」
 村上の、やけに真剣な声が聞こえて、俺は一瞬焦ってしまった。
「どうするって……」
 神楽が困ったように視線を泳がせた。
「どうもしないんなら、邪魔すんなよ。ったく、俺のファーストキスが台無しだよ……ひでぇなぁ神楽」
「俺は、助かったけど……」
 俺が呟くと、村上がキッと俺を睨んだ。
「なぁ、立木、もうちょっと遊んでこうぜ」
 睨んでいた顔が、何かを企んだような笑顔になった。
「え……まぁ、良いけど、もうキスとかすんなよ」
 俺はとにかく、この場を早く離れたかった。
「じゃあ、もっといい事しようぜ」
 ニッコリ微笑んだ村上が、俺には悪魔に見えた。

「い……いい事って?」
 俺はスッと村上から離れた。村上は焦っている俺に向かって嬉しそうに投げキスをしてから、神楽の方に身体を向けた。
「バーカ、あれに決まってんじゃん。お前らもそうだろ?」
 村上がそう言うと、島崎が神楽に掴まった手をパッと離し、真っ赤になって俯いてしまった。
「アホか。付き合ってらんないぜ」
 俺は投げやりにそう言って、ベンチから立ち上がろうとした。

「ちょっと、待てよ、ジョーダンだってば……なぁ立木、これから、ちょっと買い物付き合ってよ」
「……マジ買い物だけな」
 俺は、村上にコートの裾を引っ張られて、もう一度ベンチに座り込んだ。

 神楽は俺と村上のやり取りを、黙って見つめていた。そんな神楽に、島崎が溜め息をつきながら言った。
「神楽君? 行こう」
「あ、うん……」
 神楽は、はっと我に返ったような顔をすると、無言で島崎と一緒に何処かに消えてしまった。


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あふれる想いを唄にして・・・89
「ちょ、ちょっと、村上!」
 俺は、村上を押し戻そうとした。
「あぁ、酔った酔った。立木がカッコ良く見えるなんてなぁ、俺、少しおかしいわ」
 村上に「カッコ良く見える」とか言われて、俺は焦ってしまった。優しくスッと頬を撫ぜられ、どうしていいかわからず、村上から逃げるように顔を上げた。すると、何処かに行ってしまったと思っていた2人連れが、俺達のいるベンチのすぐ側まで来ていた。

「やっぱり……立木?」
 金髪の奴が俺にそう言った。俺は心の中で舌打ちをした――気が付いて欲しく無かったのに――。
「おー! 神楽じゃねーの。おデートですか?」
 俺は思いっきりテンションを上げてそう言った。酔ってるから、簡単にテンションを上げられたけど――。複雑な思いでいる俺の気持ちなんて知るはずの無い、酔っ払い状態の村上は、相変わらず俺に抱きついたままだった。
「イブにデートなんて、羨ましいよなぁ。俺なんか、村上に呼び出されて、このザマだよ」
 俺は言葉を続けた。神楽と島崎が、珍しいものでも見るような顔をして、俺達の事を見ていた。

「村上なの?」
 村上の名前を聞いた途端、神楽が眉を潜め、探るような目をしながら聞いてきた。その声に反応して、村上がパッと顔を上げると、突然言い放った――
「なんだよ! 神楽。ちょっと邪魔しないでくれる? 今いいとこなんだから」
 一瞬、俺は言葉が出なかった。何言ってんだよ? 村上のアホ――。
「むらかみー、どこがいい所ってなんだよ? てめ、酔っ払いすぎだぞ!」
 俺は再び村上の身体を引き剥がしにかかった。だけど、村上の力は結構強くって……。
「そうでーす! 酔ってまぁす。いいじゃん。今日くらいさ、クリスマスイブだもん」 
 そう言ったかと思うと、村上が俺の頬にブチューッと唇を押し当てた。
「お、お前何すんだよ?!」
 俺は慌てて、村上の頭をバシバシ叩いた。
「イッテーなぁ、俺からのプレゼントだってのに。立木、喜べ。女の子達の誰にもやらなかったのに、立木にだけ、特別にしてやったんだからな」
 『特別』って所を強調されたけど、嬉しくなんか無い。寄りによってなんでこんな時に……。

