−甘嘘別館−  
♪ハッピーエンドのBL小説を連載します♪

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Author:りょう
BL小説を書いてます。
よろしくお願いします☆
別館では18禁小説は連載しません。
本館へ行かれたい方は、コメント等でお問い合わせ下さい。
(メールアドレスをお忘れなく…)

☆おことわり☆ 
「出会わなければ」には、実在のバンド、メンバーと似た人物が出てきますが、実在の人物とは一切関係ありません。

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あふれる想いを唄にして・・・79
 体育館前に落ちていたタオルを手にとり、パンパンと叩く。汗が冷えてきて、少し寒く感じたので、 タオルを首にかけると急いで部室に戻ろうとした。

 その時、校舎の陰に神楽がいるのが見えた。何でそこにいるのか疑問にも思わず、もしかしたら、一緒に帰れるかも――と呑気に考え、声を掛けようと神楽のいる校舎のそばに近寄った。

「俺、君が好きなんだ」
 突然、神楽の声が聞こえて来た。その声に胸がキュッと痛くなった。
相手がどうしても気になった俺は、校舎の陰からそっと様子を伺ってみた。すると、神楽の向こう側に、まだユニフォーム姿のままの島崎が立っていた。

「え? 私?」
 島崎の頬が真っ赤に染まった。島崎も神楽を――?
「俺と付き合って欲しい」
 神楽の声が緊張しているのがわかる。俺はずっと神楽を見ていたんだから――。

 軽い眩暈を覚え、俺は2人を見るのをやめ、校舎に寄りかかった。
神楽と島崎が……
「私で良いの?」
 暫くすると、島崎の声が聞こえて来た。
「君が良いんだ……」
「嬉しい。何だか、嘘みたい――」
 俺は胸が張り裂けそうだった。その先の話を聞くことに堪えられず、放心状態のまま部室に戻った。

 神楽が女の子と付き合うなんて、前から何回もあった事。でも、今までは、相手から告白されて――って事ばかりだったはずだ。
 自分から告白して付き合うなんて、多分、初めてだと思う。これは今までの彼女達とは違うんだ――ずっと前に言っていた、告白出来ないでいる人の事は、もう吹っ切ってしまったのかも知れない――。
2人の会話が、頭の中でグルグル回っていた。

 翌日から神楽は、休み時間になると、島崎の所に行って話込んでいた。
女子の島崎を見る嫉妬の目をよそに、嬉しそうな顔の神楽。あんなにいつも、俺達とつるんでいた神楽が――。
「いやぁ、神楽が自分から女の所に話しに行くなんてさ。びっくりだよな」
「あぁ。そうだな」
「それにしても、島崎か――お前は良かったのかよ?」
 智也が俺の顔を覗き込んだ。
「あー別に」
 良くない。だけど、言えるわけないじゃないか。
「ホントはショックなんだろ?」
 胸がズキンと痛かった。
「うーん」
 そりゃショックだよ。あいつが自分から女に告ったんだから。
「だから、前に言ったじゃん……」
「ハァ」
 でも、これで、良いんだ。きっと。
「まぁ、神楽じゃ、勝ち目ないよな」
「……」
「ま、元気出せよ」
 勘違いしている智也の励ましに、俺は苦笑いで答えた。



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あふれる想いを唄にして・・・78
 10月に入ったある日の休み時間、いつものように皆で話をしていると、神楽の横にいたあずさが急に声を上げた。
「あれ、神楽君?」
「え? 何?」
 突然の声に、神楽が驚いたような顔をした。
「ねぇ、指輪はどうしたの?」
 あずさが、神楽の左手をジーッと見つめていた。
「もう、ずいぶん前からしてないよ」
 そう言って、神楽が左手をヒラヒラ振っていた。

 あまり意識して見ていた事が無かったからだろうか? 俺は、全然気がつかなかった。夏休み会った時は、していたような気がする――あの時は、確か、他にも何本か指輪をはめていたから、あの指輪かどうか分からないけれど……。

「そうだったっけ? 変だなぁ気が付かなかったなんて? ね、それって彼女と別れたって事?」
 あずさが嬉しそうにニコニコしながら、神楽を見て、小首を傾げた。
「……まぁ」
 神楽が、言葉を濁した。 彼女は、いなかったハズだもんな――
「うわぁ! チャンスじゃない」
 陽子があずさの肩を叩いた。
「そうだよね? ねぇ、神楽君、私と付き合って!」
 あずさが、神楽の手を掴んだ。

 何て軽いノリなんだろう? でも、そんな感じで言われたら「ごめん! 付き合えない」も軽く言えるのかもな……。
「あのさ、俺、好きな子と付き合いたいんだ。ごめんね」
 フッと顔を上げた神楽は、チラッと俺を見てから、視線を何処かに向けていた。神楽の視線の先には、誰がいるんだろう?
「えー?! ショック。私のこと嫌いなのね……」
 あずさが俯いてしまった。
「な、泣くなよ……。嫌いとは言って無いじゃん……」
 俺は、あずさが泣きそうになっているのを見て、焦って慰めようとした。
「あずさぁ、やめなよね」
 慰めようとする俺を止め、陽子が呆れたような顔をしながら、あずさを見た。
「えへ? 分かった?」
 あずさがペロンと舌を出した。
「当たり前でしょ」 
 陽子が、ニッコリ笑った。
「何だよ。ビックリさせんなよ」
 まったく……泣きまねだったのかよ。
「だってさ、神楽君に彼女が出来る度に、落ち込んでるわけにはいかないのよ。いつか、自分の番があるんだ! って思ってないとね」
 こういうのにも順番待ちがあるのか? 女って逞しいよな。

 それから数日経った、ある日の放課後、部活が終わって、俺は着替えようと部室に向った。部室に着いた途端、タオルを持っていない事に気づいたので、着替える前に取りに戻ることにした。  



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あふれる想いを唄にして・・・77
 数日後、再び部活が始まった。そして、長かった夏休みも、あっという間に終わってしまった。

 2学期の初日、俺らのクラスに転校生が来た。
先生の後からついて来たのは、背の高い、いかにもスポーツをやっていそうな感じの女の子だった。

「島崎夕実です。前の学校では部活でバスケットボールをやっていました。よろしくお願いします」
 先生の紹介の後に、そう自己紹介した彼女の印象は、ちょっと見キツそうだな――ってくらいで、それ以上の事は特に何も思わなかった。
 さっぱりした性格の島崎は、あっという間にクラスにもなじんで、友達も出来ていたようだ。
 部活も前の学校と同じバスケ部。前の学校が、かなりレベルが高かったのか、「一度もレギュラーになった事が無い」と言っていた彼女は、うちの女バスに入った途端、レギュラーになった。
 俺も智也もバスケ部だから、島崎とは、何かと話をする機会が多くて、休み時間にも、皆に混じって話をしたりする事もあった。異性としてではなく、友達として側に居ても肩のこらない相手だと思っていた。

「なぁ、立木、島崎はどう?」
 ある日の休み時間、いつものように神楽達と集まっていると、突然、智也がそんな話を始めた。
「何がだよ?」
「巨乳じゃないけど、わりかしキレイっぽいじゃん」
 智也がそう言ってニヤニヤ笑っていた。
「はぁ? 考えた事ないなー。それに、あいつ、キレイか?」
 智也の顔を覗き込むと、「まぁ、将来的にキレイになると思うってのが正しいけど」って言い返してきた。

「でもさ、何気に仲良いじゃん島崎と」
 俺の額を指で押しながら、村上が言った。
「まあ、悪くないけど――」
 今まで、そんな風に見たことはなかったから……。
「俺、わりかし好きだよ、あいつ。すっげー付き合いやすいじゃん」
 村上がさらっと言った。こいつは、嫌いな女がいないんだと思う。
「俺も、そう思うよ。島崎って、話しやすいから」
 黙って聞いていた神楽が、そう言って島崎の方を見た。
「へー、珍しいねぇ、神楽がそういうこと言うの?」
 竹田が神楽の顔を観察しながらそう言った。俺は、ホンノちょっとだけ、いや、かなり島崎に嫉妬してしまった。

