−甘嘘別館−  
♪ハッピーエンドのBL小説を連載します♪

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Author:りょう
BL小説を書いてます。
よろしくお願いします☆
別館では18禁小説は連載しません。
本館へ行かれたい方は、コメント等でお問い合わせ下さい。
(メールアドレスをお忘れなく…)

☆おことわり☆ 
「出会わなければ」には、実在のバンド、メンバーと似た人物が出てきますが、実在の人物とは一切関係ありません。

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出会わなければ 49
「それにしてもなぁ、あの人、凄く一途だったんだな」
 進藤が感心したようにそう言った。確かに・・・一途と言うか、無謀と言うか・・・
「・・・ちょっと俺も驚いた。自分の子供に、俺と同じ名前付けちゃうなんてさ――。いくら字が少し違うとは言ってもなぁ・・・」
「まぁね、俺にも考えられないけど・・・あれは、あの人なりの愛の表現だったんだろ? 先の事考えてねーよな」
「そうだな」
 愛の表現方法――か。俺が密かにシュンを絵に描いていた事と同じような事なんだろうか?だけど、いくらなんでもなぁ・・・。

「でもさ、お前のどこが良かったんだろうな? お前もしかしてテクニシャン?」
 1人で過去の思い出に浸りそうになっていた俺に、進藤が嫌らしい笑顔を向けていた。
「いや、そんなわけないと思うけど・・・って、何アホな事言ってんだよ」
「はーん、まったく。いつまでも思い出に浸るなよ。アホ」
 シュンと過ごした夜を思い出して焦ってる俺に、意地の悪い笑顔を向けながら、進藤が電話の受話器を握った。

「なぁ、鷹人」
「な、何だよ!」
 また、進藤にからかわれるのかと思って身構えたら、進藤は再びマジメな顔をして俺を見ていた。
「もし、絵を買いたいと言って来たのが、あの人だとしたらどうする?」
 受話器を持った進藤が、最後に確認するように俺に聞いた。
「・・・あの人だとしても・・・売らない」
 もしかしたら・・・シュンだったのかもしれない・・・そう思ったけど、俺は何も聞かなかった。
「分かったよ」


 個展が終わってから暫くすると、ありがたい事に仕事の依頼が数件あった。 数週間かけてそれらの仕事を片付けたある日の午後、久しぶりに進藤の事務所に訪れた。
 依頼主のとのミーティングも終わり、事務所の女の子の入れてくれたコーヒーを飲みながら一息ついていると、進藤の部屋に呼ばれた。

「次の仕事が来てるんだけど、どうする?」
 ソファーに腰掛けた途端、進藤がそう言った。
 ありがたいけど、この頃休みも無く描いているような気がするのだが・・・。
「急ぎの絵ばかりだったからなぁ、少しじっくりやれるのがあると嬉しいんだけど・・・」
 あまり乗り気じゃない返事をしたのだけど、進藤は俺の話を全然聞いてくれていないようだった。

「こういうの初めてだと思うんだけど、やってみるよな?」
 やってみるよな? も何も、そういう言い方の時って、俺に何の相談無く、既に進藤が勝手に受けてしまっているんだろ? 俺は心の中で呟いた。
 昔からそうだったけど、進藤は結構強引なんだよな・・・。
「どんなの?」
「今日、打ち合わせなんだよ。一緒に来るだろ?」
「それって、一緒に来いって事だろ?」
「その通り」
 俺は「はいはい」って答えるしか無かった。まぁ・・・進藤が決めてくる仕事は、ハズレが無いから大丈夫だと思うのだけど・・・。


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テーマ:BL小説 - ジャンル:小説・文学

出会わなければ 48
「あの絵、買いたいって昨日の夜電話が来たんだけど?」
 個展が終わった数日後、事務所に着いた途端、進藤から言われた。
「どの絵だって?」
 俺は出展した数々の作品を思い出そうとしていた。
「あの、天使の奴だよ」
「・・・」

 進藤に言われて、暫く考え込んでしまった。 あの絵――いつまでも手元に置いておきたいような、過去を忘れるために売ってしまった方が良いような――自分でも迷ってしまう所だった。
「どうしようかな」
「どうしようって、売っちゃえよ。あの人のこと描いたんだろ?」
「うん・・・まぁ」
 進藤にはやっぱり分かっていたんだ・・・。
「だったら、いつまでも持ってない方が良いんじゃないか?」
 確かにそうだと思う・・・でも、手放すとなるとちょっと気持ちが揺らいでしまう・・・。


「やっぱり、せっかくだけど、あれは俺の傍に置いておきたい」
 考えれば考える程、手放すのが嫌になってしまった。
シュンとの思い出は、これからもずっと心の中しまって置くんだ。写真を残してはおけないけれど、あの絵なら、ずっと傍に飾っておくことが出来るだろう。
「ふーん・・・まぁ、お前がそう言うなら、断わるりの電話入れるけど・・・」
 そう言った進藤が、ヤレヤレという顔をしていた。
「悪い・・・」

「鷹人は、まだ忘れられないとか?」
「そうじゃないけど・・・まぁ、青春の思い出に・・・さ」
「はぁ・・・青春の思い出ね。苦い思い出だけどな」
 進藤に軽くそう言われ、俺は苦笑いを返した。

「・・・・・・そうだ、思い出したぞ! お前、辛い恋を忘れようとしてる人間に、メールであんなの送ってくるなよ」
 絵の話をしていたら急に思い出した。シュンが出た音楽番組を見たおかげで、俺は又、しばらくの間落ち込んでいたんだぞ・・・。
 まぁ・・・あれを見たから、天使の絵を描く気になったんだけど・・・。
「はー? 何だっけ? エロい映像でも送ったかな?」
「お前、忘れたのかよ?」
 ちょっと頭に来た俺は、進藤を睨みつけるようにそう言った。すると、進藤が急に真面目な顔をして、見つめかえして来た。
「ん? 覚えてるさ」
「何だよ、惚けやがって」
 進藤が何かを思い出すような表情をしてから、ゆっくり話し始めた。
「お前がいなくなった日、シュンがあまりにも必死だったから・・・」
「・・・」
「だから、あの番組でのトークは、絶対お前に聞いて欲しいんだろうって思ったんだよ」



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テーマ:BL小説 - ジャンル:小説・文学

出会わなければ 47
 帰国してからすぐに、進藤のいるデザイン事務所と1年間の契約をした。
だけど、契約したっていうのに、進藤は俺の契約期間が終わる前に、その事務所を辞めてしまったのだ。
 俺をアメリカから引き戻しておいて・・・俺たちの友情ってそんなものだったのか?・・・
こんな事なら、ジョアンの傍に居れば良かったと思い、アメリカに戻ろうと考えていた。
ちょうど同じ時期に、今の事務所から契約更新の申し入れがあった。

 進藤の居ない今、この事務所で続けていく意味はあるのだろうか? と考え、契約更新をやめようと決めた頃、しばらく音信不通だった進藤から連絡があった。
 「俺が居る事務所に来い」――って。
 「誘っておいて、また、途中で辞めてしまうんだろう?」 と責めると、今度は、自分の父親のデザイン事務所だから、辞める事は無いと言われた。
 ずっと前からあいつは、いつか親父さんの事務所に俺誘うつもりだったらしい。

 どちらかというと、肉体労働が似合うような感じの進藤が、デザイン事務所に勤め始めた時も驚いたのだが、あいつの父親がデザイン関係の仕事をしていたという事にも驚いた。
 学生の頃から、やけに親切に俺の絵に助言をしてくれていたし、相談にものってくれた。
そして今から考えると、日本に帰って来いと熱心に誘ってくれたのも、そういうわけだったのだ。
 最初から言っておいてくれたら良かったのに・・・と文句を言うと、親父さんの事務所に入る前で修行中の身だったし、父親の許しが出るか分からないのに、前もって言っておけるわけないだろう・・・と言っていた。
でも、あの時期に俺を誘わなかったら、俺があのまま向こうに住み着いてしまうだろうと考え、強硬手段に出たらしい。