「あほ、女の子達にやってくれ」
 俺は頬をゴシゴシ拭きながらそう言った。
「なんか俺さ、今、すっごく立木にチューしたかったんだよねぇ」
 酔っ払った目をした村上が、嬉しそうにそう言って俺の頬をピタピタと叩いた。
「ふざけんなよ。いらねーっての」
 俺は、村上の手を振り払って横をむいた。
「なにぃ! 人がせっかくキスしてやってんのに!」
「だから、いらないって言ってるだろが」

 最初は笑いながら見ていた島崎が、徐々にエスカレートしていく俺達のやり取りにビックリして神楽の腕をギュッと引っ張った。
神楽はと言えば、無言のまま俺達の事を見ているようだった。

――ちくしょう! 村上め。神楽に変な誤解されちまうじゃないか――

 そう考えた途端、虚しくなって、身体中の力が抜けてしまった。


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あふれる想いを唄にして・・・88
 それから2人で、メチャクチャ歌いまくった。
制服じゃないし、クリスマスだしって事でサワーを飲んだりして、終わりの頃は歌詞をちゃんと追えなくなっていた。だけど、こんなクリスマスもいいかもしれない。他の煩わしい事も考えないでいられたから――。

 店を出る頃、村上も俺も、かなりテンションが高くなっていた。
肩を組んで、よたりながら階段を降りている所なんて、まるで、酔っ払いのサラリーマンのようだ……って、酔った頭の片隅で思った。
 外の冷たい空気が、酔って火照った俺には心地良く感じた。日が沈み、すっかり薄暗くになった街が、クリスマスのイルミネーションでキラキラ輝いていて見える。

 俺と村上は、酔いを覚ます為に、冬の寒い中、愛を語り合っているカップルで溢れている、中央公園の噴水近くのベンチに座りこんだ。
 肩を組んだまま、ベンチにダラリと座っていると、村上が急に俺の肩に頭をもたれかけてきた。
「マジ酔った。……しばらく帰れねぇよな」
「あぁ。酔いを覚ましておかないと、おフクロに怒られるぜ」
 村上の頭をパシンと叩きながらそう言った。

 しばらくベンチに座って、公園を行き交うカップルを眺めていた。
 フッと公園の入り口の方に視線を移すと、俺の目の中に、俺が良く知っている金髪の男が、隣に背の高い彼女を連れて歩いて来る姿が飛び込んできた。薄暗い中なのに、俺にはしっかり見えてしまった。顔を上げていなければ良かった――と後悔した。
 俺は、パッと下を向き、2人に気が付かれないようにと心の中で祈った。

「なぁ、お前は、何で彼女つくらないんだよ?」
 村上が、そう言って顔を横に向けた。肩にもたれかかっていた村上の顔が、やけに傍にあって、俺は内心酷く焦っていた。
「別に……好きな奴いないし。俺、お前みたいにモテねーもん」
 俺は顔を上げないようにとしながら、ボソボソと答えた。あの2人連れが、俺たちに気がつきませんように――。

「あのなぁ……立木、お前結構モテてんだぜ? 知らんの?」
「はぁ? 何それ……全然知らんかった。初めて聞いたぜ」
「ふーん、そうだったんだ……ってか、立木らしいね」
「何だよ、それ?」
「ま、良いじゃん。あ、そうそう、あのな、お前ってカッコ良いんだって、バスケしてる時。普段はわりとボケッとしてんのにさ、急にキリッとして、別人になるんだってよ。女の子達が言ってた」
 村上の話に俺は、かなり驚いていた。俺がモテてるなんて話、今まで聞いたことないし、カッコ良いなんて言われた事も無い。なんだかすごく照れくさかった。
「今まで気が付かなかったけど、お前って、いい顔してんだな」
 思いっきり照れてる俺に、村上がベタッと抱きついてきた。


