−甘嘘別館−  
♪ハッピーエンドのBL小説を連載します♪

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Author:りょう
BL小説を書いてます。
よろしくお願いします☆
別館では18禁小説は連載しません。
本館へ行かれたい方は、コメント等でお問い合わせ下さい。
(メールアドレスをお忘れなく…)

☆おことわり☆ 
「出会わなければ」には、実在のバンド、メンバーと似た人物が出てきますが、実在の人物とは一切関係ありません。

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あふれる想いを唄にして・・・34
「俺だってさ、もしも女だったら、多分皆と同じだったかもな。『神楽くぅん、お話しまょー』ってな」
 智也がふざけたようにそう言って、俺の肩に手を置いた。
「何だその、『神楽くぅん』って。お前が言うとかなりキショイぞ」
俺はそう言って、肩に乗っている智也の手を払い除けだ。
「だから、俺が女だったらって言ってんだろ?」
 智也がムッとしたように言った。
「……それも怖いぜ」
「ったく、てめ」
 俺の言葉に腹を立てた智也が、俺に膝蹴りを食らわしてきた。やられっぱなしじゃいられない……と智也の背中をバシッと叩く――。
俺は、智也とじゃれ合いながら思った――俺の場合、自分が女じゃなくて、男のままでも、あいつのことが特別な意味で好きなんだよ――頭にその事実が思い浮かぶと、深い溜息が出た。

「でもよー、珍しいよな、神楽が休むの。丈夫そうでもないけど、休んだ事無かったんじゃない?」
 ひとしきり、俺の事を叩いたりくすぐったりして、満足したのか、智也が椅子に座りなおしてから言った。俺は、笑いつかれて、グッタリと椅子に座り、机に突っ伏した。
 もしかして、土曜日の夕方は結構寒かったから、風邪でもひいたのかもしれない……。

 眠くて仕方の無かった授業が終わり、部活に出た。
クタクタに疲れきっていたのだけれど、部活の間中もずっと神楽の事が気になって仕方なかったので、気を揉んでいるよりも本人に聞いてみようと思い、学校帰りにメールを送ってみる事にした。

― 珍しいじゃん、休みなんて。風邪でもひいた? ―

 その後、ケータイを握ったまま家に帰ったが、いつまで経っても返信メールは来なかった。
 家に帰ってから、しばらく自分の部屋で携帯の画面を見つめていた。具合が悪くて寝ているのかも知れないな――気になって仕方が無かったけれど、諦めて携帯をベッドの上に置き、夕食を食いに下の部屋に行った。

 夕食後、すぐに、風呂に入り、また自分の部屋に戻ると、突然着メロが鳴り出した。画面には神楽の写真が表示されていた。
「やぁ、立木」
 声を聞いた途端、ホッとして胸が熱くなる。
「よう、どうした?」
 うれしさと不安が交錯していた。

   
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あふれる想いを唄にして・・・33
 朝食を済ませ駅に向って歩いている間も、満員の電車で揺られている時でさえも、鼻歌でも歌いたいような、そんな浮かれた気分だった。

 学校につくと、自分の席に鞄を置き、村上達と話をしている智也の所に行った。
 皆との話に夢中になっているうちに、いつの間にか予鈴が鳴り、もうすぐ授業が始まる時間になっていた。だけど……パッと教室を見回してみたけれど、神楽の姿が見当たらない。あいつ、登校して来るのは遅い方だけど、遅刻した事も無かったはずだ。

 結局、1時間目の授業が始まっても、神楽は登校して来なかった。俺の浮かれきった気持ちは、シュンとしぼんでしまったようだった。
 その日の休み時間、智也達と話をしていた時に、周りを見て気が付いた。いつもだと、俺たちが話している時には、誰かしらクラスの女子が、会話に加わっていたはずだ。だけど、今日に限って誰もいないじゃないか。
 教室の前の方からは、いつも俺達の側に来ている女の子達が、雑誌を見ながらキャーキャー騒いでいる声が聞こえてきた。

「神楽が休みだと、女子が遠くにいるねぇ」 智也がポツンと呟いた。
「やっぱり、それでか……」 
 いつも女子が会話に混ざっていた理由って、神楽だったんだ? それにしても、神楽が居ないと、女子が誰も寄って来ないっての、あまりにも露骨過ぎないか……。

「ったく、なぁ。ホントあいつってモテルよな。しょっちゅう女変ってるみたいだし。そんないい加減な男でも良いんだもんなぁ、女ってわかんねーよ」
 智也が嫉妬心丸出しでそう言った
「そうだよなぁ」
 嫉妬するぜ……俺だって。何だかなぁ……女もあいつも、わかんねーよ。
「あいつ、どうしてそんなにモテルんだよ……」
 俺は独り言のように、ポツンと呟いた。
 回りにいる奴らの笑い声で、俺の呟きは誰にも聞こえていないと思っていたのに、どうも智也の地獄耳にはバッチリ届いていたようだ。

「はぁー? 何言ってんのさ。あいつがモテルのなんて、あいつが、カワイイ顔してて、おまけに性格が優しいからに決まってんだろ。わかんねーのかよ? お前、アホか?」
 アホって言うことねーだろが。
「分かってるさ、そのくらい」
 性格も良いし、甘い顔立ちだし、それに、頭も良いし、意外とスポーツも得意だし。モテル要素たっぷりだよ。
「神楽君大好き!」って、素直にアピールできる女たちが羨ましい。
 そんな風に思い、少し落ち込んだ気分になってしまった。

   
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あふれる想いを唄にして・・・32
「いいじゃないのよ! 好きなんだから」
 おフクロが何の迷いも無くそう言いきった。俺だって……俺だって……。
「……ったく」
 ムキになって言い返してもきっと無駄なんだろう。うちのおフクロは、そんな母親だよ。

「何よ?」
 黙ってしまった俺に、おフクロが不満そうな顔を向けた。
「ん……別に。あ、そう言えば、あいつ喜んでたよ、弁当美味いって。母の愛を感じるってさ」
 微妙な敗北感を味わいながら、神楽のコメントを伝えておいた。見た目があんな弁当でも、かなり美味かったから、お礼は言わないと……と思うけれど、おフクロの態度を見ていると、どうしても自分の言葉として言う気にはなれなかったのだ。

「そりゃ、そうだよ。愛がこもってからね」
 正直に伝えすぎた……おフクロが天狗になっちまう。ちょっとは謙遜しろ。
いい加減、付き合っていられないよ――。
俺は、まだ色々聞きたそうな2人をその場に残し、風呂に入ることにした。

 夕食後、部屋に戻り、さっそく携帯を手に取った。
さっき観覧車で撮った写真を表示してみると、嬉しそうに笑ってる俺の横には、何故か微かに悲しそうな顔をした神楽が写っていた。あいつ、こんな顔していたんだ――俺は、心の中で呟いた。 
 もう一枚撮っておけば良かったかな――俺は、笑顔のあいつの方が、好きだから。

――好き――か……バカみたいだな、俺。
 神楽に写真を送ると、すぐにお礼のメールが来た。
「今日は本当にありがとう」それだけだったけれど、あいつからのメールがやけに嬉しかった。

 そして月曜日の朝、俺は、いつもよりウキウキした気分で学校へ行く用意をしていた。
「あら、悟、珍しいわね。こんなに早いなんて」
 洗面所で顔を洗っていると、後ろからおフクロの声が聞こえてきた。
「お兄ちゃん、学校に行くのが楽しみなんだよね」
 いつの間にか、梨子も側にいて、「神楽さんに会えるからねぇ」なんて呟いていた。
 否定するのも面倒だったので「そーだよ」と投げやりに応えてやった。
「なーんだ。やっぱり?」
 梨子にあっさりそう言い返されわれ、ちょっとムッとしたけれど、その後、放っておいたら、梨子はそれ以上何も言ってこなかった。きっと、からかい甲斐がなくなって、つまらなかったんだろう。
いつもこうやって、上手くかわしてれば、墓穴を掘らないはずなんだよな――溜息をついてから、タオルで顔を拭き、洗面所を出た。

