だけど、カズミは昨日の夜レポートで徹夜したせいか、ウトウトし始めたかと思うとあっと言う間にパタッと机に突っ伏して眠ってしまった。
相手が俺だから安心しきっているんだろう・・・まぁ、講義が始まる頃に起こしてやるとするか――。
俺はカバンの中にあるiPodを取り出そうとカバンの中を探り始めた。その時だった・・・
「よ、山崎」
「あ、どうも・・・」
目の前に現れたのはテニスサークルの先輩、三年の上村さんだ。なかなかのイケメンで優しい人なんだけど、女の子にはちょっとだらしがない人のようだ。元カノだか今の彼女だか時々自分でもわからなくなるらしい。
彼女と他の女の子達が、上村先輩のことでもめている場面に出くわしたことがある。上村先輩はそのことについて知っている様子は無いんだけど――。
「何だよ山崎。今日は1人なのかと思ったら・・・・・・これ須藤じゃん。お前らいっつも一緒にいるよな」
俺の向かい側の席で眠っているカズミの横顔を覗き込んでから先輩がそう言った。
「はぁ、仲良いもんで・・・」
俺はそう言って適当に笑顔を作った。
俺とカズミが大学に入ってからもうすぐ一年が経とうとしている。だけど、俺達の関係を知っている人は今の所居ない。上村先輩も俺とカズミはちょっと仲の良すぎるやつら・・・程度にしか思っていないだろう。
カズミとは大学に入った頃、自分達の関係について話し合ったことがある。
いつか、俺とカズミの関係が怪しいんじゃないか――と言われるようになったり、感づかれてしつこく聞いてくるような人があらわれるんじゃないかって。だからその時は、変に誤魔化さず、俺達が恋人同士であることを話してしまおうと決めた。
ま、あんまり深刻な話にならないように、冗談ぽく話してしまえばいいと思っているんだけど――。
そうすればそれ以上深く聞いてこないだろう。
「ミチがさ、山崎はいつも須藤と居るから、なかなか話しかけられないって文句言ってたぜ。あいつお前のこと気にいってるっぽいよ」
上村先輩はそう言いながら寝ているカズミの隣に座り込んだ。
ミチっていうのは・・・確か上村さんの何人目かの元カノだったか? いやいや違うぞ、最近上村先輩が狙っているってカズミが言っていたような気がする。同じ敷地内にある短大の2年生だとか言ってたっけ。
「はぁ、そうなんっすか? ミチ先輩・・・ねぇ」
「なに、その興味ない感じ。ミチって結構胸デカイし、キレイっぽいし、良いと思わね?」
胸がデカイとか何とか、ホントに俺は興味が無いんだよね。いかにも体目当てみたいな付き合いが多い上村先輩とは感覚が違うんだよ――。胸は無くても、俺と同じブツがついていたとしても、心底好きだと思える相手と付き合うのが本当の恋愛だと俺は思うのだ。
「まぁ、キレイっちゃキレイですよね。でもミチ先輩には俺なんかより、上村先輩の方が似合ってると思いますよ」
「あはは。そうか? そう思うか?」
俺の言葉を聞いた上村先輩は、メチャメチャ嬉しそうな顔をしながら頭をかいた。
「あ、山崎くん発見!」
その時、渦中の人、ミチ先輩が上村先輩の後ろに現れ、俺に向かって手を振った。面倒だと思いながら俺は小さく頭を下げた。
「何だよ、みっちゃん。俺も居るんだけど・・・」
上村先輩はミチ先輩の声に反応して後ろを振り返りながら文句を言っていた。
「上村先輩は良いの、いつだって話出来るんだもん。山崎君とは話す機会があんまりないし・・・」
ミチ先輩がそう言いながら上村先輩の後ろを回って俺の隣に座り込んだ。
「残念だけど、須藤も居るし」
上村先輩が意地悪くそう言った。するとミチ先輩は俺の正面で眠っているカズミに視線を向け、チッと舌打ちをした。ミチ先輩の本性が見えたような気がして、俺はますます彼女に対して苦手意識を強めていた。
「なーんだ。須藤っちも居たのか。でもいいや、今寝てるし。ねぇねぇ、山崎くん、前から誘おうと思っていたんだけどさ、今度一緒に映画とか行こうよ」
ミチさんは目の前の上村先輩もカズミの存在も無視するように体をこちら側に向け、俺に話しかけた。
「えーっと、休日は忙しいから・・・」
俺はとりあえず、やんわりと断わろうと試みた。「休みの日が忙しいイコール恋人がいる」ってことにいて欲しかったのだ。
「休みの日じゃなくても良いわよ、平日の夜とかもやってるじゃない」