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あふれる想いを唄にして・・・87
 梨子の出かけていった後、静まりかえった部屋に響く時計の音が気になり、テレビをつけた。見るあての無いテレビからは、クリスマスのやけに楽しそうな音楽が聞こえ、耳ざわりに思った俺は、チャンネルを変えようとリモコンに手を伸ばした。その瞬間、ポケットに入れっぱなしの携帯が振動しだした。

 携帯の画面には、村上のニヤケタ写真が表示されていた。
「はい、俺」 
「なぁ、立木は今日暇だろ?」
 村上の呑気な声が聞こえて来た。暇だけど、その決め付けるような言い方、ちょっとカチンと来るぜ――。
「暇だけどさ、お前は暇じゃないはずだろ?」

 村上からの電話は、カラオケの誘いの電話で、一日中腐って過ごす予定だった俺としては、それが天の助けのように思えた。
 奴の話だと、智也も竹田も、もちろん神楽も予定が入っているらしくて、結局、暇なのは俺だけだったそうだ。それを聞いて、ますます虚しかったけど――でも、女にモテるはずの村上が、今日みたいな日に暇している事が、俺にはかなり不思議に思えた。


「で、なんで村上は今日暇なんだよ? クリスマスなんてイブも当日も予定でいっぱいなはずじゃないのかよ?」
 カラオケBOXの部屋の中、歌の合間に村上に素朴な疑問をぶつけてみた。
「まぁね。でもさ、大変じゃん。誰とデートするか決めなきゃならないし。クリスマスにデートしちゃったら、先に進まなきゃならないって感じだろ?」
 分厚い歌本を捲って、次の曲を探しながら村上が言った。
「俺には、全然わかんねーけどな。……って、お前って今、何人と付き合ってんだよ」
 1年の子が3人くらいと、3年の先輩が2人くらいと、学校の外にも何人か居たような気がする。こいつは、神楽と違って、すっごいオープンで、女の子と出かけた次の日には、必ず、誰と何処に行ったか話してくれる。

「ん? 付き合ってる子? いないかな」
「はぁ? なんだよそれ? わけわかんね」
 こいつって、マジどんだけ?って感じだよなぁ。
「だって、彼女だって思ってないから。皆、友達だし」
 リモコンで曲を入れて、満足したような顔をしながら村上が言った。
「でも、相手はそうは思ってないんじゃないのか?」
「え? そうかな。俺ちゃんと言ってるよ。『君は友達だから、彼女じゃないんだよ』って。だから、キスとかしてねーもん。まぁ、手ぐらいはつなぐけど」
 村上は、早口でそう言うと、マイクを掴んで、曲のイントロに合わせてカッコ良く踊り出した。

 甘い顔立ちに優しくてさっぱりした性格、おまけに裏表がなくて――村上は、神楽と違った意味で、かなりモテる。
俺には、真似出来ないけれど、村上のような性格は、羨ましいような気もする。自分の考えを正直に相手に伝えて、割り切った付き合いが出来る所とか――。そういう奴だから、女の子も楽しく付き合えるのかもしれない――。


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あふれる想いを唄にして・・・86
 そして、冬休みも始まり、街はクリスマス一色だった。
恋人の居る奴らにとっては、待ちに待ったイベントなのだろうが、俺にとっては、鬱陶しい年中行事以外の何者でもなかった。

「ねぇ、お兄ちゃんは、クリスマスにデートしないの?」
 居間で雑誌を広げていたら、急に梨子が雑誌を覗き込んで来た。
「お前だって、デートなんてしないだろ? 相手がいないんだからなー」
 俺が「彼氏なんて居るわけない」っていう感じで言ったら、梨子の奴は、得意げな笑顔を向けてきた。しまった……こいつ、自慢話をしたいんだな、きっと――。