「ほら立木〜ボヤボヤしてたら、誰かに取られちまうぞ?」
 智也の言葉に、しばらく考え込んでしまった。取られるも何も……。



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あふれる想いを唄にして・・・76
「まぁね。でも、夏らしいだろ?」
 ホントは焼き過ぎて後悔していたけれど、神楽にからかわれたのが悔しくて、俺は言い返した。
「あーあ……なんか、羨ましいよなぁ。俺が従兄弟の相手してる頃、立木達は女の子と楽しく遊んでたんだよなー」
 神楽が俺の事を肘で小突いた。へぇ……神楽ほど女にモテル奴でも、羨ましいって思ったりするんだ? からかわれて悔しい――とか思っていた気持ちが、あっという間に消えていった。
「いや、悪いねぇ、神楽」
 初めて神楽に優越感のようなものを感じて、俺がそう言うと、神楽は背伸びをして、俺の頭をポカンと叩いた。
「チェッ、嫌な奴」
 そう言った後、神楽がクスクスと笑い出した。


「なぁ、仲良くなった子とかいた?」
 しばらく笑った後、神楽が俺の脇腹をグリグリ押しながら、聞いてきた。
「それがさ、珍しく俺の事気に入ってくれた子が居たらしいんだ」
 俺は神楽にヤキモチを妬いて欲しくて、ミドリの話をした。
「へーそうなんだ。この間は言ってなかったじゃん。巨乳も美人も居なかったとか言ってさ」
 神楽が普段と変わらない声のトーンで聞いてきた。

 俺はどんな反応を期待してたんだろう? ヤキモチ妬いて欲しい――なんて、俺、バカじゃないか――。
「巨乳でも美人でもなかったけど、わりかし可愛かった」
「そっかー。良かったじゃん」
 神楽が笑顔でそう言ってくれた。

 ミドリの話なんてするんじゃなかった――って、俺は後悔していた。全然心が満たされない――。
「立木は、その子と付き合うの?」
 しばらくお互いに無言で歩いていた後、神楽がポツリと言った。
「いや――」
「……好きじゃない子とは、付き合うなよ」
 『付き合わない』って言おうとしたら、神楽が先に口を開いた。
「え?」
「付き合うんだったら、陰で面倒だ……とか言うなよ」
「何だよ、それって、俺が前に言ったことだろ? お前に言われるとはなぁ」
「だって、俺、それで女と別れたんだからな」
 神楽に、恨みがましい目を向けられてしまった。悪いのは俺か? なぁ?
「付き合わないよ。だって俺――」
 『お前が好きだから』って心の中でこっそり呟いた。
「だって……って何さ?」
 神楽が不思議そうに、俺の事を見ていた。どう考えても、言えるわけない……
「何でもない」
 俺は、神楽から視線を逸らした。
「巨乳で美人が良いから――じゃないの?」
「そうかもね」

 高校を卒業して離れ離れになったら、神楽に対する淡い想いも、今日の花火のように儚く消えていくのだろうか?



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あふれる想いを唄にして・・・75
 子供の頃は、人の多さや、花火を打ち上げる大きな音、そして頭に降りかかってきた火の消えきっていない灰、そのすべてが恐くて、花火がキレイだって事に気がついていなかったのかもしれないと思った。それとも、やっぱりこいつと来たからなんだろうか? 俺は、横にいる神楽を、チラッと見た。

「キレイだね」
 夜空を見上げたまま、神楽が目を輝かせていた。
「ホントだな。来て良かったよ」
 そう答えたら、神楽が俺のほうを見て、満足そうに微笑んだ。やっぱりコイツなんだよ……。俺は心の中で呟いた。
「お、すげー! あれって何か、顔っぽくない?」
「だよなー。さっきのなんて、ハートだったしさぁ」
「俺が陽子を思ってるみたいな、でっかいハートだったよなー」
「ん? 大きくても、すぐに消えちゃうようなハートなのか?」
「なにー!」
 俺達の後ろに座った智也と竹田の掛け合いが可笑しくて、神楽と一緒にずっと笑いながら、花火を楽しんだ。いつまでもこの時間が続いてくれたら良いのにって思いながら――。


 続けざまにたくさんの花火が上がり、花火大会終了の放送が聞こえてきた。
「終わっちまったたなー」
 智也の少し寂しそうな声が聞こえた。
「そうだな」
 そう言いながら、俺は立ち上がった。
「キレイだったね。来年も皆で来られると良いよな」
 神楽がスッと俺の横に立った。
「一緒に来ようぜ、来年も――」
 絶対な……って、俺は心の中で呟いた。

 花火の余韻に浸りながら、周りの人達が動き出すのを待っていると、俺の隣で智也と竹田が、急にソワソワし始めた。
「俺らしょんべん行きてーから、トイレ行ってから帰るわ。お前らどうする?」
 花火の間に缶ビールを飲んでたからだろ? 未成年のくせに――。
「俺は行きたくないけど」
「俺も」
 俺と神楽がそう言うと、「じゃさ、先帰っていいわ」と言って、2人が慌ててトイレの列むかって走って行った。これだけ多くの人がいては立ちションは出来ないだろうなぁ。
 残された神楽と俺は、2人で駅に向かった。

「すごい人だなー」
 人の流れに押されるように歩きながら神楽が言った。
「ホントだな」
「あ、立木、向こうの方が空いているみたいだから、少し遠回りしていこうぜ」
 俺は神楽について、人の波の中を少しづつ移動した。
 混雑の中、あちこちから押されながら、やっと横道に抜ける事が出来た。
「……イテテ」
「どうした? 立木」
 神楽が心配そうに俺の顔を覗き込んだ。
「いやさぁ、日焼けした所を、押されてな――」
「あぁ、そっか。可哀想になぁ。焼き過ぎると、お肌に悪いぜ、立木」
 神楽が茶化すように言った。  



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あふれる想いを唄にして・・・74
 背中を庇いながら逃げ回っている俺達を見て、神楽が声をたてて笑いだした。
「お前らだけで、楽しんできたからだよ!」
 神楽がそう言いって、俺の肩をもう一度叩いた。
「いってー!」 
「けど、お前、旅行中だったんだろが」
 痛がる俺をチラッと見て、智也が焦った顔をしながら、そろそろと神楽から離れた。
「まーね。今度は俺も連れて行けよ」
 神楽がニヤッと笑いながら、智也に近寄っていった。
「わ、わかったって」
 智也がそう答えると、神楽が両手を腰に当て、「よし」と言いながら頷いた。

「なぁ、それよかさ、お前、ますます外人みたいになったよな? 海外旅行いって外人になって来たとか?」
 そう言った智也に、呆れたような顔を向けながら、神楽が首を振った。
「ありえないし。旅行は海外じゃなくて北海道」
「ふーん。で、土産は?」
 智也が右手を出した。
「え? 土産なんているのかよ?」
 神楽が智也の右手をパチンと叩いた。
「チェッ、つめてーの」
「涼しくなって良かったじゃん。さぁ、行こうぜ。場所取らないと」
 智也の言葉を軽く受け流すと、神楽がそう言って歩き出した。

「でもさー、なんでこんな風にしたんだよ?」
 竹田が、隣りを歩いている神楽の髪を触りながら聞いた。
「まぁ、ちょっとね」
 ちょっとって何だよ、ちょっとって――? 
「お前って私生活良くわかんないよな。誰かの真似とか?」
 気になっていた事を、竹田が聞いてくれた。
だけど、「わからない方がいいじゃん。ミステリアスで」なんて、完全にスルーされてしまい、肝心な事は聞けないままだった。
「なんだかなぁ……ま、いいけどさ。あんま、悪い事すんなよな」
 智也がそう言って、神楽の頭をぐりぐり撫ぜた。
 そう言う智也も、とても、真面目な高校生には見えないんだけど――。


