俺は歩いている間中、フワフワの雲の上に居るような気分で、自分がどんな表情をしているのかもわからないような状態だった。
家に帰った途端、母親に「気持ち悪い笑顔やめて」と言われて、自分が笑ったままだったと気づいたくらいで――。
「何、その変な笑顔・・・熱でもあるんじゃないの?」
洗面所に手を洗いに行く途中、妹にも言われた。いつもの俺だったら「ウルセーよ」とか言いそうな場面だったのに、その時も俺は「別に」って言って妹をやり過ごしていた。
でもその後、洗面所の鏡で自分の顔を見た時には、『本当に気持ち悪い笑顔かも・・・』と思ったけど――。
でも、それ位、俺は上機嫌だったんだ。好きで好きでたまらなかったあいつと・・・イヤ、あいつに似ている良美さんと付き合える事になったんだから。
これであいつの事を忘れられる――風呂に入った後、俺はそう思いながらベッドに寝転んでいた。
だけど、その直後、俺は電車の窓から外を眺めながら癒しオーラを放っていた、あいつの事を思い出していた。
いつの間にか、あいつの事ばかりを考えていると、枕元に転がしてあった携帯がメールの着信を告げた。
「うゎ、良美さん、メールくれたんだ」
ドキドキし始めた胸をおさえながら、俺は携帯を眺めていた。
――こんばんは。今日は嬉しかったよ。カッコいい卓志君に告白されて、超ドキドキでした――
絵文字がたくさん入っていた可愛い良美さんのメールは、充分俺を幸せにしてくれた。
俺の頭の中を占めていたあいつの事も、一瞬にして忘れる事が出来た。
携帯を抱きしめたまま、俺はしばらく、ベッドの上をゴロゴロと転がっていた。
「えっと『俺こそ、メチャ嬉しかったです。ありがとう』・・・で良いかな?あんまり長いのもウザイだろうからなぁ」
ベッドに仰向けに転がってブツブツ言いながらメールを打ち込んだ。 マジ「嬉しかった」のは俺のほうだよ――。
それにしても、良美さんがドキドキしていたなんて・・・全然思えなかったよな、あの時。
俺は、帰り際に俺の頭をポンポンと叩いていた良美さんを思い出していた。思い出すだけで、顔がニヤケて来る――。
――良かったら、土曜日に買い物に付き合ってくれる?――
良美さんからすぐに返って来たメールには、そんな、嬉しい誘いの言葉があった。
……今週の土曜日の予定って――俺は、部活の日程表を出し、予定を調べてみた。午前中に練習があるけど、午後なら大丈夫だろう。って言うか、サボってでも良美さんに会いに行くぞ……。
――昼過ぎならOKです!――
こんなにトントン拍子に話が進んでしまうなんて、ビックリを通り越して、やっぱり夢?って感じだ。
ベッドの上で夢心地のまま、週末のデートの予定が決まっていた。
男としての俺は、自分で計画したいような思いもあったのだけど、どうも年上の良美さんには遠慮してしまう感じだった。まぁ・・・仕方ない事なのかな・・・。
付き合えるようになった、って事だけでも超ラッキーなんだから――ま、いいか。
その後、興奮冷めやらず・・・って感じで、俺はしばらく眠れなかった。
そして・・・数日間をウキウキした思いで過ごしているうちに、あっと言う間に金曜日の放課後になっていた。
「なぁなぁ、山崎〜 明日暇だろ?」
田部が背中をポンポン叩いてそう言った。俺がいつも暇だと思うなよ――って心の中でニヤケながら思っていた。
「暇じゃねーよ。部活あるし」
鞄に教科書を詰め込みながら、俺は緩みそうになる頬を必死に引っ張り上げた。
「部活って午前中だけだろ? 美加が友達連れて来るから、俺にも誰か連れて来いって言ってさぁ」
隣の机に腰掛け、俺の机をトントンと蹴飛ばしながら田部が言った。
美加ちゃんの友達と一緒に遊びに行こうとか言う話を、前に田部がしていたような気がする。ボンヤリとその話を聞いていた俺は、暇だったら付き合うとか答えてしまっていたかも――でも、明日は本当に暇じゃないんだぜ。
「悪い。午後も予定あるんだ」
気持ち良いよな、暇じゃないって言えるって!
「何だよ〜、いつも暇なくせに。せっかく誘ってやったのになぁ・・・。あ、まさかデートとか?」
田部が急に机から降りて、俺の近くに詰め寄ってきた。
「そ、デート」
その言葉を言った途端、俺は思い切り笑顔になっていた。そして田部は、俺が笑顔を向けた瞬間、驚いたように俺のそばから飛び退いた。
「おいおい、いつの間に彼女作ってんだよお前?」
「つい最近だってば。んじゃ、俺部活だから」
鞄を肩にかけ教室を出ようとすると、田部がノコノコ俺に付いて来た。
「どこで見つけたんだよ? ってか、もしかして前に言ってたやつ?」
俺の緩みきった頬を引っ張りながら田部が言った。
「ん・・・まぁ、そう・・・」
俺がそう言った途端、田部は俺の頬を引っ張っている指に力を入れた。
頬の痛みを感じないのは・・・夢だから? それとも、逆上せきっていて感覚が麻痺しているから?
「黙ってるなよ〜そういう話は」
頬から手を話した田部が、今度はムッとしたように俺の脇腹を拳骨でグリグリした。
「照れくさいじゃん・・・なんかさ」
「何が照れくさいだよ。俺なんて美加ちゃんとの出会いからずっと教えてやってんのに」
田部がそう言いながら、廊下に落ちていた誰かの消しゴムをポンと蹴飛ばした。
「お前の場合は『教え過ぎ』。美加ちゃんに会ったらどんな顔したら良いんだよ?ってな事まで話すじゃん。俺はそう言うのは出来ないからな」
まず最初に惚れたのは――あいつ――しかも、あいつは男だったんだよ。それで最近、あいつに似てる女子大生に会ってさ・・・なんてそんな話、田部には絶対言えるわけないだろ? だから、今後聞かれても適当に誤魔化させてもらうからな。
ま、取りあえず、明日は初デート。何着て行こうかな?――
部活に行くまで、俺の隣でずっと田部が何かを言っていたけど、俺は明日のデートの事で頭が一杯だった。
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