「へへ。w 残念でした。今年のイブは、デートなんでーす」
 ……ちくしょう! 何だか、すっげームカつくんですけど?
「あっそ」
 俺は、そんなの、全然気にならないって感じで答えてやった。
「羨ましいでしょ?」
 俺の顔を覗き込みながら、梨子がニヤニヤ笑っていた。
「っせーな。全然羨ましくなんかねぇよ」
 羨ましくないわけが無い。だけど、悔しいから絶対言わないぞ!
「ふぅん。立ち直ったんだ。失恋から?」
 ドキッ! 何言ってんだよ……
「失恋なんて――してないし」
「ふーん。そうなんだ?」梨子がすごい疑いの眼差しで見ている。
 まったく! お前になんて、話すわけがないだろう? この複雑な兄の心、お前になんてわかるわけないよ。
「それよりさ、梨子の彼氏ってどんな奴なんだよ」
 そう言った俺の言葉に、梨子が敏感に反応した。「早く聞いて欲しかったのに!」って感で、溜息が出そうになった。
「それがね、すっごい面白い人なんだ。私の理想にピッタリ。それに顔もわりとカッコ良いしね」
 うっとりとした顔で、梨子が言った。
「けっ。何だよそれ……」
 完全に自己満足だぜ。
「いいの。私だけにシャイな素顔を見せてくれる所が、すごくかわいいの」
「勝手に言ってろ……」
 惚気話なんて、聞いてられるか! と思い、それから先の話には、適当に相槌をうって聞き流した。


  そして、あっという間にイブの朝。梨子は朝から念入りにめかし込んでる。
冬だって言うのに、朝からシャワーを浴びて、長めの髪の毛を巻き、大人っぽい髪型にしていた。まだ幼い顔に、その髪型は微妙な感じだけど――俺は、あえて何も言わないでおいた。
 昼飯を食べてからしばらくすると、兄の俺でさえ、結構イケテルいじゃん……て思うような恰好をした梨子が、でっかいプレゼントを抱えて、嫌って位幸せそうな顔をしてデートに出掛けて行った。

好きな人の為に一生懸命頑張ってる梨子を見て、素直に羨ましいと思った。


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あふれる想いを唄にして・・・85
「何で言ってくれないんだろう? 私には言えなくても、立木君には話してると思ってたのに」
 教室に戻る途中、島崎がボソボソっと呟いた。
「あいつ、前からあんまり自分の事話さなかったからなぁ。俺、時々本当に友達だと思われてないのかな? とか思ったりすんだよね」
 俺は自嘲気味に言った。言葉にしたら、ますます悲しくなるよな……。
「立木君がそんな事思うの? だって、神楽君て、いっつも立木君のこと話してるのよ。すごく仲が良いんだと思っていたのに――」
 島崎が驚いたようにそう言った。
「俺の何話してんの? 甘いものが好きとか、ジェットコースターが嫌いとか、そういうやつ?」
 半分投げやりにそう言ったら、島崎がクスッと笑った。
「うん。それも聞いたわ」
 カチンと来て内心面白く無かった。何で島崎に話してしまうんだよ――って……これって、完全に俺のヤキモチなんだろ? マジ嫌になっちまう……。


 教室に戻ると落ち込んだまま次の授業に出た。

 英語の授業で当てられ、全然答えられず、俺はますます落ち込んでいた。



 そして、2学期はあっという間に過ぎて行き、2学期最後の日になった。

 どうした事か、その日は朝から、智也のテンションが妙に高かった。
普通の日でも、人よりも高めのテンションなのだけど、今日は妙にソワソワした雰囲気もあって、半日付き合っただけでも、俺は疲れきってしまった。

 休み時間に、どうしたのか聞いてみたのだけど、俺の質問にも上の空の様子で、何度目かに呼びかけた時には、「腹こわした……」と言って、視線を泳がせていた。
 本当にそれだけなのか、わからなかったけど、とりあえず、そういう事なんだろうって、みんなで納得するしかなかった。

 放課後、智也は、いつもダラダラして行動が遅いのに、今日に限って、正月の初詣の予定を決めた後は、俺たちの事を振り返りもせず、さっさと帰って行ってしまったのだ。
まぁ、腹の具合が悪いんじゃ、落ち着いて話もしてられないんだろうけど……本当に腹痛なんだろうか?