 進藤の父親の事務所に移ってから数ヵ月後、進藤から個展を開くことになった・・・と教えられた。
「俺はお前の絵を初めて見たときから、この日を楽しみにしていたんだよ」
そんな言葉をサラッと言ってくれた進藤に、本当に感謝した。進藤には一生頭が上がらないかもしれない。

 個展に出した絵は、ニューヨークにいた頃描いたものが殆どだった。
あの頃の絵は、全体的にはっきりした色彩で描いた、輪郭が強調された作品が殆どなのだけど、その中に1つだけ作風の違うものがあった。
暖かい春の風景の中に、柔らかな微笑みをたたえた天使が、赤ん坊を愛しそうに抱きしめている。そんな感じの絵だった。
 初め、あまりにも他のモノと違いすぎるので、個展に出すかどうか迷ったのだけど、進藤に「本当のお前らしくて良いと思う」と言われ、結局、一番目立つ所に展示した。
 赤ん坊を抱いている天使はシュンをイメージして描いたものだった。
赤ちゃんが無事に生まれたというニュースを聞いて、渡すことは出来ないけれど、シュンへのお祝いのつもりで描いた。
 この絵が描きあがった時、俺とシュンの繋がりが本当に切れたように思えて、切なくなったものだ・・・もう5年近く前の事になるのか・・・。



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出会わなければ 46
「さよなら」 
 見送りに来てくれた彼女に俺はそう言った。寂しくない訳ではない・・・だけど、もう決めたこと。それぞれの道を歩んでいくしかない。
「タクト!」
 歩き出した俺の背中に、彼女の悲しげな声が届いた。

「タカト!」
 彼女の顔を見ると辛くなるから、もう振り向くのはやめようと思ったその時、暫く使って居なかった懐かしい名前を呼ばれた。
 俺は彼女に本当の名前を教えていただろうか? 
「タカト!」
 もう一度、俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
さっきと違うその声に、後ろを振り向いて名前を呼んでいる人を確認しようと思った。
 すると・・・そこには俺の愛した人の姿が・・・。

「シュン・・・」

 シュンが俺のことをしっかり見つめ、こちらに向って歩き出していた。
 ――シュン・・・ダメだよ。何でここにいるの?――
 毎日の生活に追われて、シュンの事を思い出す日も少なくなっていたのに・・・。

「お帰り、タカト。会いたかった」

 シュンがゆっくり俺の腰に腕を回し、俺の身体を抱きしめた。俺は暖かくて優しくて子供のように可愛いシュンを思い出していた。――ずっと会いたかった――胸が熱くなった。

「シュン・・・ダメじゃないか、こんな事したら」
 嬉しいけれど、こんなのダメなんだ。
「どうして?」
 シュンが不思議そうな顔をして、俺の事を見つめた。
「どうして・・・って、あなたには・・・」
 家庭があるでしょ? そう言おうと思った。
「何言ってるのさ。お前は俺の息子だろ? 何したって平気だよ」
「え?」
「タカト・・・愛してる」
「・・・?」
 驚いてシュンを見つめている俺の唇に、シュンの柔らかい唇が触れた。
――息子? どうしてそうなるんだろう? でもシュン、息子の唇を奪おうっていうの?


「お客様、シートをお戻し下さい」

 急に現実に引き戻されて、倒していたシートを慌てて元に戻した。
 天候調査中で、俺の乗っている飛行機はまだ、空港を出てはいなかったのだ。
 30分遅れで離陸許可がおり、滑走路を走り出した飛行機の窓から外を眺め、3年半過ごしたこの地に別れを告げた。

 日本に帰れば、シュンの姿をテレビで見る事になるだろう。
だけど、シュンとの事は俺の心の中で懐かしい思い出になっている筈・・・。
もう、大丈夫だって・・・思っていたのだけれど・・・。




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出会わなければ 45
「タク・・・」

 こっちで入った学校で、友達から「タク」と呼ばれるようになった・・・。

 最初は「タクト」と呼ばれていたけれど、「タク」の方が呼びやすいから・・・って皆がそう呼ぶようになっていた。
 そして、いつの間にか「タカト」という名前を使わなくなり、仕事でも日常でも全て「渡辺たくと」という名前を名乗るようになっていた。
 日本に帰る事が決まって、久しぶりに自分の名前に対面したような気がする。
  − 渡辺鷹人 −  その名前に。

「いつか、私が日本に行くような事があったら、また会いましょうね」
 ジョアンがそう言って、握りしめていた手を離した。
「さよなら」
 彼女に背を向けて歩き始めた。その時、彼女の声がした。
「タクト!」 
振り返ると、目に涙を一杯溜めた彼女が一生懸笑顔を作っていた。
「タク・・・本当に愛する人と、幸せになって」

 飛行機に乗り込みシートに腰掛けると、俺はすぐに毛布を被り眠る準備をした。
 昨日の夜は、これで最後だからと言って、ジョアンが俺を放してくれなくて、身体中がダルくて仕方が無かった。

 彼女の事は確かに好きだった。だけど、それが男女間の恋愛という意味での「好き」では無かったように思う。そんな俺の気持ちを彼女は分かっていたのかもしれない。だから、俺には日本には愛する人がいて、その人を忘れられないでいると考えたのだろう。
 ジョアン・・・でも俺、その人とは幸せになれないんだ。その人の為に帰るわけではないんだよ――彼女にそう伝えてあげたかった・・・でも、もう遅すぎだ。
 俺は人を幸せにすることが出来無いのかもしれない。相手を傷つけて去っていく・・・あの時だって・・・。

 毛布を首の所まで引き上げ、目を閉じた。疲れた身体が俺をすぐに眠りに誘い込んだ。




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出会わなければ 44 (再会編)
「・・・サヨナラ、タク・・・」
「元気で・・・ジョアン」


 3年と数ヶ月暮らしていたニューヨークの街を離れる日、空港まで見送りに来てくれた年上の恋人ジョアンが俺の手を握りしめていた。

 ジョアンとは、1年半位の付き合いだった。
彼女は、俺の家の近所のアパートに住んでいて、有名な音楽事務所に勤めていた。
親父に連れられて行った、近所のパーティーで偶然知り合い、彼女の積極的なアプローチで付き合いが始まった。
 日本に帰る事が決まった俺の「一緒に日本に来る?」の言葉にも「仕事が好きだから」と別れを決めた、強くて自立した女性だった。


 俺よりも2年先にこちらに来て仕事をしていた父親は、突然の辞令で1ヶ月前に日本に戻っていた。
 父親の帰国が決まった時、俺も日本に帰るか、それともこちらに残るか、相当迷っていた。
 仕事の忙しいジョアンとの付き合いも程々に上手く行ってるし、俺のデザイナーとしての仕事も少しづつ軌道に乗り始めていたので、このままこの地で一生を送っても良いのでは? とも考えていた。
 俺が引き受けていた仕事は、日本にいる進藤の勤めている事務所からのものが多かったが、こちらに住んだまま仕事を続けても、特に問題は無いのだ。それに、少しづつだったけれど、こちらでも仕事の依頼が来るようになっていたから・・・。
 でも、その考えを打ち崩したのは進藤だった。
 父親が日本に帰った話を進藤にしたら、俺にも、日本に帰って来いと勧め出したのだ。
進藤から「俺の傍に戻って来い」と何度も説得された結果、俺は日本に帰る決心をした。

 この街には特に未練は無い。ここに来て出合った人達の多くは、それぞれの国に戻って仕事をしていることだし・・・。
 一番の心残りはジョアンの事かもしれない。彼女は、いつも「愛してる」と言ってくれていたのに、俺は最後まで彼女に「愛してる」の一言がいえなかった。
 俺の「誰かを愛する」という気持ちは、日本に置いて来たままなのだろうか・・・。彼女に対しては、申し訳けない気持ちでいっぱいだった。
だけど、彼女は、強い女性だから、俺がいなくても生きていけるだろうし、いくらでも新しい恋が出来る人だ。