 5分位歩くとで花火大会の会場である河原の土手に到着した。人、人、人である。
俺達は、すぐに屋台で適当に食べ物を買うと、手ごろな見物場所を確保した。

 そして、肉の入っていない焼きそばを食い終わった頃、花火が始まった。

――ヒュー ドンドン。ヒュー ドン――

「うわ! すっげぇ」
 久しぶりに間近で見た花火は、思っていた以上に大きくて、とてもキレイだった。



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あふれる想いを唄にして・・・73
 その後、神楽はメールで、花火大会には、俺と神楽と智也と竹田の4人で行くことになったと知らせてくれた。
 村上はきっと、女の子と一緒に見に行くんだろうな――。

 花火大会の当日、出かける間際に、花火を見に行く事を話すと、おフクロが訝しそうな顔をして俺を見た。
「あら、珍しいじゃない。あんたは人込みがいやだって、ずっと行かなかったのに」
  まぁ、確かにそうだけど、行く相手によるんだってば。家族の為の場所取りを兼ねた花火大会には行きたくないだけで――。
「いいじゃん。友達に誘われたんだよ」
 おフクロの視線を避けてそう言ったら、おフクロは、無理やり俺の視界に入って来て、目を輝かせた。
「ホントは、彼女と行くんじゃないの?」
「違う。智也とか竹田」
 去年一年で、俺はちょっとは学習した。神楽の名前を出さない方が、余計な突っ込みに合わないですむんだ。
「何よ、また原田君達なの? ホントに仲良いのねぇ、あんた達」
「ん、そゆこと。じゃ、行ってくる」
 これ以上しゃべっていると、墓穴を掘りそうなので、話を早々に切り上げ、出かける事にした。
「気を付けるのよ」
「わかってるって……」


 待ち合わせ場所に最初に到着した俺は、人の流れを見つめながら皆が来るのを待っていた。
「おーい、立木!」
 『一体何処からこんなにたくさんの人が集まってきたんだろう?』 ボンヤリとそんな事を考えていると、大きな声で名前を呼ばれ、急に我に返った。
「おう、遅かったじゃん」
 俺は、目の前にいる智也と竹田に声をかけた。
「もっと早く来たんだけど、人が多くて探せなかったんだよ」
 竹田が額の汗を拭きながらそう言った。
「ホントかよ?」
「ホントだって。なぁ」
 2人で顔を見合わせていた。
「それよか、神楽は? まだ来てないの?」
 そう言って、竹田がキョロキョロと辺りを見回した。ちょうどその時、神楽が俺達の方に向って歩いてくる姿が目に入った。
 夏休み前は、殆ど地毛の茶色に戻っていた髪の色が、再び鮮やかな金色に変わっていた。
「おー神楽……?」
 驚きながら、神楽の顔を見ていると、突然、神楽が俺達の背中を順番にポンポンと叩き始めた。
「みんな、真っ黒に日焼けしたじゃん」
「ちょっと、お前なぁ!」
 智也の情けない声が聞こえた。
「いてーっつーの!」
 竹田が神楽の側から飛び退いた。
「神楽ぁ? お前、結構ひでー奴なんだな?!」 


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あふれる想いを唄にして・・・72
「うん、まぁ、楽しかったよ。『夏』って感じだったなぁ。智也と村上が女の子に声かけてさ、一緒に遊んだ」
 ホントは神楽のことを考えていたんだ――なんて口が裂けても言えないよな――心の中で溜息をつく。
「ふーん。なぁなぁ、可愛い子いたんだろ?」
 神楽がからかうような声できた、
「そうだなぁ、みんな、ほどほどに可愛かったんだけどさ、でも、――」

 ――でも、――って、何を言おうとしてるんだよ? 俺は!

「でも、何?」
 神楽に聞かれ、内心焦ってしまう。
「でも、巨乳で美人はいなかったんだよね」
 ――でも、俺はお前の方が良い――口をついて出そうだったその言葉を飲み込み、毎度御馴染みのセリフを言った。
「そっか。残念だったなぁ、立木」
 吹き出しそうになりながら、そう言った神楽に、俺はちょっとムッとしてしまった。
――まったく! 本当に残念だよ。新しい出会いが出来ると思っていたのに、お前のせいでチャンスを逃してしまったんだから――って神楽は何も悪くないのに、俺は心の中で八つ当たりをしまくった。

「ところで、神楽はどうしてた?」
 俺は、1人で焦れているような気分になり、慌てて話題を変えることにした。
「んー親戚の所行ったり、色々ね。今ね、従兄弟の家に来てるんだ。ちびっこの相手ばかりで疲れたよ」
「へー。そうだったんだ」
 俺は、神楽の私生活を初めて聞けたような気がして、ちょっぴり嬉しかった。

「それでさ立木、今週の土曜日なんだけど、花火大会あるじゃん」
「え? そうなんだ?」
 突然花火大会の話になったけど、花火大会なんて、子供の頃見に行ったきりで、最近はちっとも行っていない。だから、今年の花火がいつあるかなんて事も、俺は知らなかった。
「良かったらさ、一緒に行かない?」
「え……」
 神楽の誘いに心臓が高鳴った。
 混むから行くのが面倒だ――と思っていた花火大会だけど、神楽と会えるなら、絶対行くぞ! 俺は、ベッドに起き上がり、ガッツポーズをしながら答えた。
「もちろん、いいぜ」

 昔は、大人に囲まれて、暑苦しい中を歩かされたのが嫌だったけど、今は、背だって人並み以上になったことだ、人込みに埋もれてしまう心配だって無いんだ。
「皆にも声かけてみる?」
 神楽の声が続いた。
「あぁ……良いね」
 そっか、2人っきりの訳、ないよな――と思い、苦笑する。
「んじゃあ、俺、聞いてみるよ。皆と連絡取れたら、メールするから」
「分かった……」
 週末には神楽に会える……そう思っただけで、メチャメチャ幸せな気分になれる、俺だった。 

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あふれる想いを唄にして・・・71
 夕方になって、浜辺で女の子達と別れた。
村上と竹田はいつまでも名残惜しそうに、手を振っていたけど、そんな中、智也だけは余裕の表情をしていた。

「はーい、それじゃ、あの子達のケータイ聞きたい人?」
 智也が嬉しそうに言った。
「そりゃもちろん!」
 村上と竹田が智也の携帯に飛びついた。
「いつの間に聞いたんだよ? さすがだよなぁ、智也は」
 そう言いながら、2人は彼女達の携帯番号を自分の携帯に登録していた。

「立木はいいのか? ミドリちゃんがお前の事、気に入っていたみたいじゃねーの?」
「そうだよ。2人でいい感じだったじゃん」
「そうかな? だってさ、あいつ、巨乳には程遠かったし……」
 巨乳とか、美人とか、ホントはどうだって良いんだ。だけど、理由が必要だろ? ミドリと付き合いたくないっていう――。
「また、それかよ……結構かわいかったと思わね?」
「俺は美人がいいんだよ」
「バカだなぁ。お前、ホント身のほど知らずだよな」
 自分でも、とんでもないアホだと思うよ。
「うるせーな。いいんだよ」
 俺はムキになり、ドンドン先に歩いていった。
 普通に恋愛したいって思ってはみたものの、誰と居ても、どうしても神楽と比べてしまう。あいつといる時の、幸せでドキドキするような感じ、やっぱり全然違う。

 海の家でシャワーを浴びてから、帰り支度をした。
無理して焼いた背中がひりひり痛かった。
帰りの電車では、みんな疲れきって眠ってしまい、危なく乗り過ごしそうだった。


 その夜は、疲れていたので早めにベッドに潜った。
夢と現実の境を彷徨っていると、突然、枕元で携帯が鳴り出した。
眠たかったので出るのをやめようかと思ったけれど、半分、意識の無い状態で発信者を確かめた。
「あ……神楽じゃん」
 眠気は、すっかり何処かに飛んでいってしまい、俺は慌てて通話ボタンを押し、携帯を耳に当てた。
「やあ、久しぶり」
 会いたくてしょうがなかった、あいつの声が聞こえてきた。
「あぁ。久しぶり」
 さり気なく答えたつもりだけど、自分でも驚くような弾んだ声だった。
「なぁ、海は楽しかった?」
 ちょっぴり舌っ足らずな声がそう聞いてきた。   