   
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あふれる想いを唄にして…31
「楽しかったよなー」
 観覧車から降り、出口にむかって歩きながら俺が言った。
「あぁ……。なぁ、立木、さっきの写真、俺にも送ってな?」
 隣から神楽の声が聞こえた。
「オッケー。あ、でも、そう言えば俺、お前のメアド知らなかったんだよ」
「そうだっけ? じゃ、これ、渡しておくよ」
 神楽が財布から出した名刺には、名前や携帯番号の他に、かわいいキャラクターが印刷してあった。本当に、神楽らしいよな。
「今送る?」
「後でいいよ」
 ちょっと考えてから神楽がそう言った。

 今日の事を色々と話しながら帰る電車の中、神楽と居られるのも後少し。学校でも毎日会えるけど、それとは違う、何か特別な感じがした。
 そして、楽しい時間はあっという間にすぎてしまい、2人で電車を降りると、それぞれ別々の方向に歩き始める。


「じゃあな。また学校で」
 神楽が右手をパッと振った。
「おう」
「写真、よろしく」
「オッケ。後で送る」
リュックにしまっておいた「ウシ」を渡すと、あいつが嬉しそうに笑った。
「ただいま」
 深呼吸してから玄関を開けると、台所の方からおフクロの足音、そして、二階からは妹の足音が一気に聞こえてきた。

 そして2人は、俺の顔を見た途端、ニヤッと厭らしい笑顔を向けたのだ。
「どーだった? 神楽クンとのデートは?」
 おフクロのニヤケた声が不気味だ。
「デートじゃないって」
 2人の顔を無視しながら俺は答えた。
「ふーん。手でもつないだ?」 
 続けざまにおフクロが聞いてくる。
「アホか? 何言ってんだよ」 
 俺は、ムッとしたまま靴を脱いだ。
「ただの冗談なのに……。顔赤いよ、お兄ちゃん」
 梨子もニヤニヤ笑っている。
「っせーなぁ」
 ホントにデリカシーの無い女どもだ。
「ところでさ、お弁当は美味しかったでしょ?」
「あのな、何で、あんなハートだらけにすんだよ! すっげー恥ずかしかったじゃないか!」
「だって、かあさんは神楽クンが大好きだもん」
 俺がマジに怒ってるっていうのに、おフクロの奴ったら、何が悪いのよ? って顔をしながら、堂々と言いやがった。
「だもん! じゃねぇよ」
 くそう! 何だか羨ましいじゃないか。

   
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あふれる想いを唄にして・・・30
「ごめん……そんなに嫌いだなんてさ」
 俺がそう言うと、黙り込んでいた神楽が口を尖らせた。
「立木のアホ」
 真っ青な顔をした神楽がそう言った。
「そんなに恐かったのか?」
 あまりの恐がり様に、ちょっと笑いそうになった。でも、笑ったらマズイような気がして、必死に我慢していた。

「俺さ、ちいさい頃、お化け屋敷で迷子になったことがあるんだよ。だから、今でも全然ダメ……思い出しちゃってさ。すっげー恐かったんだぜ。『大丈夫?』って声掛けてくれたのも、お化け達だったし――」
 ブツブツ文句を言うように神楽が呟いた。
「そっか」
 俺は何だか悪い事をしたような気がしてしまった。
だけど、神楽だって、俺を無理やり絶叫マシーンに乗せて笑っていたじゃないか!? そう思うと、ちょっと腹が立つ……。
 でも……まぁ、お互い様ってところだろうか――。

「智也達に言うなよ」
 神楽が、不貞腐れたようにそう言った。
「言わねぇよ。俺の心にしまっておいてやるさ」
 俺がそう言ったら、「マネすんなよ」って、神楽が笑った。
 青白かった神楽の顔色が、微かに赤くなっていた。

 その後、まだ乗っていなかった物に乗ったり、再びゲームもしたりして、久しぶりに思いきり遊園地を楽しんでしまった。
 日中は冬のわりに暖かだったけど、夕方になると、かなり冷え込んで来た。
「そろそろ帰るか。寒くなったし」
「そうだな」
 神楽は素直に頷いた。

 終わって欲しくなかった1日が、終わりかけている。後は家に帰るだけ……ちょっと寂しい気分で、出口に向かって歩きだした。
「なぁ、立木」
「ん? 何だよ?」
 振り向くと、神楽が俺の視線をとらえ、それから、もう一度後ろを振り返った。
「あれ乗ろうぜ」
 神楽に指差す先には、観覧車があった。
「まぁ……良いけどさ」
 夕方の街を見るのも、良いかもしれない――。

 ゆっくり、ゆっくり動く観覧車の中、神楽と2人きり。これが彼女とのデートなら、キスするタイミングをはかっているんだろうなぁ――そんな事を思いながら、遠くの景色を夢中で眺めている神楽を、ボケッと見つめてしまった。
 冬の澄んだ空気の中、夕日がとても綺麗だった。

 その時、俺は思いついた。そうだよ、記念写真……。席を立ち、用心しながら神楽の隣に移動して、携帯を出した。
「どうしたんだよ急に?」
 あいつが慌てたように言った。
「これだよ。これ」
 携帯のカメラのフレームに2人が入に、あいつに近寄ってシャッターに指をかける。
「何だよ、くっ付くなよ」
 口ではそう言ってたけど、あいつは、フレームに収まるようにって、俺の身体にピッタリと寄り添ってきた。俺は、手が震えてしまいそうだった。

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あふれる想いを唄にして・・・29
 弁当を食べ終わると、シートの上に園内マップを広げ、この後何をしようかと考えていた。神楽は、「昼寝」とか言って、俺の隣りに寝転がっている。
ちょっと前まで、俺にあれこれ話し掛けていた神楽が、急に大人しくなったので、眠ってしまったのかと思い、チラリと様子を伺ってみた。
 すると神楽は、さっきゲームで取ったパペットの「ウシ」を右手にはめ、何か会話しているような雰囲気だった。ホントに少女趣味だよな――そう思った瞬間、神楽が「ウシ」を自分の顔に近づけた。
 俺は、急に恥ずかしくなって、慌てて視線を手元の地図に戻してしまった。
――いったい何していたのだろう――そう思いながら地図をボンヤリと眺めていた。

「そろそろ行こうか?」
 神楽の声で我に返った。
「そうだな」
 充分休憩できたので、荷物を片付けて、立ち上がり、再び2人で園内を歩き始めた。
「なぁ、ここ入ってみようぜ」
 次に俺が提案したのは、「恐怖の館」。まぁ、お化け屋敷と似たような感じだろうけど、子供の頃のお化け屋敷とかよりも、リアルになっているに違いない。
「こんなのさ、ガキの頃は怖いような気がしていけど、今じゃ、作り物だってわかっているしさ。つまらないかもしれないけど……あれ? 神楽?」
「俺、嫌だ。お化け嫌いだし」
 俺の数歩後ろで、神楽がそう言った。
――なんだか急にワクワクしてきたぞ!――
「じゃ、決まり。絶叫マシーンのお返しって事で」
 俺は、さっきと打って変わって、元気に神楽の腕を掴むと、「恐怖の館」に向かって歩き始めた。

「嫌だってば……」
 入口を入った時から、神楽が俺の腕にピタリと張り付いている。なんだか嬉しいかも――。
「こんなの、みんなニセモノじゃん」
 俺がそう言ったら、横から小さな声が聞こえて来た。
「でも、ダメだって。夢に出てきそう」
 可哀想なような、可笑しいような変な感じ。
「アホか。ガキじゃあるまいし」
 絶叫マシーンで固まってた俺が、今度はすっかり調子に乗ってしまっていた。