「タク・・本当に帰ってしまうの?」
 愛している俺の事よりも仕事を取った彼女が、初めて悲しそうな顔をした。
「あぁ。今までありがとう」




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テーマ:BL小説 - ジャンル:小説・文学

出会わなければ 43
 新しい生活が始まり数週間たったある日の夜、パソコンを開くと進藤からのメールが届いていた。

 元気にやってるか?俺は会社で先輩に付いてまわり、仕事を覚えるのに必死だ。
鷹人、日本に帰ったら、俺の所に来るんだぞ。俺がお前を世の中に広めてやるから。
俺はその頃までに、一流の営業マンになってる予定だ。必ず帰ってこいよ。


 進藤の奴は、本気で俺の事を考えてくれているみたいだった。その気持ちが嬉しかった。
マジに頑張らなくては・・・。あいつが日本で俺を待っていてくれる。

PS. お節介なのは分かってるが、シュンの出たTV番組見てみろ。
  下記のURLに繋ぐと見られるから。 お前、罪な奴だな。  進藤剛士


 シュンの出た番組・・・? いったいテレビで何を話したって言うのだろう?
 まさか、空港での出来事で何か問題が起きていたらどうしよう・・・。
 不安に思いながらマウスを操作すると、パソコンの画面には、日本の歌番組が映し出された。
久しぶりに日本のテレビ番組を目の当たりにし、日本語ばかりの会話を聞いているうちに、日本がとても懐かしいく思えた。


「それでは、次はSabelの新曲、『愛を探して』です」

   
  ―生まれ変わったら、僕を見つけて
   今度はずっと離れないから
   誰よりも早く 愛してると言って
   いつまでも君の傍に居たいから
   何に生まれ変わっても 必ず見つけて
   僕も君を愛しているから―   
  


 そんな歌詞が聞こえて来た。
 歌が終わって、シュンのアップが映し出された。 茫然と画面のシュンに見とれていたら
「愛してる・・・いつまでも」とシュンの唇が動いた。
演出だとは思うのだけど、自分だけに伝えられているような気がして、少し切なくなった。
 そして、コマーシャルの後、番組の司会者が、シュンが父親になったという話題を振っていた。俺はそこで映像を止めようと思ったけれど、シュンの瞳が俺を見つめているように思えてしまい、止める事ができなかった。

「おめでとうございます。赤ちゃんは男の子だったそうですね」
「ありがとう。そう。男だったんだ」
「どうですか? お子さんを持った感想は」
「うん・・・。そうだね・・色々な考えちゃったな。俺が家族を守らなくちゃ・・・とかね。責任重大だなって」
「奥さんを含めて、皆を守るって感じですか?」
「・・・そう。もちろん」
 

―それで良いんだよ、シュン― 俺は、シュンの言葉を聞いて安心した。本来のあるべき姿に戻ったんだ。俺の事が好きになったのなんて、一時の気の迷いだったのさ・・・。

「あ、それで、お名前なんて聞いても大丈夫ですか?」
「いいよ。名前はね、タカト」
 

 え・・・? 俺は一瞬、自分の耳を疑った。
シュン・・・どうして、自分の子供に俺の名前なんて付けたのさ・・・?

「タカトくんですか。カッコ良い名前ですね。どんな字を書くんですか?」
「鳥のタカの鷹に、かなえるって意味の叶」
「良いですねぇ。何か意味はあるんですか」
「うん、鷹のように自由に空を飛んで、夢を叶えて欲しい・・なんて感じ?」

画面のシュンがこちらを見つめていた。
「やっぱり自分の子供は可愛いでしょうねぇ」
「うん、可愛いよ。俺はタカトを愛してるんだ」
「うわー・・・もう、親何とかですねぇ」
「そうだね」

そう言って、シュンが笑った。

 嘘だろ? なんでそんな名前付けるんだよ・・・。一生忘れられないじゃない・・・後悔しないの?
 シュン、あなたって人はどうして・・・。

 テレビの画面には、他の歌手が楽しげに話をしている様子がうつっていた。俺は、その画面を見つめたまま、呆然とさっきのシュンのことを思い出していた。
『俺はタカトを愛してるんだ・・・』
 ・・・あなたの愛してるタカトって、ホントは誰の事なの? 俺に縛られないでシュン、お願いだから。

−シュン、2世誕生おめでとう。遠い国から愛を込めて・・・   鷹人−

 俺は、送信するつもりも無いメールを携帯に打ち込んでいた。
 



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出会わなければ 42
 返信メールは送らなかった。
しばらくすると、今度はメールではなく、携帯に電話がかかって来た。
もちろん相手はシュンだ。だけど、出る事が出来なかった。

 振動し続けている携帯を見つめ、電源をオフにした。
なんで、最初からそうしなかったのだろう? そう思いながら・・・。
本当は俺、離れていく決心をしたけれど、それでもシュンからの連絡を待っていたんだ。
シュンが俺のこと考えていてくれるって事、実感していたかったんだ・・・。
 携帯をポケットにしまうとソファーに腰掛け、再び窓の外を眺め始めた。


 そろそろセキュリティチェックを受けようとソファーから立ち上がった。
その時、どこからか俺の名前を呼んでいる声が聞こえてきた。
「鷹人!」
 シュンの声のような気がして、無意識のうちに声のする方に振り返っていた。
 俺の横を通り過ぎたOLが「あれ、Sabelのシュンじゃない?」って言っている声が聞こえた。

 茫然とその姿を見つめていると、シュンが俺を見つけて、こちらに駆け寄ってくるのが見えた。
「・・・なんで・・・」
 目の前に来たシュンに問い掛けた。
「会いたかった・・・」
 シュンが俺の両手を掴み、息を切らせながら言った。
「シュン・・」

「会いたかったから来たんだよ。鷹人家に居ないし、連絡もつかないし・・・だから、バイト先に行って進藤君に聞いた。彼なら何か知っているんじゃないかって思って」
 苦しそうにシュンがそう言って俺の目を見つめた。
 飛行機の時間と行き先を、進藤だけには知らせてあった。
・・・俺はきっとシュンに来てもらいたかったんだ・・・俺だって会いたかったから。

「どうして来るんだよ」
 会いたかったのに俺、酷い事言ってる。
「鷹人に会えなくて・・・・寂しかった。どうして何も言ってくれなかった?」
「俺自身の事だし、もうあなたに関わりたくなかったんです」
「嘘だ」
「家族の事を考えて下さい・・・シュン」
「・・・そうだよな・・・俺が鷹人を苦しめているんだよな・・・」
「・・・」
 そうです。あなたが俺を追い込んだんだ・・・そう言ってシュンを突き放そうと思った。
だけど俺が突き放す前に、シュンが俺の身体を抱きしめ、背伸びをすると唇を重ねてきた。
声が漏れてしまいそうな程激しいキスだった。周りからは、微かなざわめきが聞こえていた。
 俺は慌ててシュンの身体を押し離した。
「・・・何やってるんだよ? こんな事しちゃだめじゃないか!」
「平気さ・・・撮影だと思われるから」
 シュンがもう一度俺の身体を抱きしめ、耳元でそう囁いた。
「ダメだよ・・・お願い、もう俺・・・」
「鷹人、行くな。行かないでほしい」
 シュンが俺の胸に顔を埋めて何度も言った。「傍に居て欲しい・・・」って。
「出来ないよ、俺には。あなたはもうすぐ父親になるんだから・・・」
 そう言って俺はシュンの腕を振り解いた。
「だけど・・・」
「愛してくれて、ありがとう・・・それから・・・ごめんなさい」
「鷹人・・・」
「さよなら・・・シュン」
 俺はシュンをその場に残し、駆け出した。まるで映画のワンシーンのようだと思った。





