−甘嘘別館−  
♪ハッピーエンドのBL小説を連載します♪

■ プロフィール

Author:りょう
BL小説を書いてます。
よろしくお願いします☆
別館では18禁小説は連載しません。
本館へ行かれたい方は、コメント等でお問い合わせ下さい。
(メールアドレスをお忘れなく…)

☆おことわり☆ 
「出会わなければ」には、実在のバンド、メンバーと似た人物が出てきますが、実在の人物とは一切関係ありません。

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出会わなければ 27
 今日のバイトも進藤と一緒だった。
 色んな意味で、進藤との組み合わせが一番気楽で良い。バイトの仲間うちでも受けが良いし、客の扱いも上手い。特に酔っ払いの相手をさせると、右に出る者が居ないくらいだ。
さすが、俺より1年長くやっているだけの事はある。頼りになるし、話題も豊富で面白い。それに、俺の将来について、何かと気に掛けてくれて、アドバイスしてくれる。
 ただ、親しくなるにつれて、俺をからかって楽しんでるな・・・って思う時もあるんだんだけど・・・。

「最近さ、あの人来ないよな?」
 進藤が意味ありげに言って笑った。
「あの人って誰だよ?」
 何となく、言いたい名前は分かるけど、分からない振りをした。
「Sabelのシュン」
「あ・・・そうだな」
 進藤とは、話題にしたく無かったから、あの日以来、シュンの話をしないようにしていたのだけど・・・。

「なぁ、鷹人、そう言えば、シュンさんに頼まれてた絵はどうした?」
 絵のことを言われ、胸がドキドキしてきた。あの日の事が、思い出されるようだった。
「え、あぁ。出来上がったから、渡したよ。結構気に入ってくれたみたいだぜ」
 進藤に勘ぐられないように、平静を装って言葉を続けた。
「何だよ、こっそり会ってたのかよ・・・」
「いや、別に、こっそりとかそんなのじゃないし」
「ふーん。まぁ、いいけどさ。気に入ってもらえて良かったな。で、お前いくら貰ったんだよ?」
 絵を渡した事を進藤に話さなかったのは、あの日のシュンと俺の間にあった出来事を、すべて話してしまいそうだから・・・。もし聞かれたら、進藤には黙ってる自信が無かった・・・俺がシュンに対して持っている感情を・・・。
 信頼しているんだけど、シュンとの事は、進藤にも話してはいけないと思っていた。だから、シュンの話をしないようにしていたのに・・・。

「え・・・」
 いくらって・・・『身体で払ってもらった』・・・なんて冗談でも言える訳が無く、思わず下を向いてしまった。頬が熱いって事は、俺はきっと赤面しているんだろう・・・。
「何、赤い顔してんだよ? 何かあったのかよ?」
「え?」
 俺は1人で密かに慌てていた。進藤の奴、何か勘ぐってるんだろうか?
進藤がしばらく、俺の顔をジーッと見ていた。それから何故か、呆れたような顔になり呟いた。
「おい、もしかして、タダであげたんじゃないよなぁ? 鷹人・・・惚れた弱みか?」
 進藤が信じられないっていうような顔をしながら言った。
「惚れた・・・とかそんなんじゃないさ・・・だって、まだ金貰うほどの絵は描けないから」
「お前、ホント馬鹿だなぁ・・・芸能人なんて金いっぱい持ってんだからさ、沢山もらわなきゃ。お前の絵なら、金貰ったって全然問題ないと思うんだけど? まったく、仕方ねー奴だな・・鷹人は」
「うーん・・」
 横では進藤がまだブツブツ言っていた。
「俺を通せば確実に金を貰ってやったのに・・」なんて相変わらずマネージャー気取りだった。

 こいつに俺の気持ち話したら、何て言われるだろう? 『そういうのもあるよな』って言ってくれるんだろうか? それとも・・・



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テーマ:BL小説 - ジャンル:小説・文学

出会わなければ 26
 目が覚めると、窓の外は薄暗くなり始めていた。シマッタ・・・学校行けなかった。
疲れきって眠っていた理由を考えて、頬が熱くなってきた。あれからシュンは仕事だったはず・・・
シュンは、大丈夫だったのだろうか・・・?

 ボンヤリとシュンの事を考えていた俺は、時計を見て慌ててベッドから抜け出した。
今日はバイトがある日だ。せめてバイトだけでも行かなくちゃ・・・。

 シャワーを浴びた後、バイトに行こうと思い携帯を手に取り、メールのチャックをした。
学校の友人からのメールに混じって、シュンからのメールが来ている事に気がついた。
着信時間を見ると、俺の部屋から帰って、1時間も経っていなかった。

 −絵は、俺の部屋に飾ったよ。有り難う。 シュン−

 内容は短かったけれど、シュンがメールを送ってくれた事が嬉しかった。
出かける時間だったので、玄関に向いながら、急いでメールを送った。

 −喜んでもらえて嬉しいです。−

送信して、家を出ようとすると、すぐに返信メールが来た。

 −寝てたの? メール遅すぎだよ! 俺は身体が痛いし、眠いぞ! 絵の代金身体で払ったんだからな・・・−

 内容がちょっとドッキリなんだけど、おかしくて笑ってしまった。シュンって・・・なんだか子供みたいだ。いや、メールの内容ではなくて、まるで拗ねてるみたいで・・・。俺からの返信メールが来なくて、拗ねる訳無いんだけど・・・

 マンションから出ると、バイト先に向って歩きながら、メールを続けた。

 −シュンさんが仕事してたと思われる間、俺は夢の中でした−
 −アホ・・・ずるいぞ鷹人−

 すぐ反応が返って来るシュンからのメール・・・嬉しくてドキドキした。

 −ごめんなさい、シュンさん−
 −『さん』はいらない。シュンで良いってば−
 −シュン・・・仕事頑張って。俺は、これからバイトです−
 −お前も、絵頑張れ−

 俺、やっぱりシュンが好きだと思った。可愛いシュン、俺のものではないし、俺のものにはならないれど・・・。



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テーマ:BL小説 - ジャンル:小説・文学

出会わなければ 25
「・・・早く行かなくちゃ・・・」
 タオルで身体を拭きながらシュンが風呂場から出てきた。
「あの、良かったら俺の服使いますか?」
「・・・ありがとう。でも、1回家に帰ってから仕事行くから大丈夫だよ」
 シュンの大事な人が待っている『家』の事を思い出し、ちょっと複雑な気持ちになった。だけど、シュンがすっかり落ち着きを取り戻しているようだったので良かったって思った。

「ねぇ、鷹人」
 服を着替え、もう一度頭を拭きながら、シュンが俺を呼んだ。
「何ですか?」
 俺は、今目の前に居るシュンの事を忘れないようにって、ジッとその姿を見つめていた。
「鷹人の描いた絵って、俺と君なんだろ?」
 視線が絡み合って、顔が一気に熱くなる。
「・・・分かりました?」
「俺たちが初めて会った時・・・じゃない?」
 バレちゃったか・・・。
「・・・実はそうです。俺には、シュンさんが天使に見えました」
 正直に言ったら、シュンが照れたように視線をそらした。
「・・・天使なんて、そんないいもんじゃないけど・・・」悲しそうな顔をして、独り言のように呟いた。


「それじゃ、色々ありがとう」
 帰る用意を終えたシュンが、そう言って右手を出した。
「いえ・・・俺の方こそ」 シュンの右手をギュッと握った。
「今度、ライブを見においで。チケットやるから」
 玄関に向かって歩きながらシュンがそう言った。
「有り難う御座います」
 社交辞令だから・・・って自分に言い聞かせた。
「じゃ、またね」
「はい、仕事頑張って下さい」
 玄関を開けようとしたら、シュンが俺の頬にそっとキスをしてくれた。
「絵、頑張れよ」
 唇の感触が残っている頬を、指で触りながら、玄関を出て行ったシュンの後ろ姿を見つめた。

 俺は寝室に戻り、もう一度ベッドに寝転がった。酷く疲れた・・・。
何やってるんだろうなぁ、俺・・・。考えなし起こした行動に、自分自身が振り回されている感じだ・・・。