 そして……正月と言えば、俺は神楽と約束をしていたんだ。
「今度の正月には、神楽を家に呼ぶ」
 って。でも、神楽が島崎と付き合い始めてしまった今、何だかその話を出す気にもなれず、そのまま忘れた振りをしてしまおうと思っていた。
 友達なんだから、誰と付き合ってようが、気にしないで呼べば良いのに――。でも、今の俺には、神楽を家に誘う気力さえなくなってしまっていたのだ。


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あふれる想いを唄にして・・・84
「あ、島崎、調度良かった。今教室に行こうと思ってたのよ」
 保健室の前まで行くと、女バスの先輩と会い、島崎が引きとめられてしまった。
「ゴメン、立木君先入ってて」
 そう言って、島崎が先輩と話始めた。
「了解」
 複雑な思いで、俺は1人で保健室に入っていった。

 静かにドアを開け、保健室に入って行くと、少し奥まったベッドの所から川嶋先生と神楽の話している声が聞こえてきた……。
「無理しすぎはだめよ。佐藤先生とは友達だから、色々と話を聞いてるんだけど」
 佐藤先生だって?
音楽の佐藤先生と神楽は、やっぱり何か関係がるんだろうか――胸の鼓動が早くなる。いったい2人はどんな関係なんだ?
「はい……わかってます」
 神楽の静かな声が聞こえた。
「それにね、君はまだ高校生なんだから。それを忘れないように」
 先生は神楽の何を知っているというんだろう? 気持ちを伝えられないでいたはずの相手と、一体どんな関係があるんだ? 神楽は、島崎と付き合ってるはずなのに――。

 話の先が気になったが、島崎が入ってきたドアの音で、神楽と河嶋先生の会話が止んでしまった。
「失礼します」
 島崎と2人で神楽のベッドの所に行くと、先生は、俺達と入れ替わりで自分の席に戻って行った。

「神楽君大丈夫?」
 心配そうに島崎が神楽の側に寄った。
「……大丈夫だよ。あまりにも眠くてさ」
さっきよりは顔色の良くなった神楽が、島崎に笑顔を向けた。
「ムリしないでね」
 島崎の手が、神楽の頬を撫ぜた。
「あぁ」
 神楽が、島崎を見つめていた。
「彼女に心配かけんなよ」
 2人を見ないように、俺はそう言った。早くココから離れたい――俺は心の中で叫んでいた。
「うん。わかってるよ」
 神楽が島崎を見ていた視線を、俺の方に移した。俺はその目を見ていられず、視線をそらしてしまった。

「ねぇ、神楽君、日曜日に何かやってるの? アルバイトとか? 立木君も知らないって言うし、教えてくれないけど…心配だよ」
「いや……そうじゃないんだけど」
「そうなんだ……」
 島崎が小さく溜息をついた。彼女にも言えないなんて……神楽が他の人と会っているからなんじゃないだろうか――俺は密かにそう思っていた。

「ごめん。もう少し眠りたい」
 神楽がボソッと呟いた。
「わかった、じゃあな」
「ありがと夕実。立木も……」
 そう言うと神楽は横を向いてしまった。俺と島崎は、先生に頭を下げてからお互いに無言のまま保健室を出た。

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あふれる想いを唄にして・・・83
 しばらくすると先生が戻ってきたので、神楽をお願いすると、俺は教室に戻った。