 半分位進んだ所で、やけに大人しすぎる神楽が気になった。どうしたんだろう――そう思い、あいつの引っ付いている方の腕を動かそうとした。
「やだ!」
 神楽が慌てたように俺の背中に張りつき、顔を押し付けてきた。微かに震えているのが分かり、ちょっと焦ってしまった。
「ちょっと離せよ……歩けないじゃないか」
「嫌だってば!」
 今にも泣き出しそうな声を聞いて、俺は仕方なく神楽を背中に張り付けたまま出口に向った。


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あふれる想いを唄にして・・・28
 自販機で飲み物を買ってから、ベンチに腰掛けた。
俺の横では、勝手にリュックを開けていた神楽が、中からゴソゴソと何かを取り出した。
「なぁ、シートもあるじゃん。せっかくだからさ、あっちに敷いて食おうぜ」
 遠足じゃあるまいし……って思うのだけど、神楽に言われると、どうしてもイヤだと言い出せない。
「え……まぁ、良いけど」

 薄茶色に枯れている芝生の上にシートを広げ、その上に2人であぐらをかいて座る。恥かしいような気もするけど、でも、ちょうど天気も良くて、冬にしては結構暖かだし、神楽と一緒なんだし――やっぱ、気分良いかも……。
「立木は弁当にもジュースなの? メシのときは、やっぱりお茶だと思うなぁ」
 神楽が呆れたような声を出した。
「いいじゃん、別に。俺甘いもの好きなの」
 前にも同じような会話をしたよなぁ……と思いながら、やけに可愛らしい包みを開け、弁当箱のふたを取った。
「あ!」
 くそ! おフクロのやつ……。なんでこんなにカワイイ弁当なんだ?!
 おにぎりには、ハート型にさくらでんぶが乗っている。おかずもハートに切ったのやら、星型のやら、動物らしき形のやら。おまけに小さなパックにデザートまで入っていて、それに刺してあるピックにはウサギとクマの旗が……。どうりで朝、中身を見せてくれなかったわけだ。まったく、少女趣味っていうか、幼稚園児の弁当っていうか――ふざけるにも程がある。

「すっげー可愛い弁当じゃん。お前のおフクロさん、サイコーだね」
 弁当箱を開けながら、神楽が弾んだ声を出した。ちょっと待てよ……
「マジかよ? こんなガキみたいな弁当」
「いいじゃん。母の愛を感じるよ」
 その後すぐ「いただきます!」って元気な声が聞こえて、神楽が弁当を食べ始めた。俺はこの弁当もシチュエーションも恥ずかしくて、俯きながら弁当を食べた。
 俺は、多分真っ赤な顔していただろうと思う。赤面しながら、男と弁当を食っているのも、どうなんだろうなぁ……。
 まぁ、でも、料理が上手いおフクロが作った弁当だから、味は確かに良かった。見た目がすっごく恥ずかしかったけど……こうやって遊園地で遊んで、美味い弁当食って、何だか本当にデートみたいだったりして。
 そう思ってコッソリ心の中でニヤケテいると、
「弁当、すっげー美味いよ。かなり嬉しいかも」って声が横から聞こえた。
 おにぎりを頬張っている姿がメチャクチャ可愛いぜ――。
「俺、かなり恥ずかしい――」俺は、星型のポテトを口に運びながら、呟いた。
「なんかさ、デートみたいじゃね? いいよなぁ、こういうのって……」
 横を見ると神楽が楽しそうに笑っていた。太陽の光に照らされて、神楽の瞳がキラキラ輝いて見えた。何だか俺、すっげー幸せかも。


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あふれる想いを唄にして・・・27
「皆には言わないよ。俺の心の中にしまっておいてやるから」
 そう言い終わると、神楽が俺の横に座った。
俺は、神楽の言葉にとてもドキドキしてしまって、しばらく顔が上げられなかった。何だよ俺、ドキドキ――ってさぁ。

 しばらくベンチに座って休んでいると、気分が落ち着いてきたので、次はゲームコーナーでのんびり遊ぶ事にした。

「ここにあるかな? うしくん」
 ゲームコーナーに入った途端、神楽がそう言ってキョロキョロと辺りを見回した。
「はぁ? またそれかよ? 好きだなーお前」
 呆れたように俺が言うと、神楽がケラケラ笑い出した。
「仕方ないじゃん。好きなんだから」
 まったく、この年でぬいぐるみが好きだなんて、どういう趣味してんだか……。ホントに……相手が普通の奴だったら、からかっているに違いない――。
「あ、あった。立木、とってよ」
 俺の返事なんて聞こうともしていないのだろう、神楽はさっさと歩いていき、クレーンゲームを見つけると「早く早く」と俺を呼んだ。

 仕方なく神楽の所まで行くと、あいつは手にはめてパクパク出来る「ウシ」の人形がウジャウジャ入っている、クレーンゲームの前で、目を輝かせている。
――ホント、ガキだよな――って思っているのに、俺ったら「よし。待ってろ!」なんて答えていたのだ。

 神楽の喜んだ顔が見たい、とか思って引き受けちゃう俺ってなぁ……。


 すぐ横に神楽の体温を微かに感じながらクレーンを操作した。あいつが真剣に「ウシ」の行方を見つめている。
「ほら! 取れたぜ!」
 自分でも驚くほど簡単に、「ウシ」が取れてしまった。
神楽に、その「ウシ」を渡してやったら、「イエイ!」とか言いながら、「ウシ」に頬擦りしていた。

 その後、神楽が「ウシ」を手にはめると、それを俺の顔の前に突き出してきた。
「ありがと。立木クン」
 急にそう言ったかと思うと、神楽が「ウシ」のでかい口を俺の唇に近づけてきた。
「奪っちゃったー」
 ブチュッと「ウシ」の口が俺の唇にぶつかった瞬間、神楽がそう言った。

「テメ、俺のファーストキスが、ウ、ウシに奪われちまったじゃないか!」
 慌てている俺の横で、神楽は何もなかったような顔をして、俺のリュックを引っ張っていた。俺は頭から湯気が出そうな位恥かしいって言うのに……。
「なぁ、俺、ハラヘッタ」
 のん気な神楽を見ていたら、1人で焦っていた事が急に恥ずかしくなってしまった。
「そうだな、もう昼だもんなぁ……」
 恥かしくてぶっきらぼうにそう言ったら、神楽が嬉しそうな顔をして、俺の事を見つめ返した。
「おフクロさんの弁当、楽しみだな」
 俺はその言葉を聞いて、ますますガックリきてしまった。

 何か……急に疲れてきた感じ……無駄にドキドキしちまったぜ。


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あふれる想いを唄にして・・・26
 いくつかの乗り物に乗った後、ついに、神楽が、俺の恐れていた言葉を言った。
「立木、次は絶叫マシーン乗ろうぜ。やっぱ、遊園地に来たら絶対乗らなきゃな!」
 とうとう来たかって感じだった。
俺が何も言わずに、困った顔をしているのが分かると、あいつは途端にいたずらっ子のような顔をした。それから、やけに嬉しそうな笑顔を浮かべるとチョコンと小首を傾げたのだ。かなり可愛らしい仕草なのだけど、俺にはその時の神楽が悪魔に見えてしまった。

「立木、もしかしてダメなの? こういうの?」
「……うん。ダメなの」
 弱々しい俺の声を聞いた神楽の目に、勝ち誇ったように輝く光を見た。
「決まり! 乗ろうよ。昼飯食う前なら、きっと平気だよ!」
「ちょ……待てよ、昼飯とかそう言う事じゃなくて! おい、お前って、そんな奴だったのかよ?」
「そうだよ」

 焦りまくってる俺に、嬉しそうな笑顔を向けたまま、神楽が俺の腕を掴んでぐいぐい引っ張って歩いてく。腕を掴まれているからなのか、これから乗る物への恐怖の為なのか、とにかく俺の心臓の鼓動は、痛いほどに高まっていったのだ。