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出会わなければ 41
 カラオケBOXのバイトは1週間前にやめていた。でも、シュンには何も言っていない。
今度シュンが店に来る時には、俺はもう日本を離れているだろう。それで良いんだと思う。

 3月に入ってから、シュンには日中デザイン事務所で働くので、いろいろ忙しくてメールも返せないかもしれないと伝えてあった。
 それでも、シュンからのメールは日に一度は届いていた。返事は無くても良いから話を聞いて・・・って。時々電話をかけてくれているのも、知っていた。電話番号は非通知だったけど、きっとシュンだよね。
いつも夜中に少し鳴らして切れてしまう・・・気が付いていたけど出なかった。声を聞くのが辛いから。苦しかった。早くシュンの前から消えてしまいたかった。ごめん。身勝手な俺を許して・・・。
・・・許してなんて無理な話だろう。シュン、あなたを傷つける事になってしまって、本当にごめんなさい。

きちんと会って『さよなら』をすればいいのにって何度も思ったけど、どうしても言えない。
酷い奴って思われてもいい、なんて偽りの気持ち。勇気が無いんだ俺。シュンに会ったら、抱きしめたいキスしたい、愛し合いたい・・・その気持ちをきっと抑えられないから。
 友達でも良いなんて、そんなの無理な話。好きだから、愛してるから、自分だけのものにしたい。
でもやっぱり、自分が幸せになる事で、誰かを不幸にしてしまうような愛を取るなんて事、後から現れた、それもシュンと同性の俺には・・・荷が重すぎる――。




 そして数日後、とうとう日本を離れる日になった。向こうでは父親が首を長くして待っている事だろう。渡米が決まった時から俺に一緒にアメリカに行くように言っていた父親だから。
「卒業したら、やっぱりそっちで暮らすよ」って電話した時の親父、「だったら前にちゃんと言ってくれたら広い所に引っ越してたのに」と文句を言ってたけど、すごく嬉しそうだった。寂しかったのかもしれない・・・。

 さぁ、新しい生活が待っている。いつまでも過去に捕らわれている訳にはいかないんだ。過去・・そう、シュンとの事はもう過去の事なんだ。
会わなくなれば特別な感情は無くなるだろうから。きっと、男に恋してたなんて、俺も馬鹿だったな・・なんて思える日が来るはずだから。

 飛行機の時間は夕方だったのだけど、家に居てもやる事も無く、シュンから送られてくるメールを待つような感じになってしまうのもいやだったので、早めに成田に出かけた。

 空港に着いてから、旅客機が飛び立っていく様子を何度となく見つめていた。もうすぐ俺あの空に旅立っていく。初めて愛した人のいるこの国ともお別れだ。
苦しかったけど、あなたと会えて良かったんだと思う。さようなら・・・シュン。

 また1機、滑走路から飛び立って行くのを見送った。その時、ポケットに入れておいた携帯の振動がメールの着信を知らせた。
 ポケットから出し、画面を確かめると、シュンからのメールだった。

  −鷹人、今どこに居る?−

どこに居るって? 俺の事を探してるのだろうか?





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テーマ:BL小説 - ジャンル:小説・文学

出会わなければ 40
 親父が後数年のうちに日本に戻る予定だと言うので、マンションは
引き払わない事にした。
 大きな家具や、使わないものは綺麗に掃除して置いていく。
絵の道具や、自分の衣類その他必要なものだけをダンボールに詰めて
いった。

 向こうに行ったら通う予定のデザインスクールも決めてある。
英会話が殆ど出来ないので、バイトの無い日には英会話学校にも通って
いたけれど、まだ日常会話がやっとって所だ。
ちょっと前途多難かもしれない・・・でも、頑張るしかないんだ。
 頑張って勉強して、自分の腕で仕事が出来るようになって独り立ちして・・・
そして、シュンの為に何か出来れば・・・なんて夢のような事を考えていた。
その頃には、お互いに普通の顔して会えれば良いのだけど・・・。
 でも、何も言わないで行ってしまう俺になんて、シュンが会いたいと
思うだろうか?
とても、ムリな話だろう。悲しいけど・・・俺が自分で決めた事だ。

 荷造りも一段落したので、コンビニに夕飯を買いに行った。
近くの電化製品の量販店に並ぶ沢山のテレビ画面に、シュンの姿が映し
出されていた。カメラに向かって微笑んでいるシュンを見て、胸が苦しく
なった。

 シュン・・・愛しているよ。その瞳も、その声も、あなたの創りだす
歌の世界も――。
子供みたいなあなたの傍にずっと居たかった。
奥さんよりも、英明さんよりもずっと前にあなたに出会いたかった。




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出会わなければ 39
 春休み中に、父親の居るアメリカに行って、向こうで絵の勉強をする予定でいた。
だけど、シュンには、4月から都内の知人のデザイン事務所で事務の仕事をしながら、絵の勉強を続けると言ってあった。
 それでも就職なんだろうからって、シュンがスーツを贈ってくれた。サイズなんて知らない筈なのに、俺の身体にピッタリフィットするオーダーメイドスーツだった。

 専門学校の卒業式の日、皆で散々飲み歩いた後、家に帰ってみると、玄関の前大きな紙袋が置いてあり、中を覗いてみると綺麗な花束が入っていた。
 花束にはカードが添えられていて、シュンの直筆のメッセージが書いてあった。

『卒業おめでとう。りっぱな社会人になれよ』

 ごめん・・・ウソをついて。俺は、りっぱな社会人になんてなれない。ただ、貴方から逃げるんだ。
俺があなたの傍にいたらダメなんだ。


 花束テーブルに置き、複雑な思いでその花束を見つめながらコートを脱いでいると、ポケットの中で携帯が振動した。
「はい・・・」
「鷹人?」
「今晩は・・・シュン」
 飲み会から帰る時に携帯をチェックしたら、シュンからの着信履歴が残っていた。
 だけど、俺は、数日後には日本を離れてしまうので、このまま連絡しないつもりでいた・・・それなのに・・・。

「見てくれた?」
 シュンの少し弾んだような声が聞こえてきた。
「うん・・・見たよ、ありがとう。なんか、照れるねこういうの」
 花束なんて貰ったのは生まれて初めてのような気がする。
「鷹人の殺風景な部屋に花でも飾ったら、少しは良いかなってね思ってさ・・・」
「そうだね、ありがとう。でも、花瓶買ってこなきゃ」
 この花束も、ココを発つときには捨てていかなくては・・・。俺のシュンへの想いと共に。
「そうか・・花瓶ないんだ?買って行こうか?」
 ココに来るの? そんなの、ダメに決まってる。
「いいよそんな事まで・・・」

「鷹人・・・会いたい」
 シュンが小さい声でそう呟いた。でも、俺は聞こえないフリをした。
「なに? シュン?」
 俺も会いたいよ。だけど、もう、会ってはいけないんだ。
「・・・何でもないよ。卒業おめでとう。絵の勉強も頑張れよ」
「うん、頑張るよ。・・・・・・今まで色々ありがとう。シュンも頑張ってね」
「今まで・・・なんて変な言い方するなよ。これからも宜しく・・・って言うんだろ」
「・・・そうだね。これからも宜しく」
「鷹人?」
「何?」
「時間があったらさ、食事にでも行かないか? 卒業祝いしたいな」
 シュンの気持ちは凄く嬉しい。だけど、会ってしまったらシュンの前から居なくなる決心が崩れてしまいそうだ・・・。
「ありがとう・・でも、ちょっと色々やる事あって、難しいかなぁ」
「そっか、分かった。じゃ、そろそろ休憩終りだから・・」
「レコーディング中?」
「ん・・・そう・・・。ちょっと休ませてもらってた・・・声が聞きたかったから」
 ダメだ。俺を惑わせるような言葉を言わないで・・・。
「本当にありがとう、シュン。仕事頑張ってね、それじゃ・・・」
「うん・・またメールするから」
「・・・分かった・・・元気でね・・」
「え? 鷹人?」
「またね」
「あ・・・またね」