「神楽君大丈夫だった?」
次の授業が終わり、休み時間が始まると、すぐに島崎が俺の席に寄って来て心配そうな顔をしながら、神楽の様子を聞いた。
「なんか、寝不足だって言ってた。多分大丈夫だよ」 
「そう。良かった」
 島崎が良い奴だって知っている……だけど……。
「あいつ日曜に何かやってんのかな? 月曜日はいつもダルそうじゃん。島崎は何か聞いてないのかよ?」
 彼女なんだから知っているだろ? って心の中で呟いた。
「うん……わからない。神楽君、あんまり自分の事話してくれないんだ」
 島崎が少し寂しそうな顔をした。
「ふーん、そうなんだ……」
 心の中でホッとしている嫌な俺――。
「立木君でも知らないの?」
「俺でも知らないんだよ。何かバイトでもしてんじゃねーの」 
 ちょっと嫌味になってる俺……最低。
「そうなのかな?」

 前に皆で、月曜病じゃないかとか、女と夜遅くまでデートしているからだろう、とか言ってた事があったけど……あいつは、いったい何を隠しているんだろう? 島崎と会っているわけじゃないとしたら? 島崎にも俺にも……誰にも言えないような事って――。

「保健室に行ってやんなよ。どうしても島崎に会いたくて学校に来てるって言ってたから」 
「へーあいつ、そんな事いったんだ?」
 声のする方を見ると、いつの間にか隣に来ていた智也が、ニヤニヤと笑っていた。
「あいつが言うなんて、意外だよな」
 ちょっと嫌味っぽい感じがする、俺の言い方。

「すんげー惚れられてるな、島崎。絶対行ってやれ。ついでに2人で授業サボっちゃったら? ベッドもあるし」
「そりゃ、ヤバイっしょ? 学校だから」
 智也の後ろから、竹田がヒョイと顔を覗かせた。
「そうそう。先生だっているんだから。刺激しちゃだめだよ」
「何言ってるのよ! もう……」
 智也と竹田にからかわれて、島崎は真っ赤になっていた。

「立木君、一緒に来てよ」
「え?」
「保健室」
 智也達が何処かに行ってしまうと、島崎が俺を誘った。
智也達にからかわれてしまい、1人では行きにくかったのだろ。だけど、正直言うと、俺じゃなくて、自分の友達を誘ってくれれば良かったのにと思った。

 情けないことに俺は、神楽と島崎が一緒にいるのを見ると、いまだに辛くなってしまうのだ。さすがに食欲がどうの……という時期は過ぎたけど。
でも、断る理由が見つからなくて、仕方なく島崎と保健室に行くことにした。


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あふれる想いを唄にして・・・82
 昼休み以外についての神楽の行動パターンは、今までと変わっていないと思う。俺達と、くだらない事話したり、時々校庭に出て芝生の所に寝転がって昼寝をしたり、そんな感じだった。
今でも放課後に音楽室に行っているのかどうかは、わからなかったけれど。
 それから、変わらない事と言えば、月曜日にダルそうにしていることだ。
夜のバイトでもしているのだろうか? 学校にバレルとまずいから、誰にも言ってないのかもしれない。それとも、夜遅くまで島崎と一緒にいるとか…。

 12月に入って始めての月曜日、休み時間にいつものように、皆で話をしていると、窓際に寄りかかりながら立っていた神楽が、急に両手を机に付き青い顔をして俯いてしまった。
「おい、神楽? どうした?」
 俺が肩に手を掛けた途端、神楽の体がグラッと揺れて、俺にグッタリともたれ掛かって来た。そして、そのままズルズルと倒れ込むと、俺の腕の中で意識を失ってしまった。
 焦った俺は、すぐに華奢な神楽の身体を抱き上げ、保健室に連れて行った。
 養護の河嶋先生がちょうど席を外していたので、とりあえず彼をベッドに寝かせてやった。