 シュンの、少し悲しそうな笑顔を思い出しているうちに、俺は、いつの間にか眠ってしまっていたようだった。


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出会わなければ 24
「俺だったら、そんな酷い事言わなかったのに。俺だったら、シュンさんを泣かせなかったのに。シュンさんの傍にずっと居られたのに」
 俺は悔しかった。どんなに拒絶されてもずっとシュンの心を占めていたそいつ・・・。きっと俺はそいつを抜かす事は出来ないんだ・・・。
「・・・本当に・・・あの時恋した相手が、鷹人だったら良かったのに・・・」
 シュンが小さな声でそう言って、今にも泣き出しそうな顔をしながら、俺の胸に顔を埋めた。
「あなたを幸せにしてあげたかった・・・」
 シュンの身体が震えていた。
「ありがとう・・・鷹人の気持ち、嬉しいよ・・・でも」
「分かってます、シュンさん。貴方の特別な人にはなれないって・・・」
「ごめん」
「でも・・・それでも、もし許してもらえるなら、貴方の友人として近くに居させて下さい・・」
 シュンの頬を撫でながらそう言った。何だか、自分でも子供っぽい独占欲みたいに思えたのだけど、それでもどうにかしてシュンの近くに居たかった。
「え・・・?」
 シュンが顔を上げ、驚いたような顔をして俺を見た。
「俺、貴方が好きです。でも、恋人になりたいとか、抱き合いたいとか、そういう事抜きで、貴方と付き合っていきたいって・・・」
 本当の俺はどう思っているんだろう? 自分でもよく分からなかった。でも、多分・・・心の底には、もしかしたら・・・なんて気持ちもあるんじゃないだろうか・・・
「ホント? こんなズルイ俺でもいいの?」
 微かに目に涙を溜めながら、シュンが俺を見つめた。
 ズルイのは、俺なのかもしれない。イヤ・・・もしかしたら、お互いに勝手な思い入れがあって傍に居たいと思ってるのかもしれない。
だけど、それでも良い・・・シュンと繋がりを持っていたかった。
「いいですよ。・・・だって、友達なんですから・・・」
 ただの友達・・・昨日の事は、俺のただの妄想でしか無いんだ。俺は、自分に言い聞かせた。
「ありがとう鷹人」
 シュンが嬉しそうな顔をした。
「良かった。俺、嬉しいです。もう貴方を困らせるような事言いませんから。ちゃんと普通の友人でいいですから・・・」
 そう言ったのに、俺たちは、どちらからとも無く唇を合わせていた。
「シャワー借りるね・・・仕事・・・行かなくちゃ」
 俺を見つめながらシュンがそう言った。

 現実に戻され、シュンにも俺にもそれぞれの世界がある事を思い出し、俺はホンノ少し胸が痛かった。



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テーマ:BL小説 - ジャンル:小説・文学

出会わなければ 23
 しばらくして、英明はバンドを抜けてしまった。健二達には、親からどうしても辞めろと言われたと話していたが、俺には分かってた。俺と居たくないから。俺から離れたいから。
その後、健二の友達がバンドに入り、俺はバンド活動はそのまま続けた。あいつとの夢だったから、虚しくなる時もあったけれど、他にのめり込めるものが無かったから、がむしゃらに頑張った。
 あいつとは、あの日以来話をしなかった。あいつが俺を避けたんだ。英明がバンドを辞めたのも、俺たちが喧嘩したのが理由だろうと言われた。俺も、英明も否定したけど、信じてもらえなかったと思う。あれだけ一緒に居たのに、傍にも寄らなくなったから。
 喧嘩だったらどんなに良かっただろう。「ごめん」って謝れば、元に戻る事が出来るから。

 英明に拒絶されてしまったけれど、俺は、それでもあいつの事を嫌いになれなかった。嫌いになれたら、気持ちが楽になったはずなのに・・・。もしかしたら、また俺を見つめてくれる日が来るんじゃないか? って思う気持ちがどこかにあった。だって、あんなに「愛してる」って言ってくれたんだから。
 でも、結局、そんな日は来ないまま卒業式を迎えてしまった。
 最後の日、英明は俺を呼び出して、一言だけ言ってくれた。
「傷つけて、ごめん」
 悲しかった。「もういいよ」って言葉しか出てこなかった。
それから、俺を見つめながら「さよなら」って言って、彼女の所に行ってしまった。俺なんかにちっとも似てない、ごく普通の女の子。

 あの日、抱き合おうとしなかったら、俺たちの関係はもう少し違ってたかもしれない。もう少しお互いに大人になってたら・・・いや、結局は同じだったのだろう。英明は、俺に惚れてたのではなく、俺の容姿に惚れてただけなんだ。
 そう思っても、あの優しい英明を思い出すと嫌いにはなれなかった。


*************************


 『もういい!』って言いたかった。そんな話、俺は聞きたくなかった。シュンの好きだった人の話も、その人に傷つけられたって事も・・・。
 話し終わった後、シュンは俯いたままだった。俺はそんなシュンを見ているのが嫌で、シュンの身体を抱きしめた。
「もう、ずっと前の事だけどね。でも、今でも時々夢に見るんだ・・・。英明に抱かれる夢。夢の中のあいつは俺を拒絶なんかしなかった」
「・・・」
「鷹人に初めて会ったときビックリした。鷹人があいつに似てたから。背の高い所も、身体つきも、やさしそうな瞳も・・・。ごめん・・・俺、鷹人の中に英明を求めていたんだ・・・」
 そうだったのか・・・。シュンが時々見せていた、寂しげな表情の意味がはっきりした。シュンは俺の中にそいつを探して・・・だから俺に抱かれた・・・ただ、それだけなんだ・・・




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お知らせ
出会わなければ 22
 それから、他のメンバーには秘密で、俺と英明は付き合い始めた。とは言え、頻繁にバンドの練習をしていたから、デートをする訳でもなかったのだけど。
 誰も居ない道でこっそり手を繋いで歩いたりとか、2人っきりの時に軽いキスをするくらいだった。
でも、俺は英明と居られるだけで嬉しかったし、幸せだったから、バンドの練習にもますます力が入った。練習中は喧嘩もしたけれど、それは俺たち皆が真剣だっていう証拠だった。

「俺、時々思うんだよ。バンドで成功しなかったら、親父の仕事継がなきゃならないだろ?また、一から勉強し直しなんだよな」
 英明が時々、不安そうにそう言う事があった。でも、俺は絶対プロになろうって思ってたから、いつも英明を励ました。
 「大丈夫だよ英明、俺達、絶対プロになるんだ。一緒に頑張ろうな」
 俺は、英明の傍に居れば、何も怖くないって思っていた。あいつとなら、夢が叶うって。
 でも、もし、夢が叶わなくても、俺は英明の傍にいようと決めていた。あいつの傍でずっと・・って。

 ある日曜日、他のメンバーの都合で珍しく練習が無かった。
だから、誘われるままに、英明の家に遊びに行った。
 英明の家に行くのは、その日が初めてだった。
「お邪魔します」
「あー、今日両親出かけてるんだ」
「そうなんだ・・・」
 英明の部屋で色んなバンドのCDを聞いたり、ライブのビデオを見たりした。
「あんな風に沢山のファンの前で思いっきり演奏出来たら、すごく楽しいだろうな・・・」
 そう言って英明の方を向くと、急にあいつが俺の身体を抱きしめた。
その頃、まだキスしかしていなかった。時間も無かったし、場所も無かったし、そんなチャンスもなかったから。でも、親が居ないって聞いてから、キスの先があるんじゃないかって思っていた。
「瞬・・・愛してる」
 キスしてくれる時、英明は、いつも「愛してる」って言ってくれた。
「俺もだよ、英明。一緒にプロになろうな」
 それから、どちらからとも無くキスをした。そして、あいつの手が俺のシャツの中にすべり込んできた。
「英明・・・愛してる」
 キスを止め、お互いに剥ぎ取るように服を脱がせあった。

 英明の引き締まった身体を見て、自分の貧弱な身体を恥かしく思っていると、英明の食い入るような視線に気がついた。
「・・・瞬・・・」悲しそうな顔をして、俺を見つめている。
「どうしたのさ?英明・・・」不安になって聞いてみた。
「・・・」
 暫くすると、英明が眉間にシワを寄せてから、俺を見つめていた目を逸らした。
「英明?」
「ごめん・・・瞬」
「何が?」
「ごめん。やっぱりダメだ」
「え?」
「お前を抱けない」
「・・・どうして?」
「やっぱり、男同士なんてダメだよ・・・抱けない・・・」
 そう言って、英明が後ろを向いてしまった。

 俺はショックで言葉を失った。いつもいつも愛してるって言ってくれた英明が、俺を抱けないって、それも、俺が男だからって・・・。そんなの前から分かってた事じゃないか。それでも愛してくれていると思っていたのに。