 ―さよなら、シュン―



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出会わなければ 38
シュンとのメールのやり取りは、その後も相変わらず続いた。
内容も前と同じように、その日に有った事とか、ちょっとした失敗談とか、仕事のグチだったりとか色々だった。
 だけど、2日に1回だったメールがいつの間にか、1日に数回来るようになって、俺は、正直苦しくてしょうがなかった。
 恋人のような気持ちでメールを出せたらどんなに良いだろう・・・。

 そしてそんな微妙な関係が数ヶ月続き、新しい年になった。
 俺は、卒業に向けて忙しい日々を送るようになっていた。
カラオケ屋のバイトもそろそろ止めようと思っていたのだけれど、バイトが足りないから週一回で良いから来てくれと店長に言われ、仕方なく続けていた。
 そして、毎週ではないけれど、俺がバイトに入る日を選んで、シュンが歌いに来てくれた。
笑顔で話し掛けるシュンに、悟られないように会話した・・・俺がもうすぐシュンの前から居なくなる事・・・。

 デザイン関係の会社に営業として就職の決まっていた進藤には、シュンとの関係を話した。
 ずっと黙ってようと思ったのだけど、俺の様子が少し変だと感じた進藤にホンの少し突かれただけで、俺はシュンとの間にあった事を全部話してしまった。1人抱え込んでいるのが辛くなって、誰かに聞いて欲しかったから・・・。

 進藤は最初、俺が悪い冗談を言っているのだと思ったようだ。
あまりにもシュンに惚れ込んでしまい、俺が妄想の世界に入ってしまったのかと思ったと言っていた。  でも、俺の話を聞いてから、シュンが店に来た時の様子を見ていて、俺の話が本当だったと信じてくれたらしい。
 シュンは、進藤がいるのに、俺と2人きりでいるような話し方をするようにになっていた。
シュンの友達が居る時は気を付けているようだったけど、進藤と俺以外に近くに人が居ないと、『鷹人』って甘えた声で俺の事を呼んでいた。俺の手にさり気無く手を添えることさえあった。

 進藤も、シュンの為にはシュンの傍を離れる方が良いんだろうって言ってくれた。お互いの将来の為にも・・。

 何も言わずにシュンの前から消えるつもりだと言ったら、進藤から、シュンにきちんと話をした方が良いだろうと言われた。俺の勝手な思いから始まった事なのだろうからって。
 だけど・・・俺の思い上がりかもしれないのだけれど、シュンに伝えてしまったら、あの人は俺を追ってきてしまいそうだから・・・。
何も言わないで居なくなれば、俺の事、酷い奴だったんだって思ってくれて、諦めてくれるんじゃないかって・・・。

 前にも悲しい思いをしているシュンにとっては、酷い仕打ちだろうと思うけど・・・。
でも、他の方法が考えられなかった。俺の前でシュンが悲しい顔をするのを見たくなかったから・・・。これでも、シュンを愛してるって言えるんだろうか? 

 俺の愛は、身勝手で幼稚な愛だったのかもしれない。




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出会わなければ 37
 シュンの身体を抱き上げ、ベッドへ連れて行く。
シュンの身体は、今まで付き合った女の子の誰よりも軽く、儚く、そして、切なかった・・・。

 腕の中でシュンが恥かしそうに俺の事を見つめていた。
「初めてだよ・・・お姫様抱っこ」
 シュンがそう言って笑顔を向けたけど、俺は泣きそうになり、
何も言えずにシュンの身体をベッドに下ろした。

「ごめんね、鷹人」
 俺が何も言わなかったから、気にしたのだと思う。悲しそうな顔をしながらシュンが呟いた。
「謝らないで・・・シュンは悪くない」
 その言葉を言うのがやっとだった。
 悲しそうなシュンの頬を撫で、唇を塞いだ。
切ない吐息が聞こえ、どうしようもない思いに胸が苦しくなった。

 それから、お互いの服を剥ぎ取るように脱がせあい、裸で抱きしめあった。
 これが最後、その思いが2人を強く結びつけた―――。




「鷹人・・・」
 抱き合った後、シュンが俺の胸に顔を埋めて囁いた。
「何ですか?」
「・・・またメールしてもいいかな?」
 消え入りそうな声でシュンが聞いてきた。
「はい」
「また、ライブも来てくれるだろ?」
「もちろん、行きますよ」
「良かった」
 シュンが顔を上げ、俺の頬を両手で包み、幸せそうに俺を見つめた。

 ――ごめんねシュン・・・。
 俺はその時決めていた。来年の春学校を卒業したら父親の所に行こうって。
これ以上シュンの傍に居たら、彼を苦しめてしまうかもしれない。
それに・・・俺自身が辛いと思うから。
逃げていくような事になるけど、それがきっとお互いの為だから――。

 シュンの頬にキスをして、その華奢な身体を抱きしめた。
 あの日出会っていなければ、こんな身を切られるような思いをしないですんだのに・・・。
だけど、出会ってしまったのは俺たちの運命だったのだろう・・・。
 ほんの短い間だったけど、あなたの傍にいられて、幸せだった。

 シュン・・・愛してくれてありがとう。





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出会わなければ 36
「分かってるよ。俺は英明じゃなくて、鷹人、お前を愛しているんだ」
 シュンが探るような目をして、俺を見つめている。信じられない・・・シュンが俺の事を愛しているだなんて・・・。
 俺の心は揺れまくった。俺だってシュンが好きだ、友達で良いって言ったけど、どんどん欲張りになっていた。だけど、ダメなんだ。シュンと、シュンの子供には幸せになって欲しい・・・。

「・・・俺もね、友達で良いなんて言ったけど、本当はあなたの事、自分のものにしたいって思ってた。」
「だったら・・・お前のものにしてくれよ」
 シュン・・・どうして、そんな事言うの? ダメじゃないか、父親になろうとしてる人が、そんな事言ってたら。
「ごめん・・・シュン。俺ね、もしかしたら俺にもチャンスがあるかな? なんて酷く勝手な事、心の中で思ってた。でもダメだよ。シュンは父親になるんだろ? 俺、シュンの子供から父親を奪う事は出来ないよ」
「鷹人・・・」
「俺、母親がいないんだ。物心ついた時にはもう居なかった。父親は、母が死んだと言ってたけど、大きくなるにつれて、親戚の話が耳に入ってくるようになった。母は赤ん坊の俺を残して、他の男と出て行ってしまったんだって。シュンの子供には、俺のような思いをさせたくない。ましてや、自分の父親が男と出来ちゃってたなんて、全然笑えない冗談でしょ?」
「・・・」
 俺の言葉に、シュンが泣き出しそうな顔をした。

「俺、今分かったんだ『愛する』って気持ち。好きで好きで、自分のモノにしたくて、でも、その思いを抑えてでも相手の幸せを祈ってしまう・・・。大切なあなたの子供を悲しませたくないって思ってしまう気持ち。・・・俺もあなたを愛してる」
「鷹人・・・」
 シュンが俺の胸に顔を埋めた。
「・・・愛しているから、あなたの家族を不幸にしたくない」

 頬を涙が伝っているのがわかった。ごめんなさいシュン、俺がいけなかったんだ。俺があなたを抱きたいなんて言ったから・・・抱いてしまったから・・・メロドラマみたいに、自分の勝手な思いを伝えてしまったから・・・。