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あふれる想いを唄にして・・・70
「あ、俺ちょっと疲れたから、少し休んでるわ」
 皆は海に入ると言っていたんだけど、俺は砂浜に残ることにした。
 
 ビーチバレーと言っても、最初のうちは、輪になって普通にボールを打ちあっていた。
だけど、その後、竹田が入って暫らくすると、急に3対4で試合しようって事になり、何故か俺が女の子チームに入れられて、ヤロー3人から総攻撃を受けてしまったのだ。

 ヘトヘトに疲れきっていた俺は、ドカリとシートに座り込んだ。
「そっか。じゃ、皆も荷物こっちに持って来れば? 立木が見ててくれるし」
 村上が爽やかな笑顔で、女の子達に言った。この笑顔に大体の女の子がコロッとひっかかるんだよな――。
「うん、そうする。ちょっと待ってて。今荷物とって来る」

 彼女達が戻ってきてから、俺は皆の荷物番をしながら、一休みする事にした。
 女の子はみんな、ほどほどに可愛いかったし、遊んでいて普通に楽しかった。
だけど、1人砂浜で寝転がっているうちに、俺は急に神楽に会いたくなってしまった。新しい出会い所じゃないよなぁ――。
俺はシートの上で、1人で溜息をついた。

「立木君?」
 声が聞こえて、目を開けると、確か、ミドリって名乗っていた子が俺の横にしゃがんでいた。
「あれ? 皆は?」
「まだ、海で遊んでるよ」 ミドリが海のほうを指差した。
「そっか。元気だよなぁ、あいつら」 
「ホント。でも、私は疲れたから、ちょっと休もうかなーって」
 そう言うと、ミドリはシートの端に座って、自分の足に砂をかけて山を作って遊んでいた。
 しばらく彼女と一緒に、お互いの学校の話とか、部活の話とかをしていた。
 フッと視線を移すと、神楽には無い柔らかい身体の線が目に入った。それでも、何も感じない自分に密かに驚いていた。
胸が大きいわけじゃないけど、確かに女性の身体だ……なのに、全然ときめかない俺って、どうなってしまったんだろう――。

「あのさぁ、立木君て、彼女とかいるの?」
 話題が途切れた後、急にミドリに聞かれた。
俺の頭の中には女性の身体とは程遠い、神楽の姿が浮かんでいて……。
「え……?」
 俺は一瞬何を言われたのか、頭が回らなかった。
「立木君が彼氏だったら、いいなーって思って。あの、もし、彼女いなかったら――」
 ミドリが恥ずかしそうに笑いながら、俺の事を見つめていた。
 可愛らしい顔と女の子らしい身体――ここで彼女がいないって本当の事を言ったら、ミドリと普通の恋が出来るのかもしれない――。

「あのさ、ごめん……」
 だけど、俺の口からは『彼女なんて居ないよ』って言葉は出てこなかった。
「なーんだ。やっぱり彼女居るんだよね。残念・・・」
「うん……」
 ちょうどそこに皆が戻ってきて、俺達はちょっとだけ冷かされた。

 ごめんな……彼女は居ないんだけど、どうしようもなく好きな奴が居るんだ。
本当に、どうしようもないんだけど……。  
 

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あふれる想いを唄にして・・・69
「はいはい……行ってらっしゃい」
 俺はナンパしに行く智也と村上を、シッシッと追い払った。
 隣のシートを見たら、竹田はすっかり熟睡しているようで、暫らくするとゴーゴーと、いびきが聞こえて来た。

 顔を上げ、少し離れた所にいる智也達の後ろ姿を見てみると、あっちこっちの女の子グループに声をかけていた。いかにも年上ってグループにまで。まぁ――とにかくマメな奴らだよ。

 シートに寝転がって気持ちよくウトウトし始めると、智也達の煩い声が聞こえて来た。目を開けて見ると、智也と村上が3人組の女の子達と一緒に戻って来ていた。どの子も、巨乳からは程遠いけれど、程々にかわいい子達だ。でも、3人って事は――俺は、竹田が寝ているうちに仲良くなってしまおうと思い、早速、智也達の連れてきた女の子に声をかけた。
「遊ぶものとか持って来てるから、早く遊ぼうぜ。今、寝てる奴いるけどさ」
「何だよ? 急に乗り気になってさ。好きなタイプいた?」
 俺がボールを持って立ち上がると、智也が側に寄って来て耳打ちした。
「ん? そうじゃないけどさ、やっぱ、楽しまないとね」
 俺はそう言いながら、女の子達と話し込んでる村上に向かって、ボールを投げた。
「ふーん。ま、そうだよな。せっかくだから、夏を思い切り楽しもうぜ」
 智也が、そう言って俺の肩をポンポンと叩いた。

「誰だよ? ボール当てた奴! 立木かー!」
 背中に当たって転がったボールを拾うと、村上が、俺と智也の方に振り向いた。
「違うよ、智也に決まってるだろ?」
 俺がそう言って智也を指差すと、智也が俺の身体を羽交い絞めにした。
「何言ってんだよ! 立木に決まってんだろ!」
 村上が投げたボールが、見事に俺の腹に命中して、村上の周りにいた女の子達が、可笑しそうに笑いだした。

 それから俺達は、ぐっすり眠っている竹田を置いて、6人でビーチボールを使って遊び始めた。
 暫く皆で遊んでいると、熟睡していたはずの竹田が突然立ち上がり、俺達の方を見て叫んだ。
「お前ら、ちゃんと起こしてくれよ! 自分達だけで楽しむなんて――」
 仁王立ちしている竹田の腹を見て、一同爆笑してしまった。
 片手を乗せて眠っていたのだろう。色白の竹田の赤く日焼けした腹に、手の跡が真っ白く残っていた。                               
 それからは、竹田を含めて7人でビーチバレーをする事にした。
「今度は、海入ろうぜ!」
 疲れきって、上手くボールを打てなくなった頃、智也がそう言った。
「そうだなー。少しゆっくりしたいし」村上がビーチボールを智也に渡した。
「いいわね! 行こうよ」 女の子達が嬉しそうに笑った。
 

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あふれる想いを唄にして・・・68
「おい、立木! 早く来いよ!」
 海を眺めているうちに、3人は、もう浜辺に出ていて、女の子のグループが多そうな場所に荷物を置き、俺に向かって手を振っていた。俺は目のやり場に困って、慌ててみんなの後を追った。

「ほら、好きなとこ使えよ」
 あっという間に、智也が、日焼け用のシートやレジャーシートを広げて、さっさと場所を確保していた。ホントに智也は、こういう事にそつが無い。
「海の家は金がかかるから、帰りのシャワーだけ借りれば良いよな」
「あぁ。そうだな」

 海パンは、家からはいて来ているから、服を脱ぐだけで準備オッケーだ。そう思って横を見てみたら、村上と竹田が腰にタオルを巻いて、着替えの最中だった。
「何だよ……海パンはいて来なかったのかよ?」
「あぁ、考えてなかったよ」
「ふーん」

 村上達が着替えている間に、俺は、智也の持ってきた銀色のシートに寝転んだ。夏なんだから、この際、思いっきり日焼けしてやろう。
「なぁ、後で女の子に声かけてみようぜ!」
 隣に座っていた智也が、そう言いながらゴロンと寝そべった。智也の奴、学校に好きな子がいるくせに、やけに張り切ってるぜ。
俺としては、あくまでも自然な出会いをしたい! って思っているんだけど……そんなの有り得ないか?