その日、どうやって家に帰ったか良く覚えてない。あの後、英明とどんな話をしたかも。ただ悲しくて辛くて、消えてしまいたかった。




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出会わなければ 21
「帰らなくちゃ・・・。悪いけど、シャワー貸してくれる?」
「はい・・・」
 俺は慌ててベッドから出ると、風呂のスイッチを入れ、脱衣所にバスタオルを用意した。
それから、ベッドの所に戻ると、俺はもう一度シュンに謝った。
「ごめんなさい」
「どうして?」
「さっきの人・・・シュンさんの特別な人なんですよね」
「・・・あぁ・・・俺の妻なんだ」
「え?」
 一瞬考えてから、シマッタと思った。
 ・・・シュンは結婚していたんだ。恋人ではなく、奥さんがいたんだ。それなのに俺ったら・・・シュンの一番になんて、なれるわけないじゃないか。
「すみません、奥さんを裏切るような事をさせてしまって。俺、シュンさんが・・・あの」
「いいんだよ、鷹人。君は悪くない。ちゃんと俺に、帰るように言ったじゃない。俺が悪いんだ」
「いえ、シュンさんは・・・俺に同情して・・・」
「違うんだ、ごめん、俺が悪いんだ。鷹人が・・・鷹人が似ていたから・・・」

 それからシュンは自分の事を話し始めた。それは、彼が奥さんに出会うずっと前の話・・・。でも、それも、俺にとっては辛い事実だった。



 ◆  ◆  ◆(シュンの高校時代の出来事)◆  ◆  ◆

「瞬(しゅん)今日は練習だろ? 健二(けんじ)も亮(あきら)も、もうスタジオに着いてるって」
「分かってるよ英明(ひであき)・・・あーあ。せっかく2人で居られたのになぁ」
「仕方ないだろ、俺たちの夢の為だから・・・」
 毎月第2土曜日は、健二の知り合いの貸しスタジオで練習だ。
俺は、集合時間のちょっと前に英明の家に寄り、束の間の恋人気分。と、言っても二人はまだキスしかしていない仲だった・・・。

 俺、澤井瞬(さわいしゅん)は、高校で友人一緒にとバンドを始めた。夢はもちろんメジャーデビュー。
その頃、放課後はいつもメンバー4人で、将来の事を話しながら、練習に励んでいた。
 俺が頑張れたのは、親友の英明が居たから。あいつは4人の中で1番真剣だった。俺を含めた後の3人だって本気でやってたけれど、親の家業を継がなければならない立場なのに、音楽の道に進もうとした英明が、親にもらったチャンスは1度だったから。
 そんな親友、英明の事が友達以上に気になりだしたのは、バンドを始めて半年くらいたった頃だ。

 英明に勧められて、ギターを始めて1ヶ月、思うように上達しない俺を見かねて、英明が家に教えに来てくれたある日・・・。
「指が痛くてさ、弦押さえるの辛いんだけど?」
「それってさぁ、力が入りすぎてんだよ。こんな感じでいいんだぜ」
 英明が俺の後ろに回って、背中から腕をまわし、ギターの弦を押さえている俺の手に自分の手を添えて軽く弦を押さえてみてくれた。
「ほら、イイ音出るだろ?」
「そうだね・・・」
 俺はその時、胸が痛いほどドキドキしていた。俺の背よりも10cm以上長身の英明に、後ろから抱きしめられているような感じがしたから。
「分かった? 瞬」英明が、後ろから俺の顔を覗き込んだ。
「え・・・うん、まぁ」
「何だか? 赤い顔してない?」俺の頬をツンと触った。
「べ・・・別に」俺は、焦って顔をプイッと横に向けた。
「そうかな?」
 英明が俺の前に回ってきて、両肩に手を置くと顔を斜めにして俺の顔を覗き込んだ。
「瞬、俺さ・・・」
「な、なんだよ」
「俺、お前の事好きみたい」
 そう言って、俺の唇に軽く触れるだけのキスした。優しい瞳が俺を見つめていた。俺の答えはもちろんあいつと同じだった。
「俺も。英明が好き」



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テーマ:BL小説 - ジャンル:小説・文学

出会わなければ 20
 目が覚めるとシュンが俺の事を見つめていた。
昨日の夜のことを思い出して、急に顔が熱くなった。
「おはよう。鷹人」
 シュンが俺の目の前で微笑んでいる・・・夢じゃなかったんだよな・・・。
 俺は、酒の勢いを借りてシュンを抱いてしまった事を、少し後悔し始めていた。
「おはようございます・・・あの、すみませんでした・・・」
 俺が謝ったら、シュンは少し考え込んでしまった。
「・・・良いんだ・・・鷹人の純粋な気持ち、嬉しかったから・・・」
 そう言ってくれたけど、シュンは、昨日の夜と同じように、戸惑った顔をして俯いた。
「あの、キスしてもいいですか?」
 これで最後にしよう。これで、ちゃんと諦めるから・・・。心の中で、自分に言い聞かせた。
本当は、最後になんてしたくない。最後にしないようにするには、どうしたらいいんだろう?
そんなの、無理だ。バカだな・・・俺。

シュンは何も答えてくれなかった。だけど、答えの代わりに長いキスをくれた。

 キスの途中で、携帯の着メロが聞こえて来た。
聞き覚えの無い曲だからシュンの携帯だろうと思い、キスを止めシュンの身体をそっと離した。
「出ないから・・・」
 シュンがそう囁いて、俺の身体を抱きしめた。
だから俺は、自分の良いように考えてしまう。
『シュンは俺の事を好きになってくれたんだろうか?』って・・・。
しばらく鳴っていた着メロが諦めたように止まった。
ホッとしたのも束の間で、すぐにまた携帯が鳴り始めた・・・。

「シュンさん、仕事の電話かも・・・」
 心配になって、俺がそう言うと、シュンが気だるそうな足取りでベッドから下りた。

「・・・・・ごめんね、連絡しなくて」
 携帯を耳にあてたシュンが、俺に背を向けて話を始めた。明らかに声のトーンが違う。
甘くて優しい声・・・。
「あぁ、そうなんだ。絵を受け取ってから飲みに行っちゃって・・・それで、うん、そう。泊めてもらったんだよ。今日は帰るから」
 そうか・・・『今日は帰るから』って、シュンにはそういう相手が居たんだ。俺・・・どうしてそんな当たり前の事を考えなかったんだろう。
 背中を向けて話していたシュンが、クルッとこちらを向いた。
「じゃあね、うん・・・分かったよ」
 シュンが俺の事をジッと見つめながら携帯を切った。
俺は何も言えなくて、そのままシュンを見つめ返すだけだった。




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出会わなければ 19
「シュンさん・・・生まれ変わったら、俺、必ず貴方を見つけます。だから・・・その時は、俺のものになってください」

 今まで人を好きになって、こんな風に自分の気持ちに振り回された事なんて、一度も無かった。
言うべきことじゃないって思っているのに、黙ってられなくて、バカみたいな一方的な想いが、俺の口をついて出てきてしまう。

「また2人とも男でも?」
 シュンが俯いたまま、困ったような顔をしていた。
「かまいません。そんな事」
 俺は、シュンの身体をギュッと抱きしめた。

「じゃあ、2人とも女だったら?」
 俺の腕の中で、シュンが俺を見上げた。
「それでも、いいです」

「俺が犬で、鷹人が人間だったら?」
 俺はシュンの髪を優しく撫でた。
「絶対見つけて、家で一緒に暮らします。一生面倒みますよ」

「俺が死にそうな年寄りで、君は若かったら?」
 シュンの手が俺の頬を撫でた。
「貴方が息を引き取るまで、傍についています」

「じゃあ、俺が人間で、鷹人が猫だったら?」
「貴方を見つけて、家に住みつきます。捨てないで下さい」
 クスッと笑ったシュンの耳元にキスをした。

「なら、俺が石ころだったら?」
 切ない瞳で、シュンが俺を見つめた。
「必ず見つけ出して、綺麗に磨いて飾っておきます」
 シュンが俺の頬を、両手で包み込んだ。
「飾っとくだけ?」
 呟くようにシュンが言った。
「じゃあ、お守りにして、いつも身に付けておきます」
 俺の唇の輪郭を、シュンが指でスッとなぞった。
「・・・君は、すごい殺し文句を言うんだね? 恋愛に慣れてるのかな・・・」
 シュンが戸惑ったような顔をして、俺を見つめていた。
「いえ・・・いつもの俺だったら、こんな事絶対言いません。ただ・・・俺、シュンさんがメチャクチャ好きなだけなんです・・・」
 こんな気持ちは初めてだ・・・こんなに苦しい想いなんて・・・。
「ありがとう・・・。でも・・・ごめん」
 それから、もう一度シュンを抱いた。そして、そのまま2人で朝を迎えた。



