−甘嘘別館−  
♪ハッピーエンドのBL小説を連載します♪

■ プロフィール

Author:りょう
BL小説を書いてます。
よろしくお願いします☆
別館では18禁小説は連載しません。
本館へ行かれたい方は、コメント等でお問い合わせ下さい。
(メールアドレスをお忘れなく…)

☆おことわり☆ 
「出会わなければ」には、実在のバンド、メンバーと似た人物が出てきますが、実在の人物とは一切関係ありません。

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出会わなければ 124
 ベッドに入り、まどろんでいると、ベッドの脇のテーブルに置いてあった携帯の着メロが鳴り出した。
「寝てた?」
 聞こえてきたのはシュンの声――。
「・・・今ベッドに入った所ですよ」
「今、君の家に向ってる途中だから」
 これからシュンが? そう思うと急に身体中が緊張してきた。
「終わったんですか?」
 シュンが無理してまでココに来ようとしているのではないかと思い、心配になってしまう。
「今日の分はね。レコーディング中は忙しくても、家で休める時間を作ろうって、みんなで決めてるんだ。だから・・・」
「あの、でも」
 うちに来て、ゆっくり休むつもりなのだろうか? それとも・・・
「あと10分位ね。じゃ」
 それだけ言うと、シュンはさっさと携帯を切ってしまった。

 パジャマのままベッドから這い出し、居間に行った。服は着替えておいた方が良いんだろうか? 
でも、まぁいいや・・・どうせ寝るんだし・・・って、待てよ?

 そう言えば、ゴムの買い置きなんて無かったような・・・。いやいや、セックスはサチに止められたじゃないか。
だけど、シュンが抱いて欲しいって言ったら、我慢出来るんだろうか・・・

 1人でグルグルいろいろな事を考えていると、玄関のベルが鳴った。
急いで玄関に行き、ドアを開けると、俺の顔を見た途端、シュンが俺の身体に飛びついてきた。

「鷹人! 会いたかった」
「ちょ・・・シュン、まだ、玄関開いてますって」
 俺はシュンの体を抱き寄せると、慌てて玄関を閉めた。
「俺も会いたかったです」

「愛してるよ、鷹人」
 シュンの柔らかい唇が、俺の唇に触れる。
 暫らくの間、キスを止めることが出来なかった。

「お帰りなさい、シュン。お疲れ様」
 唇を離して、目の前で微笑んでいるシュンに挨拶をした。
「ただいま・・・鷹人」



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テーマ:BL小説 - ジャンル:小説・文学

出会わなければ 123
「・・・・あのさ、今日の夜、もしかしたら行くから」
 シュンの声が携帯から聞こえてきて、胸が急に高鳴り始めた。
『シュンー、そんな事言って、渡辺さんに期待させたらダメだよ』
 サチの声が聞こえて、現実に引き戻される――。
「・・無理しないで下さいね」
 本当はシュンにすぐにでも会いたかったけれど、忙しいシュンに迷惑を掛けてはいけない・・・。
『サチ、携帯借りて。シュンさんから』
 進藤の声が聞こえた後、ガサゴソと雑音が続いた。
「あのさ、締め切り延ばしてもらったやつ、早めにやってくれよな。頼むよー」
 雑音が消えたと思った瞬間、進藤のデカイ声が聞こえてきた。
「わかってるよ。今からやるって」
 不貞腐れたように返事をする。
「そうそう、頑張れよ。じゃなー」
 進藤はそう言うと、そのまま携帯を切ってしまった。
 仕方無い・・・明日から描こうと思っていたけれど・・・始めるか。

 電話を切った後、すぐに仕事机に向かい絵を描きはじめた。

 夕方になり、腹が減っている事に気が付き、買い置きしていたカップラーメンを食べ、その後にシュンの持ってきてくれたケーキを食べた。それほど甘いものが好きでもない俺にとっても、ちょうど良い甘さの美味いケーキだった。
シュンと一緒に食べたかったな・・・そう思うとホンの少し切なくなった。だけど、これからは時間があう時になら、いつでも会えるようになるんだ。このぐらい我慢しないといけない。

 一息ついた後、もう一度仕事机に向かい、絵を仕上げていった。途中で何度も眠気に襲われながら作業を続けた。病院では暇があれば眠れたから、こんなに長い間起きていたのは久しぶりかもしれない――。

 何時になっただろうか? ふと時計を見ると、11時を回っている。
「そろそろ寝とくか・・・」
 眠さのピークを迎えてしまって、手が思うように動かせないでい、今日はこの位にしておこうと筆を置いた。



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出会わなければ 122
シュンがここに来たのは、自分の気持ちに踏ん切りをつける為だったのかもしれない。俺に傍に居て欲しいって言ってたけど、諦める覚悟をしていたんじゃないだろうか。
 でも・・・「返す」と言われも、俺があげたわけじゃないんだけどなぁ―― そう思いながら、写真とカードをゴミ箱に捨てた。
こんな隠し撮りの写真、もう必要ないよね。俺、出来るかぎりシュンの傍にいるよ――。

 仕事部屋に行き、必要の無くなった資料を整理した。断わらないで済んだ作品だけ残すと、明日からすぐ取り掛かれるように、少し手を慣らしてみようと思った。
鉛筆を出し、白い紙に線を書いていく。久しぶりに書くことが楽しいと感じた。病院に居た頃は思ったように筆が進まなかったけれど、これならもう大丈夫かもしれない。

 しばらくすると横で携帯が鳴り出した。
「はい」
「あ、鷹人? あのさ、俺、忘れ物した」
 シュンの少し慌てたような声が聞こえてきた。
「え? 必要な物だったら、届けますよ。今、何処に居るんですか」
 俺がそう言うと、少し間があってから、シュンの小さな声が聞こえてきた。
「今、まだ進藤君の車の中。道が混んでて・・・。えっと、別に届けなくていいんだけど、あのね、テーブルの上に・・・」
「・・・これからは仕事の仲間として・・・って奴ですね?」
「見たの・・・? あのさ、あれ・・・」
「もしかして、シュンさん、自分の気持ちだけ言って、帰るつもりだったんじゃないですか?」
 一生懸命言葉を探しているシュンに俺はそう言った。
「そうじゃないけど・・・鷹人はきっと、あの金髪の恋人から離れられないと思って・・・」
 シュンが小さな声でブツブツ呟いた。子供が拗ねているみたいで、可愛い・・・って思った。
「どうしてですか?」
「だって・・・前に会った時、彼女すごい挑戦的な目で俺の事見ててさ。絶対に勝てないって思ったんだよ・・・」
 勝てない訳無いですよ・・・。もし、俺が本当に彼女と付き合っていたとしても、シュンがあんな行動とったら・・・多分、俺はあなたの所に行ってると思う――。

「あれは、捨てておきました。もう必要ないでしょ? 俺が居るから」



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テーマ:BL小説 - ジャンル:小説・文学

出会わなければ 121
「さぁ、シュン、行こう」
 サチの言葉に、シュンが無言で頷いた。

「先行くぞ」
 進藤がエレベーターの方に向かって歩き始めた。
「・・・頑張って、早く終わらせよ・・・」
 シュンが呟くように言った。
「だろ? もうすぐレコーディングも終わる事だしさ。終わったら休み取ろうよ、お互いに恋人と過ごす時間を作らなきゃな」
 サチがそう言ってシュンの肩に手を回した。
「そうだよな」
 シュンが華のような笑顔を浮かべていた。

「鷹人、レコーディング終わらなくても、時間がある時に来るから・・・」
 シュンが俺の首に腕を回し、唇にキスしてからそう言った。
「わっ、そんな事するシュン、初めて見た感じ・・・あ、でも、渡辺さん、くれぐれもシュンを鳴かせ過ぎないようにして下さいね」
 サチが笑いながら俺達の様子を伺っていた。
「いや・・・そんな」
 焦っている俺を見て、サチが「熱い熱い」って手で自分を扇いでいた。
「はいはい、もう、行きますよー」
 エレベーターの前で、待ちくたびれたようなポーズを取っている進藤の声が聞こえた。
「じゃね、鷹人」
 シュンが俺から手を離した。
「また・・・」
「それじゃ、シュンは俺が預かりますから」
 サチがウインクしながら俺に手を振っていた。