 俺は、ベッドの横の椅子に座って、目を閉じている神楽を見つめていた。
いったい、どうしたんだろう? 聞いたら何か教えてくれるのだろうか? 青白い神楽の頬を、震える手で、そっと撫ぜてみた。その時、瞼が微かに動いたので、俺は慌てて手を離し椅子に座りなおした。
 その綺麗な寝顔に見とれていると、彼が目を開け、2人で見つめ合うようになってしまった。息苦しかったけど、俺は目を逸らせなかった。

「立木? 俺どうしたんだろう?」
 神楽が周りを見回してから、もう一度俺の目を見つめながら言った。
「教室で急に倒れたんだぜ」
 俺はそう言ってから、不自然にならないように視線を外した。
「そっか。もしかして、立木が運んでくれた?」
「そうだよ。寄りかかって来たと思ったら、急に倒れちまってさ。すっげー驚いた」
「ごめん。重かっただろ?」
「いや、わかんなかった。すっげー慌ててたから」
「そう。ホント、ごめんな」
 青白い顔の神楽が、辛そうにそう言った。
「具合悪いの?」
 そんな疲れたような顔して、一体どうしたって言うんだろう?
「何でもない。寝不足だから、多分そのせいだと思う」
 神楽が頭を振った。
「無理すんなよ。具合悪かったら休めよ」
「ん……でも会いたいから」
 神楽の辛そうだった顔が、わずかに微笑んだ。
「べた惚れなんだな? 島崎に――」

 神楽は、天井を見上げ、フッと溜め息をついた。それからもう一度、俺の事を見て「ありがと」と言うと、また目を閉じてしまった。  



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あふれる想いを唄にして・・・81
 部活後、着替えを終えて、智也と学校の門を出ると、運悪く、神楽と島崎と一緒になってしまった。
 俺は、島崎と神楽が一緒に居る所なんて見たくなかった。
いったい俺は、どんな顔してるんだろう。普通の顔をしているんだろうか?

「よっ、神楽。上手くいってるみたいだね〜」
 智也が冷かすように声を掛けた。
「ん? あぁ、もちろん」
 神楽が嬉しそうに笑った。
 早くこの場から離れたい――俺の頭の中は、その思いでいっぱいだった。
「そりゃ良かったなぁ。お前が女の子といて、そんなに楽しそうにしてるの見るの初めてのような気がするぜ。なぁ、立木」
 智也が茶化すような声で、そう言った。
「え? あーそうだよな。他の彼女の時は、いっつも面倒くさいとか言ってたような気がするよ」
 俺は神楽を見ないようにしながら、思わず嫌味を言った。
「立木、お前そういうの島崎の前で言うなよ」
 智也が俺の頭を叩きながらそう言った。智也にまで、注意されちまうなんてなぁ……。
「あ――悪い悪い」
 俺は、居た堪れなくて、頭をかく。
「別に平気。神楽君がモテルの分かるから」
 島崎が笑いながらそう言った。
「ふーん。島崎は大人だなぁ」
 智也が感心したように言った。

 俺は島崎と違って、全然大人じゃない……神楽が嫌がることを次々と言ってしまいたいような気分だった。
 マジ……俺ってちっせー奴。

「神楽君ね、よく立木君の話するんだよ」
 島崎が嬉しそうな顔をして、俺の事を見た。俺は思わず眉間に力が入ってしまいそうになった。
「へぇ、そうなんだ」
 島崎、そんな笑顔で、俺を見ないでくれよ――。
「親友っていいわよね」
 軽やかな声で島崎が言った。

 俺たちって本当に「親友」なのか? 島崎と付き合うようになった話だって、結局、神楽本人の口からは何も聞けなかった。
いつの間にか、あいつが島崎の傍にいるようになって、クラスの誰かが「2人は付き合っているのか」って聞いたら、あいつが、「そうだ」って答えて、それがクラス中に広まった――それだけだ。