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テーマ:BL小説 - ジャンル:小説・文学

出会わなければ 18
 目が合うと、視線をフッと下ろし、シュンが俺の手を引いた。
「フロ場どこ?」
「・・・こっちです」
 シュンと手を繋いだままフロ場に向かった。俺は、自分の手が微かに震えているのを感じた。
あんなに大胆な事を言っておいて、俺ったら・・・。
 脱衣所で服を脱いで、浴室に入るとシュンの裸が視線に飛び込んできた。見た目は華奢だったけど、思ったよりも筋肉質で少し驚いた。そして、やっぱり男の俺と同じものが身体の真中に付いていた。当たり前だ、シュンだって男なんだから。
 そんな俺の視線に気が付いて、シュンが少し落胆した表情をした。
「ほら・・・身体見たら嫌になっただろ? 男じゃんやっぱ・・・って」
「そんな事・・・」
 そうじゃない・・・ただ、シュンが男だって、はっきり認識しただけ。そして、妄想の中のシュンではなく、本物のシュンを抱けるんだって・・・。
「いいよ、別に。慣れてるから。何度かあったから、こういう事。『愛してる』って散々言ってたくせに『やっぱり男は抱けない』とかね。いったい俺の何を愛してたんだよ?って感じだよね。・・・鷹人くん、止めるなら今のうちだよ」
 冷静に言ってるようだけど、何だかシュンの瞳が悲しそうで、俺はムキになってしまった。
「やめません。俺は違います・・」
 いったい何人の男とこんな場面をむかえていたのだろう? 慣れているなんて正直、ショックだった。
 だけど、ホンの少し希望を持っている自分が居た。
もしかしたら、シュンは同性とでも付き合える人なのかもしれない・・・。
「俺は違いますから・・」
 シャワーの後、ベッドに行って抱き合った。 
抱きあってるうちに『鷹人君』が『鷹人』になった。
だから、俺、勘違いしそうになってしまう・・・


「シュンさん・・ありがとう」
「え?」
 ベッドの中で、シュンを腕に抱きしめ、目を見つめながらそう言った。
『俺の勝手な想いを聞いてくれて、ありがとう』
 心の中で呟いた。言葉に出すと、シュンが消えてしまいそうだから。
「鷹人・・・」
 腕の中で甘えるように俺を見つめながら俺の名前を呼んでくれた。
夢のようだ。もしかしたら、夢なのかも知れない・・・
「シュンさん、あの、俺・・」
 夢じゃ無かったら良いのに・・・。夢だとしたら、永遠に続く夢であれば・・・
「何? 鷹人?」
「あ、あの俺・・・俺、頑張ったらシュンさんの1番特別な人になれますか?」
 シュンの瞳が微かに揺れた。ほんの一瞬嬉しそうに輝いたように見えた。でも、その輝きはすぐに消え、その瞳が悲しそうな色に変わっていた。
「ゴメン。鷹人。君の特別にはなれない・・・」
 シュンが、俺の胸に顔を埋めるようにして呟いた。
分かってた。分かりきっている事だ。でも、言葉にされるとやっぱりショックで・・・。
 シュンは有名芸能人、俺はただの学生、それだけだって、スキャンダルだ、ましてや俺もシュンも男だし・・・。やっぱり、今日の出来事は全て夢なんだ。そう思わなくちゃ・・・。
シュンは俺の胸に顔を埋めたまま、俺の身体に腕を回した。
「ゴメンな」
 シュンが謝る必要なんて、全然無いんだ。
「いいんです。分かってた事だから・・・」
「・・・・・・」

 しばらく2人とも黙ったままで抱きしめ合っていた。シュンの身体は暖かくて、俺はちょっと切なくなった。
 分かってたけど、でも抱いてしまったら、シュンが欲しくなった。俺だけのものにしたくなった。だけど、それは勝手な俺の想いでしかないんだ・・・。



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出会わなければ 17
 俺は、すぐには返事が出来なかった。
「やっぱり出来ないだろ?」
 そう言うと、シュンが手を離し、俺から離れていった。
「じゃあね。鷹人君」
 振り向いたら、シュンが玄関の方に向かって歩き出していた。
ダメだ・・・このままじゃ、もう2度とシュンに会えないかもしれない・・・。
やっぱり嫌だ、そんなの・・・。
 シュンが男だって事は最初から分かってた事、それでも俺は、シュンを抱きたいんだ。

「待って・・・シュンさん。帰らないで」
 シュンを追いかけ、背中から抱きしめた。
「・・・」
「俺・・・貴方が大好きだから」
 シュンの耳元でそう囁くと、シュンが、くすぐったそうに肩をすくめた。
「『大好き・・・』か、かわいいね。でも、こういう時は『愛してる』じゃないの?」
 シュンが振り向いてクスッと笑った。
「・・・そうですよね・・・でも、あの、俺、『愛する』って気持ち、よく分からないんです。ただ、シュンさんは、俺の中の1番だって事――」
 瞳を見つめてそう告白した。大きな目が俺をジッと見つめていた。
子供みたいだろうか? 『大好き』なんて? 探るようにシュンの表情を見ていた。
シュンは、俺を見て何か言おうとした。でも、その言葉を飲み込むように首を振った。

「君の1番か・・・いいね、そういう言い方も。でも、今の俺には・・・」
 シュンが何を言うのか、怖くて、先の言葉を遮った。分かってるさ、シュンにはきっと、恋人が居るんだろうから・・・。
「今はシュンさんの1番じゃなくてもいいから・・・それでもいいから・・・」
 俺は自分で、自分の言った言葉に驚いていた。恋人じゃない相手と肉体関係を持つなんて、俺には、考えられない事だったのに・・・。
だけど、それでも・・・先の無い関係だとしても、俺は今、シュンを手に入れてみたかった。


「ね、鷹人君、俺、シャワー浴びたいんだけど・・」
 シュンが重ねていた唇を離し、そう言った。
 誘ったのは俺だ、でも、いざとなったら、あまりの緊張に、俺はシュンを見て動けなくなってしまった。
「は、はい・・・分かりました」
 体中が緊張して、声が裏返りそうだ。
「一緒にシャワー浴びようよ」
 シュンが笑顔を浮かべ、俺にそう言った。
「えぇ? 一緒ですか?」
「そ、いいだろ? そんなにビビっててどうすんの? 君が言ったんだよ、俺を抱きたいって」
 さすが年上と言うのだろうか? それとも、こういうのに慣れているんだろうか? それってかなり複雑なんだけど・・・。
「はい・・・」
 1人で慌てている俺を見て、シュンは柔らかく微笑んだ。でも、その瞳は本当に俺を見ているのだろうか?
 

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出会わなければ 16
「ごめんなさい」
「・・・」

 戸惑った顔をしたまま、俺を見つめているシュンに、俺は、嫌われるのを覚悟で自分の気持ちを伝えてしまおうと思った。酔っていたからなのかもしれない。シュンの瞳に掴まってしまったからなのかもしれない。もう、こんな機会がないだろうって思っていたからかもしれない。


「俺、初めて会ったときからシュンさんのことが好きでした。最初、シュンさんが女の人だと思って一目惚れして・・・。でも、シュンさんが男性だって分かって失恋したはずだったのに、それでも忘れられなかったんです。バカですよね俺・・・。こんなに近づく事なんてあるはずないって思ってたから、好きになってもいいかな? って――でもヤバ過ぎですよね。すみません」
 シュンに向って頭を下げた。
 もう、本当に会えないかも知れない・・・。
「鷹人君、すごい酔ってるでしょ?」
 シュンが眉間にシワを寄せながら言った。
「酔ってます。だからこんな事言っちゃってるんです。困りますよね。俺、しつこいファンよりも性質が悪いです。・・・気持ち悪くて・・ごめんなさい」
 そう謝った俺の事を、シュンは目を逸らさず、見つめ返してくれた。
「何て言ったら良いかな・・・別に、気持ち悪くは無いよ。でも・・・君の気持ちには・・・」
 優しいシュンは、俺を傷つけないように言葉を選んでくれているのが良く分かる。それなのに、バカな俺は、シュンに酷い事をしたいって思ってる・・・。
「いいんです、分かってます・・・。お願いだから、シュンさん、今すぐに帰って下さい・・・。俺、シュンさんの事、抱きたいって思ってるんです・・・」
 自分の欲求を、言葉に出してしまったら、とても生々しくて、俺は、ますます自己嫌悪に陥ってしまう。『冗談です』って言葉も言えないぐらい、切羽詰った気持ちになっていた。

 お互い黙り込んでしまい、部屋の中には、台所から聞こえてくるヤカンの音だけが、響いていた。
「俺が台所に行ってる間に、帰ってください。お願いします。貴方にこれ以上嫌な思いさせたくないから・・貴方に嫌われたくないから」
 俺はそう言って、台所に行った。ガスを止めてから、俺はしばらく動くことが出来なかった。
何であんな事してしまったんだろう? これじゃ、もう2度とシュンの顔見られないかもしれないじゃないか・・・。俺は、俯いたまま、自分のとった行動に後悔し、どっぷりと落ち込んだ。