 俺はまだ、自分の回りで起きていた事が、信じられないでいた。自分の妄想が膨れ上がって、白昼夢でも見ていたんじゃないだろうか?
 半信半疑で台所に行き、冷蔵庫を覗いてみると、そこにはちゃんと、シュンの持ってきてくれたケーキとワインが入っていた。
 やっぱり本当の事だったんだ――嬉しくてニヤケながら居間に戻って、テーブルの上に視線を向けると、そこには見慣れない封筒が置いてあった。
「何だろう?」
 それを手にとり、眺めてみた。少し重みがある・・・。封筒の裏側には、「澤井瞬」とシュンの本名が書いてあった。
 糊付けされていないその封筒の中を覗いてみると、そこには写真が数枚入っていた。
「あれ? 俺の・・・」
 その写真は、俺が個展を開いた時のものだった。色々な人に囲まれて、俺が天使の絵の前で話をしている時の写真だった。シュンが撮った写真なのだろうか?
 他の写真も、全て俺が写っている写真だった。
写真を捲っていくと、最後にメッセージカードが出てきた。
 −写真を返します。君の事を思うと辛いから・・・。
  いつも描いてくれて有り難う。これからは仕事の仲間としてよろしく。 澤井瞬 −



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出会わなければ 120
「よう鷹人。退院祝い、どうだった?」
 目の前には、ニヤケた顔の進藤が立っていた。進藤の後ろには、サチの姿もある。
「・・・おかげさまで・・・」
 やっぱり進藤の言ってた退院祝い――って・・・俺は、思わず苦笑しながら答えた。
「ごめん鷹人。俺、忘れてたよ」
 繋いでいた手にギュッと力を入れてから、シュンが申し訳なさそうに俺を見た。
「何を?」
 俺がそう言うと、シュンではなく進藤が話し始めた。
「シュンさんはこれからレコーディングの続きをする訳。だから、声が枯れちゃうような事されると困るんじゃないかな?」
 そう言って進藤は、俺の腹に拳骨を軽くあてた。
「はぁ? な・・・何言ってんだよ進藤。そんな・・・」
「ごめんね、渡辺さん。後で迎えに来るって言っておいたんだけどなぁ? シュン」
 サチのその言葉に、シュンが恥かしそうに俯いてしまった。
「ごめん・・・鷹人。また来るから」

「でも、しばらくはエッチなこと禁止だよ」
 サチに言われ、なんて反論して良いか分からず、思わず進藤を睨みつけてしまった。
「鷹人ぉ、俺が悪いんじゃないぞ? それに、上手くいったんだろ? その様子だと」
 進藤がヤレヤレって顔で、俺とシュンが繋いでいる手に視線を移した。
「ま・・・まぁね」
 急に恥かしくなった俺は、シュンの手をパッと離した。
「はぁ、良かった。これで俺たちもお役御免だよな」
 進藤がサチの顔を見ながらそう言った。
「何だよそれ?」
「お前達って、相手の為とか言ってお互いに嘘つきあってたんだろ? 悲劇の主人公になったみたいにさ」
「・・・その言い方、なんか酷くないか進藤?」
「でも、その通りだったかな・・・」
 シュンが俺の横で微笑んでいた。まぁ・・・いいか、シュンの笑顔を見られるなら。

「鷹人かシュンさんか、どちらかが、早く行動を起こせばいいのに・・・って思ってたんだぜ。苦労したよ」
 進藤が、大きな溜息をついた。
「苦労って、お前、俺に何かしてくれたのか?」
 言った後に思い出した。シュンの仕事を無理やり俺にやらせたり、サチが俺に迫ったりしてたのって、もしかして、俺達をけしかけてるつもりだったのか・・・?
「あのさ、色々知ってたなら、普通に教えてくれよ」
「知るか。俺はそんなに優しくないの」
そんなの分かってるけど・・・余計ややこしくなってた様な気がするんだけど。



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テーマ:BL小説 - ジャンル:小説・文学

出会わなければ 119
 もう一度シュンの身体を抱きしめ、キスをした。時折聞こえる、シュンの切ないような甘い声に、俺の身体はどんどん熱くなる。
「鷹人・・・抱いてくれる?」
 唇を離してシュンが囁いた。
「抱いていいの?」
 シュンの目をシッカリと見つめて聞いてみた。
「抱いてくれないと困る・・・」
 シュンが熱くなった身体を押し付け、俺の唇を指で辿りながらそう言った。シュンのその仕草に、いきなりスイッチが入ってしまった俺は、シュンの華奢な身体をサッと抱き上げた。

「あ・・・痛て・・」
 力を入れた途端、背中の傷がメチャクチャ痛んで、危うくシュンを落としそうになってしまった。
「鷹人・・・大丈夫?」
「ごめんなさい、シュン」
 俺は、シュンの身体をソファーに下ろしてから謝った。
「良いよ。歩いていけるから」
 シュンが俺の顔を覗き込んで、ニッコリ微笑み、俺の手をスッと握った。

 2人で手を繋いで寝室に向おうとしたその時、玄関のチャイムが鳴った。なんてタイミング悪いんだろう。
「・・・宅急便かな・・・まぁ、良いや・・・」
 居留守を使おうと思い、シュンの手を引いて寝室に向かおうとした。
「・・・そうだ」
 シュンが俺の手を引っ張った。
「何?」
「玄関・・・出なくちゃ」

 居留守を使おうと思ったのに、シュンに言われて、渋々インターフォンに出た。
「や、鷹人」
 進藤の嬉しそうな声が聞こえてきた。何だよ・・・いい所で!
「おう、今開ける」
 心の中で文句を言いながら、玄関まで行きドアを開ける。シュンは手を繋いだまま、俺の横に並んでいた。



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お休みします
いつもありがとうございます!

もう少し話が続くのですが、
今日は忙しかったので更新お休みします。
ゴメンなさい。
明日は更新出来ると思います。

それでは…
出会わなければ 118
 唇を離してシュンを見つめながら、俺は大事な事を思い出した。
そうだ・・・シュンには恋人がいるはず・・・。
「どうしたの? そんな顔して?」
 シュンが戸惑っている俺の頬を、両手で優しく包み込んだ。
「シュンには、恋人が居るんでしょ?」
 俺がそう言ったら、シュンが俺の頬から手を離し、眉をひそめた。
「・・・雑誌、読んだの?」
「いえ、読んで無いんですけど、吉岡さん達が・・・えっと、この間、病院でシュンさんも会ったでしょ? 彼女達が教えてくれたんです・・・。吉岡さんは、あなたのファンだから、色々知りたいんじゃないかな――でも、俺は、知りたくなかった・・・」
 複雑な思いでシュンを見つめる。
「そう・・・あのね、正直に話すよ。あの中の誰とも、今はつき合っていない。でも、彼女達は多分・・・ずっと前に関係を持ったことがある人達だと思う」
 シュンがそう言って俯いた。・・・聞きたく無かったのに・・・。

「俺、結婚する前は、求められれば関係を持っていた時期があるんだ。相手が男の事もあったよ。・・・いつか、本当に俺の事愛してくれる人が現われるんじゃないかって思って。でもね、皆、『澤井瞬』が好きなわけじゃなくて、Sabelのボーカリストの『シュン』が好きだったんだ。そんな時、ミサと会って、彼女だったら・・・って思ったんだ。でも、結局上手くいかなかったんだけど・・・」

「シュン・・・もう、いいよ。俺、本当に聞きたく無いんだ。シュンが今、1人だって事が分かっただけで良いんだよ」
「そう・・・。でも、他の人から聞くより、俺が話しておいたほうが良いかな・・・って・・・」
「俺、シュンが出会った人達皆に嫉妬してしまいそうだから・・・俺、今のシュンを知っていればいいから。だから、もういいよ」
「分かった、ありがとう・・・。でも、本当はミサに会うより先に鷹人に会っていれば良かったな。そうしたら、こんなにまわり道しないで済んだのに・・・」
「でも、これが運命なんですよ、きっと。ミサさんより先に会ってたら、俺の事、他の人と同じように思ったかもしれない・・・」

「そんな事、絶対無い」
 俺を見て少し拗ねたような顔をしているシュンが、とても愛しかった。

「ねぇ、シュン、俺の特別な人になってくれる?」
 シュンの目を覗きこんだ。大きな目が俺をジッと見つめていた。
「もちろん・・・嬉しいよ鷹人!」
「良かった。来世じゃなくて、今こうして、あなたといられて・・・」