「んー? まぁ、そうだな……」
「なんだよ立木? そのやる気の無い返事。 『巨乳の美人』探すんじゃないのか?」
「だってよー、中々いないじゃん。美人で、なおかつ胸がデカイのなんて」
 どうせだったら、前から言っていた、理想に近い人を見つけたいよな。
「何言ってんだよ、その顔で……」
 隣りから智也のパンチが飛んできた。

「俺はあまり胸がデカクない方がいい。形が良い方がいいじゃん。デカイのなんて、将来ビローンって垂れちまうんだからさ」
「へぇ、ずいぶん具体的だな? 竹田」
「俺のおフクロがそうなんだよ。……ビローンって……」
 竹田によく似た母ちゃんの顔を思い出し、慌てて頭を振った。
「なんか、考えたくねー」
 海に入って泳いだり、砂浜で寝転がってる竹田の上に砂山作ったり、それなりに楽しく過ごした。

 少し遅めの昼飯も食い終わって、再びシートに寝転んでいると、智也と村上が急に立ち上がった。
「じゃ、俺らはちょっと見回りに行って来るから」
 嬉しそうな顔の2人が俺に向かって、ヒラヒラ手を振っていた。
 
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あふれる想いを唄にして・・・67
 待ち合わせの時間より少し早めに駅に着いた筈なのに、普段の待ち合わせには殆ど遅刻してくるあの3人が、すでに到着していた。

「おっせーよ! 立木」
 この言葉を言われるのは、正月以来のような気がする。あの時は、人混みを抜けられなくて少し遅れたけど、その他の待ち合わせで時間通りに来ているのって、俺だけじゃないか――そう思いながら、駅にある時計を見上げた。やっぱり待ち合わせした時間より早い……。
「何だよ? まだ時間前じゃん。お前らが張り切り過ぎなんだよ」
 俺の文句なんかちっとも聞いてないようで、、既にテンションがMAX状態の皆は、改札に向かってさっさと歩き出していた。
「立木はのんびりし過ぎだってば。ほら、いくぞ! 海が俺らを待ってるっつーの!」 ま……いいか――。
海が俺を待ってるぜ!


 海のある駅まで、電車で1時間半位かかる。運良く座ることが出来た俺達は、しばらくの間、お互い休み中の話をしていた。
 村上のバイトの話を聞いているあたりから、段々と、智也と竹田の反応が帰ってこなくなった。もしかしたら……と思って、2人の方を見てみると、案の定、お互いに頭をくっつけあってぐっすり眠っていた。
きっと張り切りすぎて、朝早くから起きていたに違いない。ガキだよな、まったく――。

「海で、女の子と仲良くなれるといいよなー」
 隣から村上の声が聞こえてきた。
「何だよ、お前は女に苦労してないだろ?」 
 神楽ほどじゃないけど、村上だって女が放っておかないタイプだ。最近は、1年の女子と遊んでいるらしい。

「でもさぁ、色々付き合ってみたいじゃん。そう思わない?」
「うーん……まぁねぇ」
 色々付き合うも何も、俺はまだ、彼女がいた事が無いんだけど?
「立木って女っ気なさ過ぎじゃない? 誰か居ないの好きな奴?」
 好きな奴――居ないわけじゃない。
 ……ってやっぱりまだ好きなのか、俺?
「……だってよー、巨乳で美人なんて滅多にいないだろ?」
 振り払おうとしても思い出す。
 華奢で、笑顔が可愛くて、優しくて、でも、勉強に対しては厳しくて……いつも側にいて……。

 あいつの事を考えていたら、胸がドキドキし始めた。慌てて、動揺を隠そうと、伸びをした――そうだよ、俺は新しい出会いにかけているんだから――。

「お前、理想が高過ぎるんじゃない?」
「そうかなー? でも、海にはいるかもなぁ、巨乳のお姉ちゃん」
 そう言って、二カッと笑顔を作ったら、「立木ってオヤジっぽいよな」と村上に言われ、ちょっとヘコンだ。
――オヤジで悪かったね。ホントは、けっこう乙女だと思うんだけど……。

 電車を降り、駅から海に向かって歩く。海までの道には、浮き輪やビーチサンダルやサンオイルを並べて売ってる店や、土産屋などが並んでいた。

 照りつける太陽が眩しくて、目を細めて海のほうを眺めて見ると、すでにたくさんの海水浴客が浜辺を覆い尽くしていた。   

   
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あふれる想いを唄にして・・・66
「なぁ、立木、バスケ休みの間、何か思い出に残るようなことしたいよな」
 練習が終わり、汗臭い部室で着替えている時、智也が突然思い出したように言った。
「おう、いいねぇ」
 やっと部活も休みに入ると思い、俺も少し浮かれていた。真夏の青空を見ていると、外に出たくてウズウズしてくる。
「村上達も誘って、海にでも行こうぜ」
 智也がそう言って泳ぐ真似をした。
「そうだな、夏だもんな。やっぱ海だよな」
 話をしているうちに、すっかり気分は「海!」って感じになっていた。
「じゃ、帰りにどっか寄って計画立てようぜ」
「おう」

 部活の帰り道、2人でドーナツを食いながら、海に行く計画を立てた。
 智也がいつものメンバーに、「海に行こう」メールを送り、その横で、俺は電車の時刻を調べていた。
 村上と竹田は、2人とも夏休みは部活も休みで、バイトに行く以外は退屈していたらしく、すぐにOKのメールが来た。
「バイト休んでも行くから!」とかなり張り切っているらしい。
でも、残念な事に、神楽は家族旅行中だから行けない、との事だった。よりによって、ちょうど俺達の部活が休みの間、旅行に行ってしまうなんて……。

「なんか、親と旅行ってあやしくないか? 俺は、親となんて行きたくないぜ」
 智也が神楽からのメールを見つめながらそう言った。
「うーん。そうだなぁ。俺もうちの親とだったら行きたくないよな」
 煩いおフクロと梨子のことを思い出して、思わず溜息が出てしまった。
「ま、神楽はパスって事で」
「あぁ、そうだな」
 俺は残念なような、ホッとしたような微妙な気持ちでそう言った。

 それから智也と一緒に、日程や集合場所などを決め、2人にメールを済ませると、しばらく部活の話をしていた。

 皆で行く予定の海は、正月に神楽と2人で初日の出を見に行った所だ。でも今回は神楽には会えない……。
だけど、それでいいのかもしれない。海に行ったら何か出会いでもあるんじゃないだろうか?
 俺も言葉に出来る恋がしたい。
 
 やっと部活の夏休みになった。今日は、待ちに待った、海に行く日。気持ちよく目が覚め、ベッドから立ち上がると、窓を開けた。
気持ちの良い風が吹いている。見上げれば、雲ひとつない青空が広がっていた。
「ヤッホ〜」 
 朝飯も早々に済ませた俺は、準備しておいた荷物を持つと、青い空と、眩しい太陽の光の中に足を踏み出す。
さぁ、行くぞ! 『海には新しい出会いが待っているはずだ!』
 当ての無い期待に胸を膨らませ、一日が始まった

   
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あふれる想いを唄にして・・・65
「どうしたんだよ? 神楽。具合悪いのか?」
「いや。ちょっと眠いだけ」
 月曜に学校に来たとしても、神楽はずっとだるそうにしている。今日も休み時間になると、机に突っ伏してグッタリとしていた。
「もしかして神楽、月曜病とかいうんじゃないの?」
 竹田が心配そうな顔をしながら、そう言った。月曜病……って、神楽は、学校に来るのが嫌なのだろうか?
「そんなんじゃないよ」
 神楽が、顔を横に向けて、俺たちを見た。神楽は、もともと色が白いけど、今日はそれに輪をかけて色白なような気がする。
「そっか、神楽ぁ、俺、わかったぜ。昨日の夜は彼女とのデートが忙しくて――といかいうんだろ?」
 智也がいやらしい笑顔を浮かべながらそう言った。
「まさか。そんなわけ……」
 神楽が身体を起こし、そう言いかけたが、智也はすっかり自分の言った通りだと決め付け、1人で盛り上がっていた。
「『眠い』なんて何かヤラシーよな。もしかして、腰も疲れてるとか?」
 智也の言葉に、竹田も村上もニヤニヤして頷いている。
「まさか、一晩中……とか?」
「すげーなぁ。神楽、男になったんだな」
「おめでとう」
 皆は順番に神楽の肩を叩きながら、冷やかしつづけた。
 神楽が否定しようとすればするほど、智也達は盛り上がってしまい、最終的に神楽は「何とでも思ってくれよ」って言うと、黙り込んで、又机に突っ伏してしまった。