「鷹人君?」
 絶対に帰ってしまう筈だと思っていたシュンの声が、すぐ後ろで聞こえた。驚いて振り向こうとした時、シュンの両腕が、スッと俺の腰の辺りに絡み付いてきた。
「いいよ。抱いても」
「え・・・」
 シュンが俺の身体を、背中からギュッと抱きしめていた。
「鷹人君は、俺が男だって分かってても抱けるのかな?」

 そんな事考えても無かった・・・。だって、こんな状況になるなんて、思ってもいなかったし。でも、そうだ・・・俺の妄想の中のシュンは、顔は彼のものだったけど、見たことの無い裸の姿は、女の身体だった。
だけど、実際のシュンは男なのだ。
「・・・」
「俺の身体は、君と同じ男の身体なんだよ・・・それでも君は、俺の事抱けるの?」
 シュンの悲しげな声が聞こえた。


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出会わなければ 15
「え、その・・・良いですけど、部屋、散らかってますよ」
 服が脱ぎ散らかしてあったような気がするし、絵の道具も・・・。
「良いって、気にしないから。ちょっと酔いをさましたいし、絵も見てみたいから」
「あ、そうですよね。まだ、シュンさんにお見せしていなかったんだ・・・。でも、あの、すみません、ちょっとだけ待ってください」
 玄関の傍に置いておいた絵を、両手で抱えると、慌てて部屋の中に入り、ソファーの近くに立て掛けた。
それから、台所に行き、やかんに水を入れて火にかけ、カップを出し、コーヒーを入れる準備をして、もう一度居間に戻り、脱ぎっぱなしの洋服を集めると、洗面所に行って洗濯機の中に放り込んだ。

 居間に広がっていた荷物を見えないところに片付けると、急いで玄関に戻ってシュンを招き入れた。
「それじゃあ、お邪魔します」
「ど、どうぞ」
 店の中では、個室だったとは言え、ドアの外には他のお客や、店員が居る所だった。
でも、ここは、俺の部屋・・・それに、本当にシュンと俺の2人きりだ・・・。そう思ったら緊張して、口の中がカラカラに乾いてしまった。
「今、絵を出しますから、そこに座っていて下さい」
 シュンにソファーを進めて、俺は、絵を包みから出した。


「やっぱりいいや。鷹人君の絵」
 俺が手渡した絵を、じっくり見つめてから、シュンがそう言ってくれた。あぁ、良かった・・・
「大事にするよ、ありがとう」
 シュンが華のように笑った。
「良かったです、気に入って頂けて」
 俺は、照れくさくて、俯いて頭をかいた。
「あ、そうだ。これ受け取って」
 絵をソファーの横に置くと、シュンが鞄の中から、封筒のようなもの出をして、俺に手渡そうとした。
「え? あの・・・」
「これさ、絵の道具とか買う足しにしてよ」
「そんな、良いですよ。もう、奢ってもらったし・・」
 お金なんて受け取れない・・・そう思って断った。シュンと一緒に居られたし、ご馳走してもらっただけでも俺にとっては充分なのに・・・。
「そういう訳にはいかないよ。貰ってくれよ」
 シュンが、俺の手を取って、封筒を押し付けた。
「でも・・お金なんて頂けないですよ」
 まだ、お金をもらうほどの絵なんて描けないんだから・・・。
 しばらく俺達の間を、封筒が行ったり来たりしてしまった。

「それなら・・・他に何か欲しいものでもある?」
 シュンが困ったように微笑みながら、俺の事を見つめた。その瞳を見ていたら、まるで魔法にかかったかのように、とんでもない事を口にしてしまった。
「・・・シュンの唇が欲しい」
 酔ったせいもあるんだろう・・・、俺は無意識のうちにそう言って、シュンの身体を抱きしめ、シュンの唇に自分の唇を重ねていた。
 思った通り、シュンは俺の腕の中にピッタリサイズだ。この感じ・・・夢にまで見ていた・・・。
幸せな気持ちに酔ったまま、もう一度ギュッと抱きしめてから唇を離した。

 次の瞬間、困惑したシュンの顔が目に入り、俺はとても慌てた。どうしよう? これじゃあ、シュンに嫌われてしまう。
 何やってんだよ、俺・・・。



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出会わなければ 14
「そろそろ絵を取って来ます」
「うん・・・そうだねぇ」
 酔ってきったシュンは、少し舌足らずな話し方になって、そこが又、可愛らしかった。俺と同じ男だとは、全然思えない・・・。
「じゃあ、待っててもらえますか? すぐ行ってきますから」
 そう言って席を立って行こうとすると、「俺も行くよ」と言って、俺の腕をパッと掴んだ。
「え? あ、そんな、ワザワザ良いですよ」
 芸能人のシュンを歩き回らせるは申し訳ないんじゃないか?と思って、そう言った。
「だって俺、1人で待ってるのって、あんまり好きじゃないんだよ」
 シュンが、照れくさそうに笑った。そんな顔されたら俺、困るんだけど・・・。
「分かりました」
 俺は、ドキドキして、視線を合わせられなかった。
「じゃ、行こう」
 俺の腕を掴んでいた手をスッと離して、シュンが顔を輝かせた。本当に参った・・・って感じだ。

 会計を済ませて、店を出ると、俺のマンションに向って歩き出した。
シュンに「ご馳走様」ってお礼を言ったら「また、行こうな」なんて言ってくれて・・・メチャクチャ嬉しかった。例えそれが、社交辞令であったとしても・・・(あ、本当は、社交辞令じゃ無い方が良いけど・・・)

 隣に並んでいるシュンの方を見たら、俺の肩ぐらいの位置にシュンの頭があった。肩を抱いたらどんな感じなんだろう? こっそりそんな事を考えて、一人でドキドキしていた。まさか、そんな事、出来るわけがないけれど・・・。
 歩いて数分の距離にある俺のマンションには あっという間に、到着してしまった。もう少し一緒に歩いていたかったのに・・・。
「ここの5階です」
 俺の住んでいるのは、小さい頃から父親と一緒に住んでいた5階建てのマンションだ。

 父親が海外転勤になってからは、そこに1人で暮らしているが、父親が居なくなってからは、少し広すぎると思っていた。だけど、次第に色々な物が増えて、父親の部屋だった所は、すっかり倉庫になってる有様だ。

 エレベーターに乗り、部屋の前までシュンを案内した。
「今、すぐ取ってきますから」
 『部屋に入ってもらう』なんて全然考えもしなかったから、シュンに、玄関の所に待っていてもらって、絵を持ってこようと思った。
「ね、コーヒーでも飲ませてよ」
 シュンが俺の腕を掴んでそう言った。



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出会わなければ 13
「でも、鷹人君って全然そんなんじゃないだろ? アドレス教えてやったのに、絵が出来るまで一回もメール送ってこないしね」
 ――メールを送った方が良かったのかな?――なんて一瞬勘違いしてしまいそうな事を、シュンが言った。
「え、まぁ・・・」
 ・・・シュンは俺の事、どんな奴だと思っているんだろう? 
 メールを送らなかったのは、俺がマメにメールをする人間じゃなくて、用事も無いのに、まさかメールを送るわけには行かないだろう・・・って思っていたからなわけで・・・。
 それに、本当は俺、普通のファンよりも、性質が悪いかもしれない。シュンのこと、マジで好きになり始めているんだから・・・。
こんな風に飲みに誘われたら、俺、バカみたいに期待しちゃいそうだよ。
 だけど、どう考えても、シュンが男の俺を、深い意味があって誘うなんて事、ありえないんだよな・・。


 それから、酒を飲みながら2人で色々な話をした。高校の頃に初めてバンドを組んだとか、影響されたミュージシャンの事とか、今1番楽しいのが、ファンの反応が直に分かるライブだって事だとか。カラオケでは自分の作った曲は、恥かしいから歌わないとか・・・。それから、これからのバンド活動についてとか、自分の進みたい方向性についてとか・・・。シュンの事を色々知ることが出来た。
 そして、自分の信念を貫き通す事の大変さとかも語ってくれた。若いのにすごいなぁって思った。
 それから、俺の話も色々聞いてくれた。バイト先での面白い話とか、学校の事、絵の事、これからの夢・・・質問しながら、熱心に聞いてくれた。
 そして、メチャクチャ嬉しい事に、いつか俺にSabelのアルバムジャケットを描いて欲しと言ってくれた。俺もそう言う仕事が出来るようになったら、どんなに良いだろうと思った。まだまだ、勉強中の身だけど、いつか、本当にシュンの為に何か役立てるようになりたい・・・。

 酒が進むに連れて、俺を見つめるシュンの瞳がますます色気を増し、俺は平常心を失いそうだった。そして・・・シュンの瞳を見つめながら、自分が考えてる事の非常識さに戸惑ってしまった。 ――シュンを自分のものに出来たら――。
 俺は、頭を振って、慌てて気持ちを切り換え、時計を見つめる。いつの間にか、11時をまわっていた。そんなに時間が経っていたなんて、全然気が付かないくらい、楽しかった。