 シュンが俺の腕の中に飛び込んできた。
 夢のようだった――やっと掴まえた、俺の天使――。



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出会わなければ 117
「鷹人は俺のためを思って、俺の前から去った。だから、俺も鷹人が恋人と幸せになれるようにって思って・・・自分の気持ちを抑えてた。でも、鷹人がケガをした時、君がまた、俺の前から居なくなったらどうしよう――そう思ったら、辛くて苦しくて・・・。鷹人に彼女が居るの知ってる・・・だけど・・・諦められない。傍にいて欲しい、愛してるから・・・今まで出会った誰よりも、鷹人の事、愛してるから――」
「シュン・・・」
 振り向いて抱きしめようとすると、それを止めるようにシュンがギュッと腕に力を入れた。
「ごめん・・・俺、また、鷹人を困らせているよね・・・」

 俺の背中でシュンが微かに震えていた。信じられないような告白だ。
 幸せすぎて夢のよう・・・。
「あのね、シュンさん、ごめんなさい。俺も嘘ついてました」
 シュンが背中に押し付けていた顔を少し離した。
「え?」
「俺ね、今、彼女いないんです」
 シュンが腕を離し、俺の目の前に来た。
「だけど・・・」
 シュンが俺の両手を握りしめ、俺の事をジッと見つめた。
「ジョアンは・・・向こうにいた時の彼女です。でも、日本に帰る時、別れました」

「え・・・でも、この間・・・彼女と一緒に・・・」
 眉間に微かにシワを寄せながら、シュンが俺の目を覗き込む。
 可愛い仕草に胸の鼓動が早まった。
「あの日、確かにジョアンと朝まで一緒でした。でも、彼女は今の彼氏と結婚する事が決まってるって言ってました」
 俺がそう言ったら、シュンの表情がパッと明るくなった。
「・・・鷹人!」
 シュンが俺の身体にギュッと抱きついた。

「俺も・・・ずっとあなたの事を思っていました。だから、日本に帰るのはやめようと思っていたんです・・・。でも・・・帰ってきて良かった――」
 シュンの身体を膝の上にかかえ上げ、見つめ合った後、お互いに顔を寄せ合うと、啄ばむようにキスをした。
「これは、夢なのかな?」
 シュンが目を瞬かせながら言った。
「夢じゃないですよ。だって、俺、心臓が痛いから」
 ドキドキし過ぎて、どうにかなりそうな感じだ。
「え?・・・大丈夫?」
 シュンが俺の左胸に手をあててそう聞いた。
「大丈夫ですけど・・・・・・もう、なんか・・・」
 話をするのももどかしくて、俺はシュンの唇にキスを落とした。
それから、今度は深いキスをする。お互いに呼吸が乱れ、息苦しくなるまで、長い長いキスをした。



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出会わなければ 116
「・・・あの・・・でも」
 シュンの意図していることが分からず、俺は1人で慌てていた。シュンの体温を背中に感じ、ますます身体が熱くなる。
「鷹人・・・ごめんね。俺・・・・・・鷹人が好きなんだ・・・今でも」
 突然のシュンの言葉に心臓が跳ねた。
「・・・でも、シュンさん・・・」
「俺ね、今1人なんだ。・・・離婚の話・・・知ってる?」
「え・・・まぁ・・・」
「鷹人は俺の為を思ってくれたのに・・・俺、幸せになれなくて」
「・・・」
「・・・ごめんね」
 シュンの額が俺の背中にコツンとあたった。
「そんな・・・謝らないで下さい」
「でも・・・」
「俺・・・俺、やっぱり日本に帰ってくるべきじゃなかったのかもしれない」
 離婚の理由が何だったとしても、こうやってシュンが責任を感じてしまうのは、俺がシュンの前に帰ってきたからなんだ・・・。

「違うよ、あのね、鷹人。離婚は鷹人のせいじゃない。恥かしい事なんだけど、息子は、俺の子じゃなかったんだ。本当にバカみたい・・・タカトの名前まで付けたのに」


「妻との結婚は、彼女から求められてだったんだ」
 それからシュンは自分の事を話し始めた。
「彼女を愛していたのか、自分でも分からない・・・俺、英明との事があってから、恋愛に臆病になっていた。『好きだ』といわれても、俺のどこが好きなんだろう? って。それに、誰かを好きになる事も出来なかなった。恐かったんだ、拒絶される事が。だから、俺の事、本当に必要としてくれる人がいたら、その人と一緒になろうって思ってたんだ。彼女は俺に会うたびに『愛してる』って言ってくれて、俺が必要で、傍にいて欲しいって言ってくれた。だから、彼女とならもしかして、普通に結婚生活が送れるんじゃないかって思った。でもね・・・そんな彼女の事、大切に出来なかった。結婚して、1年も経たないうちに彼女には男が居たみたい。それがはっきり分かったのは最近なんだけど・・・。仕事で忙しい俺との結婚生活は寂しかったんだと思う。それでも、鷹叶が生まれてからは彼女とも上手くいってた。だけど、鷹叶は俺の子じゃ無かった・・・それが分かってから、お互いギクシャクしちゃって、彼女が離婚しようって・・・」
 シュンが俺の背中に顔を埋めながら呟いた。

 鷹叶君が交通事故にあった時、輸血の為に血液検査をして、鷹叶くんの血液型が奥さんの言っていた血液型では無かった事がわかったそうだ。それも、シュンと奥さんの間には生まれるはずのない血液型――。
 その事故が無かったら、嘘で固められていた幸せだったけど、夫婦生活は続いたのかもしれないって、シュンが寂しそうに話していた。



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出会わなければ 115
 フロを上がり、身体を拭いてからTシャツとスウェットを身に付けて、頭を拭きながら居間に向う。
「お待たせして済みませんでした・・・すっごくサッパリして気分いいですよ。やっぱり日本人は湯船に浸からなきゃね・・・」
 微妙に緊張していて、何を話したらよいのか分からず、俺はそんな事を口にしていた。

「そうだね、俺もフロは大好きだよ。一日の疲れがとれるしね」
「いやぁ、でも、今日のフロは、今までで1番スッキリした感じですよー。入院生活の疲れがとれました」
「良かったね」
 シュンが俺を見つめているのがわかり、照れくさくてタオルで頭を拭くフリをして俯いた。

「あ、ちょっと待ってて下さい。シュンさん、何飲みますか?」
 間が持てなくて、そう言って台所に行こうとした。
「まず、薬をつけてあげるから、ここに座って」
 シュンがフローリングの床に腰を下ろし、自分の座っている前を指差した。
「あ、薬持ってきます」
 俺は鞄から薬を出すとシュンの前に座った。
「スミマセン、お願いします」
「はい、背中出して。Tシャツは脱いだほうがやりやすいかな」
 シュンにそう言われ、何だかドキドキしてきてしまう。必死に動揺を隠し、関係の無い話をしながら、Tシャツを脱ぐとシュンに背中を向けて座った。

 シュンの指が傷口に薬を塗っていく。優しい指の動きに、身体の中が熱くなる思いがした。

「はい、出来たよ」
 シュンを抱いた時の事をボンヤリ考えていると、急にシュンの声が聞こえ、俺はハッと我に返った。
「あ、ありがとうございます」
 バカだなぁ・・・俺。何考えてるんだろう――
「どういたしまして」
 俺は自分の考えていたことが恥かしくて、シュンの方を向くことが出来なかった。
シュンに背中を向けたまま、Tシャツの袖に手を通していると、シュンの手が俺の肩に触れた。
「鷹人、明日からはどうするの?」
「え?」
 一瞬何の事かわからなくて、着替えている手を止めた。
「自分じゃ出来ないでしょ? 薬付けるの・・・」
 そうか・・・シュンは心配してくれているんだ・・・
「何とかやりますよ。もう、薬塗らなくてもきっと平気だろうし・・・」
 そう言って笑ったら、俺の肩に触れているシュンの手に力が入った。

「ダメだよ・・・ちゃんとしておかなくちゃ・・・」
「あ・・・えっと、自分でも出来ると思うから、大丈夫ですよ」
 心配させてはいけないと思い、シュンの手に自分の手を重ねながらそう言った。
「そうじゃなくて・・・・・・あのな、俺がやってあげるから」
「え?」
「俺がやるよ」
「でも・・・そんな、悪いですよ・・・」
 シュンが背中から俺の身体に腕を回した。
「俺にやらせて?」