 本当の理由を言えば良いのに、何で言わないんだろう――皆には言えないような事をしているからだろうか? でも、それだったら、バイトしているとか、塾に行っているからとか、適当な理由を言っておけば、皆納得してくれると思うのに……。


 1学期の間、神楽とは、遊びに行く事も、試験勉強を一緒にやる事もなかった。
俺が誘えば良かったのかもしれない。でも、何となく神楽が忙しそうで、1年の時よりも声を掛けづらい雰囲気になってしまったのだ。
 部活はやっていないから、バイトでもしているのだろうか? 見た目が変わってしまったせいもあって、あいつが学校から帰った後、何をしているのか聞く勇気が無かった。同性の友達に対して特別な感情を持ってしまった――ってだけでも不毛だって思うのに、あいつの私生活なんかを聞き出して、自分がもっと傷付くのが怖い。

 少しずつ、神楽の事を考えないようにしているうちに、1学期の終わり頃には、男の友達なんてこんなもんだろうと思えるようになり始めた。


 夏休みに入ると、俺は練習や合宿なんかがあり、忙しい日々を過ごしていた。 8月に入ると、部活にも2週間くらい休みがあるので、その間に必死に遊んでおこう! って言うのが、部員達みんなの考えだった。

   
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あふれる想いを唄にして・・・64
「久しぶり! 立木」
 智也と2人で下駄箱に向かって歩いていると、後ろから誰かが声をかけてきた。
その声は……神楽? そう思って、ドキドキしながら後ろを振り返った。
「久しぶり――神楽……あれ?」
 俺の振り返った先には、春休み前とは、雰囲気が全然違う神楽が立っていた。
「お前、髪の色ぬいた?」
 もともと茶色っぽい髪の色だったけど、今、目の前に立ってる神楽の髪の色は、金色に近い茶色だった。
「なんか、お前、外人みてぇ」
 智也も、神楽の変わりように、驚いた顔をしていた。眉毛も、かなり細くなっている……ちょっと見怖いような感じだ。
「ちょっと試したんだ。休み中に戻るかと思ってやったんだけど、無理だよな……」
 その姿をボンヤリ見ていたら、神楽だけが、俺達の知らない所に行ってしまったような気がして、とても寂しいような、奇妙な気持ちになった。

「立木は休みの間、何してた?」
 新しい教室に向かいながら、廊下を歩いていると、神楽がいつものように話かけてきた。
「ダラダラしてた。凄いもったいなかったよ。お前は?」
「まぁ、色々忙しかった」
 何してたんだよ――って普通に聞けば良いのに、何故かその言葉が出てこなかった。 
「彼女出来たとか?」
 バイトでもしてた? って聞けば良いのに――俺ってどうしてこうなんだろう……。
「え?…………違うけど」
「なんだ。違うのか」
 違うって言うまでに、間があいた事が少し気になったけど――。
「そうだ、立木、同じクラスで良かったぜ。俺、嬉しいよ」
 神楽のその言葉を聞いた途端、モヤモヤした気分がスッと晴れ渡った感じ。
「あぁ。俺も」
 メチャメチャ嬉しいよ。

 眉毛は細くなったし、髪は金に近い茶髪だし、もしかしたら、悪い仲間とかにでも入ってしまったのだろうか? なんて事を思ったりしたけど、話をしているうちに、中身は今までと同じ神楽なんだって思ってホッとした。
 前から、学校以外での神楽を知らないから、どうしてこんな風にしたのかは、わからないままだったけれど――。


 2年になった途端、部活がますます忙しくなった。そして、神楽はといえば、1年の時と同様、帰宅部のままで、俺達は同じクラスになったっていうのに、1年の時よりも一緒にいる時間が少なくなってしまったような気がした。
 それから、他に変わった事と言えば、1年の時は遅刻も欠席も殆ど無かったはずの神楽が、時々休むようになった事だ。それも決まって月曜日……。

   
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あふれる想いを唄にして・・・63
 それから試験の日まで毎日、神楽と図書館で勉強する事になった。
神楽と居られるのは、やっぱり嬉しい。でも、勉強するのは――と、少し複雑な気持ちだった。
 試験が始まってからも、午後から一緒に勉強をしたおかげで、俺は初めて赤点無しで試験を終わらせる事が出来た。意外とスパルタ気味な所があったけど、神楽は頼りになる家庭教師だったかも知れない。

 勉強中、いつも気になっていたのは、神楽から香る微かな甘い香と、左手の薬指にはまった指輪だった。
 甘い香は、多分神楽の使っているシャンプーの香……頭を上げるたびにフワッ良い香が漂ってくるのだ。
 それから、指輪……無頓着だった俺が、左手薬指の指輪が特別な意味を持つ事に気付いてから、あの指輪が神楽の指にある限り、彼女が居ないと思って良いのかもしれない……と漠然と思うようになった。
自分のモノにはならないけれど、今のところは、俺が一番近くに居られるんだ――そう思うと、それだけで嬉しかった。


 高校生活1年目が終わり、春休みを迎えた。何をやるでもなく、バイトでもすれば良かったと後悔したのは、春休みが終わる二日前だった。
 休み中に智也達とは遊んだけれど、神楽はいつも用事があって、一度も会うことが出来なかった。
智也の勝手な想像によると、指輪の彼女とのデートで忙しいんだろうって事だ。『指輪をくれた彼女』じゃなくても、誰かと付き合っている可能性は大いにある――俺もいつまでもそんな事で悩んでないで、誰か他の人に目を向けないといけないなぁ――。


 そしてあっという間に始業式の日が来た。
学校に行くと、校舎の壁に新しいクラスの名簿が張り出されている。ドキドキしながらその紙を見つめた。
 2年A組、2年B組……B組に神楽の名前がある。その下のほうに……あった! 俺の名前だ――。

「おーい、立木! 俺達同じだぜ!」
 神楽と同じクラスだっていうことに、密かに感動していると、後ろから智也の声が聞こえてきた。振り向くと、智也が右手を上げて近寄ってきている。それを見て、俺も右手を上げて、パン!と智也の右手にあてた。
「ったく、またかよ?」
 俺がそう言うと、智也が意地悪な顔をして、俺の腹を殴る真似をした。
「なんだよ、嬉しいくせに」
「――まぁな」
 智也の背中をポンと叩く。
「そういや、神楽も竹田も村上も同じだったぜ」
 神楽のチェックだけはしたけど、まさか皆が同じだとは思わなかった。
「そうなんだ? 所で、陽子はどうだったのさ?」
 多分、智也が一番言いたかった事なんだと思う。俺が、声を潜めて聞いたら、智也が満面の笑みを浮かべてピースサインを出した。
「良かったじゃん」
 俺がそう言ったら、智也が珍しく頬を染めた。
「神様っているんだよなぁ。初詣で願掛けして良かったわ……」

 俺も賽銭を奮発しておいて良かった……。だって、神楽と今年も一緒に居られる――。   

   
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あふれる想いを唄にして・・・62
「……そっか」
 神楽の残念そうな顔を見たら、嘘をついた事に、罪悪感を覚えてしまう。
「また、今度な」
 俺がそう言うと、神楽が表情を曇らせた。
「……なぁ、明日は?」
 俺の顔をジッと見て、神楽が俺の言葉を待っている。そんな悲しそうな顔されたら、断れないよ――。