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出会わなければ 12
 シュンが連れて行ってくれた店は、俺のバイト先から歩いて5分もかからない所にあった。
かなり大人の雰囲気の店構えだったので、思いっきりラフな服装で来てしまった俺は、こんな格好で店に入れてもらえるのだろうか? と戸惑ってしまい、入口の所で立ち止まった。
シュンと一緒に居るだけでも緊張するのに・・・俺は、こっそり溜息をついた。
 だけど、シュンに促され中に入ってみたら、それ程気後れするような感じじゃなくて一気にホッとして、肩の力が抜けた。

 店の人がシュンに笑顔で挨拶をし、2人は暫く楽しそうに話をしていた。その雰囲気からすると、シュンは、この店によく来ているんだろう。俺のバイト先に来る時って、ここで飲んだ後だったりするのかもしれない。そんな風に考えながら、目の前の2人を観察していた。
 それからすぐに、ホールの係りの人が来て、俺とシュンは個室に案内された。

 こぢんまりとした部屋に、シュンと2人きり・・・。俺は、今から数時間の間、シュンを独占して居られる幸せを噛み締めた。
「俺、一応有名人だからね、ゆっくり飲みたい時はここに来るんだ」
 シュンがそう言いながら、俺のグラスにビールを注いでくれた。
「落ち着いた感じで良い店ですよね」
 俺がそう言ったら、シュンが「良かった」って言って微笑んだ。
「俺のお気に入りの店なんだ」

 グラスをあわせ乾杯してから、ビールを咽に流し込んでいるシュンの顔を盗み見た。
 何をやってても絵になるよなぁ・・・たとえ、芸能人にならなかったとしても、どこに行っても、人から注目されてしまうんじゃないだろう。
 シュンが俺の視線に気付き「何?」って言う顔をして、小首を傾げた。ヤバイ・・・目が離せなくなってしまいそうだ。

「そうそう、これね、一応変装してるつもり」
 『度が入ってないんだ』って言いながら、シュンがメガネを外した。
「シュンさんは芸能人なんですものね・・・」
 シュンの綺麗な目に、思わず見とれてしまって、慌てて会話を続けた。
「芸能人か・・・。でも『シャベル』じゃないからな」
 ちょっと意地悪な顔をしながら、シュンがそう言った。あーもう、恥かしすぎるよ俺。
「・・・済みません。俺、芸能人とかって、全然知らないから」
「別にいいよ。それだから、鷹人君は良いんだよ」
「え?」
 どういう意味で言ってるのか分からなくて、ちょっとドキドキしてしまった。男の俺相手に、どういう意味も何も無いんだけど、俺はシュンに憧れちゃっているわけだから・・・。
「時々さ、俺のファンだからって、プライベートの時までしつこく追まわす人とか居るんだけど、そういうのって困るんだよね。ファンだから、あんまり邪険にも扱えないし・・・。それとか、仕事でちょっと話しただけで、携帯のアドレス押し付けてきて、メールしないでいると『何でメールくれないのよ』なんて事務所に文句言ってくる人も居るし・・・。それから、俺の友達に俺のアドレス聞いて、勝手にメール送ってきたりする人とかね。いるんだよ色々。」
「大変ですね・・・」
 シュンに夢中になってしまうって気持ちは、全然分からない訳でもないけど・・・でも、大好きな人を困らせるのは、いけないよな・・・って、その時は、まだ、冷静な判断が出来る自分だった。

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出会わなければ 11
「ヤベ・・・」
 慌てて靴を履き、急いで待ち合わせの場所に向かった。息を切らして走っていくと、シュンが待ち合わせの場所で立っているのが見えた。メガネを掛けているけれど、シュンに間違いない。

「すみません。遅くなってしまって」
 息を整えながら言った。
「こんばんは、鷹人君。来てくれて良かったよ。なんか、待ち合わせってさ、相手が来るかどうかって思って、結構ドキドキするよな」
 シュンが、照れくさそうにそう言った。
「来ないわけ無いじゃないですか。俺、シュンさんに誘ってもらえて、メチャクチャ感動してるんですから」
 少し興奮気味にそう言ったら、シュンが嬉しそうに口元を綻ばせた。
「そう? そんなに喜んでもらえるなんて・・・俺も誘った甲斐があるな」
 シュンがとても綺麗に笑った。・・・その笑顔が、俺の心臓を直撃した。ヤラレタ・・・って感じ。俺は暫く、バカみたいにシュンの笑顔を見つめていた。
「どうした? 鷹人君」
 固まってしまった俺の事を心配して、シュンが声を掛けた。

「あ、済みません何でもないです。そうだ、絵の事なんですけど、俺の家ここから近いんで、家に置いてきてあるんですよ。帰る間際に取りに行くんでもいいですか? 店に持ってきて邪魔になっちゃうといけないしって思って・・・」
「そう、いいよ。後でのお楽しみだね」
 低音の声でゆっくりと話すシュン・・・その声にも聞き惚れてしまう。ホントに良い声だよね・・・。
「気に入ってもらえると嬉しいんですけど。ダメだったら、もう一度描きますから」
「OK。じゃ、とにかく飲みに行こうか」
「はい」
 嬉しくて、満面の笑みを浮かべてしまう。憧れのスターが・・・って言うか、大好きなシュンが俺の隣に居る。夢ならいつまでも覚めないで欲しい・・・。

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出会わなければ 10
 学校の授業が終わると、友人の誘いも断って、俺は急いで家に帰えり、課題の絵を描き始めた。
 だんだん調子が出てきたと思った所で、セットしておいたアラームの音に気が付き、少し迷っていた。この調子で行くと、今日中には課題が終わりそうだ・・・。
友達との約束だったら、迷わずキャンセルする所なのだけど、憧れのシュンに会えるんだ、つづきは帰ってから寝ないでやれば良いさ・・・。そう思い、そそくさと出かける用意を始めた。


 現在、午後6時40分、待ち合わせの時間は7時。店までは、家から10分もかからないけれど、家にいても落ち着かないので、少し早めに出かける事にした。
 携帯をポケットに入れて、部屋の電気を消し、玄関に向おうとすると、居間にある電話が鳴り出した。まだ少し早めだったから、大丈夫だろうと思い電話に出る事にした。
 受話器を耳にあてると、仕事でアメリカに行っている父親の声が聞こえてきた。

「やぁ、鷹人。元気にしてたか?」
「あぁ。元気だよ。とうさんは?」
「もちろん元気だ」
「何か用? ちょっと出かける所なんだ」
 父親は、めったに電話をしてこないけれど、一度かけてくると、長電話になってしまう事が多いので、早く切りたいって事を最初に伝えておいた。
「そうか、分かったよ。用件だけで終わらせるから」
「うん。よろしく」

「お前、来年卒業したら、こっちに来るのか?」
 前に、アメリカに行って少し勉強したいって話したことがあるのを、覚えていてくれたんだろう。
「え・・・」
「実はな、来週から急に職場が変わる事になって、引っ越す予定なんだが、もし、お前が来るんだったら、もっと広い所を探そうと思っているんだよ」
 父親の声が少し弾んでいるような気がした。
「ごめん、父さん。俺、今の学校卒業してから、別の所でもう少し勉強してみたいと思っているんだ」
「そうか・・・」
 母親は、俺が物心ついた頃には居なかった。だから、父親は今、1人きりでアメリカに行っている。
 父親は、人付き合いの良い人で、誰とでも上手くやっていけそうな人だけど、慣れない海外での一人暮らしは、やっぱり寂しいのかもしれない。
でも、俺も、もう少しこっちで頑張ってみようと思っていた所なんだ。


  それから、お互いの近況を報告し合って、電話を切った。早く切るつもりだったのに、気が付くと、時計の針が間もなく7時を指そうとしていた。

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出会わなければ 9
 2ヶ月近くかかって、絵が出来上がった。
朝飯を食べた後、紅茶を飲みながら、もう一度キャンバスを眺めてみる。うん・・・これで良いだろう。
 思うような色が出ず、何度も塗りなおして、やっと絵全体が柔らかいイメージに仕上がった。自分では満足いってるのだけど、シュンに気に入ってもらえるかどうか、ちょっとドキドキものだ。
 でも、気に入ってもらえなかったら、もう一度他の絵を描いてもいい…それくらいに思っていた。そうしたら、まだ暫く、シュンと関わりを持ち続けられるから…なんて、不純な動機もあるんだけど。

 早速、シュンに連絡をしようと思った。マグカップをテーブルに置くと、携帯を手に取る。
顔が見える訳じゃないのに、メールを送るのさえ緊張してしまう。

 『おはようございます。お待たせしました、やっと絵が出来上がりました。いつお渡ししましょうか?  渡辺鷹人』

 シュンは仕事が忙しいだろうから、夜まで返信メールが来れば良いな、程度に思っていた。
 マグカップの横に携帯を置き、学校に行く準備をしていると、携帯がメールの受信を伝えた。
 鞄を肩に掛け、携帯を手に取ってみた。
「・・・シュンからだ・・・」

『おはよ。今日の夜時間が空いてるから、良かったら飲みに行こう。奢っやるよ。その時に受け取るよ。楽しみにしてる  澤井シュン』

 マジ? 奢ってくれるって!? シュンと2人で飲みに行けるなんて・・・夢じゃないよな?