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出会わなければ 114
軽く体を流した後、湯船に浸かった。「ふぅ」っと溜息が出る。
本当に生きていたんだなぁ・・・神様ありがとう――。

 ・・・・・・それにしても、進藤は何でシュンに頼んだのだろう・・・「後で持ってくる」と言っていた退院祝いが、もしかしてシュンだとか?
 そう考えて、自分の脳天気さ加減に笑ってしまった。あり得ないかな・・・。

 しばらく温まってから湯船を出て頭を洗った。次に体を洗おうとスポンジにボディソープを付けていると、急にフロ場のドアが開いた。
「え・・・」
「背中、洗ってあげるよ」
 シュンが、惚けている俺の手からスポンジを取ると、俺の背中を洗い始めた。
「あ、あの・・・服が濡れちゃいますよ・・・」
「鷹人がお湯かけなきゃ大丈夫だよ。背中洗ったらすぐ出るから」
「は、はい。すみません・・・ありがとうございます」
 シュンの手が俺の背中に触れた。その感触にビックリして体が強張ってしまう。
「傷・・・結構大きいね」
「・・・俺、自分じゃ見た事無くて・・・」
「そっか。見えないほうが良いかもね」
 シュンの声が震えているようで、胸が締め付けられるような思いがした。

 背中を洗った後、シュンがもう一度傷のまわりをなぞるように指を滑らせた。胸がドキドキして苦しくなりそうだった。
「鷹人、あのね・・・」
「・・・何ですか?」
「後で、話があるから、聞いて・・・」
 シュンの指が傷口に触れた。痛みとも感じるような疼きが身体中に広がる。
「はい・・・」
 背中をなぞっていた指が離れ、シュンが俺にスポンジを返してきた。
「終わったよ。じゃ、待ってるからね」
 湯船から汲んだ湯で手を洗うと、シュンがフロ場から出て行った。



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テーマ:BL小説 - ジャンル:小説・文学

出会わなければ 113
「退院おめでとう」
 目の前でシュンが微笑んでいる。
「あ・・・有り難う御座います」
「ねぇ、鷹人くん、家に入れてくれる?」
「え、はい・・・どうぞ」
 シュンを部屋に通すと、とりあえず何か服を身に付けようと思った。
「あの・・・ちょっと待ってて下さい。何か着てきます」
 服を取りに行こうとするとシュンが俺の腕をパッと掴んだ。
「今からフロに入る所だったんだろ? 入って来なよ」
 シュンに腕を掴まれ、胸がドキドキし始めた。
「えぇ、だけど、あの、お茶でも・・・」
「鷹人、良いから入っておいでよ。進藤君に頼まれたんだ。薬のこと」
 俺の腕から手を離してからシュンがそう言った。シュンの触っていた所が熱を持っているようだ・・・。
「進藤の奴・・・何でそんな事・・・すみません、シュンさんに・・・」
「良いんだよ。俺、鷹人に会いたかったんだ。約束してたのに、お見舞い行けなかっただろ? 今日は持ってきたよ、美味しそうなケーキ。それから、退院祝いのワインね」
 シュンが手に持っている袋を持ち上げてそう言った。何だか胸が一杯になってくる。
「有り難う御座います。そんな、気にしないで下さい。シュンさん忙しかったんでしょ?」
 俺がそう言うと、シュンは少し困ったような顔をしながら微笑んだ。
「うん・・・まぁ、色々とね。とにかくフロに入ってきなよ」
「・・・はい・・・」
 色々って、多分雑誌の記事の事でだろうな・・・そう思うと、複雑な気持ちになってしまう。

「ホラ、早く行ってきな」
「じゃあ、スミマセン、ちょっと待ってて下さい」
「ゆっくり入っておいでよ。久しぶりなんだろ?」
「・・・まぁ・・・」
 実を言うと、病院で何回かシャワーを浴びたけど、湯船なんて無かったから、家のフロに入るのが待ち遠しかったのだ。
「あの、シュンさん時間は大丈夫なんですか? 俺、ホントにゆっくり入ろうかと思ってたから・・・」
「大丈夫だから、気にしないで。俺、勝手にテレビでも見てるから」
 シュンに追い立てられるようにフロ場に行って服を脱いだ。身体を曲げると背中に違和感を感じる。
でも、生きていたんだし、シュンにもこうやって会えるんだ。本当に良かった。これ以上多くを望んではいけないんだろう・・・。



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テーマ:BL小説 - ジャンル:小説・文学

出会わなければ 112
 片付けも大体終わり、遅い昼飯を簡単に済ませた。

 片付けをした後に風呂に入りたかったが、傷口の事が気になってしまったので、進藤が来るまで我慢する事にした。
 病院だとすぐに消毒してもらえるが、自分でやるのはすごく不安だ。恥かしいけれど、傷口に触れるのも恐かった。刺された時の、熱く焼け付くような痛みを思い出してしまいそうだったから・・・。

 久しぶりの労働で疲れた俺は、ソファーに座ってボンヤリとテレビを見ていた。
しばらくすると、食卓に置きっぱなしだった携帯が鳴り始める・・・。
「はい、俺」
「やあ、鷹人、お待たせ。すぐ近くまで来てるよ」
 進藤の声が聞こえてきた。仕事が終わる時間より早いような気がする・・・俺の為に時間を作ってくれたのだろうか?
「おう、悪いね・・・助かるよ」
 申し訳ないとも思ったが、やっとフロに入れると思うとホッとした。俺は携帯を閉じるとさっそくフロにお湯を溜め始めた。進藤が来たら、すぐに入れるようにと思い、上半身はすでに裸になっていた。

 5分もしないでドアフォンが鳴った。
「よう、待ってたよ、進藤・・・」
 俺は相手を確かめずにドアを開けた。ドアの前に居るのは進藤だとばかり思っていたけれど、そこに居たのは進藤では無かった。
「あ・・・あれ?」
 自分のマヌケな格好を思い出し、俺は慌ててしまった。
「やぁ」
「あ、あの・・・進藤かと思って。すみませんこんな格好で」
 隠すのも変だと思い、そのまま普通にしていたのだけど、本当はかなり恥かしかった。
「鷹人、久しぶり」

 俺の大好きな笑顔で、シュンが俺を見つめていた。




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テーマ:BL小説 - ジャンル:小説・文学

出会わなければ 111
 進藤の車に乗り、家まで送ってもらった。
久しぶりの我が家だ。あの日はいったいどんな状況で家を出て来たんだったっけ?

「薬とかって、まだ塗ったりするんだろ?」
 車を運転しながら進藤が聞いてきた。
「ん、まぁね・・・化膿止めみたいなの、もう少し続けておいた方が良いらしいんだ。飲み薬もあるんだけど」
 ――病院の庭以外の景色を見るのは久しぶりだな・・・と思いながら窓の外を眺める。
「どうすんだ? 自分で出来んのか」
「まぁ、どうにか出来ると思う。あ、でも、悪いけど今日だけやってくれないかな?」
 見えない所の傷って、不便だよな・・・と思う。明日からは鏡を見ながら・・・だな。
「ああ、いいけど、お前送ったらすぐ行かないとマズイんだ」
「今じゃなくても良いよ」
「じゃ、仕事終わってから行くよ」
「オッケ、頼むよ。病院の荷物とか、部屋の片づけをやった後にしたかったから、ちょうど良いや」
「じゃ、後で電話するわ」
「了解」

 マンションに着き、荷物を部屋まで運んでもらうと、もう一度進藤にお礼を言った。
「助かったよ。ありがとな」
「おう、じゃあ、後で」
「よろしく」
「あ、後で、退院祝い持ってきてやるよ」
 玄関を出ようとしたしていた進藤が、急に思い出したように振り向いてそう言った。
 退院祝いか・・・酒だろうなぁ。間違っても花束とか持ってくるなよ・・・。