 前から、彼女についての話を殆どしたことがなかったから、神楽にしたら、それが自然だったんだろうけど、少しくらい話してくれてもいいのにと思った。

「あ、俺達さ、ちょっと寄る所があるから。じゃーな」
 俺はどんどん落ち込んでしまう自分がいやで、まだ何か話したそうな智也を引きずるように連れて、その場を離れた。



 神楽が島崎と付き合いだしてから、1ヶ月位が過ぎた。
 この頃2人は、いかにも付き合っていますよって感じで、昼休みになると必ず2人で楽しそうに弁当を食っていた。それも中身がおそろいの弁当だ。
 そんな神楽達の幸せそうなツーショットを見たくなくて、俺は智也達と学食に行って食ったり、パンを買って殺風景な屋上で食べたりする事にしていた。

 それでも、2人が付き合っている事は、自分の中でかなり自然な事として思えるようになっていた。だけど、目の前であいつが島崎といて、幸せそうに話をしているのを見るのはやっぱり辛い……。



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あふれる想いを唄にして・・・80
「――俺は元気だって。それよかさ、お前こそ陽子に告らないのかよ?」
 俺は、これ以上神楽の話題に触れられたくなくて、智也に話を振った。
「え……だってよぉ、断わられたら俺、立ち直れないしさ、今のまま友達でも結構楽しいし」
 智也が珍しく、拗ねたような顔をして、ブツブツ言い始めた。
なんだか、智也らしくないと思ったけど「今のまま友達でも」ってとこには、妙に共感してしまった。
 脳天気な智也でも、戸惑ったり、悩んだりするんだな。


 数日後の部活の時間、神楽が久しぶりに体育館に見学に来た。
「立木、智也、ゆみー。見に来たよ」
 俺と智也の名前の後に、島崎の名前まで呼んでいた。胸がチクンと痛くなる。
「おう」
 俺はいつものように、軽く手を振ってから、島崎の方を見る。女バスのコートで、頬を染めた島崎が手を振っているのが見えた。
 息が詰りそうな感じだ……胸が苦しいってこういう事なんだ――。

 その時、女バスの坂本先輩が、ズンズンと俺と智也の傍にやって来た。
「ちょっと、立木! なんで神楽君が島崎の名前まで呼んでるのよ?」
 先輩は、不満げに唇を尖らせていた。
「先輩知らないんすか? あいつら付き合ってるんすよ」
 その言葉を言うと、俺の胸が再びズキズキと痛み出す。

「うそーマジで? なんで島崎なのよ?」 俺だって、知らないよ――。
「わかんないっすよ。神楽に聞いてみて下さい」
「そんなの、聞けないわよ! ショック〜」
 坂本先輩が、その場でしゃがみ込んでしまった。

 俺だって、言葉に出来ないくらいショックなんだ。ここ数日おフクロ達にからかわれるほど食欲がない――。

「でも、今まであいつが告った事なんて無かったから、今回は真剣なんだと思いますよ」
「え? 神楽君が?」
 しゃがみ込んでいた坂本先輩がぴょんと立ち上がった。
「立木、お前知ってたのかよ?」
 隣から、智也の驚いたような声が聞こえてきた。
「いや、俺、見ちゃったんだよ。神楽が島崎に、『付き合って欲しい』って言ってんの」
 思い出したくないあの日の光景が、再び頭の中に浮かんでくる。
「へぇ?! 俺も見てみたかったぜ。あいつが告ってるのなんて、想像できね」
 俺は、見たくなかったのに――。
「あぁ……私、もう、今日練習したくない」

 先輩と3人で騒いでいると、笛の音が聞こえきて、すぐに練習が始まった。

 その日の練習はいつも以上に疲れた。
とにかく、ひたすら練習に集中した。動き回っている間は何も考えないでいられるから――。
 だけど……目の端に島崎を見つめている神楽の姿がうつるたびに、息苦しくて、俺は小さく溜息をついた。



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