『俺も今日は暇です!』
 ホントは学校の課題が終わってないけど、そんな事言ってる場合じゃない! シュンと飲みに行けるんだ。
『7時に、鷹人君のバイト先の前で待ってる。時間は大丈夫?』
『大丈夫です。じゃあ、7時に・・・』
 やった・・・すげー嬉しい。
 学校から帰ったら、即効で課題をやろう。楽しみがあると思えば、筆も進むってもんだ。

 あ、そうだ、あの辺で飲むのなら、俺の家からわりと近いし、絵は家に置いておいて、帰り際に取りに来る事にしよう。飲み屋に持っていって邪魔になったり、汚したりするといけないから。

 俺はその日、学校でもずっとソワソワしっぱなしだった。何の話をしようか? 服はどんなのがいいだろうか? シュンはどんな店に連れてってくれるんだろうか?
 あまりにも嬉しそうにしていたんだろう、学校の友人に「今日はデートすんだろ?」って聞かれて、一瞬焦ってしまった。
 デートじゃないけど、気分的にはデートなんだよね。

「デートじゃないよ」って答えてるけど、俺の顔は朝からずっと、嬉しくて緩みっぱなしなんだ・・・。

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出会わなければ 8
 次の日から俺は、時間があれば、シュンから頼まれた絵を描いた。
学校の課題もあったのだけど、早くシュンに渡したくて、寝る時間を惜しんで描いた。

 どんな絵を描くか、最初は少し迷ってしまい、決まるまで時間がかかった。『心が温かくなる』ってどんな感じだろう?って思って。子供の絵や、外国の街並み、それから田園風景・・・どれもありきたりに思えて、全然ピンと来なかった。
 だから、俺は、大胆にも、初めてシュンに会った時の、俺の頭の中にあるイメージを絵にしてしまおうと思った。

 大きな白い羽根を背負った天使が、薄暗い森の中で、右手を差し伸べて立っている。その天使の前には、跪いて彼の手を取る人物が・・・。木々の間からは太陽の光が、優しく2人を包み込む。
その光は、まるで2人の未来を照らしているかのようでって・・・その部分は自分の勝手な思い入れだったりするのだけど。

 で、もちろん天使はシュンで、シュンの手を握ってるのは俺。でも、顔はハッキリ描かないつもり・・・。
 ただ、シュンが希望しているような内容の絵になるのかどうか、ちょっと微妙な所なんだけど。
 まぁ、とにかく、俺にとってシュンは、まさに天使のように手の届かない存在だから、それをどうにか表現してみたかった。


 そう言えば、絵を頼まれた後も、2〜3回シュンが店に来てくれた。あの人は単にカラオケ歌いに来ているのだけど、俺に絵を頼んでるって事もあるからだろう、店に来た時は、必ず俺に声を掛けてくれる。1度なんか、俺が、カウンターを外してる時だったのに、わざわざ俺が戻ってくるのを待っていてくれた。
「絵の進み具合はどう?」
 って・・・絵のことを聞かれただけなのだけど、シュンが俺を待っていた?! なんて、その事実が、メチャクチャ嬉しかった。

 会うたびに俺は、どんどんシュンのことが好きになっていく。
俺、何してんだろうなぁ。アイドルに恋する少女みたいじゃないか??

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出会わなければ 7
「あ、絵が出来上がったら、このカウンターの後ろに保管しておくようにしますよ。シュンさんがいつでも受け取れるように、店のバイトの奴らに伝言しておきますから。俺もバイトの日多いし。また、来ますよね? って言っても、描き上がるの、来月か再来月になるかもしれないですけど」
 深呼吸をしてから、シュンの方に向き直って一気にそう言った。
「うーんと、それより、ケータイにメールくれる? これ俺のプライベートの」
 シュンが迷いも無く、カウンターに置いてあったメモ用紙に携帯番号とアドレスを書いて、俺に渡してくれた。
「え・・・良いんですか?」
 マジで聞いちゃって良いのか? まだ、知り合って間もない俺に、こんな有名人が・・・。俺が、友達とか、女の子とかに教えちゃったりするって思わないんだろうか?
「信用してるから、悪用するなよ」
 俺の心の中を覗いたかのようなコメントに、一気に汗が噴出しそうだった。
「大丈夫ですよ。こいつ、シュンさんがSabelのメンバーだって言っても分かってないんですから。『シャベルの何?』って聞かれましたよー」
 進藤のコメントに、シュンが楽しそうに笑った。まったく、進藤の奴・・・恥かしいだろ!
「シャベルかぁ・・・俺、もっと頑張らなきゃなー」
 シュンが笑いながらそう言った。
「すみません・・・でも今、CDも買って、毎日聴いてますから」
 『シャベル』なんて言って、ホントにごめんなさい。それから、実はCDは借りただけです・・・。俺は、心の中で、密かにシュンに謝った。
「なんだ、鷹人? いつの間にCD買ってたんだ。あぁ、そうか、お前、シュンさんに一目惚れしちゃったんだもんなー」
「え・・・?」
 進藤の奴がまたしても余計な事を言ってくれたおかげで、シュンが困惑した表情になってしまった。そうだよなぁ、男に惚れられたなんて言われたら、ちょっと気色悪いだろう・・・。
「いや、その、惚れたとかそういうんじゃなくて、シュンさんのファンになったって事で・・・」
 俺は、シュンに引きつった笑顔を向けてしまった。まったく・・・進藤め、後で覚えておけよ。

「・・・ありがとう」
 シュンが困ったような顔をしたまま、そう言った。
 それからすぐにシュンの連れが来て、他のバイトが部屋に案内して行った。
「じゃあ、鷹人君、よろしくね」
 階段を上がる前に、シュンが顔を覗かせて、そう言って手を振ってくれた。
「はい。分かりました」
 俺は、嬉しくって、思いっきり手を振り返した。

「うぉー!!なんだかさ、人に頼まれて描くのって、やっぱ、嬉しいよなー」
 どんな絵を描くのかが問題なんだけど・・・。
「頑張れよな。俺は、お前の絵が世の中に通用するって、ずっと思ってたんだから。これで有名人が宣伝してくれりゃ、お前の将来は安泰じゃないか」
 さっきまで、進藤に色々文句を言おうと思っていたけど、もう、そんな事、どうでも良くなってしまった。さぁ、明日から、シュンの為に絵を描くぞ!
「俺、頑張るよ」

 密かに恋してしまったあの人に、少し近づく事が出来た。
 その時は、ただ会えるだけで嬉しかった。

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出会わなければ 6
「あの、えっと・・・それで、どんな絵が良いでしょう?」
 とにかく、絵を引き受ける事になったので、シュンの希望する絵柄を聞いてみた。聞いてみた所で、俺の実力で希望通りの絵が描けるかどうかは、ちょっと自信の無いところなのだけど・・・。
「君に任せるよ。でも、そうだなぁ、そう、心が温かくなるようなのが良いかな・・・」
 心が温かくなるような絵? 一体どんな絵だろう・・・そういう抽象的な注文って、難しいんだよなぁ。
「・・・時間かかるかも知れないですけど、シュンさんの為に頑張ります」
 シュンが思っているような絵が描けるだろうか? と不安になりながらも、シュンの為に何か描きたいっていう気持ちが俺を奮い立たせた。
「俺がちゃんとこいつに描かせますから。安心して下さい」
「あのなー、進藤・・・」
 横から口を挟んだ進藤に困った顔を向けている俺を見て、シュンがクスリと笑った。


 この店に飾ってある絵は、俺が高校の頃から描きためてあった作品だ。捨てるのも、もったいないような気がして、何となく家に置きっ放しにしてあったものを、進藤が家に遊びに来た時に見つけ出した。進藤ったら、そのまま仕舞って置くのはもったいないからって、店のオーナーに直接頼んくれて、飾らせてもらっているのだ。