 暫く無人だった部屋の中は、ドンヨリとした空気で満ちていた。
俺は先ず全部の部屋の窓を開け、それから寝室に入り、見回してみる。あの日は事務所に行く直前まで寝ていたから、ベッドは抜け出した時の状態そのままだった。
 ベッドの上を調えると、今度は、病院で使っていたパジャマやカゴに入りっぱなしだった洗濯物を一気に洗濯機に放り込み、洗濯機が回っている間に部屋の中を片付ける事にした。
 日常動作でも、傷口に多少の違和感を感じるが、もうほとんど生活に支障は無いだろう。
 進藤に言って、早く仕事を回してもらおう・・・。




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テーマ:BL小説 - ジャンル:小説・文学

出会わなければ 110
 ついに退院の日が来た。
「また来るよ」って言ってくれたシュンだったけど、あの日から一度も来なかった。
レコーディングが忙しいって事もあったのだろうけど、それよりも、離婚の話が出た後にしばらく続いた色々な噂話が原因で、思うように行動出来なかったのかもしれない。

 シュンの新しい恋人の話題は、すぐにあちこちの雑誌を賑わしたようだ。
 某美人女優、どこかの会社の役員秘書、そして病院の看護師――どの話も女性からの一方的な告白話として雑誌に出たという事だ。
俺は、そんな話聞きたくも無かったのに、一昨日、吉岡さんと三宅さんが来た時に、それぞれの女性についての話を、事細く教えてくれた。
 どの女性もどこまで本当の事を言っているのか分からない。でも、秘書だと名乗る女性のが、シュンの身体にあるホクロの話をしていたらしく、もしかすると、その女性がシュンの恋人なのかもしれないと思った。そのホクロが、シュン本人にも見えないところにある事を俺も知っている・・・。
 俺としては、そんなプライベート過ぎる事まで雑誌記者に話してしまうような女性が、シュンの彼女であって欲しくなかった。だけど・・・俺が口を出すことじゃないんだ――。


  シュンの事を色々考えながら、荷物をまとめていると、進藤が迎えに来てくれた。仕事の合い間に車で家まで送ってくれると約束していたのだ。
「鷹人、先生とかに挨拶したのか?」
「あぁ、とっくに済んでるよ。ナースセンターにも、お前の持って来てくれたお菓子渡しておいたし。助かったよ」
「サチが色々言ってくれたもんでね」
「そっか。彼にもお礼言っておいて」
「おう。じゃ、行こうか? 荷物は持っていってやるよ」
「ありがと。あ、でも、ちょっと待っててくれるか?」

 俺はタバコを持って喫煙所に行ってみた。そこでは、いつものように西村さんがタバコを吸いながら窓の外を眺めていた。
「おう、渡辺くん。今日退院だってな」
「そうなんです。色々お世話になりました・・・ありがとうございます」
 そう言いながらタバコのカートンを差し出すと、西村さんは少し困ったような顔をしたけれど、すぐに受け取ってくれた。
「ありがとう。遠慮しないで貰っておくよ。それにしても、良かったな、渡辺くん・・・ちょっと寂しくなるよ」
「俺もです。西村さんの話、楽しかったし」
「はは・・・。まぁ、実際俺みたいな生活してない奴には面白いかもな」
 俺は、西村さんが辛そうな顔をするのをその時初めて見た。
「身体、大事にして下さい・・・」
「あぁ、大丈夫。俺は不死身だし。じゃ、渡辺くん、元気でな。悔いのない人生を送れよ」
「はい・・・」
 もう一度西村さんに頭を下げると、俺は病室に戻り、進藤と一緒に病院を後にした。
 ――悔いのない人生か・・・




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テーマ:BL小説 - ジャンル:小説・文学

出会わなければ 109
「ねぇ、渡辺さん。シュンさん、お見舞いに来た? あれから・・・」
 吉岡さんが俺に詰め寄ってきた。
「え? うん・・・」
「もう! 何で教えてくれなかったの?」
「だ、だって、吉岡さん仕事中だと思ったし」
「仕事中だって来たわよ! あーあ、チャンスだったのに」
 吉岡さんがムスッとした顔でそう言った。
「あのね、吉岡さん、彼氏がかわいそうでしょ? あなたから付き合って欲しいって言ったんでしょ――」
 三宅さんが呆れ顔でそう言った。
「だって、シュンの事はずっと好きなんだもん。彼氏の事を好きになる、ずっと前から・・・」
 その後、吉岡さんの熱い思いを聞かされて、三宅さんと顔を合わせて、苦笑するしかなかった。

 シュンの話の後は、進藤の話だった。
最近、ファッションが変わってきたから、絶対、彼女が出来たんだって言っていた。
 ちらっと、『彼女』じゃ無いんだけど――と思ったが、何も言わずにおいた。
俺は、彼女達の噂話を聞き流しながら、シュンの離婚の事について考えていた。本当の理由は何だったんだろう?

「渡辺さん? ねぇ、話聞いてるの?」
「え? ごめん。何」
「どうしたの? ずっと一点見つめてるんだもん。具合悪くなったかと思ったわよ」
「あぁ、ごめん。最近、夜よく眠れないから、今頃眠くっなてさ」
「そっか。一応ケガ人だったわよね。ごめんなさい」
「一応・・・って、あのね・・・」
「私たち、そろそろ帰るね。そう言えば、退院はいつ頃なのかしら? 進藤さんも気にしてたわ」
「うん・・・月末位かな」
「良かったわね、もうすぐ帰れるのね」
「・・・家の中どうなってたか? って考えると、ちょっと恐いかも」
 仕事をやりかけだったような気もするし、洗濯物だって・・・
「何か困った事あったら私達に声掛けて。片付け位は手伝えるから」
「あぁ。有難う」
「じゃ、お大事に」
 今日の彼女たちは、お見舞いに来たというより、噂話をしに来たような感じだった。




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出会わなければ 108
 その日から、シュンの言葉が気になって眠れない夜が続いた。
そのせいで昼間は眠気に襲われ、食事や必要最低限の事をやる以外はベッドで大人しく眠って過ごしてしまった。
 仕事の依頼の多い時のように、夜になると絵を書いて昼間は眠って――そんな日が何日か続いた。入院費用は少し高いけれど、個室で良かった・・・って進藤の計らいに感謝した。
 そして、しばらくテレビも見ない日々が続いていたので、今世間では何が話題になっているのかなんて、知りもしなかった――。

 金曜の夕方、吉岡さんと三宅さんが再びお見舞いに来てくれた。
ひとしきり仕事の話をした後、吉岡さんが「そう言えば・・・」と言って話始めた。
「ねぇ、渡辺さん、今日朝の芸能ニュース見た? 10チャンの」
「え? 見てないけど」
 今日も食事の時間以外は、殆ど眠っていたから・・・。
「何だ、そうなの。それがね、私達がこの間話してた話題だったから、ちょっとビックリしたの。話を聞かれたのかとか思ったわ」
「この間の話って?」
「シュンの事よ、離婚してたって・・・」
「え・・・」
 シュンの離婚の話題がニュースになっていたのか・・・
「何で今頃になって? って感じよねぇ。どこから出た話なのかしら?」
「そうよね・・・うーん・・・シュンの周りに居る人は、知ってるはずだから、少しづつ広まっていったんじゃないの? 事務所側も事実だって認めてるしね」
「そう言えば、私が見た番組では、シュンのコメントも出てたわよ・・・書面だったけどね」
 三宅さんがそう言うと、吉岡さんと一緒に俺も身を乗り出してしまった。
「どんな内容?」
 吉岡さんが口を開く前に、俺が聞いていた。俺はシュン本人の言葉が知りたかった。
「離婚はお互いに話し合って決めた事だって。原因はシュンが忙しくて全然家族の事を考えられなかったからだ――って言ってたけど、分からないわよねー。奥さんと子供を幸せに出来なくて・・・とかって謝罪の文章まであったけど・・・」
 三宅さんがちょっと不満そうに言った。
「そうなの? じゃあ、子供がシュンの子じゃないって事は、全然話題になってないんだ?」
「誰かが言わなきゃ、話出ないんじゃない? 結婚の時だってあんまり詳しい話は雑誌にも出なかったし、事務所がストップさせるでしょきっと。・・・でも、シュンの子じゃないって話も確実じゃないから・・・」
「そうね」