 荷物を棚に置くと、もう既に逃げ出せない状況になっていた。座席に座って、セーフティバーを下ろす。出発の合図と共にガタンと一揺れして車体が動き出した。俺はと言えば、その瞬間からセーフティバーにしがみ付き固まったままだった。
だんだんと速度が増し、上へ下へそして逆さまにまでなって、俺は気を失うんじゃないかって思った。時々、神楽が俺に声を掛けてくれたようだったけど、俺は恐くて顔も動かせなかった。

 あっとい間の出来事だったのだけど、俺にとっては、30分にも一時間にも感じられた。
「だいじょーぶ、立木?」
「大丈夫じゃない。アホ神楽」
 ベンチでぐったりしていると、リュックを抱えた神楽が、ベンチの前で心配そうに俺を見おろしていた。
「でも、面白かったー。立木ったら、固まっちゃってさ」
 神楽が、荷物に顔をうずめて、おかしそうに笑いだした。くっそー、なんて醜態! だけど、こうなる予想は出来てたんだ……。
「ったく、ひでーよなぁ。あのさ、頼むから、学校では話すなよ。智也なんか、恰好のネタが出来たと思って、絶対にからかってくるだろうな……」

 うな垂れたままで俺がブツブツ言っていると、神楽が真剣な表情をして、俺の顔を覗き込んできた。   


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あふれる想いを唄にして・・・25
 遊園地に着くと、歩きながら園内マップを広げ、どこからまわるかを考えていた。
「さて、どうするかなぁ?」
「うーん。じゃ、まずは、コーヒーカップね」
 神楽が何の迷いも無くそう言って、目の前に見えていたコーヒーカップのアトラクションの方に歩いていってしまった。
 男2人でコーヒーカップ?!……って、何に乗っても男2人なんだよな。
でも、今日の神楽の服装って、男か女かはっきり分からなそうだから、もしかしたら、普通の高校生カップルに見えるかもしれない――俺は訳のわからない理由付けをして、自分を納得させようとしていた。

「おーい! 早く乗ろうぜ! おせぇなぁ」
 アトラクションの入口の所で神楽が手招きをしている――やっぱりあの声、あの喋り方では、女の子には見えないかもしれない……。
 俺は、少しだけ周りを気にしつつ、神楽の待っているカップの所に行き、あいつの向かい側に座った。

 俺が座るとすぐにブザーが鳴り、カップがゆっくりと動き出した。
 やけに嬉しそうな顔をしている神楽を見て、照れくさいような恥かしいような感じがした。
「ちいさい頃、家族3人で時々この遊園地に来てたんだ。なんか、乗り物がすげー小さく見える」
 遠くを見るような目をしながら、神楽がそう言った。
「俺も家族で来てたなー。俺らは、いつもケンカしてたよ。次に何に乗るかで」
「ふーん」
「おフクロなんか、大人のくせに譲らないんだぜ。でも、結局、妹が一番強くってっていうか、親父が妹の言う事聞いちまうんだよな」
「へー? 立木、妹いるんだ。お前に似てるの?」
「全然似てねーよ。俺はおフクロ似で、妹はオヤジ似。兄妹で似てるって言われた事、殆どないなぁ」
「そっか」

「それよかさ、神楽はやっぱり、おフクロさん似なんだろ?」
 神楽の母親なら、うちのおフクロと違って、綺麗で上品で優しいんだろうな……なんて思いながら聞いてみた。
「『やっぱり』って何だよ?」
 神楽がちょっと不機嫌な顔をしている事に気づき、俺は焦ってしまった。
「え? だってさ、おフクロさんすごく綺麗なんだろうなって――」
 神楽の不機嫌だった表情が、一瞬、戸惑ったようなものに変わった。それからすぐに、二ヤッと笑って
「俺が、キレイだって言うの?」と聞いてきた。
普通に「そうそう」とか答えられれば良かったんだけど、見つめられて1人で焦ってしまった。
「何赤くなってんだよ。バーカ」
 大笑いしながら、神楽が俺の頭を小突いた。


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あふれる想いを唄にして・・・24
 駅について5分ぐらい経っただろうか? 遠くの方から小走りでやってくる神楽の姿が見えた。
そう言えば、制服以外のあいつを見るのって、初めてじゃないだろうか? 
やっぱり、人目を惹くかもしれない――もしかして、見様によっては女の子にも見えるんじゃない――なんて事を思っていたら、冬だって言うのに、俺 は、一人で変な汗をかいてしまった。
「おはよ、お待たせ」
 息を切らせながら神楽がそう言って、笑顔を見せた。
「あ、いや、俺も今来たとこ」
 微妙に照れてしまう……笑顔が眩しいぜ。
「あれ? 立木、リュックなんて背負ってきたのか? 俺、財布と携帯だけだぜ」
 神楽にそう言われ、俺は心の中で呟いたー―そうだよなぁ。俺だって持ってきたかった訳じゃないんだよ。

「まぁな……持って来る予定はなかったんだけど――」
 ブツブツ言ってる俺に、あいつが不思議そうな顔を向けた。
「何? 立木」
「それがな、俺のおフクロ、お前のファンでさぁ、今日一緒に出掛けるって言ったら、お前に食べてもらいたいからとか言って、弁当作ってくれちゃって。持ってかないと、ぶっ飛ばされそうだったもんでさぁ」
 俺の話を聞きながら、神楽がニヤニヤしていた。メチャ恥ずかしい……

「ま、いいじゃん。弁当持って遊園地なんてさ、ちょっと楽しそうだし」 
 そう言って、神楽が俺の肩をバシバシ叩きながらケラケラ笑出だした。
やっぱりバカにされてる感じ? おフクロの奴、帰ったら覚えとけよ!――って、多分何も出来ないけどさ……。

「恥ずかしいよなぁ……」
 ガックリとうな垂れて、足元を見つめながらそう言ったら、神楽が手を伸ばして俺の頭をグリグリと撫ぜた。
「弁当、俺は嬉しいよ」
 視線を上げて、神楽の顔を見ると、神楽がまじめな表情で俺を見上げていた。
 そうなんだよ……こいつの、こういう優しい所が、一緒にいて心地良いんだ。視線がぶつかり合って、頬が熱くなる。
「さぁ、行こうぜ」
 アホみたいに固まっている俺から視線を外すと、あいつはさっさと券売機の所に行って切符を買い始めた。
「おい! 立木、切符お前の分も買ったからな。金くれよ!」
 神楽が俺に向かって手を振っていた。
「分かった。今行く」
 胸がドキドキしているのなんて、俺だけだよな……って、当たり前じゃん。
何で男相手に胸をトキメかせているんだよ、俺――。


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あふれる想いを唄にして・・・23
「何か、デートとか言ってなかった? 彼女いたのあんた?」
 おフクロが、俺に向って、そう言った途端、梨子がまた嬉しそうな顔をした。
「違うよ、かあさん。お兄ちゃんたら、神楽さんとデートなんだよぉ」
 おいおい、それはちっと違うだろ? そう思っていると、おフクロがキラリと目を輝かせた。
「神楽君とデートなの? ずるいじゃない! そんなの、母さんがあんたの代わりに行くわよ」
そんな事、恥ずかしいから、冗談でも言わないで欲しいんだけど?
「だからさ、デートな訳じゃないってば」
 俺がそう言っているのに、おフクロは1人で暴走し始めた。
「あ、そうだわ。母さん、お弁当作るから、持ってきなさい。神楽君に手料理食べてもらいたいわぁ」
「やめてくれよ、弁当なんて。まったく、おフクロがそんなだから、梨子も変な事ばかり……」
「何言ってんのよ。あんただって、母さんの子でしょ?」
ハァ……。だから、女の子と普通に恋愛が出来ないでいるのかねぇ。などと思いながら、彼女達のするどい攻撃に耐えた俺だった。