「鷹人が俺の為を思ってくれている事、分かったよ。有り難う・・・。俺の方が大人なのに・・・俺が言ってはいけない事だったのに・・・でも・・・でも」
 シュンが抱きついている腕に力を入れた。
「シュン・・・」
「鷹人、お願いだ。最後のお願いだから。俺の事抱いてくれよ・・・。お前の事忘れないように・・鷹人が俺の事、愛しているって言ってくれたことを忘れないように」
 シュンが背伸びをして俺の唇にキスしてきた。・・可愛いシュン、子供みたいなシュン・・・愛しているよ。
 俺に、人を愛するって気持ちを教えてくれて有難う。



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出会わなければ 35
「進藤君、悪いけど、今日鷹人君借りていっていい?」
 俺と進藤の前に立ったシュンがそう言って俺を見た。
「え? あの、まだバイトが・・・」
 俺は焦って断ろうと思った。もうすぐ終わるとは言えバイトの時間中だし、今の状況でシュンに付いていってしまったら、どうなるのか想像もできない。
「あー・・・まぁ、いいですよ。もう次のシフトの奴来てるんで」
「でも、進藤・・・」
 進藤に助けを求めるような視線を送ったが、あいつはそんな俺には気付かず、俺の肩をポンと叩くと笑顔を向けた。
「カード後で俺が押しとくから」
「そうじゃなくて・・・」
「ちょっと、頼みたい事があるんだよ。来て」

 シュンは俺を連れ出し、すぐに帰る用意をするように言った。
「鷹人君、さ、行こう」
 呆れているシュンの友人と、手を振って笑っている進藤を残し、俺達は店を出て歩き出した。

 シュンは俺の腕を掴んだまま、無言で歩き続けた。
「シュン・・・どこ行くの?」
 俺はどうして良いか分からず、前を向いたままそう聞いた。
「お前の家」
 シュンの声が隣から聞こえてきた。
「何で・・・」
「抱いて欲しい」
 シュンがそっと顔を近づけ、耳元でそう囁いた。

「・・・ダメだよ、シュン。ちゃんと言ったじゃないか、友達だって」
 必死でそう言った俺の言葉を無視して、シュンは俺の腕を引っ張ったままどんどん歩いて行った。
 マンションに着くと、俺をエレベーターに押し込んだ。エレベーターに入った途端、シュンが俺の腕を掴んでいた手を離し、俺の右手をギュッと握り締めた。

 俺の部屋の前まで来ると、シュンが手を出して微笑んだ。
「ハイ。鍵出して」
 躊躇している俺のポケットから鍵を抜き取ると、シュンは部屋のドアを開け、さっさと家の中に入ってしまった。
「入れよ。鷹人」

 靴を脱いで部屋に入ると、シュンは立ったままの俺に抱きつき、唇を近づけてきた。
「シュン、ダメだって。俺、本当に困る」
 俺は必死にシュンの身体を押し戻した。
「俺が男だから? 年上だから? 芸能人だから?」
 悲しそうな顔でシュンがそう言った。
「それだけだったら・・・多分気にしないと思う・・・」
 俺の言葉にシュンが黙ってしまった。

「シュン」
 俺は必死に自分の感情を抑えた。本当はキスしたかった。でも、そんな事しちゃいけないんだ・・・。
「奥さん、妊娠中なんでしょ?」
 そう聞いたら、シュンが驚いたような顔をした。
「どうして・・・知ってる?」
「シュンの友達が話してたって。進藤から聞いた」


「シュン、奥さんと出来ないから溜まってるだけでしょ?」
 そう言ったら、シュンが頭を振った。
「違う」
「俺、英明さんじゃないよ?」
「・・・分かってるって・・・言っただろ・・・」
シュンの瞳が寂しそうに見えた。そんな目で見ないで。俺がどんな思いでいるか分かる?
ねぇ、シュン・・・。



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出会わなければ 34
 放心状態のまま受付に戻ると、進藤に「遅い!」と怒られた。
その時俺は、動揺していいて何も言い訳が出来なかった。
「まったく。お前はシュンに弱いからなぁ。あ、それよりさ、鷹人、知ってたか?」
「え?何がだよ」
「今、シュンの友達が話してたんだけど、シュンの奥さん妊娠中らしいぜ」
「・・・」
 進藤の声が耳に入ったけれど、その内容を理解する事が出来なかった。多分、理解したくなかったからなんだろう・・・。
「だから、シュンが父親になるんだって」
 はっきり言ってかなりショックだった。不誠実な事だとは思うけれど、シュンに子供が居なければ、もしかしたら俺にも少しはチャンスがあるのでは? なんて身勝手な事を思ったりしていたからだ。

「どうかした、鷹人?」
 しばらく何も言わないでいると、進藤が訝しげに俺の事を見た。
「いや・・・」
「なにさ、マジで惚れちゃってたからショック受けてるとか?」
「え? そんな訳無いじゃん。いくら顔が好みだからって言ったって、相手は男だぜ」
 進藤に心の中を覗かれていたのかと思い、慌てて言い返した。そう答えるのが普通なんだよな・・・って自分に言い聞かせながら。
「だよな」
「ただ、あのシュンさんが父親かぁ?って思ってさ。なんか不思議だよな。だって、あの人全然生活感無いから」
 シュンが父親に・・・
「そうだよな。性別不明なとこもあるしなぁ。それにさ、28才には見えなかったし、父親になる・・なんてちょっとビックリかな」
「シュンって28才なんだ?」
 シュンの年さえ知らなかったんだ・・・。
「お前、知らなかったのかよ」
「うん・・・俺とそんなに違わないと思ってた」
 年上だとは思っていたけれど、10才近く年上だったなんて・・・。そんなシュンが、俺に惚れてるなんて有り得ない。奥さんが妊娠中で夫婦生活が出来なくて、人肌が恋しくなってるだけなんじゃないだろうか?

 その時、階段の上の方から声が聞こえて来た。
「おい、シュン! どこ行くんだよ?」
「ごめん。俺、今日帰る」
 誰かが階段を駆け下りてくる音が聞こえた。
「何だよ、誘ったのはお前だろ?」
「ごめん、急用」

 俺の目の前には、息を切らしたシュンが立っていた。



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出会わなければ 33
「あ・・・シュンさんお久しぶりです」
 ライブツアーも終わってしばらく経ったある日、久しぶりにシュンが俺のバイト先に現れた。
「久しぶり。すぐに後2人来るから、先に入ってようと思うんだけど」
 シュンが笑顔を向けた。
「はい。えっと、212番の部屋です。これ・・・」
 俺は、受付を済ませると、マイクと歌本を渡そうとした。
「鷹人君、持ってきてくれるかな?」
 シュンが俺をジッと見つめてそう言った。見つめられて、胸がドキドキしてくる・・・。
「はい。じゃあ、ちょっと行って来るよ・・・」
 俺がそう言うと、進藤の奴は俺の事を見てニヤッと笑い、腕で脇腹を小突いた。
「あぁ、行ってらっしゃい」