「あのさ吉岡さん、シュンさんが結婚したのって、いつ頃だった?」
「えーと、7年位前かな? 私がまだ高校生のころで、その頃すっごくシュンが好きだったから、ショックだったなぁ。学校で友達と一緒に泣いたわよ。だってさぁ、付き合って半年くらいで結婚したのよ? 私なんてもっと前からシュンのファンだったのに・・・」
「そっか」
 俺と初めて会ったのは、結婚して何年もたってない頃だったんだ。
まさかとは思うけど、離婚の原因に俺の事が少しでも関係していたら――そうと思うと胸が痛かった。
 でも、シュンと奥さんが出した結論だから、俺にはどうしようも出来ない事なんだ・・・。




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出会わなければ 107
 病室のドアを開けると、椅子に座っている華奢な背中が目に入った。進藤じゃない・・・この背中は――
「すみません、今、ちょっとタバコ吸いに行ってたんで・・・」
 俺の声に振り返った彼は、俺のノートと鉛筆を手にしていた――。
「ごめんね、勝手に見ちゃった・・・」
 シュンが俺を見つけると、バツが悪そうな顔をしてペコリと頭を下げた。
「あ・・・いえ・・・」

「鷹人、傷の具合はどう?」
 シュンがそう言いながら、鉛筆をサイドテーブルに戻した。だけど、ノートはシュンが胸の前に抱えたままだ――。
 震えるような線で描いた絵を見られたと思うと、俺は恥かしくなってしまった。

「えっと・・・まだ引き攣れるみたいな痛みが残ってて・・・もしかすると、前みたいに絵が描けるようになるまで時間が掛かるかもしれない――ごめんなさい、いつ仕事に戻れるか――」
「心配しないで大丈夫だよ。俺達の本は、鷹人が元気になるまで、俺が進めておくから。焦らないで、俺はいつまでも待ってる」
 そう言ってシュンが俺の事をジッと見つめた。シュンに見つめられて、俺は暫くその場を動くことが出来なかった。
「鷹人? ベッドに入りなよ」
 シュンが何も言わずに立ち尽くしている俺を見て、心配そうな顔をした。
「え・・・? あ、はい」
 俺は急に我に返えると、慌ててベッドに入り込んだ。俺がベッドに入ると、安心したようにシュンが話始めた。

 俺の入院生活の話をしたり、シュンが過去に肺炎で入院した時の苦労話を聞いたりした後、シュンの仕事の話になった。
 つい先日メンバー全員の曲作りが終わって、これからやっとレコーディングに入るそうだ。
「レコーディングに入ると剛士になかなか会えなくなる」と言って、サチがシュンに文句を言っているらしい。何だか能天気なあいつらが羨ましくなった。

「俺も、病院に来られなくなるな――」
 シュンがポツリと言った。
「あの俺、重病人じゃないから大丈夫ですよ」
 あんまりガッカリしたような顔をするから、ドキドキしながらそう言ってシュンの反応を見た。
「まぁ・・・そうだけど・・・。あ、でも、スタジオから意外と近いから、時々抜け出して来ようかな」
 今度は目をキラキラと輝かせて、子供のような顔をしながらシュンが言った。

「じゃあ、その時は何か美味しいもの持ってきて下さい。一緒に息抜きしましょう」
 この位の我がままなら、許されるだろ?
「良いよ。今度は何にしようかな?」
「シュンさんにお任せします」
「オッケー」
 シュンが両手でかかえるようにして持っていたノートを、ギュッと抱きしめながら微笑んだ。
「あのさ、鷹人・・・。鷹人には迷惑かけるかも知れないけど・・・あの・・・待ってて」
 シュンが突然マジメな顔をすると、俺に向かってそう言った。
「・・・何を?」
 俺にどんな「迷惑」をかけるって言うのさ?
「また来るから」
 シュンは俺の問いには答えずそう言うと、ノートをサイドテーブルに置いて立ち上がった。
「・・・有難う御座いました。レコーディング、頑張って下さい」
「ありがとう。頑張るよ」

 シュンが病室を出て行った。「待ってて」って何だろう? 俺に迷惑が掛かるかもって?

 シュンの置いたノートをテーブルから取って、何気なくペラペラ捲っていた。
「あれ?」
 さっき描いた絵の下の方に小さな文字が書いてあった。
 − ホントの笑顔を書いて欲しいんだ。嘘をついててごめん、俺は   −
 文章が途切れたままだった。シュンは俺に何を伝えようとしていたのだろう?




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出会わなければ 106
 数日後、昼飯を食べ終わると、俺は突然絵が描きたくなった。
鉛筆やボールペンはあるけれど、絵を描くような紙を持っていなかった俺は、急いでベッドから起き上がり、引出しから小銭入れを出すと、病院の売店へ向かった。
 三宅さんに頼めばクロッキー帳を買って来てきてくれると思うのだけど、頼む時間も惜しい位、絵が描きたくてしょうがない―― アメリカに居る頃も、辛くなると描いていたシュンの笑顔・・・。シュンの笑顔を見ていると、俺はいつも元気を取り戻すことが出来るから――。

 結局、売店では、子供用のお絵かき帳か、ごく普通の線の引いてあるノートしか見つけられなくて、表紙に可愛いウサギの絵が付いているお絵かき帳を買う気にはなれなかった俺は、ノートを買うと病室へ戻った。

 ベッドに入って、背中を庇いながら絵を描き始めて気が付いた。
絵を描く作業が思ったよりも辛い――こんな事じゃ、仕事に復活出来るのは、いったいどの位先になるんだろう? それを考えると、少し不安になった。
 何パターンか描いてみたのだけど、思うように描けない。線がブレてしまう。シュンの笑った顔を描いたつもりだったのに、ノートの上には、悲しげな顔のシュンがいた。
 溜息を付きながら、ノートをサイドテーブルに残し、トイレに向う。ついでに顔でも洗ってこよう、少しは気分が変わるかもしれない。

 タオルで顔を拭きながら、喫煙所に顔を出した。タバコは時々吸う程度だったのだが、入院してから吸う本数が増えたかもしれない。タバコを吸いながら、他の入院患者と話をする事が、今の俺には一番の息抜きになる。

「やぁ、渡辺くん。調子どう?」
 日に何度もタバコを吸いに来ている西村さんが、いつものように俺に声を掛けた。
「元気なんですけどね、自分の体なのに、なんか思うようにいかない感じで・・・」
 俺より一回り年上の西村さんと少し話をする。彼も刃物で刺されたような事を言っていた。でも、詳しい話を聞くのはちょっと躊躇われる容姿の人だった。
「まぁ、焦っても仕方ない事だよ。腕が取れたとか、脚が吹っ飛んだって言うんでも無いんだから。こんなに安全でゆっくり出来る所に居るんだから、良いと思わなきゃなー」
「・・・そうですね」
 西村さんの話には、いつもドキッとさせられる。命を張って毎日過ごしていたんじゃないだろうか――って感じで・・・。

 しばらく雑談をしていると、そこに、俺の向かい側の病室に入院している、初老の紳士がやって来た。
「おう、内藤さん。一本どうだい?」
「あぁ、ありがとう、西村さん。じゃあ遠慮なく・・・」
 内藤さんは西村さんからタバコを貰い、火をつけると美味しそうにタバコを吸いだした。
「あぁ、そうだ、渡辺さん、今、病室に誰か来てたみたいですよ・・・」
 穏やかな声で内藤さんがそう言った。誰かお見舞いに来てくれたんだ――また、進藤だろうか? 進藤は、結構マメで、三宅さんにお願いしたものまで、あいつが届けてくれていた。
「あ、ありがとう御座います。すぐに戻ってみます」
「じゃ、またね。渡辺くん」
「それじゃ」
 西村さんと内藤さんに挨拶をすると、喫煙所を出て病室へ戻って行った。



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出会わなければ 105
「いけない! 私、待ち合わせしてたんだ」
 吉田さんが突然そう言って、三宅さんの腕を引っ張りながら立ち上がった。
「しょうがないわねぇ・・・」
「それじゃね、渡辺さん、お大事に。また来るわ、シュンに会えるかもしれないし」
 吉田さんがそう言っている横で、三宅さんは呆れた顔をしていた。

「渡辺さん、何か必要なものがあったら、事務所に電話して。あ、でも恋人に頼むのかな」
 三宅さんがそう言って首を傾げた。
「恋人って・・・今居ないから。何かあったら、三宅さんにお願いするかもしれない。有難う」
 三宅さん達にまで「恋人がいる」と嘘を言うと面倒な事になりそうなので、正直に答えた。「恋人がいる」って言ったら、今度来た時に色々質問されそうだけど、「いない」って言えば、それ以上は特に質問されないだろうから――。