「マジなのかよ……」
 翌朝、冗談だと思っていた弁当が本当に出来上がっていた。
「中身は、見てからのお楽しみね」
 俺は、「弁当なんて、絶対持っていかない」と抵抗した。部屋の何処かに忘れた振りでもしようか? とか、一度リュックにしまってから、こっそり出して置いて行こうか? とか色々迷ったのだが、移動するたびにおフクロが俺について回っていたので、結局、カワイイ包みをリュックに入れて持っていく事になってしまった。
「シートとお手拭きも、忘れないようにね。ほら、かあさんが入れてあげるから後ろ向いて」
「いらないって!」
「逃げんじゃないの! あんた、ちょっとは親の言う事を聞きなさいよね」
 玄関先で無理やりリュックを掴まれ、荷物を詰め込まれた。
『親の言う事』って言ったって、この場合はちょっと違うんじゃないか? とは思うものの、これ以上おフクロに抵抗する気もおきず、渋々『言う事』を聞くことにした。
 弁当の事が気になって足取りは重かったが、約束の時間前に、待ち合わせしていた駅に到着してしまった。
神楽は、まだ来ていない。俺は、壁に寄りかかってあいつが来るのを待つことにした。
 暫らく、駅に向って歩いて来る人の流れを、何気なく見つめていた。


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あふれる想いを唄にして・・・22
 それから、2人で明日の待ち合わせの場所と時間を決めて電話を切った。
「はぁ……」嬉しいはずなんだけど、溜息がもれてしまう。
 あいつ、きっと絶叫マシーンとかに乗るって言うんだろうなぁ。
俺はジェットコースターとかが大嫌いなのだ。でも……あいつと2人だけで出掛けられるのなら、まぁ、どうにか乗り切ってみるかな? 
もしかしたら、神楽だって絶叫マシーン系が苦手かも知れないし――。

 神楽との会話の余韻に浸りながら明日の事を考えていると、2歳年下の妹、梨子が勝手に俺の部屋のドアを開けて、ニヤケタ顔を覗かせた。
「お兄ちゃん、今デートの約束してたでしょ〜 彼女居たんだー?」
 壁が薄いというのか、地獄耳だからなのか……勘違いも甚だしいぞ!
「ちげーよ。彼女なんていないし」
 俺が不貞腐れたように言うと、梨子が勝ち誇ったように笑い出した。
「ふふっ・・・知ってるよーだ、お兄ちゃんに彼女が居ないことくらい。今電話してたのって、神楽さんだよね。あーそっか。神楽さんとデートなんだ? ふーん。いいなぁ、デート」
 梨子がそう言ってから「頑張ってね〜」としつこく続けた。

 何変な事言ってんだよ? お前、「兄貴が男とデートする」なんていう事を考えるような奴だったのか? ってよりも、「俺が男とデートするような奴」だって思ってるのかよ? 心の中で密かに焦る。
「バカ言うなよ。なんでそうなるんだよ」
 自分が同性に惹かれているっていう事を、他人には気づかれたくなくて、慌ててそう言い返した。
すると、梨子は、驚いたような顔をしてから、ニヤッと笑って口を開いた。

「ジョーダンに決まってるじゃん。お兄ちゃんは、巨乳好きだもんね。中学の時からさ」
 何か……完全にからかわれてる? まったく生意気なガキだ!
「ふざけんなよ! 年上をからかうのも、いい加減にしろっての」
 その後、しばらくの間、梨子と言い合いを続けていると、俺と梨子の騒いでいる声を聞きつけて、おフクロが階段を上がって来る足音がした。
「ちょっと、何騒いでるのよ?」
 おフクロの呆れたような声が聞こえた。
「こいつが煩いんだって」
 ムッとしながら俺が言った。
「煩い? 何それ! お兄ちゃんが最初に大声出し始めたんじゃないのよ」
 負けじと梨子が俺に食いかかった。
「お前が変な事言うからだろ?」 今日こそ負けないぞ……。
「何よ! ホントの事言われて、焦ってたんじゃないの?」
「なに〜 アホな事言うな!」
 俺たちが、取っ組み合いをしそうな雰囲気になると、おフクロが2人の間に割って入ってきた。だけど……おフクロの奴ったら、また話を蒸しかえすような事を言い出すもんで、俺は、さらにイライラしてしまうのだった。  


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あふれる想いを唄にして・・・21
「え? まじ? ファーストフードでいいだろ」
 そんなにおごるなら、ぬいぐるみ買った方が安いし……なんて言って、珍しく神楽が慌てていた。何だかちょっと楽しい気分かもしれない。
「しかたないな〜ハンバーガーにしといてやるよ。でも、もちろんセットでね」
「あぁ、それなら許す」
 許すって? 何だそれ――そう思っているんだけど、あいつと出かけられると思うと、自然と笑顔になってしまう。

「なあ神楽、明日、暇?」
 電話が終わりかけた時、急に思いついた。そうだよ、明日は休みじゃないか? 俺は、ちょっとドキドキしながら聞いてみた。
「え? 何も無いけど」
「じゃさ、どっか行かない? 俺も暇なんだけど」
 俺らは友達同士なんだから、休みに遊びに出掛けるなんて普通の事だ――そうは思っているんだけど、神楽の答えを待っている、ほんの数十秒、俺は緊張しきって、手にベッタリ汗をかいていた。
なんだかまるで、デートの誘いの返事を待っているような、そんな気分がしてならなかった。

「あぁ、良いよ。俺も暇だから」
 神楽の返事に、胸が踊り出す。
「な、お前さ、どこか行きたい所とかある?」
「そうだなぁ……」
 電話の向こうで、真剣に考えている神楽の姿を思い浮かべて、嬉しくて顔がニヤケてしまった。――こんな事でいいのか、俺?
「あ、そうだ、遊園地」
 ニヤケテいた顔が、急に引き締まった。えっ! マジかよ? 遊園地?
「どう、立木?」
 神楽の遠慮がちな声が聞こえてきた。
「え、遊園地? 寒いのに……。しかも俺とお前で?」
 って俺ってなんでこうなんだろう? 寒いのなんて、どうだって良いはずなのに……。いや、本当の問題は、男2人で行くことでも、寒さでもないのだ。
「いいじゃん、別に。あ、でも2人が嫌だったら、他の奴とかも誘ってみる?」
 神楽がそう言ってから、「智也に電話するかな……」と言い出した。

「え、いや、2人でいいよ。確か、智也はどっかに行くって言ってたし」
 ごめん。嘘つきました……ホントは智也たちの予定なんて知りもしない。
だけど、せっかく神楽と出かけられるのに、他の奴に邪魔されるのは嫌だ! なんて瞬間的に思って、口からでまかせを言ってしまったのだ。
「じゃ、決まりだぜ。遊園地ね」
 それも微妙なんだけど――。  




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あふれる想いを唄にして・・・20
「パンダの」って、あいつ見せたのかよ? 何て恥ずかしい奴なんだ……。

 しばら待っていると、神楽の声が受話器から聞こえてきた。
「何か用?」
 今まで聞いた事の無いような、不機嫌な声だったので、話をする前に、気持ちが萎えそうになってしまった。
「あ、あのさ……」
「何……」
「あのな、さっきは、悪かったよ。お前のこと、俺がとやかく言うことじゃないよな。ゴメン」
 一気にそう言うと、神楽の溜息が聞こえ、その後少しの間、沈黙が続いた。
 俺は、居た堪れないような気持ちで神楽の言葉を待った。こんな事で、俺らの友情は終わってしまうのだろうか?
 