 それにしても、進藤の奴、すっかり俺のマネージャーにでもなったつもりなのか? 何でお前が『ちゃんと描かせますから』って言うんだよ・・・。
「いつでも良いから。楽しみにしてるよ」
 シュンが俺を真っ直ぐ見て、そう言ってくれた。俺は、それだけで、たった今思っていた進藤に対する不満さえ、瞬時に忘れてしまった。 
なんだか、すっごく嬉しい。絵を認めてもらえたような感じもするし、何と言っても、シュンと繋がりを持てたような気がするから――。
あぁ、何か俺、マジにヤバイかも。
さり気なく、用事があるフリをして後ろを向き、ドキドキする胸を押さえた。

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出会わなければ 5
 数日後、バイトに入っている時に、久しぶりにシュンが歌いにやってきた。
「あ・・・いらっしゃいませ・・・」
 最近、夜の妄想相手がシュンになりつつある俺は、1人で焦ってしまった。
「久しぶりだね。この間は、ごめんな」
 シュンがそう言って、俺に笑顔を向けてくれた。『この間』って・・・もしかして、俺のこと覚えていてくれたんだ? ちょっと感激なんだけど・・・。
「いえ。全然・・・あの、大丈夫ですよ・・・」
 大丈夫って言うか、肩を組めて俺的には嬉しかったって言うか、ラッキーっていうか・・・。
そんな風に考えながら、シュンの顔を見た。こうやって近くで見ても、本当に可愛い・・・何で女の子じゃないんだろう・・・。

「あ、そうだ、前から聞いてみたかったんだけど」
 俺がボーッと見とれていると、シュンが少し困ったような顔をしながら、進藤と俺の顔を交互に見た。
「はい、何でしょう?」
 呆けている俺をほったらかしにして、進藤が爽やかに答えた。
「この絵とか、廊下に飾ってある絵って、どこで買ったものか分かる? 多分同じ人が描いたんじゃないかって思うんだけど」
「あぁ、えっと・・・」
 俺が描いたんです・・・と言うことが照れくさくて、返事をするか迷っていると、再び進藤が、答え始めた。
「店に飾ってある絵は、こいつ、鷹人(たかと)が描いたんですよ。今、こいつ、絵の勉強中なんです。・・・そうだ、シュンさん、何か良い仕事あったら、こいつに紹介してやって下さい。
お願いしますよ。俺、こいつって、将来有望だって思ってるんで・・・」
 進藤の奴、何を言い出すのかと思ったら、頼んでも無いのに、俺の事を宣伝し始めた。
「おい、進藤・・・ズーズーしいこと言うなよ」
 俺は急に恥ずかしくなってしまい、進藤に文句を言った。
「お前は遠慮しすぎだよ。売り込まなきゃ、一生カラオケ屋のバイトだぜ」
 進藤が呆れたような顔をしながら、俺を見た。
「そんな事ないさ。まだ、勉強してる所だし・・・」
 不貞腐れてそう言うと、進藤が俺の髪グシャグシャと撫でながらブツブツ言い始めた。
「バッカだなぁ。チャンスの神様には前髪しかないんだって知らないのか?」
「何だよそれ?」
 ワックスで流していた髪をグシャグシャにされたもんで、俺は、ちょっとムッとしながら進藤の手を振り払った。
「だから、お前はなぁ・・」
「ねぇ、鷹人くん? だっけ」
 目の前で言い争っている俺達を見つめながら、シュンが柔らかく微笑んで、俺に声をかけた。 
「は・・・はい」
「俺に一枚描いてくれない?」
 シュンがそう言って小首を傾げた。シュンのあまりにも可愛い仕草に、俺は目まいがしそうだった。

「もちろんOKですよ」
 答えたのは、呆けていた俺ではなく、進藤だった。
「え? おい、進藤、そんな勝手に・・・」
「なぁ、鷹人、良かったじゃないか」
 進藤は、俺の反論なんて聞こうともしていなかった。
「鷹人くん? どうかな?」
 シュンが俺を見てニッコリ笑っている。あぁ・・・断れるわけないよな。そんな顔で頼まれたら・・・。
「あ・・・えっと、はい。喜んで描かせて頂きます」
 微笑んだまま見つめられて、メチャクチャ焦ってしまった。きっと俺は真っ赤になってるに違いない。
「鷹人くんって、何だかリアクション面白いね?」
「え、そうですか・・・?」
「何か、いいよね」
 シュンがそう言ってから、俺のクシャクシャになった頭を撫でた。
 そ、そんな事、俺に言ったらダメだってば・・・俺、思いっきり勘違いしてしまいそう・・・。

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出会わなければ 4
 その日、シュン達が帰る頃、俺はちょうど奥に引っ込んでいて、シュンに会う事が出来なかった。ちょっと残念だったけど、時々歌いに来るという話だから、また会えるかもしれない。
 進藤が言っていたように、相手は芸能人だ、恋愛が出来るわけでもないんだから、シュンの事好きになっても構わないか・・・そんな風に軽く考えていた。

 シュンに会って以来、俺は新聞のテレビ欄をチェックするようになった。シュンが歌っている姿を見てみたいって思ったから。
4枚出ているSableのアルバムのうち、最新のものを1枚レンタル屋で借りて、録音したものを通学時に聴くようにもなった。

 力強く歌ってる曲も好きだけど、低音の甘い声で、心を擽るように歌う、少し寂しげなバラードが、今1番のお気に入りだ。その曲を聴くたびに、あの時、一瞬だけ見せた、シュンの切ない表情を思い出した。

 中学生の頃からずっと洋楽ばかりを聴いていた俺が、いつの間にか、家で絵を描いてる時でさえ、ケーブルテレビの音楽番組で邦楽ばかりを流しているようになっていた。

 ある日、いつものように絵を描きながら、音楽番組をつけっぱなしにしていた。
 ラップ系の曲が続いていたので、絵に没頭していたのだけど、しばらくすると、毎日聴き続けていた、俺の好きなあの曲のイントロが聴こえてきた。急いでテレビの画面に目を向けると、そこには、降り積もる雪の中で、悲しげに歌っているシュンの姿が映し出されていた。
 カラオケボックスで会った時のシュンは、可愛らしいという言葉がピッタリだったのだが、画面の中のシュンは、とても美しくて・・・悲しげに歌うその表情に、俺は釘付けになっていた。

 ドキドキする・・・って、マジか? 俺、男に恋なんかしてないよな――。

 シュンに会ってから数週間後、俺はSabelというバンドの、シュンっていうボーカリストに、すっかり惚れこんでしまったらしい。これは、俗に言うファンになったって事なんだろうけど・・・。

テーマ:BL小説 - ジャンル:小説・文学

出会わなければ 3
 シュンの居る部屋のドアをノックして、中に入ると、ちょうどシュンが歌っている所だった。うわぁ・・・やっぱ、可愛いよなぁ。シュンの事をチラチラ見ながら、テーブルに飲み物を置いて、お辞儀をしてから立ち上がろうとした。
その時、上機嫌のシュンが、歌いながら俺の近くまでやって来て、突然肩に腕をまわした。俺の心臓の鼓動は一気に早まり、胸が痛いくらいだった。
 しばらくシュンに肩を組まれたままでいたのだが、シュンの背に合わせた格好になっていて、かなり立ち辛かった。でも、思いっきり立ち上がるのも悪いような気がしてしまった。

「ほらほら、シュン、店の人困ってるじゃないか」
「そうだよ。バイトの子、チビのお前に合わせてくれてるから、すっげー辛そうだぜ」
 曲が間奏に入った途端、ソファーにくつろいでいたシュンの仲間が、代わる代わる声をかけてきた。
「うるさいなぁ。人が気持ち良く歌ってんのに。なぁ」
 シュンがそう言いながら横を向いた。シュンの顔が、ちょうど俺の目の前に来て、すっごく緊張した。暫くの間、シュンが俺の事を見つめていた。俺は、あまりにも間近で見つめられ、緊張を通り越して焦ってしまった。

「あぁ、さっきの君か。ごめんごめん」
 シュンが肩から手を離し、笑顔を向けながら俺に謝った。
シュンは、確かに笑顔だった・・・だけど、俺と目が合った瞬間、その目を切なそうに細めたように見えたのは、俺の思いすごしだろうか?

「し、失礼します・・・どうぞごゆっくり」
 俺は、慌ててお辞儀をして部屋を出た。
 すっごく焦った。肩を組まれたし、あんなに至近距離で見てしまったし。
黒目がちな目が、酔って色っぽく見えたなぁ・・・。可愛いというか、綺麗と言うか・・・。いやいや、シュンは男なんだってば。

 そう言えば、シュンの歌っていたのは、何の曲だったんだろう? 俺は日本で流行っている曲なんて殆ど知らないから、あれがシュンのバンドの曲なの、最近の曲なかどうかさえ分からなかった。
 そうだ、今度、テレビでシュンの歌ってる姿を見てみよう。アルバムも聴いてみようかな。
そんな風に、シュンの事ばかりを考えながら、進藤の待ってる受け付けに戻って行った。

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