 それから2人は、大急ぎで病室を出て行った。

 その日の夜、まだ傷は痛むのだけど、それ以外は悪い所がないので、退屈で仕方なく、特にやる事も無いので、テレビをつけたまま、ぼんやり天井を見つめていた。バラエティ番組の笑い声が、いつも以上にわざとらしく聞こえてきた。
 誰かが見舞いに来てくれるのは嬉しい事だ。でも、それぞれの人達が、俺に色々な思いを残していったような感じで、少し疲れてしまった。

 進藤とサチは、事務所でどうしただろう? お子様な進藤がサチに甘えていたりして――あの体格の良い、男くさい進藤が? いや、それはちょっと考えたくないかもな・・・想像しそうになって、慌てて頭を振った。
 そう言えば、吉岡さんはデートに間に合ったんだろうか――吉岡さんのシュンへの想いって、彼氏への気持ち以上なんだろうか?
 三宅さんは保育園に子供を迎えに行かなくちゃいけなかったはず。仕事をしながらの子育ては大変だろう。それなのに俺の事まで気を使ってくれて・・・さすが母親って感じだろうか。

 それから・・・シュン・・・。離婚していたなんて、全然知らなかった・・・でも、それを隠しているのは何故だろう? マスコミに騒がれて、子供にまでいやな思いをさせない為とか? それとも、奥さんや回りの人の事を考えての事? いや、もしかしたシュンが自分を守る為なのかもしれない――。
 それにしても・・・自分の子供だと思って育てていた鷹叶くんが、他人の子供だったなんて・・・。それなのに、俺と同じ名前なんて付けてしまって――シュンはどんな思いだっただろう?

 でも、子供の事は本当なのかどうかはわからないと言ってたっけ・・・。シュン本人になんて聞くわけにもいかない。
――そうだ・・・サチなら・・・彼なら知っているのかもしれない。以前、シュンに言っていた筈だ――嘘の幸せにしがみついて、その幸せが壊れてしまうより――って。あれはもしかすると、離婚の事をさしていたのではないだろうか? サチに聞いてみたらどうだろう・・・。
 確かめたい。でも、確かめてどうするんだろう? 吉岡さんの言う通り恋人がいるのかもしれないし・・・。
でも、恋人だったら・・・吉田さんじゃないけど、気持ちを伝えてみないと・・・

 ダメだ、やめよう。
今日はシュンと過ごせて幸せだったじゃないか。シュンは、俺の為に泣いてくれた。それは、今でも俺の事を思ってくれてるって事じゃないか。たとえそれが言葉に表せない思いだとしても。



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テーマ:BL小説 - ジャンル:小説・文学

出会わなければ 104
「だけど、シュンは今幸せだって言ってたぞ」
 俺がちょっと責めるような言い方をしてしまったので、三宅さんがビックリしたような顔をした。
「私だってよく分からないわよ母が聞いた話だし・・・。離婚は確実だと思うけど、子供についての話は本当なのかどうか分からないんだから――」
 三宅さんが困ったように俺に言い返した。
「そうだね・・・ごめん」
 三宅さんの困ったような顔を見て、俺はハッとした。何1人で熱くなっているんだろう・・・。

「でもさ渡辺さん、離婚が本当なんだったら、シュンが幸せだって言ってる理由は、他にあるんじゃない? 例えば・・・私としては認めたくないけど、新しい恋人がいるとか・・・うーん後は、奥さんが結構嫌な人で、別れてホッとした・・・とか、そんな感じじゃないのかな?」
 吉岡さんがちょっと辛口のコメントを述べた。
「恋人か・・・そうかもしれないわよね。シュンさんなら回りが放っておかないわよね・・・」
 2人の会話に、俺は黙って俯くしかなかった。
恋人が居る――あり得ない事じゃない。だって、シュンはあんなに魅力的な人だから。
離婚が事実だとしても、シュンが公表しないつもりならば、俺がそれを聞き出すわけにもいかない。
 だけど、もし・・・本当に離婚しているのなら、俺――。


「そっか、シュンがフリーって事は、私にだって少しはチャンスあるのかもね」
 吉岡さんが何気なく言ったその言葉が、俺の思いと同じだった。何だか、自分が滑稽に思えてしまう・・・。
「だって、吉岡さん、今さっき、シュンには恋人が居るんじゃない? とか言ってただろ?」
「何言ってるのよ、渡辺さんたら。そんなの分からないんだし、シュン本人が恋人がいるって言ったわけでもないんだから、アタックしてみなきゃ分からないでしょ?」
「まぁ、そうだけどさ・・・」
 俺は完全に吉岡さんの勢いに負けていた。
「シュンさん、またお見舞いに来るって言ってたよね? ねぇ、渡辺さん、シュンが来たら教えてよ。私、すぐに飛んでくるから。待ってるだけじゃ欲しいものは手に入らないもの!」
 目をキラキラ輝かせながら、吉岡さんがそう言って俺を見た。
「吉岡さん・・・そんな事言っても、シュンさん離婚したって事秘密にしてるんでしょ?」
 三宅さんが冷静にそう言った。やっぱり三宅さんは吉岡さんよりも大人だ・・・。
「言った後じゃ遅いわよ。今のうちにアプローチしておかなくちゃ」
「でも、吉岡さん、彼氏どうするのよ?」

 三宅さんの言葉を聞いて、吉岡さんがやっと我に返ったようだった。
「あ・・・そうよね。いけない、忘れてたわ」
 忘れられていたなんて、可哀想に・・・と言うか、彼氏は苦労しているんだろうな・・・と俺は密かに彼氏に同情していた。


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出会わなければ 103
「そうだ、俺、そろそろ帰らないと・・・」
 シュンがそう言って席を立ち上がった。
「そうなんですか? じゃあ、私たちも帰りましょ、三宅さん」
 吉岡さんが三宅さんの腕を引っ張りながらそう言った。
「吉岡さん達は、もう少し居てあげたら? 急にみんな帰ると寂しいものなんだよ」
 シュンがそう言うと、吉岡さんが残念そうな顔をした。
「そっか・・・それじゃあ・・・。えっと、会えて嬉しかったです、シュンさん」
 吉岡さんがそう言うと、シュンがニッコリ笑って頷いた。
「渡辺さん、お大事に。また来ます・・・。それじゃ・・・」
 シュンが2人と握手をしてから、サングラスかけ、病室を出て行った。

 その後もしばらく、吉岡さんは興奮状態だった。まぁ、その気持ち、わからなくないけどね―― 素直に喜んでいる吉岡さんが羨ましかった。俺も、ただのファンでいれば良かったのかもしれない。

 吉岡さんがシュンの話題をし終わると、今まで俺と一緒に吉岡さんの話の聞き役をしていた三宅さんが突然口を開いた。
「そう言えば、聞いた話なんだけど、シュンって別れてたみたいよ」
 俺は一瞬、三宅さんの言ったことが理解出来なかった。
「え?」
「そうなの? 全然知らなかったわ。なんで知ってるのよ三宅さん――雑誌とかに出た事ないでしょ?」
 吉岡さんが再び興奮したようにそう言った。
「あ・・・いけない・・・」
 三宅さんが失敗した・・・って言うような顔をした。
「教えてよ、三宅さん。そこまで言ったなら、何話しても同じよ」
 聞きたくてしょうがないって感じの吉岡さんが、三宅さんの背中をポンポンと叩くと、三宅さんが「そうかな・・・」と言いながら話し始めた。
「あのね・・・たまたま、私の母親の友人がシュンのお母さんと知り合いだったらしくて、それでちょっと相談されたんだって」

「なぁ、別れたって・・・何?」
 聞いているだけで胸が痛くなってきた。別れたって・・・もしかしたら、奥さんと?
「離婚したらしい・・・って事」
「え・・・離婚なんて・・・」
 まさか・・・だって、シュンは・・・。
「ねぇ、どうしてなの? 原因は?」
 吉岡さんが興味津々の顔で三宅さんに先の話を促した。
「うーん・・・こういう風に噂が広がってマスコミにばれるのかな――」
 三宅さんが「失敗したなぁ」って言いながら俺と吉岡さんの顔を代わる代わる見ていた。
「大丈夫よ! 私達はシュンの秘密を守れるもの」
「本当に言わないでよ、吉岡さん」
「もう! 信用ないなぁ。さっきだって、シュンとちゃんと約束したもの、言うわけないでしょ」
 神に誓って・・・ってポーズを取ってから、吉岡さんが力強く頷いた。
「それじゃあ言うけど――本当なのかどうか、シュンのお母さんも、シュンにハッキリ聞けなかったみたいなんだけどね――」

 三宅さんの話を聞いて、俺はそれが本当の理由なのかどうか、とても気になった。もし、違う理由だとしたら? まさか・・・
 シュンは、今幸せだって俺に言ってた。鷹叶君のがとても大事だって――それなのに、どうして?