「……いいよ。……俺こそ悪かったよ。お前の言う通りなんだよな。はっきり言ってくれて、ありがとう。もう、好きでもない子と付き合うのはやめるよ」
 神楽がもう一度「ゴメン」と謝った。
 あぁ、良かった――って、何が良かったんだろう? 女と付き合うことをやめるって言った事? それとも、あいつが許してくれたって事? それとも…

「それでさ」
 そこまで言って、神楽が何かを考えているような間があいた。
「なに?」
「今日は、一緒に帰れなくて、ちょっと残念だった」
「お、俺も……」
 そんなに、俺と帰りたいと思ってくれてたんだ? そう思ったら急に胸の鼓動が激しくなる。
「なぁ、立木、あのさ」
 会話の雰囲気で、勝手に何かを期待してる俺だけど、仲直りできただけで良いはずなのに、それ以上何があるって言うんだ? 神楽が何て言ってくれたら、俺は満足するんだよ――。

「あのさ、欲しいのがあったんだよ。今度は、手を入れてパクパクする『ウシ』」
「はぁ?」
 ――やっぱり、そういうオチね。
「な、立木、また取ってくれるだろ?」
「え? お前、自分で取ればいいじゃん。俺だって、上手い訳じゃないし」
 とか言いつつも、あいつに何かを頼まれて、やけに舞い上がっている俺が居たりする。ま、一番の友達だし、良いか――そう、俺達、親友なんだよ。

「そう言えば、まだ俺、おごってもらってなかったよな」
「そうだったよな。じゃあさ、『ウシ』取ってくれたら、メシ1回おごってやるよ。で、ついでに『カエル』も取ってくれると嬉しいんだけど」
 神楽がそう言って、クスッと笑った。
「よし、わかった。『ウシ』と『カエル』で、横浜の中華街で食い放題ってことで」
 舞い上がりついでに、勝手な事も言ってみたりして――。 


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あふれる想いを唄にして・・・19
 居間のソファーで落ち込んだ姿をさらしていると、おフクロが、大きな溜息をついてから、俺の側に近寄って来た。
「どうしたのよ、失恋じゃなきゃ、何があったの? また、赤点取ったとか?」
 『あんたは赤点取った位じゃ、落ち込むわけないわね』って呟いて、おフクロがさっさと台所に戻ってしまった。それって酷い言い方じゃないか?!

「ちょっと……ケンカしたんだよ。神楽と」不貞腐れたように、そう言った。
普段だったら、そんな事おフクロに話さないのに、今日に限って、愚痴が口をついて出てきてしまった。
「まぁ、神楽君と? なんで喧嘩なんかするのよ! きっと、あんたが悪いんでしょ? 今すぐ電話かけて謝りなさい。あんたと神楽君が仲悪くなったら、かあさん、神楽君と会うチャンス無くなるじゃないのよ!」
 台所で洗い物をしながら、おフクロが勝手なことを言い始めた。
「はぁ? 何言ってんだよ。アホ。」
 何で喧嘩すると俺が悪いって事になるんだ? 
「何よ、人が心配してやってんのに! とにかく、暗い顔してないで、さっさと電話しちゃいなさい!」
 おフクロが急かすようにそう言ってから、俺の方をジッと見た。
「どこが心配してるってんだよ? 自分が神楽と会えない、って心配じゃないかよ!」
 そう文句を言ったけど、この居たたまれない気持ちから、一刻も早く開放されたいと思い、おフクロの言う通り、神楽に電話をしてみる事にした。

 急いでソファーから立ち上がると、階段を上って部屋に戻った。
――おい、待てよ? 電話って言ったって、俺、あいつのケータイ番号知らないんじゃないか。休みの日等に出かけた事もないから、携帯番号を知らなくても不自由した事が無かったんだ。
「なぁ、おフクロ、学校の名簿どこにある?」
 階段を下りながら、大声でそう言うと、居間にいたおフクロが、名簿を投げつけてきた。なんてガサツナ母親なんだろう。
「ちゃんと謝っておくのよ!」
「わかってるよ! いちいちうるせぇな……」
 だいたい、何で俺が悪いって決めつけるんだよ! ブツブツ文句を言いながら、部屋に戻って、机の上にある携帯を手に取ると、ベッドにあぐらをかいて座った。

 片手で名簿を捲り、神楽の電話番号を見つけると、深呼吸してから電話をかける。
そう言えば、あいつの家に電話するのは、初めてだよな――。
「はい、神楽です」
 呼び出し音が数回聞こえた後、おフクロとは違って、品の良さそうな声が聞こえてきた。
「あの、立木と言いますが・・」
 俺が名乗った途端、電話の向こうから、クスッという笑い声が聞こえた。
「あ、ごめんなさい。あのパンダの立木君ね。ちょっと待っててね」 


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あふれる想いを唄にして・・・18
「置いていって悪かったよ……。でも、お前着替えて無かったし――」
 俺は、ジンジンする背中を智也から庇いながら言った。
「ま、別に良いんだけどさ。所で神楽、遅せーじゃん?」
 踵が潰れてスリッパのようになっている上履きを下駄箱にしまいながら智也が言った。
「いや……それが、さぁ――」
 俺は、何となくバツが悪くて、俯きながらブツブツ呟いた。
「何だよ?」
 智也と並んで、校舎の外に出た。外はすっかり薄暗くなっていて、寒さがやけに身に染みた。
「なんか俺、あいつの事、怒らせちまったみたいでさ」
 俺の言葉に、智也がフッと笑った。優しい言葉を期待していたわけじゃないけど、笑うことは無いじゃないか……。
「へーめずらしいじゃん。あいつでも怒るんだ?」
 お前らが喧嘩するなんてなぁ……と智也がからかうように言った。こいつ、他人事だと思って、楽しんでいるのか――そう思うと、話す気も失せてきてしまう。
「……」

「んじゃ、途中まで一緒に帰るべ」
 その後、智也は神楽の話題には触れず、自分の事ばかり話していた。俺は、あいまいに相槌を打ちながら、智也の話を適当に聞き流した。
頭の中では、辛そうな顔をして俺を睨んだ、神楽の事ばかり考えていた。
「じゃな、立木。そーだ。あいつと仲直りしろよ。お前がきっと余計なこと言ったんだろうから」
 駅についた途端、智也にそう言われ、ハッとした。
「え……あぁ」
 もしかして、智也は俺と神楽の会話を聞いていたのだろうか?
「お前、俺の話ずっと聞き流してただろ?」
「……ごめん」
「ったく。しょうがねーなぁ……。ほら、シャキっとしろよ、シャキッと」
 智也が、俺の肩をポンポンと叩いた。
「……わかったよ」
 
 家に帰ってから、俺は、ソファーに寝転がって溜め息ばかりついていた。
そんな俺に向かって、おフクロが、「失恋でもしたの?」なんて余計な事を聞いてきた。いっそ「失恋」したほうが、スッキリしていいのかもしれない。
いや、失恋する以前の問題だろが――。

 マイペースで、多少の事じゃ動揺しない母親だけど、俺が、神楽の事を友人以上の気持ちで見ていることを知ったら、一体何て言うんだろう? 
いくらなんでも、「応援するわよ」とか、激励の言葉をかけてくれるとは考えにくい。そう考えると、ますます気持ちが暗くなってきてしまった。  


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あふれる想いを唄にして・・・17
 そりゃ最初は、神楽の顔が好みのタイプだとか思ったよ。一緒に帰った時には、こいつに恋しているっていう自覚症状もあったよ。けれど、こいつが男だってちゃんとわかっているし、男に恋するなんて普通の事じゃないって思うから、男同士でどうこうなりたいなんて、考えてない。あいつのそばに居るだけで良いと思っていたのに……。
 神楽を自分のものにしたいなんて思っているわけない……絶対に。そうじゃないと俺も困る。
 だけど、心の中のモヤモヤがどんどん大きくなり、俺は気持ちを上手くコントロール出来なくなっていた。

「そんな事言うなんて、彼女が可哀想だろ? そんな気持ちで、付き合っちゃうって、なんか違わない? 陰で面倒くさいとか言うより、告られた時に、ちゃんと断わった方がいいんじゃねーの?」
 俺が言った事に、神楽の表情が悲しそうに崩れて行くのが分かった。でも、言い出した言葉は、途中では止められなかった。
「大体、そんなに次から次に女とっかえひっかえしてさ、お前が本当に好きな奴がそれ見てたら、お前の事なんて――」
 そこまで言うと、神楽がパッと手を上げて俺の胸倉を掴んだ。
「煩い! 立木に何が分かるんだよ! 俺が何したって、お前には関係ないだろ!」
 ハッとして神楽の顔を見ると、神楽は今までに見たことも無いような、辛そうな顔をして俺のことを睨み付けた。
「……神楽……」
 次の瞬間、神楽は俺の胸倉から手を離し、パッと校庭の方に走り出してしまった。
 突然の神楽の行動に、俺は呆然とその姿を見送るだけだった。