 シュンの前を歩いて部屋まで行った。ドアを開けて部屋に入るように促すと、シュンが俺の腕を引っ張った。
「鷹人、入って」
「え・・・はい」
 俺は、手に持っていた荷物をテーブルに置くと、お辞儀をして部屋を出ようとした。
「それでは、ごゆっくり・・・」
 そう言って顔を上げた瞬間、シュンが俺の身体に抱きついてきた。
「鷹人」
 シュンが俺の身体を部屋の壁に押し付け、耳元で俺の名前を囁いた。
「シュン? 何・・・どうしたのさ」
 突然のシュンの行動に俺は慌ててしまった。
「だまってて・・・」
 俺はシュンに力強く抱きしめられていた。そして、シュンが背伸びをし、俺の顔に自分の顔を近づけてきた。
「シュン・・・やめ・・・」
 言葉の最後の方はシュンの唇によって音を発せられないままだった。俺は、シュンの身体を押しもどそうとした。でもシュンは俺をギュッと抱きしめて離さない。
「シュン、ダメだよ。俺、困る」
 視線を合わせないようにしながら俺は喘ぐ。
「だめ。離さない」
 シュンが俺の胸のあたりに顔を埋めて呟いた。
「だ、誰か来ちゃうし」
 防犯カメラに写ったら、進藤にバレてしまう・・・。
「来たっていい。好きなんだ、鷹人」
 シュンの言葉に驚いた。どういうものか分からなかったけれど、俺に少なからず好意を持って接してくれているのは分かってた。だけど、男の俺相手にシュンが何か行動を起こすなんて事思ってもいなかったから・・・。
「ダメだよ。シュン・・・」
 俺は、シュンの腕を解き、シュンの両肩に手を置き息を整えた。俺だって、シュンの事好きだ。勝手だと思うけど誰よりも側に居たいって思う。
でも、シュンには守るべき人がいる。それに・・・それに・・・
「シュン・・・俺は、英明さんじゃないんだよ」
「・・・そんなの分かってる。あいつは俺を抱かない。でもお前は抱いた。いけないと思っても、俺、あの日からずっとお前が・・・」
 その時、部屋の前が騒がしくなった。俺は慌ててシュンから離れてドアを開けた。
「いらっしゃいませ」
 俺が挨拶をすると、部屋の前に居たシュンの友人達が驚いたように部屋の中を覗いた。
「シュン、早かったじゃないか」
 シュンがホンノ一瞬、困ったような顔をした。
「それでは、ごゆっくり・・」
 そう言い残すと、俺は急いでその場を離れた。



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出会わなければ 32
 初めてのライブを、こんなにステージの間近で見られるなんて感激だ。ステージのシュンがこんなに近くに見える・・・。

 1曲目の途中で、シュンが俺の席を確認するかのように、こちらを向いて微笑みながら指を指すようなポーズをした。周りの女の子達が「キャーキャー」言いながら、嬉しそうに手を振っていた。俺は手を振るなんてこと出来る訳も無く、俺のほうを見ているシュンに軽く頭を下げただけだった。

 シュンの歌声は甘く、時には力強く、ルックスだけではなく本当に実力がある人なんだと実感した。
ステージの上を走り回ったり、踊ったり、曲間にメンバーととぼけたトークをしたりして、シュンの意外な面を見られてとても新鮮で良かった。
 時々、シュンが唄いながら俺の前で立ち止まるような気がして、俺は自分に都合の良い勘違いをしてしまいそうだった。

 2時間のライブは、あっという間の出来事のように思われた。気が付くとライブが終わっいて、帰る人の波にのまれていた。
 駅に向かって歩きながら、ライブの感動が覚めてしまう前に、シュンにメールを入れておこうと思い携帯を取り出した。

 −ライブ最高でした! 歌もすごく良かったし、シュンの意外な一面が見られて、楽しかったです。チケット、本当に有り難うございました−

 送信して携帯をポケットにしまって歩いていると、ライブが終わったばかりだって言うのに、すぐに返信メールが来た。

  −サンキュ&どう致しまして。俺も楽しかった。またチケットやるから来いよ−

  −もちろん行きます−


 数日後、シュンが俺の家宛てにチケットを送ってくれた。今回のライブツアーのうち東京近郊である公演のチケットが3枚入っていた。俺はバイトのシフトも代わってもらい、その全部を見に行った。
 ステージで歌っているシュンが見たかった。ステージに立つシュンは普段の何倍も魅力的だから。
 3公演のうち、1つはアリーナ最前列の端の方。残りの2公演は2階の招待者席だった。それでも、いつもシュンは俺を見つけてくれたようだった。そして、あの曲を歌う時はいつも、切ない表情で俺に向って手を差し伸べているように見えてしまった。
 すっかり俺は、のぼせ上がってるみたいだ・・・。



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出会わなければ 31
 チケットを貰ってから1ヶ月が経った。その間はシュンに会う事は無かったが、相変わらずメールのやり取りが続いていた。メールの度に「ライブまであと○日!」って書いてあった。自分でも言ってたけど、本当にライブが好きなんだなって思った。
 俺は俺で、目の前でシュンが歌う姿を見るのがとても楽しみだった。カラオケで演歌を歌ってるシュンではなく、ステージで自分の歌を熱唱するシュンを見られるのが・・・。


 ライブ当日、ワクワクした気持ちでライブ会場に到着した俺は、建物の中から続いている長蛇の列にビックリしてしまった。
 シュンから、雑誌に載るとかテレビに出るとか教えてもらってはいたが、それらを全部チェックしてる訳でもなく、バンドの活動状況やファン層なども殆ど知らなかったので、実際こんなに凄い事になってるとは思ってもいなかったのだ。
 女性のファンが多かったが、中にはシュンと同じような格好をした男性ファンもいた。だけど、どう見ても、女性ファンの勢いには負けてる感じだった。
 入場者の列に並んでゆっくり歩いている俺のまわりでは、PVのシュンと同じ服装をしたファンが、嬉しそうにコンサートグッズを抱えてシュンのデビュー当時の話をしていた。

 ――あまり早く来ると並ぶのだけだよ――とシュンが教えてくれたから、開場時間を過ぎてから着くように来たのだけど、それでも、沢山の人が会場の外に溢れていた。
 やっとの事で会場内に入り、席を探す。もらったチケットの座席はアリーナ最前列の中央右より。
ちょうど隣が通路になっていたのでホッとした。両側をコスプレした女の子達に囲まれたら、ちょっと恐いかもしれない――。


 席に座ってしばらくすると、会場が暗くなり、ステージが眩い光に照らされた。
ファンの女の子達の声援が悲鳴のようなものに変わると、ステージの上に3人のメンバーが次々と登場した。それぞれ各自の楽器を手にする。そして、悲鳴が一段と高くなり、最後にシュンがステージ中央に現れた。
 いつもカラオケ屋に来る時のようにラフなスタイルではなく、バッチリ着飾ってるシュンの姿に釘付けになった。
かっこいい、綺麗、可愛い・・・どれもシュンに合う誉め言葉だが、今日のシュンは、特にかっこ良く見えた。
 女の子達がキャーキャー言う気持ちがよく分かる。俺も、「シュン!」って叫べたらいいのにと思った。でも、とてもじゃないけど出来そうも無いや・・・。

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出会わなければ 30
 翌日学校の帰りに、シュンの言っていた新曲のCDを買いに行く事にした。
 店に入り、邦楽のCDの棚に向う途中、Sabelの新譜を持って、嬉しそうにレジに並んでいる女の子達の横を通った。
 不意に彼女達の話が耳に入り、俺は思わず立ち止まり、聞き耳を立ててしまった。傍には、興味の無いアニメ系のCDが並んでいたけれど、不自然にならないように棚から1枚CDを取り出し手に持って見ている振りをした。

「ねぇ、私さ、この新曲の歌詞、ちょっと気になってるんだよ」
「え? どうして」
「だって、何だか今までの曲と感じが違うんだもん」
「ふーん・・・そうかなぁ?」
「そうなの! 何年シュンを見てきたと思ってるのよ」
「ハイハイ・・・分かったから、落ち着いてよ。で、詩書いたのはシュンなんでしょ?」
「そうみたい」
「ミサさんの為に書いた詩とかじゃないの?」
「えーでも何か違わない?」
「だって、歌詞だもん、脚色ありでしょ・・・」
「でもー」
 女の子達は、レジを済ませ、店の外に出て行ってしまったので、話が聞こえたのは、そこまでだった。
 奥さんの名前・・・ミサさんって言うんだ・・。昨日の夜感じた、モヤモヤした気持ちが、再び胸の中に広がって苦しかった。

 どうしてシュンの事を好きになってしまったんだろう?
自分で友達で良いから傍に居たいなんて言ったくせに、俺はそれ以上の事を望んでしまっているんじゃないだろうか・・・?