「まぁ、明日なら――」
 ホントは今日でも全然大丈夫なんだけど……今さら言い出せない。
「じゃあ、決まり」
 途端に、神楽が嬉しそうな顔をした。その笑顔を見ているうちに、俺も嬉しくなってしまう。やっぱり、神楽の笑顔が好きだ。
「ん、分かったよ」 
「なぁ、今日って用事あっても、一緒には帰れるだろ?」
 久しぶりに積極的に誘ってくる神楽の態度に、俺は少しドギマギしてしまった。
「良いけど……」
 俺の答えを聞くと、神楽が自分の鞄と、俺の鞄を掴み、歩き始めた。
「ちょっと待てよ」


 神楽の歩調に合わせて、ゆっくり歩く――駅に向かう間、沈黙が続いてしまい、どうしたら良いのか内心困っていた。
その時、急に足音が聞こえて来て、数人の女の子が声をかけた。
「神楽君! また明日ね」
 あれは多分、C組の子だ……。
「あ……うん。バイバイ」
 神楽が笑顔で手を振ると、女の子達が、キャーキャー嬉しそうに俺たちの事を追い越していった。

 神楽を取り巻く世界が俺を苛立たせる――だから、距離をおきたかったのに……。

「最近、立木、冷たかったよな」
 急に言われて、ギクッとしてしまった。
心の中では距離を置いていたけれど、自分では、普通に友達しているつもりだったのだ。
「だって、部活ない日も、俺が掃除してる間にさっさと帰っちまうし」
「いや、ちょっと用事があってさ」
 また、嘘をついた。でも、本当のことは言えない。「お前だって、ちっとも友達らしい態度とらないじゃないか。相談事もしてくれないし、自分の話もしないし、俺の気持ちを分かってくれてないし――」なんて、そんな事、子供が焦れてるみたいな感じでイヤじゃないか……。

「なんだ、そっか。俺、もしかしたら、立木に嫌われたのかな? って思ってさ、気になってたんだ」
 神楽が安心したような顔で微笑んだ。
「そんな、嫌うわけないじゃん」
 むしろ……大好きなんだし……。
「良かった。なぁ、明日から毎日一緒に勉強しようぜ。いいだろ?」
「え? 良いけど」
 神楽も、俺の事を友達だと思ってくれていた、その事を、伝えてくれた事が、とても嬉しかった。

 翌日から、約束通り図書館で勉強した。勉強したってよりも、神楽に家庭教師をしてもらったっていう感じだったけど――。
    

   
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あふれる想いを唄にして・・・61
 いくら好きになってもどうしようも無いんだから、この際、友達としても、少し距離をおいた方が良いのかもしれないとも思う。
 せめてあいつの1番の親友になりたかったけれど、何だかそれも無理なような気がしてきた。

「よ、立木。よろしくな。宿題とか」
 1人でブルーになっていると、幸か不幸か、席替えで、俺の後ろの席になった智也が、俺の背中をポンと叩きながらそう言った。
「宿題? やだね。自分でやってこいよ。俺見せねぇから」
 くさくさ落ち込んでないで、こいつとの友情を温めていた方が、健全で良いんだ。
「けち臭いなー? でもまぁ、お前のなんか見たら、俺まで間違えちまうもんな」
 これが普通の男同士の友情。
「っせーなぁ。お前こそ、俺の勉強の邪魔すんなよ」
「はぁ? お前勉強してたの? 寝てんじゃない」
「それはお前だろ」
「あ、そうだったっけ?」
 智也の呑気なアホ面に、今は凄く癒されている――。

 その時、先生の声がしたので、しゃべるのを止めて、前を向こうとした。
フッと神楽の方に視線を向けると、神楽は隣の女子に話し掛けられている所だった。あいつといえば、ちょっと困った顔をしながらも、優しい笑顔でその子に何かを答えていた。
 ――チェッ……そんな笑顔を向けるなよ――

 それから2〜3日すると、神楽の指輪の事は、誰も話題に出さなくなった。智也の情報によると、今までと同じように長続きしないだろうって皆が言っているそうだ。そんな風に思われている神楽が、少しかわいそうな気もしたけど、確かに、今までも2ヶ月と続いた彼女はいなかったようだから、仕方のない事かも知れない。
 

 短い3学期は、あっという間に過ぎて行き、来週から俺の苦手なテスト週間が始まる――。

「なぁ、立木? 今日一緒に勉強しようぜ」
 テストがある前は、部活が休みだって事を覚えていてくれたのだろうか? 突然、神楽が俺を試験勉強に誘ってくれた。
 あの日以来、今までと同じように友達をやってきているけど、俺は、密かに心の中で一線引いていた。部活の無い日も一緒に帰った事は無いし、何処かに遊びに行く事もしなかった。俺も誘わなかったけれど、神楽からの誘いもなかったから、それが普通の付き合いになっていた。

 だから……久しぶりの神楽からの誘いに、ホンノ少し心が揺らめいてしまった。神楽と2人でゆっくり話がしたい……だけど……。

「ごめんな。ちょっとおフクロに用事たのまれてっから」
 俺は嘘をついた。神楽は前と同じように接してくれているのに、俺1人、勝手に距離を広げているような感じだった。
    

   
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あふれる想いを唄にして・・・60
「え? どうって?」
 俺は、智也の言っている意味がよくわからなくてそう聞いた。
「他人に触らせないほど、指輪大事にしてんのかな? でも、そこまでするか? 普通」
「うーん……そうだよな」
 あいつが、指輪に触られる事を拒絶する理由が分からない。前に智也が触った時は、何も言わなかったはずだけど――。

「そういやぁ、お前、あいつの彼女に会ったんじゃないのかよ?」
「え?」
 正月にそんな会話をしたような気がする。でも、あの時は、デートじゃなかったわけだし――。
「年上? 美人?」
「それがさぁ、店出た時には、もうあいつ居なかったんだよ。足早えーよな」
 本当の事を言うとややこしくなりそうなので、神楽には会えなかった事にしてしまった。神楽の事を色々詮索されたくない……というか、自分が、あいつの事を知って傷つくのが怖かったのだ。
「ふーん。なんだ、そうだったんだ」

「あ、所で正月と言えば、お前らはどこに遊びに行ったんだよ? 俺だけのけ者にしやがってさ」
「悪い悪い……でも、楽しかったぜー」
 神楽の話をなんとなくごまかした後、俺は智也の自慢話を聞かされてしまった。

 結局、昼休みの間、神楽は戻ってこなかった。
 そして、チャイムが鳴って、次の授業が始まる頃になって、やっと神楽が戻って来て、無言で席に付いてしまった。
「何処行ってた?」
 神楽のさっきの様子が気になったので、聞いてみた。本当はあんな態度をとった理由を聞きたかったのだけど――。
「音楽室」
 抑揚のない声が聞こえた。
「そっか」
 胸がズキンと痛かった。佐藤先生に会いに行ったのだろうか―
「さっきの反省して来た。俺、少しイライラしてたから」

――お前がイライラしていた、本当の理由は何だったんだよ? 何であんな態度とったんだよ? 友達なんだから、俺にも話してくれよ? どうして俺の所じゃなくて、音楽室なんだよ? どうして、どうして……――

 次の時間のホームルームで、席替えをした。
今までは、前を見れば、いつも神楽の背中が見えていたのに、今度は俺は窓側、神楽は一番廊下側の席……横顔が見えるけど……1年の間はもう、神楽の側になることもないんだろう。
 俺は、さっきの気持ちを思い出し、席が離れたというだけじゃなくて、自分達の友達としての関係にも、距離を感じないでは居られなかった。 
どんなに側に居ても、俺には触れさせてくれない何かがある、それが俺は寂しかった。だけど、それを聞き出す勇気も無くて――。
 

   
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あふれる想いを唄にして・・・59
「ちょっと前島に聞いてみるわ」
 智也が嬉しそうに、お気に入りの陽子の所に寄って行き、陽子達と一言二言会話すると、すぐに戻って来た。
「神楽が指輪をしてるからだとよ」
 そう言って智也がニヤニヤ笑っていた。