 せっかく一緒に帰れると思っていたのに――俺ったら、何余計な事言ってんだろ……別に説教なんかする事なかったのに。
 確かに、あいつが何したって、俺には関係ない事なんだ。そんなのわかっている。わかっているんだけど、言わずにいられなかった。

 今まで神楽があんな風に感情をぶつけて来たことなんて、一度もなかったから、俺はショックのあまり、その場で放心状態のまま立ちつくしていた。
 だから、部室に残してきた智也が、すぐ後ろに来ている事にも気付かないでいた。
「お? 立木、まだ居たんだ。先帰ったと思ってたのによー」
 急にふき込んで来た風に、身体をすくめながら智也が靴を履き替えだした。
「なんだよ智也、驚かすなよ……」
「別に、驚かしたつもり、ないんだけど。あれ、神楽はいねーの? 一緒に帰ろーとか言ってたじゃん。ったく、俺を置いて行きやがって――」
 智也が俺の背中をバシンと叩いて文句を並べた。


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あふれる想いを唄にして・・・16
「ん? 何」
 照れくさくなって視線をそらしながらそう言ったら、「お前ってすごいよなー」と言って、神楽が俺の背中をポンと叩いた。
「え? 何が」
 靴を履き替える動作を再開して、俺は神楽に聞き返した。何だかメチャクチャ恥ずかしい。
「何がってさ、俺、お前が部活でバスケしてんの初めて見たんだけどさ、すっげーかっこ良かったよ。2年をかわして、シュートを打ったところなんか、特にさ――」
 興奮したように話している神楽を見て、俺はますます恥ずかしくなった。
「あぁ……えっと、ありがど」
 カッコヨカッタ――かぁ。神楽、お前はかわいいよ……なんて、俺は言えないよなっていうか、この状況で言うのは不自然だよな――って、何考えてんだよ、俺ってば。

「お前、ずっと忙しそうで、全然一緒に帰れないじゃん。だから、たまには待ってみようかな? とか思ってたんだよ」
 マジですか? すごい嬉しいじゃないか!
「ごめんな、試合とかあったし。って言うか、お前、又、彼女出来たんだろ?俺となんて帰ってらんないじゃん」
 嬉しかったんだけど、複雑な気持ち。相変わらず、神楽の周りには女が絶えない。
 いつの間にか別れていた何人目かの彼女の次に現れたのは、2年の女だったと思う。どの彼女も可愛くて、オシャレで、神楽と並ぶと絵のようだ……なんて思って、ひそかに落ち込んでいたのだ。
「遠慮なんてすんなよ。立木との約束の方が優先だってば。それに、女って何か面倒くさいし……」
「え? 何だよそれ」
 お前、それは贅沢ってもんだろうが?!
「だって、毎日電話してきたり、今日どこに行ってた? って詮索されたり」
 そう言って神楽が溜息を吐いた。
「だからさ、そんなんだったら、付き合わなきゃいいだろ? 前も言ったじゃん」
 俺は妙にイライラしてしまい、そう答えた。
「……まぁ」
 俺の言葉を聞いて、神楽が神妙な顔をしてしまった。
悪かったかな――とは思うものの、こいつのはっきりしない態度が気に入らなかった。いや、それだけじゃない、彼女に対する嫉妬心もあるんだ。

 あぁ、まったく! どうして、こんな奇妙な気持ちになってしまうんだろう? 


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あふれる想いを唄にして・・・15
「お、何だかざわついてると思ったら、神楽じゃん」
「あぁ、珍しい事もあるもんだよな」
 智也と一緒に得点ボードをセットしながら会話をしていると、こちらに視線を向けた神楽が、俺達に向かって手を振り出した。
「はらだー、たちきぃ、練習がんばれよ!」
 笑顔満開の神楽を見ていると、妙に胸があつくなる。
「なぁ、立木、終わったら一緒に帰ろうぜ!」
 神楽の大きな声に反応して、女バスの奴らが一斉に俺を見た。なんだかちょっと、視線が痛いんだけど?!
「おう。わかった」
 俺はそれだけ言うと、なるべく神楽の方を見ないようにした。あいつの事なんて見ていたら、緊張して体が強張ってしまいそうだ――。

 その日の練習メニューには、2年対1年の試合があった。
 何度かチャンスがあり、俺自身もシュートを決める事が出来たし、試合の内容も悪くなかったので、かなり満足している。
 それに……シュートを打った後、チラッとギャラリーを見たら、嬉しそうに拍手している神楽のカワイイ姿も見ることが出来たし……。

 
 結局、俺と智也のいた1年Aチームは、勝利の女神? が見ているおかげか、2年のチームに圧勝した。先輩達の態度が微妙に怖かったけど、他の1年生チームの仇を取ったみたいな気分で、1年全員で盛り上がってしまった。
 コーチにも珍しく褒められたし……やっぱ、神楽のおかげかもしれない。

 部活が終わった後、着替えを済ませると、ベラベラと話しながら着替えている智也を置いて、急いで下駄箱に向かった。
 下駄箱で靴を履き替えようとすると、昇降口の短い階段の所に座って、俺を待っている神楽の姿が見えた。
「よー神楽、お待たせ。寒かっただろ?」
 声を掛けると、神楽が振り返えり、コートの埃を払いながら立ち上がると、俺の方に近寄ってきた。
「大丈夫だよ。これ持ってるし」
 そう言って、神楽が両方のポケットから携帯用カイロを出した。
「用意がいいんだな……」下駄箱から靴を出し、ポンと足元に落とした。
「まぁね。今日は立木が部活終わるまで待って、一緒に帰ろうと思ってたから」
 上履きを脱ぎかけていた俺は、その言葉に妙に感動して思わず動作を止め、神楽を見た。
 すると、神楽が目をキラキラ輝かせながら俺の事をジッと見つめ返してきた。


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あふれる想いを唄にして・・・14
「立木に言われたくねーよ」
 神楽がそう言って、ムッとした表情をして俺を見た。
「何だよそれ!」
 負けずに言い返すと、神楽が急に笑い出した。
「俺たちって、ホント、ガキだよなー」
「え? まぁ……そうだな」
 くるくる変わる神楽の表情に釘付けになっている、バカな奴が約1名――。

「ところで立木、バスケ無い時に、また、こうして寄り道しようぜ」
 そう言いながら、背の低い神楽が、無理やり俺の肩に腕を回してきた。
「おう。そう言えば、今日、おごってもらってなかったし」
「わかってるって。今度の時な」 
 その後、お互い肩を組んだ状態のまま、くだらない話題で盛り上がりながら駅まで歩いた。
神楽に触れるのが、こんなにドキドキすることだなんて、今まで気が付かなかった。イヤ……気付かなければ良かった――。
 その日の夜、俺は神楽と撮ったプリクラのシールをアルバムに挟んでおいた。無邪気な子供のような彼の笑顔を、ずっととって置きたいと思った。
 そして……どうやら俺は、実らない恋をしているらしい――って事が、ハッキリわかってしまった。俺の一番近くにいる友達のあいつに――。

 季節はいつの間にか、時折北風が吹き荒れる寒い季節を迎えていた。
試合や、練習が続き、結局、あの日以来、神楽と帰る事が出来なかった。ただの口約束になってしまったようで、寂しいような気がしたけれど、学校では殆ど一緒に行動している事だし、男同士の関係で、これ以上何を望むんだ――と自分に言い聞かせ、ふくれ上がってしまいそうな恋心を胸の奥の方に押し込めておいた。