 イヤ・・・そんなわけない。こうやってCDを買ったり、ライブに行ったり・・・メールしたり・・・それだけで良いんだ。それで満足しなくちゃ。
 さて、シュンがきっと曲の感想を聞いてくるに違いないから、早く帰って聴かないと・・・。
『シュンが好きだ』と言う自分の気持ちを打ち消し、CDを買うと急いで家に帰った。


  君からの言葉をいつも待っている 僕が欲しいって
  君のその唇で伝えてくれるのを  出会った時から待っている
  僕は天使ではないけれど     君が望むなら天使になろう
  そしていつまでも君の側にいるよ 君を待っていたから・・・


 CDプレーヤーから聴こえる、シュンの声が心を乱す。
 普通に聞けば、よくある愛の歌。だけど切ない気持ちになってしまうのは、シュンがこの曲で俺に気持ちを伝えているかように思えてしまうから?
 ねぇ、シュン・・・俺が望んだら、天使になって俺の側にいてくれる?
バカだ俺・・・そんなのあるわけない。これは、俺宛のメッセージではないんだから・・。

 その日の夕方、シュンからのメールが届いた。

  −新曲どうだった?−
  −すごく綺麗な曲ですね。少し切ない歌詞だけど、良い曲だって思いました。−
  −良かった。鷹人がそう言ってくれるのが1番嬉しい−

 ダメだよ、シュン・・・俺はマジで貴方が好きなんだから。そんな言葉で、俺を惑わせないで。

  −ファンの皆から、「私の天使になって!」って手紙がきますよ−

 送信ボタンを押してから、深い溜息をついた。



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出会わなければ 29
 それからすぐ、シュンの友達が集まって来て、シュンは皆と行ってしまった。
俺はしばらく、シュンの背中をボンヤリと眺めていた。

「あの人と仲良いんですね、渡辺さんって。あの人芸能人でしょ?」
 シュンの姿が見えなくなった頃、電話を終えたバイトの後輩が聞いてきた。
「・・・まぁね。あの人に絵を頼まれて描いた事が有るから・・・それから何となくね」
「へー羨ましいな」
 後輩が、羨望の眼差しで俺の事を見ていた。
「お前って、芸能人とかに興味なかったんじゃないの?」
「興味は無いんだけど・・・あの人、前に映画に出た事あるじゃないですか」
「え? そうなんだ・・・俺、知らなかったよ」
「知らなかったんですか? 俺、あの映画気に入ってたんですよ。たまたま彼女があの人のファンだったから、付き合いで行ったんですけどね。俺、恋人にするなら、彼女よりあの人の方がいいなーなんて思ったんですよ・・・これは、彼女には内緒なんですけどね」
 バイト先にも時々やってくる後輩の彼女・・可愛くて良い子なのに、こいつは、何てこと思ってんだよ・・・。
「そうかぁ? でも、男だよ、あの人」
 俺は、ちょっと複雑な思いで、その言葉を言った。
「男って分かってても、あの人とならヤレルかもなーって」
 後輩が、ニヤニヤしながらそう言って、「案外、胸もあるかも」なんて、言葉を続けた。
 『ふざけるな!』っていう気持ちと『俺もこいつと変わらないんじゃないか?』という気持ちに戸惑ってしまった。

「お前さ、そんな事考えるなんて、シュンさんに失礼だと思わねーのかよ?!」
 腹が立ってきて、思わず後輩を睨んでしまった。
「え? そんな・・・冗談ですよ。恐いなー渡辺さん」
 俺は、自分に対してなのか、後輩に対してなのか、よく分からないイライラした気持ちを抱えたまま、バイトの時間を過ごしてしまった。

 カラオケを終えたシュンが、帰り際、俺に笑顔を向けて手を振ってくれていたのに、俺ったら、笑顔も出来ず、ただ小さく頭を下げただけだった。


 スッキリしない気持ちのままバイトを終え、家に帰えった。ポケットから携帯を出すと、着信があった事を知らせるライトが点滅した。
誰からのメールだろうと携帯を開くと、大学の友人からの他に、シュンからのメール来ていた。着信時刻を確認してみると、シュンが店から帰って間もない時間だった。
 今日は昼頃にメールが来ていたから、もう来ないだろうと思っていたのだけど・・・。

  −今日何かあったの? 調子悪そうだったけど?−

 もしかして、シュンが帰る時に俺が無愛想な顔をしていた事を気にしていたのだろうか?
 シュンは何も悪くないのに、自分のイライラした気持ちをシュンにぶつけてしまったから・・・。

  −ちょっと疲れていただけです。心配させて御免なさい−

 送信してから、風呂に入る用意をしようと立ち上がった。その途端メールが届いた。

  −メール来ないのかと思った。良かった。何も無くて−

 俺の返事を待っていたんだろう・・・。でも、いつものように「メールが遅い!」って拗ねた文章では無かったので、それがかえって俺を複雑な気持ちにさせた。

 シュンが俺の事を気にかけてくれて、それ自体はすごく嬉しかった。でも、訳の分からないモヤモヤした気持ちが、心の奥底に残ってしまった。




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出会わなければ 28
 その後も、今までと同じような日々を送っていた。
ほんの少し違っているのは、2日に一度は必ずシュンからメールが入るようになった事だ。
シュンからのメールの内容は、他愛のない事・・・

  −何か面白い話は無い?−
  −眠いんだけど、どうにかして−
  −今日のテレビ見ろよ。俺出るから−

 そんな感じ。子供っぽくて笑ってしまう時もあるんだけど、それでも、俺に送ってくれるって事実が嬉しかった。
 どんなに短いメールにも、答えるようにしているのだけど、俺は元々、友人にもマメにメールする方じゃなかったので、時々携帯の存在を忘れてしまう。そうすると、シュンのメールに気がつかなかったりするわけだ。そんな時には、シュンから、拗ねたようなメールが届くのだ。何だか、シュンが年上とは思えなかったりしてしまう。
年下の可愛い女の子のよう・・・。
女の子? そうだったら、まだ良かったのかもしれない・・・。
俺の不毛な思いは、メールが来るたびに脹れ上がりそうになってしまう・・・。



 ある日、バイトに入っていると、久しぶりにシュンが来た。メールでは、1日おきに会話しているけど、本人に会うのは2ヶ月ぶりかもしれない。

「これ、前に言ってたやつ」
 シュンが突然目の前に来て、俺に封筒を手渡した。
「え? 何でしたっけ?」
 封筒でもらうようなもの、あっただろうか?
「まったく・・・鷹人君は、忘れっぽいよな」
 シュンがそう言って、俺の顔を呆れたように見た。
「チケットだよ、ライブの。来月なんだ・・・絶対来いよ」
 ・・・そうか、そんな会話をしたような気がする。でも、まさか本当にチケットをもらえるとは思っていなかったので、とても驚いてしまった。

「はい、もちろん行きます」
 ちょっと剥れたような顔をしているシュンに向って、思い切り笑顔を作った。イヤ、作った訳じゃない、心の底から嬉しくてしょうがなかった。
ちょっと、ヤバイかなって位嬉しくて、その気持ちを伝えたくて、シュンの目を見つめた。シュンも俺の顔を見て優しく微笑んでくれていて・・・ホント、胸が痛いくらいドキドキした。
 その時間のシフトは進藤とでは無かったし、一緒の奴が電話で対応してる最中だったから、俺たちが不自然なくらい見つめあっていた事には、気がついていなかったようだ。

 微笑みあった数秒後、シュンがニヤッと笑ってから言った。
「後な、明日新曲が出るんだ。よろしく」
 そう言えば、この間のメールに書いてあったような気がする・・・。
「え? くれないんですか?」
 二ヤッと笑ったシュンに、ブスッっとした顔で俺が答えた。チケットくれるなら、CDもつけてくれたら良かったのに・・・なんて。

「それくらい、自分で買えよ」
 シュンがビシッとそう言った。なんだかメールの時と逆みたいだ。拗ねるのはいつもシュンだっけ。
「そーですよね・・・」
「そうだよ」
 そう言ってから、シュンが笑った。


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