だけどミチ先輩は気づいてくれなかった・・・。しかもミチ先輩は俺の腕にさり気なく胸を押し付けてきたじゃないか。わざとなのが明確すぎる・・・。俺はカズミにはない柔らかな胸のふくらみに少し戸惑ってしまった。
「あの、悪いんですけど・・・俺、付き合ってる人居るから、時間がある時にはそいつと居たいんですよ」
俺は早く話を切り上げたいと思い、そう言いながら、必要以上に近づいてきたミチ先輩を避けるように椅子を横に移動させた。
こうやってハッキリ意思表示をすれば諦めてくれるだろう――そう思ったのだけど・・・・・・。
「うそ?! 彼女とか居るんだ? ちょっとショック。でも、良いじゃない・・・その人が忙しくて会えない時とかあるでしょ? そういう時に行こうよ、ね?」
自分の誘いを断わるなんて信じられない・・・とでも言いたげな、微妙に不機嫌な顔をしながらミチ先輩がもう一度誘ってきた。
「みっちゃん、そんなに強引に誘うなよ・・・山崎が困ってるだろ? なんなら俺が付き合ってやるし」
上村先輩がそう言ってミチさんをたしなめた。・・・ってより、自分をアピールしたい感じかな。
「だって、山崎君にはいっつも須藤君がくっついてるから、こんな時でもないとなかなか誘えないんだもの」
ミチ先輩が口を尖らせながら言った。
カズミが一緒でも一緒じゃなくても、ミチ先輩の誘いに乗るつもりはこれっぽっちも無いんだけど・・・。
「悪かったね、僕が居て」
早くこの場から逃げ出したい――そう思っていると、目の前に居たカズミがムクッと起き上がってミチ先輩をキッと睨みつけた。俺の背中をツーッと冷や汗が流れた。周りの空気が一瞬凍りついた感じ。 だけど、すぐにカズミは可笑しそうにクスクスと笑い出した。俺はそんなカズミの様子を見てホッとため息をついた。
「そうよ〜。須藤君がいると、何だか山崎くんに声かけにくいのよねー。なんでかなぁ? 別に気にしなくてもいいと思うんだけどね。変よねー」
そう言ってミチ先輩もクスクスと笑いだした。
「そうでしょー? 先輩、何でだかわかる?」
カズミが笑いながら言った。
なんとなく不穏な空気を感じ、不安な思いでカズミを見つめていると、俺の視線を気付いたカズミが、こちらに向かってパチンとウインクして見せた。俺に任せておけって感じなのだろうか?
「うーん?」
「何でだか教えてあげようか?」
そう言った時、カズミはもう笑っていなかった。少し怒っているようにも見えるけど――もしかすると・・・。
「え? えぇ・・・まぁ・・・」
ミチ先輩はそう言いながらあからさまに不満そうな顔をしてみせた。
「妙な言い方だなぁ、須藤」
隣で聞いていた上村先輩は不思議そうにカズミを見た。
「こういうことなんだってば」
カズミがパッと立ち上がって俺の横まで来ると急に屈みこみ、座っている俺の頬にチュッとキスをした。
「はぁ?」
上村先輩が素っ頓狂な声を上げた。
「わかんないかな?」
カズミがイライラしたような声を出し、もう一度俺にキスをした。今度はキッチリ唇を狙ったキスだった。こんな行動までとるなんて・・・カズミはかなりミチ先輩に腹を立てているに違いない――ボンヤリ考えながらカズミのキスを受けていたら、次第にディープなキスになってきてしまい、俺は慌てて頭を振った。
「あ、ミチ先輩。俺の恋人、こいつなんです。だからゴメンなさい、一緒に映画とか行けないです」
俺はそう言ってから席を立ちカズミの横に並び、ミチ先輩に向かってペコリと頭を下げた。
「ちょっと待ってよ、今のなに? ホモの真似までして私に山崎君を諦めさせたいの?」
ミチ先輩が怖い顔をしながら俺達を睨みつけた。ミチ先輩は、今のカズミのキスが、俺を諦めさせるためにとったウソの行動だと思っているのだろうか・・・。
「いや、真似とかそういうわけじゃ無いと思うけど・・・・・・」
上村先輩が苦笑いしながらそう言ってから「・・・そういうわけじゃなかったら・・・マジでゲイカップルなのか?」とぼやくように呟いた。
「好きなように思ってくれて良いですよ。とにかく、ミチ先輩とは付き合えないんで、ゴメンなさい」
俺は爽やかにそう言うと、カズミの肩に腕を回し、二人で学食を出て行った。
「あーあ。やっちゃったなぁ・・・」
学食を出て人気の少ない場所にあるベンチに腰を下ろすと、しばらくしてカズミが呟いた。ちょっと後悔しいている感じなのだろうか?