 11月も終わりに近い、ある日の放課後、部活の準備で、俺は体育館のヒンヤリと寒い倉庫から籠に入っているボールを仲間と運び出していた。
「ボールまで冷えきってるぜ」
 籠から転がり落ちたボールを拾い、顔を上げ体育館の入り口のあたりに視線をやった。そこには、何故か、コートを着込み、マフラーをしっかり巻いた神楽がいて、ウロウロと誰かを探しているようだった……。
 パッと女バスの連中の方を見ると、神楽が来たからか、3年の先輩までもが、急にザワザワと落ち着かなくなっていた。
ちらちら神楽を見たり、手を振って神楽の反応を見ていたり――。
だけど、落ち着かなかったのは、女子部員だけでは無かったのだ。
そう、この俺もだ。俺の場合は、ものすごく緊張したっていう方が正しいんだけど。 



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あふれる想いを唄にして・・・13
 勝手に飲んでおいて、文句言うのかよ!――って言い返そうと思ったけど、俺を見て嬉しそうに笑っている神楽に気付くと、俺は妙に恥ずかしくなってしまい、神楽の顔を見ることも出来なくなって、パッと視線をそらしてしまった。
「まぁ、でも、ちょっとなら、美味しいかもね」
 神楽が残りわずかになったココアのカップを、スッと俺のほうに返してきた。ザワザワしていた店の中、俺の周りだけ一瞬音が何も聞こえなくなった。
自分の前に戻って来たカップを見つめ、俺は、1人でドキドキしていた。
 まったく……さっきから、何、ドキドキしてんだよ、俺……。
「どうしたんだよ?」
 俺がカップを見つめたまま固まっていたので、神楽が怪訝そうな顔をした。
「え……いや別に」あぁ、全く言い訳が思いつかない。
「立木って、人が口をつけたコップじゃ飲めない奴? それとも、俺が何か病気でも持ってると思ってるわけ?」
「いや、全然……ってか、そんな事思ってねぇよ」
 俺は焦ってそう答えると、平静を装って、カップを手に取り、ココアをグッと飲み干した。

 店を出ると、またすぐに額にジットリ汗が滲んできた。だけど、横にいる神楽は、ちっとも暑そうじゃなくて、やけに爽やかな表情で空を見上げていた。
「今日は楽しかったな――」
 空を見上げながら神楽がポツンと呟いた。
「あぁ、俺も」
 やっぱり、神楽といる時が1番楽しいんだ――。

「立木のパンダ、最高だったよ」
 神楽との友情が深まったような気がして、1人感慨に耽っていたら、神楽の可笑しそうな笑い声が聞こえた。……なんだよ、そういう事かよ?
「ったく……誰にも見せんなよ」
 あんなもん……携帯に貼ってあるなんて、ヤバイよなぁ。
「えー? いいじゃん。智也に見せよっかな?」
「ふざけんなよ! あいつに見せたら、皆に回覧されちまうだろ……」
「あはは。そうだよなー。じゃ、これも『内緒』だな」
 楽しそうに笑っている神楽が、メチャメチャ眩しかった。心臓の鼓動だってやけに早いし……。
 なぁ、俺……これって、決定的なのか?
「どうかした?」
 神楽の横顔を見つめたまま呆けている俺に気がついて、神楽が不思議そうな顔を向けた。
「べ、別に……。お前ってガキだなーって思ってさ」
 ヤバイヤバイ、俺、ヤバ過ぎる。




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あふれる想いを唄にして・・・12
「……関係ないし。好きなんだからいいじゃん」
 神楽が片眉を上げながら、ぶっきらぼうにそう言った。
「あのなぁ、俺だってココア好きなんだから――お前には関係無いだろ?
って言うか、俺って結構甘党なんだよ! 文句あるか?」
 腹が立った訳じゃないけど、言い返さないと気がすまなくて、そう言った。でも、「甘党だ!」って威張っちゃうのもなぁ――と言い終わってから後悔した。
「へー……何か、意外だね。えー、まぁ、お互い智也には、内緒ってことで……なっ?」
神楽がそう言って笑った。からかわれると思っていた俺は、思わず吹き出してしまった。

 窓際の席が空いていたので、そこに並んですわり、ハンバーガーをかじりながら、ガラスの向こうで、暑そうに道路を行き交う人達を眺めていた。
しばらくの間、学校の話や、部活の話をしていたのだけれど、何だか今日は、いつもよりも神楽との距離が縮んだような気がして、俺は、普段学校では話した事のない話題をふってみようと思った。
「な、さっきから聞きたかったんだけど、お前の好きな人って、何か訳ありとかなの?」
彼女の話とか聞いても、話したくなさそうだったから、最近はずっと遠慮していたんだけど……今なら大丈夫かもしれない……。
「え……?」
「なぁなぁ、教えてくれたって良いじゃん」
俺の急な質問に、神楽が、困ったような顔をしてしまった。さっきも言葉を濁していたから、ちょっと気になっていたんだけど……。
「まぁ……そう言う事」
 ハッキリ答えない神楽の様子を見ていたら、もしかして、そんなにヤバイ相手だったりして? 年上とか、恋人がいる奴とか……まさか人妻とかだったりして? なんて事が思い浮かんでしまい、俺の想像力って、かなり安っぽいよな……って思わず自分でも反省してしまった。

 急に窓の外をボンヤリ眺めて、黙り込んでいた神楽が、しばらくすると、何か思いついたように顔を上げ、ニコッと笑った。
「ちょっと味見させてよ」
そう言うと、神楽は俺の返事も待たず、俺のココアに手を伸ばし、勝手にゴクリと飲んでしまった。
「うゎ、何これ、生暖かいし甘すぎじゃない?」
神楽は、そう文句を言っておきながら、もう一度ココアの入ったカップを口元に持っていった。




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あふれる想いを唄にして・・・11
 カワイイ……ってどんなだよ? と疑問に思いながら、俺は手持ち無沙汰で携帯をいじくっていた。
 しばらくして、出来上がったシールが機械から出てくると、神楽が我先にそのシールを取り上げた。
「なぁ、立木、最高の出来栄えだよ」
 そう言った神楽の声は、確実に笑っているんだけど……。
「え……これっ?」
 「最高の出来栄え」とか言うわりに笑っていることが気になって、神楽の手元を覗き込むと、そこには、カラフルな色でいたずら書きされている、俺と神楽の写真が幾つもうつっていた。
「おい……これ、俺?」
「そう、立木。カワイイだろ?」
 オイオイ……カワイイとかそう言うレベルなのかよ?!
 写真の種類が何パターンかあったんだけど、その中で一番目立ったのといえば、ウサギの着ぐるみを着たようないたずら書きがしてあるカワイイ神楽と、妙に笑えるパンダの俺だったりする……。
「俺、これケータイに貼ろ」 弾んだ声で神楽が言った。
「ゲッ、まじかよ? やめてくれよ」
 こんなの誰かに見られたら、絶対笑われる……と言うか、バカにされるだろ?
「いいじゃん、気に入ったし」
 神楽が書いている時、チェックしておくんだった……と微妙に落ち込んでいる俺の隣で、神楽は、嬉しそうに自分の携帯にシールを貼り付け、満足したように頷いた。
「じゃ、これ半分、立木のだからね」
 神楽はシールが貼り終わると、プリクラのシートを半分に切り、満面の笑みを浮かべながら俺に差し出した。学校で一緒に居る時と違って、妙に子供っぽい神楽に、俺は戸惑っていた。

 ゲーセンを出ると、外はまた茹だるような暑さだった。
しばらくブラブラと歩き回っていたのだけれど、小腹が空いてきたので、何か食べてから帰る事にした。

「えっと、飲み物はココアで」
 駅の近くにあるマックに行き、俺はお気に入りのココアを頼んだ。
「立木、お前そんなの飲むの? 女、子供のようだなぁ」
 横から神楽がそう言って、ちょっと意地悪な笑顔を向けた。――何だよ、お前の頼んだジンジャーエールなんて、ただの炭酸生姜汁だろが……。
「っせーな。どう考えても、お前のがガキじゃん。ぬいぐるみなんてよ」
 不貞腐れたように言うと、神楽がフッと笑った。




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