 ――子供がね、シュンの子じゃ無かったみたいなの――



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出会わなければ 102
「ちょっと渡辺さん、何見詰め合っちゃってるんですか? シュンさんが素敵だからって・・・もう!」
 吉岡さんがそう言いながら、シュンと俺の間に入って視界を遮った。
「そうそう、シュンさん。サインお願いします」
 
「あ、うん。何処にする?」
「じゃぁ・・・えっと、これしかないかなぁ・・・ここにお願いします」
 吉岡さんが鞄から手帳とペンを出して、シュンに手渡した。
「・・・私も良いですか?」
 三宅さんが遠慮がちに吉岡さんの後ろから顔を覗かせた。
「いいよ」
「わ、やった」
 シュンが2人の手帳にサインをしていると、吉岡さんが突然、シュンの顔を覗き込んだ。
「そういえば、渡辺さんとシュンさんって知り合いだったんですか?」
「え? まぁね」
 シュンが少し動揺したようにそう言った。

「ほら、俺、シュンさんの本のイラスト頼まれてるじゃない」
 俺が落ち着いてフォローすると、シュンが安心したように微笑んだ。
 吉岡さん達だって、進藤の事務所の人間だから知っているはずだ。必要の無い事は言わないようにしよう。
「あ、そうでしたよね」
「そうそう」
 シュンがサインの終わった手帳を2人に渡しながら頷いた。
「そう言えば、その仕事がきた時、渡辺さんが渋ってるって進藤さんが困ってましたよ」
 三宅さんが手帳を鞄にしまいながらそう言った。
「そうだったの? 渡辺さん?」
 三宅さんたら、どうして余計な事を言ってしまうんだよ? シュンの表情が曇ってしまったじゃないか・・・。
「えっと・・・その、すごく嬉しかったんですけど、色々と自信が無かったから」
「そうなんだ・・・」
 シュンの声が寂しそうで、申し訳なくなってしまう。本当の事を言えるわけが無いよ・・・また、シュンに恋してしまいそうで怖かったから・・・なんて。

「自信が無いなんてぇ、渡辺さんらしくないですよね。渡辺さんが断ったら、私がイラスト描きますから、悲しそうな顔しないで下さい。私、結構絵が上手いんですよ・・・」
「え・・・悲しそうな顔してた?」
 シュンが吉岡さんの冗談にも全然気づかないくらい、慌てたように自分の顔を触った。
「嫌だなぁ・・・シュンさんったら、本当に渡辺さんの絵が好きなんですね。さっき、涙目だったの気がになってたんですけど・・・泣いちゃう位、心配してたんですよね、シュンさん。そっかー、やっぱり私が描くんじゃダメかなー。いいなぁ、そんなにシュンさんに惚れ込まれてみたいなぁ」
 吉岡さんが呑気にそんな事を言っていた。彼女は純粋に絵の事を言ってくれてるんだと思うのだけど、俺は心の中で焦っていた。

「そうなんだ・・・俺、ずっと渡辺さんと仕事したいって思っていたんだ。それで、やっとその夢が叶ったのに、渡辺さんの事故の事聞いて・・・夢が破れちゃうのかと思ったら悲しくてさ、その日はヤバかったよ・・・。仕事も上の空って感じで。でも、今日は渡辺さんが大丈夫だって分かって・・・今度は嬉しくてさ。渡辺さんの顔を見たら涙が出ちゃったんだよ。イイ年して恥かしいね・・・。吉岡さんも三宅さんも、他の人には内緒にしてね」
 シュンがそう言いながら人差し指を唇に当てると、吉岡さんが興奮したように頷いた。
「もちろん他の人になんて言いません! 何か、すっごく嬉しい。シュンさんと私たちしか知らない秘密なんて・・・」

 シュンって、やっぱりすごい人だなんだ・・・俺はシュンの横顔を眺めながらそう思った。
 吉岡さんがシュンを見つめる目がキラキラ輝いていた。



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出会わなければ 101
しばらくすると、ドアがノックされた。こんな時に、誰だろう?
 目を赤く腫らしたままのシュンが、ドアから見えないように体を移動させた。
「あの・・・良いですか?」
「ゴメン・・・良いよ。大丈夫・・・」
 シュンがニッコリ笑って俺を見た。

「どうぞ」
 ドアの方に向かって返事をすると、すぐにドアが開いた。
「あ・・・三宅さん」
 お見舞いに来てくれたのは、進藤の事務所の人で、この間の夜、いっしょに飲みに行った女性だ。
「吉岡さんも一緒なのよ」
 三宅さんの後ろから、吉岡さんが部屋の中を覗き込んだ。
「進藤さんに見舞いに行って来いって言われてたんだけど、なかなか来れなくて、ごめんね」
 吉岡さんがそう言って、頭をペコリと下げた。
「デートが忙しいからだろ? とにかく入れよ」
「でも・・・来客中でしょ?」
 三宅さんがそう言って、シュンの方に視線を送った。シュンはドアの方に背中を向けていたから、彼女達から顔は見えていなかった。
「構いませんよ、お見舞いでしょ? 俺、もう少ししたら帰るから」
 シュンがそう言って2人の方をちらりと見た。笑顔を作っていたけど、まだ泣いた後だって事がわかりそうな顔だった。
「え?・・・あれ・・・シュン?」
 三宅さんがシュンを見て、信じられないっていうような顔をした。
「本当だ・・・シュン・・・だよね? うゎー嬉しい! 信じられない」
 俺は今にも騒ぎ出しそうな2人を見て、焦ってしまった。
「三宅さんも吉岡さんも、あんまり大声出さないでね。ここ病院だし、シュンさんにも迷惑掛かるだろ?」
「あ・・・ごめんなさい。私、ずっと前からファンだったから。あの、サインしてもらってもいいですか?」
「良いけど、まずは渡辺さんにお花渡すんでしょ?」
 すっかり興奮している吉岡さんは、お見舞いに持ってきていた花を、シュンに差し出そうとしていた。
「・・・そうだった」
「もう、吉岡さんったら・・・」
 横にいた三宅さんも、吉岡さんを見て苦笑していた。

 その後、彼女達は見舞いの言葉を並べた後、仕事の話を始めた。
 俺が最近やっていた仕事のうち、日程を遅らせられるもの以外は他のデザイナーに依頼し直したと言う事だ。進藤はさっき、肝心な事を言い忘れたからって、三宅さん達に伝言を頼んだらしい。

「進藤さんたら、出先から戻ってきたと思ったら、私たちを追い出すみたいにお見舞いに来させたのよ。打合せの後、さっき病院に寄ったんだけど、仕事の件を渡辺さんに伝え忘れたからって。ねっ?」
 三宅さんが吉岡さんに同意を求めていた。
「そうそう。なんだかね、色の濃いレンズのメガネ掛けた、おしゃれっぽい人と一緒だったんだけど、ちょっと様子が変だったのよね。進藤さんたら・・・」
「ふーん、そうなんだ・・・」
 進藤は、サチと事務所に行ったんだ? きっとサチは、いつもと雰囲気が違ってたから、彼女達は気が付かなかったんだろう。
 俺は進藤が子供のようなヤキモチの妬き方をしていたのを思い出し、可笑しくなって、吹き出しそうになってしまった。
 そんな俺を訝しげな顔で見ている彼女達の視線を避け、シュンの方を向いた。
シュンは急に視線を向けた俺を不思議そうに見てから小首を傾げた。その姿があまりにも可愛らしく思えて、俺はそのままシュンの事を見つめてしまった。



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