「・・・気にしなくて良いよ。上手く断われなくて、ズルズルとしつこく誘われそうな感じだったから、正直助か
ったよ」
頭をクシャクシャと撫でながらそう言うと、カズミが顔を上げてニコリと笑った。
「ゴメンな・・・フライングで。なんかさ、半分寝ぼけてたんだよ・・・卓志が女にのぼせ上がっている夢見ちゃってさ。んで、眠りが浅くなってきた所に、ミチ先輩の猫なで声が聞こえてきたから・・・。俺の卓志に何言ってん
だよ! って思っちゃって・・・」
カズミは寝起きは機嫌がイマイチなことがあるから――。夢見が悪かったらなおさらって感じか。
「俺、愛されてるってことだろ? すっげー嬉しいんだけど」
俺がそう答えると、カズミがホッとしたような顔をした。
恋人として付き合うようになってから、カズミも俺のことが好きだと言葉や態度であらわしてくれるようになった。だけど、それは俺達二人だけで居る時に限ったことだったから――今回のは一番ストレートだったな・・・。
上村先輩とミチ先輩がどう思ったかわからないままだし、これからは少し痛い視線もあるかも知れないな。だけど、最初から覚悟していたことだから・・・まぁ、良いか。
「そうだよ、すっげー愛しちゃってる。ホント自分でも信じらんないくらい」
カズミがそう言いながら俺の背中をパンパンと叩き、その後、腹を抱えて笑い出した。
「俺も愛してるぜ、カズミ・・・つーわけで、午後サボる?」
愛の告白をされて急に二人きりになりたくなった俺は、隣で笑っているカズミに小さい声で問いかけた。
「・・・うーん。愛してるけど、講義は受けて帰る」
次はカズミのお気に入りの教授の講義だから、無理だとはわかっていたけれど・・・。
「チェッ・・・隣の席で邪魔してやる」
「邪魔したら今日はオアズケだからな」
「えーマジ?」
「マジ・・・」
シュンとしょげかえっている俺に、カズミが笑いながら「椅子の上で手を重ねるくらいなら良いよ」と小さな
声で囁いた。やっぱりカズミって可愛いよな――。俺は嬉しくてベンチに置かれているカズミの手に自分の手
を重ねた。その途端カズミの頬が赤くなり、慌ててカズミは俺の手を払いのけてしまった。
「ココじゃダメだろ?」
「ハイハイ・・・わかりましたよ」
学食でキスしたのは誰だよ・・・と思いながら、カズミの真っ赤な頬を眺めていた。
「さて、行こうか」
カズミがそう言って立ち上がった。
「おっと、もうそんな時間か? って言うより、もっと早く時間が過ぎて欲しいんだけどなー」
俺はカズミの隣に立ち、そう呟いくと、カズミがまた可笑しそうに笑った。
チェッ、なんだよその余裕ありありな感じ――帰ったらタップリかわいがってやるからな! カズミ。
と言うわけで・・・俺達は同じ大学に通うようになり、楽しくてラブラブな学生生活を送っています。
二人の親密な部分の話も、いつか話すことが出来れば・・・なんて押し付けがましい事を思っている俺でありました。
最後まで読んでくれた皆様、どうもありがとう。俺はカズミと一緒にもっともっと幸せになります!
それでは、またどこかでお会いすることがあれば――
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