家に着いて、玄関のベルを鳴らした途端、おフクロが玄関にすっ飛んできた。
「いらっしゃい! 神楽君」
家から出ない日は、手抜きの化粧しかしていないおフクロが、いつもよりも数段キレイに化粧をしていた。
「明けましておめでとうございます。お正月からお邪魔しちゃってすみません」
神楽が丁寧に挨拶をしてから、ペコリと頭を下げた
「あら、いいのよー。去年のお正月から、悟が、今度のお正月には神楽君を呼ぶから――って言っていたのよ。それなのに、今朝聞いたら、誘い忘れたとか言ってて、実はガッカリしてたところだったのよ〜来てくれて、嬉しいわ」
おフクロが、家では見た事もないような笑顔を、神楽に向けていた。
「ありがとうございます。俺も、嬉しいです」
神楽の横顔をチラッと見てみたら、さっきまでとは打って変わって、明るい表情をしていた。神楽が元気になってくれて、俺は単純に嬉しかった。
神楽を家の中に招き入れると、居間にいたオヤジが一瞬驚いたような顔をした。
服装こそ、派手では無いけれど、金髪頭の友人を連れて来たわけだから、その反応は仕方無い事なのかもしれない。考えてみたら、おフクロがその点について無反応だった事の方が、不自然だったように思えた。
まぁ、あの人は、神楽に会うことが楽しみだったから、どんなカッコをしてようが、全然気にならないのだろうけど。
それからしばらくの間、オヤジと一緒にコタツに入り、正月のテレビを見ながら、話をしていた。
酔ったオヤジが「神楽君は悟と違って礼儀正しくて良い奴だ」と何度も言っていた。「どんな格好をしていても、目上の人間にキチンと話が出来る奴が生き残っていく世の中なんだよ……」とか言って1人で納得したりしていた。
俺としては、オヤジの話は全然面白くないので、いつ部屋に行こうかとタイミングを見計らっていたのだけど――。
「それじゃ……」
話が途切れた時、部屋に行こうと思い立ち上がろうとした。
「お茶にしましょ。さっき隣の方からお菓子頂いたのよ〜」
台所からお盆にお茶とお菓子を乗せたおフクロが来てしまい、また、席を立つタイミングを逃してしまった。
「え……あぁ」
ここで部屋に行くと言ったら、絶対後で文句言われるだろう――。
「そういえば、神楽君、彼女が出来たって聞いたんだけど……どんな子なのかしら。おばさん、ちょっとショックだったわ」
テーブルに、饅頭の入った器を置きながら、おフクロが言った。
「あのなぁ、おフクロ、そういうのやめとけっての」
いい年したおばはんが、恥ずかしいって思わないのかよ……。
「あら、いいじゃないの。あんただって、あんなに落ち込んでた――」
そう言いかけたおフクロの口に饅頭を押し込んだ。何言おうとしてんだよ?!
「アホか」
ムッとしながら、俺も饅頭を手に持って、自分の口に放り込んだ。
「ちょっと、何するのよ。酷いわねぇ」
お茶を飲みながら、おフクロが俺の背中をバシンと叩いた。
「グッ」
俺は、危うく饅頭を拭き出すところだった。
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