「はぁ? だからなんだって言うんだよ?」
 俺はわけがわからず聞き返した。
「正月の時、彼女にもらった指輪だって、言ってたじゃん神楽。その話をみんなにしたら、今回は絶対本命の彼女だ……ってさ。それでショック受けてるらしいぜ。それに、神楽が自分から彼女の話するなんて事、今まで無かったもんなぁ」
「ふーん。指輪してるってだけで騒ぎになるなんて、すげーよなぁ」
 俺は嫉妬心満載で嫌味っぽくそう言った。一体誰に嫉妬しているのか、自分でもよく分からない。
「そんな話、きっと、すぐにおさまるよ」
 神楽が不機嫌な声で答えた。
「モテル男は辛いねぇ……」
 鬱陶しいって顔をしている神楽の横で、竹田が羨ましそうな顔で呟いた。
「……」
 神楽が複雑な表情をして黙り込んでしまった。
モテル奴はモテルなりに悩みがあるんだろう。そんな悩み、俺には一生分かりそうもないけれど。


 それから数日たったある日の昼休み、いつものように皆で話していると、アイドルの誰かに似ていると言われているクラス1の人気者、石田美加と、その友人、山本詩織が俺達の方に近寄ってきた。

「ねぇ、神楽君、指輪見せて?」
「どんな指輪なの?」
 言い終わらないいうちに、山本が神楽の手を取り指輪に触ろうとした。
「ちょっと! やめろよ」
 突然、神楽はそう言うと指輪に触れようとしていた山本の手を振り解いた。
 今までに女子にそんなにキツイ言い方をしてる神楽を、見た事が無かったので、俺はもの凄く驚いた。

 石田も山本も急に手を引っ込めて、「ゴメン」って言うと、すぐに自分達の席の方に戻っていってしまった。
 近くにいた奴らは、そんな神楽の様子に、一瞬シンと静まりかえった。
山本は席に座って、今にも泣き出しそうな顔をしている。じきに2人のまわりに、他の女子が集まりだした。
 そして、神楽は一瞬眉を潜めるてから、何事も無かったような顔をして席を立ち、教室から出て行ってしまった。
 神楽が居なくなると、あちこちからざわめきが聞こえてきた。

「な、立木どう思う? あいつ」
 神楽の出て行った方を眺めながら、智也が俺に向かって呟いた。
 

   
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あふれる想いを唄にして・・・58
 すぐにチャイムがなり、皆バラバラと自分の席に戻っていった。俺が席につくと、前の席に座っている神楽が、後ろを向いて話かけてきた。
「立木、見て?」
 パンダのストラップのついた携帯を出した。
「つけてるんだ?」 
「当たり前じゃん。俺、大好きなんだよ」
 パンダが――なんだよな。わかっているんだけど、メチャメチャ嬉しい。
「ホントお前の趣味って、わかんねーよな」
 嬉しいのに俺は、必死に動揺を隠そうとして、そんな事を言ってしまう。
「別に良いだろー? なぁ、甘いものの好きな立木くん」
 神楽の目が意地悪な微笑を称えている。
「あぁ、全然構いませんけど、白黒動物が好きな神楽くん」
 そう言い終わった後、お互いに顔を見合わせて、笑ってしまった。
「来年の正月は、お前の家な。絶対だぞ」
 笑いが治まると、神楽がマジメな顔をしてそう言った。
「あぁ、絶対な」

 『絶対』か……ん? 待てよ、家に呼ぶって事は、梨子やおフクロに会うって事か? あの2人に会わせるのは、危険過ぎると思うな。でも、家に呼ぶっていったら、会わないわけにもいかないし――。
だけどなぁ、おフクロは置いといたとして、あんな性格でも、梨子は結構可愛い顔してるからな……神楽が妹を気に入る可能性もあるのか――梨子と神楽が結婚すれば、あいつが俺の弟になる訳で……うーん、それって、カナリ微妙だ――。
 授業が始まってからも、俺は、そんなアホ事を考えていた。しばらくして、先生が俺の名前を呼んだような気がした。

「こら、立木!」
「え? はいぃ?」
 もう一度名前を呼ばれ、焦って返事をした俺の声――完全に裏返っていた。
 席を立ったのに何も言わないから、俺が困っているのが分かったのだろう、神楽が後ろを向いて教科書の何処を読むのか教えてくれた。

 すっげー恥ずかしい。教科書を読みながら神楽の背中を見たら、肩がかすかに揺れていた。きっと、笑ってるに違いない――。
 授業が終わり、休み時間が始まった。いつものようにみんなで話をしていると――
「何か今日、久野とか来ないじゃん」
 竹田が急に言い出した。
 確かにそうだ。いつも、神楽の近くには、久野とか山本とか、神楽ファンの子が、誰かしら居るのに、今日は、何だか遠巻きに観察されてるような感じもする。
 まぁ、俺的には、女子が居ない方がスッキリした気分なんだけど。
「そうだな、神楽は来てるのにね」
 村上もそう言って、教室を見回した。
「どうでもいいじゃん。考えすぎだよ」
 神楽が面倒臭そうに言った。
  

   
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あふれる想いを唄にして・・・57
「そっか」
 不毛な思いを胸に抱えつつ、切符を手にして改札に向った。
「来年」
 しばらく黙っていた神楽が、ホームに下りる階段の途中で急にそう言った。
「え? 来年?」 
「また来年も、2人で年越しして、初詣に行って、それから立木の家に寄る。良いだろ?」
「あぁ。もちろん良いよ」

 1年も先の約束だったけど、来年も神楽と一緒に正月を過ごせるって思ったら、それだけで嬉しかった。
 神楽がそう行ってくれただけで、後で神楽が彼女と会うのかも知れないとか、もしかしたら佐藤先生と神楽の間には何かあるのかも知れないとか、そういう胸の中にあったモヤモヤが一瞬にして消え去ってしまった。

短い冬休みが終わり、待ちに待った3学期が始まった。
ほんの一週間くらいしか経ってないのに、神楽と過ごした大晦日や、皆で行った初詣のことが、ずっと昔の事のように思えた。
 3学期初日の朝、俺は神楽と会えるのが楽しみで仕方が無かった。『次の正月の約束』が、こんなにも俺を浮かれた気分にさせてしまうなんて……俺、単純過ぎるよなぁ。

「よ、おはよ」
 俺はいつもと同じ時間に学校についた。教室を見回してみると、普段は無駄に早く登校してきている智也がまだ来ていない。
「あれ? 珍しいじゃん。智也来てないんだ?」
「ホントだな。あいつの事だから、休みはしないと思うけどさ――」
 竹田と話をしているうちに、後2〜3分でチャイムがなるという時刻になっていた。
「いやぁ、やっぱ、学校はいいねぇ」
 教室の後ろの方から、智也の呑気な声が聞こえて来た。それからすぐに、神楽が教室に入ってくる姿を見つけた。
「おはよ。久しぶり」

 俺は嬉しくて、思わず顔がニヤケそうになっていた。
「おう、神楽、今日は早いじゃん」
 智也が、鞄を机に置いている神楽の背中をポンと叩いた。
「そう? いつもと同じだけど?」
 神楽が不思議そうな顔をして智也を見た。
「今日は、智也が遅かったから、そう感じるだけだろ?」
 いつの間にか俺の後ろに現われた村上が、そう言って智也の頭を小突いた。「あ、そーか。今日は俺、寝坊したから遅く来たんだ」
「何だよ、珍しいなぁ。昨日の夜遅くまで何かしてたとか?」
「いや、別にそうじゃないけどさ、早く学校行きてーなーとか思ってたら、眠れなくてさ」
「お前、小学生かよ……」

 いつもと変わらない朝の会話が始まった。俺はこの時間が好きだ。他愛の無い会話だけど、皆で――もちろん神楽も一緒に話をしているこの時間が――。  

   
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テーマ:自作BL連載小説 - ジャンル:小説・文学

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